タックスリターンの申請書である1040について理解するためのシリーズ2回目です。前回はIncomeからAbove-the-line Deductionを引いてAdjusted Gross Income(AGI)が計算されるステップと、なぜAGIは大切な数字なのかについてみてきました。ここまでが1040の1ページ目ですが、今回は2ページ目に入り、AGIからBelow-the-line Deductionを差し引いて税金を計算していく部分についてみてみましょう。
ちなみに、前回もご紹介した1040での税金計算の流れは以下のようになります。前回のAGIまでの流れは最初の3行です。今回は4行目から始まります。
これから紹介するBelow-the-line Deduction、Exemption、AMT、Tax Creditは下記の部分で処理しています。
Below-the-line Deduction
AGIに至るまでののDeduction(控除)がAbove-the-line Deduction、そして今度はAGIからさらに引いていくのがBelow-the-line Deductionです。
Itemized DeductionとStandard Deduction
Below-the-line Deductionでは、私たちに二つの選択肢が許されています。ひとつはItemized Deduction(項目別控除)で、もうひとつはStandard Deduction(標準控除)です。
まず後者のStandard Deductionですが、2017年の場合は以下の通り。
一方、前者のItemized Deductionは項目ごとに控除をしていくものですが、その合計控除額が上のStandard Deductionより大きいならばItemizedを選んだ方がいいですし、その反対ならStandardを選ぶのがふつうです。
Itemizedできる項目は以下の通り;
- 医療費:AGIの10%を超える部分
- 支払った州税、ローカル税 か 支払った消費税 のどちらか
- プロパティ税(住宅、車など)
- 持ち家のモーゲージ利子
- チャリティへの寄付:AGIの50%まで限度
- 盗難や災害などの損失額で保険などで補償されない部分(計算式あり)
- ギャンブルの損失額:ギャンブルでの利益額が限度
- 雇用者としての職業関係の費用で雇用主から補てんされなかった部分:AGIの2%を超える部分
ここで注目したいのは、AGIという言葉があちこちに出ていることです。Above-the-lineで計算したAGIがBelow-the-line での控除に影響しているのがわかります。
Exemption
つぎにBelow-the-line で差し引けるのがExemption(基礎免除額)です。2017年では、$4,050であり、1040の1ページ目のExemptionの箇所(下)で計算した人数を掛けたものが基礎免除として差し引けます。
これもAGIが高額になると、差し引ける額が制限されます。
AGIからItemized/Standard DeductionとExemptionを差し引いたものが、Taxable Incomeとなります。これに各ファイリングステイタスごとに用意された累進課税表(下)にある税率情報をつかって計算したものが、その年に納めるべきTaxとなります。
ちなみに、タックスブラケットと呼ばれるものは、自分の収入にかかる最高税率です。たとえば、Married Filing Jointlyで世帯収入が$125,000のケースでは、$18,650までは10%課税、その後$75,900までは15%課税で、その後$125,000までは25%課税となり、最高税率は25%、つまりタックスブラケットは25%ということになります。タックスブラケットは、AGIと並んで重要な数字です。自分のタックスブラケットは把握しておくことが肝要です。
Alternative Minimum Tax (AMT)
またここにAlternative Minimum Tax (AMT)という欄もあります。AMTは、第二の税金計算ルールです。AMTの目的は、上のルールで計算するとあまりに税金が少なくなってしまう場合に、ある一定の税金は支払わねばならないように徹底するためのルールです。そもそも、高額所得者が上で紹介した第一の税金計算ルールで、「合法的」に税控除をした結果、「脱税」では決してないですが、あまりに大きな節税になってしまうというケースがあり、それを避けるためにつくられました。ところが、その後収入の額がインフレ対応で上方修正されなかったため、近年では高額所得者だけでなくミドルクラスでもAMTにひっかかるケースが増えています。
AMTは上記のルールとは異なる税金計算をします。そしてその計算による税額が上で計算されたTaxより大きい場合は、上で計算されたTaxに加え、差額をAMTとして納める必要があります。反対に、AMTルールで計算された税金が小さい場合は、AMT差額は納める必要はなく、通常の税金だけを納めます。
ここまでで支払うべき税金の額が決まりました。
Tax Credit
今度はこの支払うべき税額からタックスクレジットを引いていきます。タックスクレジットも上の税控除も同じく税金を減らす効果がありますが、税控除は収入を減らし間接的に税金を減らすのに対し、タックスクレジットは本来なら支払うべき税金を直接的に減らします。以下、主要タックスクレジットを紹介します(金額数字はすべて2017年のもの)。
1.Earned Income Tax Credit:所得が限度以下の場合、ファイリングステイタス、Dependentの数にもよりますが、最高$6,318のタックスクレジットです。支払う税金があれば差し引き、なければただ現金が支給されるというおいしいタックスクレジットです。タックスリターンで申請しなければもらうことはできません。受給資格がある人のうち5人にひとりは申請しないために受給していないというデータもあり、受給資格があるならぜひもらいたいタックスクレジットです。
税金を払う代わりにお金がもらえる - Earned Income Tax Credit
- Child and Dependent Care Credit:学業か仕事をするために、13歳以下の子どもをデイケアやキャンプなどに入れた場合、かかった費用に対しひとり最高$1,050まで受けられるタックスクレジット。
- American Opportunity Tax Credit.:Degree、certificate、あるいはその他認定された高等教育機関のcredentialを目指したプログラムに在籍している学生ひとりにつき、最高$2,500/年まで受けられるタックスクレジット
教育費で受ける税優遇 その1 - American Opportunity Credit
- Lifetime Learning Credit.:大学、カレッジ、職業学校、それ以外の高等教育機関でのTuition(授業料)とその他諸経費が対象で、タックスリターンにつき$2,000までのタックスクレジットが受けられる。
教育費に対する税優遇 その2 – Lifetime Learning Credit
- Advanced Premium Tax Credit.:HealthCare.gov、各州の運営する健康保険サイトで、健康保険を購入した場合に受けられるタックスクレジット。収入が一定以下の場合、世帯人数などの条件にもよりますが、収入に応じた助成金がタックスクレジットとして受けられます。
- Savers Credit.:収入が限度以下の場合で、リタイヤメントプランに積み立てを行う場合、シングルで最高$2,000まで(ジョイントで$4,000まで)受けられるタックスクレジット。
7.Foreign Tax Credit:アメリカ以外の国へ支払った税金に対して受けられるタックスクレジットで、同じ収入に対して二重課税されることを防ぎます。労働収入や投資に対する収入などから源泉徴収される税金に対し受けられます。
- Adoption Credit.:養子縁組(Adoption)にかかった費用、弁護士代、裁判所費用、旅費などに対し、$13,570まで受けられうタックスクレジット。
- Child Tax Credit:収入が限度以下の場合、ファイリンステイタスにもよりますが、17歳以下の子どもひとりに対し$1,000まで受けられるタックスクレジット。
- Credit for the Elderly or the Disabled:収入が限度以下の場合、65歳以上、あるいは永久的な障害がある方に対して、最高$7,500まで支給されるタックスクレジット。
上での収入制限には、AGIやModified AGI(MAGI)が使われます。
Tax Owed/Refund
支払うべきTaxからタックスクレジットを差し引いたものが、最終的に支払うべきTaxの額です。この最終的に支払うべき税金の額を一番最初のIncomeで割ったものが実効税率(Effective Tax Rate)です。この概念と先にご紹介したタックスブラケットとは全くことなる概念です。収入のどのくらいを税金として払っているか(実効税率)は、税控除、タックスブラケットの利用、節税努力結果の目安となり、最高税率(タックスブラケット)は、「あと$1,000収入が増えたら税金はいくら増えるか」とか「家を買った場合プロパティ税が$1,000だったら、税控除後の実質費用はいくらか」などのプラニングに使われます。
私たちは一年を通して、あらかじめすでにTaxを支払っています。労働収入からはWithheldという形で源泉徴収がされていますし(源泉徴収の額の大きさ設定は、人事・給与管轄部門にW4Formを提出して行います)、自営の方であればEstimated Taxとして予想税金を支払っています。このあらかじめ支払う税金はある程度以上でなくてはならないというルールがあり、あまりに少ない場合はペナルティがあります。そのため、多くの人では、すでに支払った税金のほうが、実際に最終的に支払うべきTaxより少し多くなるように設定されています。この多く収めた税金が返ってくるのがTax Refundです。
反対に、すでに支払った税金のほうが、最終的に支払うべきTaxの額より少ない場合は、追加で差額の税金を納める必要があります。これがTax Owed(Amount you owe)です。すでに収めた税金が一定以下で少なすぎる場合は、Estimated Tax Penaltyも一緒に納めます。
以前の記事で、タックスリターンをプロに頼んだ方がいい判断する目安として、”19歳から24歳までのフルタイム学生の子どもを扶養している”というのがありました。これは教育費に対する税優遇が複雑という意味でしょうか?
はいそうですね。まず扶養のステイタスに合致するかの確認から始まり、扶養にして親がタックスクレジットなどを利用したほうがいいのか、そうしないほうがいいのか、いろいろな判断とチョイスがあるためにその条件が入っています。