長期介護をどうとらえるか(2)

前回の記事で、US Department of Health and Human Servicesのレポートによると、65歳以上の生涯において長期介護費用が発生しないケースは52%、生涯長期介護コストの全平均は$137,800、ただこれは平均値なので大きく費用がかかるケースも存在すること、さらには長期介護保険はなかなか浸透しているとはいえないことなどを見てみました。

長期介護費用に備えるためには、高所得・高資産ならSelf-Insure(自分で蓄えることによってリスクに備える)、低所得・低資産ならMedicaidでカバーされるよう準備、その間に位置する中所得・中資産なら長期介護保険の購入を考えるというようなガイドラインがありました。ところが、長期介護保険の保険料は決して安いものではないこと、年々(大きく!)値上がりする可能性があること、途中でやめると掛け捨て損になりかねないことがあり、なかなか広く普及するに至っていないという事実もあります。

前回、調べた表は、2020年から2024年に65歳を迎える人が生涯において必要となる長期介護費用はどのくらいかを見積もったものでしたが、今回は、所得層ごとに長期介護費用としてどのいくらいをOut-of-pocket(自己負担)で支払っているかをまとめた表を吟味してみます。

ここからわかることは

Out-of-pocket(自己負担)の全体の平均値は$77,000程度。ただし、中低所得以下ではMedicaidなどからの拠出が多いこと、中所得以上では長期介護保険などからのカバーもあるので、この自己負担の額は所得層によってかなり差があります。

所得層にもよりますが53%から69%において自己負担の長期介護費用が発生しなかったという結果です。自己負担額は所得が上がるにつれて多くなります。中高所得では平均$82,000、高所得では$121,000となります。

自己負担が発生していても、その半数ちかくは$100,000以下の負担で済んでいますが、中所得以上では$250,000以上の負担も多いです。

たとえば高所得層を見た場合、自己負担がゼロの人が多いうえ(53%)、72%が自己負担が$100,000以下だとしている割には、平均値が$121,00であることを考えると、自己負担が発生する場合には多額が発生する可能性が高いことを示しています。想像するに高所得者は、自己資金が豊かで高コスト高サービスのリタイアヤメントコミュニティーなどを使うのからかもしれません。

高所得層なら$250,000以上の自己負担額でも対応できる資金がある可能性が高いといえるかもしれませんが、同様に中/中高所得でも$250,000以上の自己負担がある比率が10%以上あるのは心配です。

そもそも保険というのは、ある程度の出費はなんとか呑み込めたとしても、あまりに大きな(あまりに長引く)費用や金銭的ダメージが発生した場合に、家計が立ち行かなくなることがないようにするためのものです。そう考えると、「介護が必要な状態が90日を超えたら一日$100補償」というような中途半端な生ぬるいタイプよりは、「介護が長引き負担が$300,000を超えたら$100,000補償」などのように上方リスクをしっかり補償してくれるようなもののほうが望ましいように思います。中途半端なタイプで高い保険料がどんどん値上がりするものよりは、上方リスクだけをしっかりカバーしできるだけ低保険料が望ましいように思います。

ちょっと計算してみると・・

長期介護保険は50代に購入を考慮するのがスタンダードです。50歳前だと掛け金は安いかもしれませんが、保険のベネフィットを使うまでの期間があまりに長期間で、大変長い間保険料をかけ続ける必要があります。保険料が上がる可能性が高いこと、保険会社の財務状況が変わる可能性があることなどを考慮すると、55歳あたりでその時の資産や収入を考え保険購入を考えるのがベストかとされています。

よくある目安としてのモデルケースでは、55歳の男性で補償限度が$164,000(一日$150x最高で3年まで。インフレ3%/年で補償額は増額)の長期介護保険が年間保険料$1,700程度です。85歳で3年間の長期介護が必要になった場合、インフレ調整後トータル$386,500の補償が受けられます。もし介護が1年しか必要でなければその1/3の$129,000の補償です。

この介護保険の年々の保険料がどのように増えていくかはわかりませんが、たとえば年々3%ずつ値上げになったとしてこの保険を85歳まで払ったとしてみます。年々3%ずつ増える保険料を85歳まで払い続けるわけですが、その代わりに保険を買わず自分で資金準備をしたとしたらどうでしょう。この保険料相当分を自分で投資運用したとします。たとえば4.5%で運用できたとすると85歳時には$156,100の資産になります。この自分で準備した$156,100の資産をとるか、保険を買って最大3年間で$386,500(1年なら$129,000、半年なら$64,500、全く介護が必要なければ$0)の補償をとるかの選択です。保険を買ったほうが絶対安心というほどの劇的な数字上の差がないように思いませんか?

これが年間$1,700の保険料の代わりに1/3の$570の保険料で、年々の保険料値上がりは同様に3%程度、介護費用が$200,000を超えたら初めて補償が始まる($200,000未満なら全額自己負担、$200,000以上は自己負担が全くなくなる)保険があったとしたらどうでしょう。自分で貯める$52,300($570を4.5%運用)をとるか、$200,000以上は絶対自己負担がないという安心保証をとるかの選択になり、この程度の差があれば保険を買おうかということにもなりませんかね?

まあ、これは私が勝手に作ったシナリオなので、きちんと保険の利益計算したらこうならないかもしれませんが、今の長期介護保険の現状を見るに、「決定的に保険を買ったほうがいい」と踏み切るだけの数字的な根拠が乏しい気がするのです。ある程度資産力がある人なら確率的にSelf-Insureのほうが「分」がよさそうというガイドラインはやはり当てはまるように感じます。また、Self-Insureが難しい人と思われる場合には、中途半端な補償を高い保険料で買うよりは、ある一定上の自己負担が発生してしまった場合だけをカバーするなるべく安い保険を買うほうが理に適うのではないかということです。そのような保険がなかなかないのが問題ですが、最近では生命保険やアニュイティに介護保険機能が合わさったものもあるので、できるだけ間口を広げてみてみる価値もあるでしょう。

2回にわたってUS Department of Health and Human Servicesのレポートを調べてきてびっくりしたのは、「全体の52%は長期介護のトータルコストが$0」という部分です。半数以上が長期介護費用の発生がない・・とは、ちょっと信じがたい思いです。まず長期介護要の定義が、「Activities of Daily Living (ADL)で規定された6つの基本アクティビティ(入浴、着替え、食事、歩行、身の回りの衛生、排泄)のうち少なくとも2つができなくなったり、あるいは認知上の問題が起り観察・見守りが必要になったりで、それらが90日以上継続した場合」であるので、比較的軽度の介護状態や90日継続しないものは省かれていることに一因があると思います。また、車いす、ウォーカー、手すり、ランプ、カルーテルなどの機材、ツールを使って介護ニーズが緩和できる場合は、このレポートでは介護要とみなしていないと書いてあります。さらには、家族や友人によるケアは一部しかコストとして考慮されていないとも書いてあります。

よって、「長期介護のトータルコストが$0」の52%の裏には、歩行が困難になってウォーカーを使っていたり、認知症状があり家族のヘルプを受けて生活している多くのケースは含められていないように思います。これらのケースは、長期介護保険の長期介護の定義にも当てはまらないため、たとえ保険を購入していても補償の適用範囲外とされる可能性のある部分でもあると思います。老後資産の準備、保険の購入とならんで、家族や友人を大切にし、必要な時はそこここでヘルプしてもらえるよい関係を作っておくことも大変大事なことのように思うのでした。

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6 comments

  1. 自分の周りの人々のケースしか知らないので、一般的なのかどうかはわからないのですが、低所得の人々が、Medicaidで利用する施設と、かなり高額の、プライベートの会社が運営する施設では、スタッフの質が全く違うし(多分給与レベルが違うから?)、部屋の質、食事の質もかなり違うのでびっくりしました。なるべくならお世話になりたくないなぁと思いますが、将来のことは誰にもわかりませんね。

    義理家族は、配偶者の入る介護施設に払うお金が続かなくて、途中でMedicaidにお世話になりましたが、適応されるためにspend downしないといけなくて、限られた期間にかなり貯金を減らすため、旅行にでかけたり、家具を買ったりしました。。なんか、理不尽な制度だな、と思いました。介護されていた方は亡くなり、介護していた配偶者は、いまはまた、中所得中資産レベルに戻りました。

    1. 情報ありがとうございます。
      本当に理不尽ですよね。
      でも、自分で介護費用を負担する財力はないが、かといってメディケイド資格を得るには預金がありすぎる、、となると、そういう選択肢しかないというのも事実なんでしょうね。悩ましい深刻な問題です。。

  2. 介護保険の情報を有難うございます。
    地震保険に入る価値があるかどうかも、カリフォルニアに住んでいる我々が気になるトピックです。 迷っています。 もし良い情報があれば、シェアしていただけないでしょうか。

      1. 有難うございます。とても参考になりました。しかし、まだ迷っています。難しいですね。

        地震保険は購入されましたか? 

        個人的には、地震保険に入らず、その分のお金を使って、外壁を強化したり、水タンクを買い換えて火事が発生しない様にするべきなのかなと思っていますが、何も実行せず10年以上経過してしまいました。(焦)

        1. 我が家は、しばらく前に入りました。
          Deductibleを上げて、壊滅的状態になったときのリスクをカバーするようにしました。
          たしかに、地震保険に使うお金を土台増強などに使うというのはMake Senseしますよね。
          迷うところですね。

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