AGIってよく聞くけど、いったい何なの?なぜAGIってそんなに大事なの?AGIは課税対象収入と同じですか?税控除は大きく分けて2種類あるそうだけど?タックスクレジットでなんでしょう?つまるところ、どうやって税金は計算されるの? このような疑問をお持ちになったことはおありですか? 自分でタックスリターンをする人も、人にお願いしてやってもらう人も、タックスリターンの申請書である1040フォ-ムのしくみにして理解しておくことは大事だと思います。タックスリターン情報は、私たちの家計の経済活動の一年を通しての縮図とも言えます。1040がどのように構成されているのか、1040をどのように理解したらよいのかを見ていきます。
1040の種類
アメリカに住んでいる方なら、テンフォーティ(1040)という言葉は聞いたことがおありのはず。この情報は、ありとあらゆるところで使われます。たとえばグリーンカードを申請するとき、家を買うローンを組むとき、大学のファイナンシャルエイドを申請するときなどなど。。1040はタックスリターンをするときの申請書であり、実際タックスリターンは何十ページにも及ぶことが普通ですが、その最初の2ページ(あるいは1040EZの場合は最初の1ページ)のことです。それ以降のページは1040に掲載されている情報を計算・証明するための添付書類のようなもの(ScheduleとかWorksheetなど)です。言い換えれば、1040が、私たちの払う税金についての必要な情報をすべてまとめたサマリーシートともいえます。
ひとことで1040と呼びますが、実は1040にはいくつか種類があります。
Form 1040EZ
簡易版1040で、もっとも記入項目が少ないものです。シングルか、Married Filing JointlyでDependent(被扶養者)がいない方向けです。控除やタックスクレジットなど申請できる項目が限られているので、それらを利用できない人で、もっとも簡単にタックスリターンを済ませたい人に適しています。
Form 1040A
簡易版1040ですが、1040EZよりは記入項目が多く、控除やタックスクレジットも1040EZより申請できるものが多いフォームです。ただし、Itemized Deductionは利用できず、Standard Deductionのみになります。また、申請できるタックスクレジットも限られています。1040で控除できる項目や、利用できるタックスクレジットがほかにあるのなら、1040を使ったほうがベターです。
Form1040
こちらがすべての控除、タックスクレジットが利用できるフルバージョンのフォームです。以降は、この1040フォームをベースに話を進めていきます。
1040にはいくつもラインがあり、様々な記入項目がありますが、基本的な流れを簡単にまとめると上のようになります。
黄色はIncome。Incomeにもいろいろあって、ここには3種類のIncomeがあります。Incomeはもちろん高いほど税金は高くなります。
ブルーは税金を低くするように働く項目です。Incomeから控除額や免除額などとして差し引くことができるものや、税金からタックスクレジットとして差し引くことができるものがあります。
ピンクは税金です。
この全体像を把握したうえで、ステップごとに見ていきましょう。
Income
下記のような、すべての収入をここで合計します。
- W2労働者の給与、時給、チップ収入など。401(k)などの企業リタイヤメント口座への積み立てや、FSA(Flexible Spending Account)への積み立てなど、給与天引きで積み立てた税控除額は、W2上ですでに差し引かれた後の給与額がここに入ります。
- 課税口座の利子や配当金、キャピタルゲインなど。これらのうちには、普通の所得税の計算とは異なる計算式で課税される(キャピタルゲイン税など)のものもありますが、すべて収入としてここに列挙します。
- 州や地方自治体からのタックスリファンド。リファンド額は、税金分としていったん徴収されていたものの結局税金にはならなかった収入であり、ここで再度収入としてカウントされます。
- 慰謝料。慰謝料の支払い者は、慰謝料を税控除でき、受け取った人は慰謝料を収入として申請します。
- ビジネスオーナーの場合は、ビジネスからの収入。
- Traditional IRAからの引き出し額。企業年金からの受取額など。税前で積み立てたので、引き出し時に収入として課税されます。
- ソーシャルセキュリティ年金。インカムの大きさにより、年金の何パーセントが課税されるかは変わります。
労働収入だけでなく、投資運用からの収入、前年課税対象収入だったのに源泉徴収されていたため課税対象にカウントされていなかったリファンド額や、離婚した相手の収入を慰謝料として受け取る部分(相手には非課税)、非課税のまま積み立て運用していたIRAからの引き出し分、ひいては宝くじなどで当たった金額なども、すべての収入がここでトータルされます。
Above-the-line DeductionとAGI
Incomeを列挙したあとは、Adjusted Gross Incomeのセクションです。Incomeのセクションですべての収入を総合しましたので、今度はそこから控除額を引いていきます。アメリカの税制では、控除額は2段構えになってて、Above-the-line Deductionsと呼ばれる控除群と、Below-the-line Deductionと呼ばれる控除群を順に引いていきますが、ここではまず最初のAbove-the-line Deductionを引きます。
Above-the-lineとBelow-the-line の境目といいましょうか、“the line“というのは何なのかといいますと、上の図の一番下にあるAdjusted Gross Income(AGI)です。Incomeから差し引いてAGIに到達する控除がAbove-the-line Deductionで、AGIからさらに差し引いて次の段階に行くものがBelow-the-line Deductionと理解されるとよいと思います。
学校の先生やアーティストなどに許されている職業関連費や、一定条件を満たす引っ越し費用などもありますが、あとはおおまかに
- HSA(Health Savings Account)への積み立て額
- Self-employedの場合の社会保険料の半額、健康保険料、リタイヤメント積み立て額
- CD(期限つき定期預金)などの早期解約ペナルティ金
- 支払った慰謝料
- Traditional IRAへの積立金
- スチューデントローンの利子、一定条件を満たす高等教育費用と手数料
などになります。税金を減らすために、慰謝料やスチューデントローンの利子をたくさん払おうという考え方にはなかなかなりにくいですが、積極的に使える節税項目としては、HSAへの積み立てやTraditional IRAへの積み立てがあります。
収入の合計からこれらのAbove-the-line Deductionを差し引いたものが、Adjusted Gross income(AGI)と呼ばれるものです。
AGI はキーポイント
このAGIという数字は、大きなキーポイントです。上の表の黄色のIncomeには3種類あって、Income、Adjusted Gross Income、Taxable Incomeがあります。
最初のIncomeはTotal IncomeとかGross Incomeとも呼ばれ収入の総合計であり、最後のTaxable Incomeはさまざまな控除や免除をおこない最終的に税金を計算するためのベースとなるIncomeです。これらの中間に位置するAGIは、これらよりもっとキーとなる重要な数字になります。なぜなら、AGIと、AGIをもとに多少の調整がされて算出されるMAGI(Modified AGI)は、税金控除額や、受けられるタックスクレジット、その他のベネフィットなどの利用資格や利用範囲を決める基準として使われることが非常に多いからです。たとえば、以下のような項目の判断基準として使われます(リストはほんの一部)。
- ROTH IRAに積み立てする資格があるかどうか
- Traditional IRAへの積み立ての税控除対象額
- スチューデントローン利子の税控除対象額
- Personal Exemptions(基礎免除額)の額
- Itemized Deduction(項目別控除額)の利用限定があるかどうか
- 各種高等教育費のタックスクレジットの受給額
- カレッジ・ファイナンシャルエイドの額
- ソーシャルセキュリティ年金への課税額
- メディケイド利用資格
- メディケアの保険料
これらはほんの一部で、これ以外に非常に多くの場所でAGIが使われています。AGIが高すぎるとベネフィットが受けられなかったり、AGIの大きさによって受けられるベネフィットが制限されたりというような形で使われます。よって、自分のAGIの額を意識的に覚えておくことと、もしAGIを低くする方法が残されているのならそれを行いAGIはできる限り低くしておくことが肝要です。そうすることで、そもそもインカムが低くなり課税対象収入が減って税金が減るだけではなく、加えて得られる控除が増えたり、その他受けられるベネフィットが増えたりという効果があります。そしてこの後者の副次的な効果のほうが、実は前者の直接的な効果よりもずっと大きな額になるのも常です。
初めて家を購入しようと考えておりますが、プロパティータックスは1040で控除の対象になるのでしょうか?
はい、通常多くの人には控除対象になります。制限についてはこちらを。
https://ttlc.intuit.com/questions/2241382-does-the-property-tax-deduction-phase-out-at-a-certain-income-level
ご回答有難うございます。プロパティータックスが高い物件を購入してもITEMIZEで控除できるので、損はしないという事ですね。今まで、STANDARD DEDUCTIONで1040を申請してましたので、知りませんでした。当方、ミシガンに住んでおり、物件の高騰(2013年時の2倍)、PROPERTY TAXの高さに驚いております。貴重な情報有難うございました。
「損」の基準をどう考えるかですが、控除はとりあえずできます。
控除はもちろんその方の税率(タックスブラケット)の分だけ「得」になり(税金が少なくなり)ますが、残りは納めねばならないので、やはりあまりに高いプロパティタックスだと苦しくはありますね。。
1040についてわかりやすい記事を書いていただきありがとうございました。
私は州政府の税務機関に勤務していて、日本人居住者の方々からアメリカの税務申告の基本について質問されることがあるのですが、正直一体どこから説明していいものか難儀しておりました。これからはまずこの記事を読んでみるように言ってみます!
お役にたてて光栄です!ますますしっかりとした情報を伝えねばと励まされました。
昨年度分のAGIを取得するにはどうしたらいいですか?日本からタックスリターンを申請しようとしたのですがAGIの不一致でrejectされました。お力を借りれたらと思います。よろしくお願いします。
昨年のタックスリターンはお手元にないわけでしょうか?会計士をお使いなら会計士さんに、タックスソフトをお使いならソフトの会社に、どちらも無理ならIRSのオンラインサイトから、昨年分のタックスリターンを取得することになるかと思います。https://www.irs.gov/newsroom/heres-how-to-get-prior-year-tax-information