リタイヤメント準備 - 401(k)とIRAの使い分け

老後の資金を貯める主な方法には、雇用主の提供する401(k)、403(b)、457などのグループ・プランに参加し給与天引きで積み立てをしていく方法(ここでは401(k)と総称します)と、Traditional IRAやRoth IRAなどに個人的に積み立てをしていく方法があります。401(k)もIRAも、どちらもTax Deferred(税遅延)プランと呼ばれ、利回りへの課税は老後に資金を引き出すまで遅延されるという大きな魅力があります。では、違いは何なのでしょう。 401(k)かIRAか、どう使い分けるのがいいのでしょう。それぞれの強みと弱みを比べてみましょう。

 

401(k)のいいところ

1.積み立て上限(Max Contribution)が高い

401(k)に積み立てることができる上限額は$19,000(2019)であるのに対し、IRAは$6,000(2019)です。50歳以上であれば、401(k)ではさらに$6,000追加で積み立てが許されますが(合計$25,000)、IRAでは追加額は$1,000(合計$7,000)です。IRAだけの積み立てではリタイヤメント資金を十分に貯めることは困難な場合もあるかもしれません。ただし、ご夫婦で2口座開けば、$6,000x2=$12,000となります。どの程度の積み立てが必要か、どの程度の積み立てが可能かの両面から、どちらを使うか、両方使うかなどを考えていきます。

 

2.雇用主からのマッチング積み立て(Matching Contribution)

401(k)では、雇用主からのマッチング積み立てが受けられることがしばしばです。401(k)は法律の範囲内で、雇用主が運用ルールを決められるので、マッチングの額やルールは雇用主によりまちまちですが、典型例でいうと、雇用者がする積み立て額の50%を、給与の6%を限度としてマッチングするというようなケースが見受けられるようです。たとえば年収が$80,000の場合、本人が年に$9,600以上積み立てておれば$4,800($80,000×6% かつ $9,600×50%)を、雇用主が積み立ててくれるということです。これは、まさにフリーマネー、もらわない手はありません。一方IRAでは、このような雇用主からの援助はありません。

 

3.ローンが受けられる

雇用主によって運用ルールは違いますが、一般的に401(k)からはローンを受けることが許されている場合が多いようです。これに対し、IRAからはローンを受けることはできません。Roth IRAの元金はいつでもペナルティなしに引き出すことができますが、これはあくまで資金の引き下ろしであってローンではありません。人生でちょっとお金がいるという局面で、ちょっと借り入れをしたいというような場合には便利です。ただし、あくまで計画的に。借りるわけですから、ちゃんと返す必要もあります。基本的にはローンは使わないのがベストです。

 

4.手数料が免除・軽減されることがある

まったく同じミューチュアル・ファンドに401(k)を通して投資した場合と、IRAを通して投資した場合、手数料が違うことはよくあります。たとえば、大きな会社の401(k)プラン経由で購入すれば、個人がIRAなどを通して投資する場合に必要となるSales Loadなどの販売手数料が免除され、またファンド運営の手数料も団体割引で極安というケースもあります。購入するチャネル(誰から購入するか)によって、同じファンドを買うのでも、販売手数料が異なり、より大口の交渉力のある団体や会社を通して購入したほうが、手数料が安いというわけです。自分の401(k)プランにはどのような投資の選択肢があり、手数料はどのくらいか、それは個人的に投資する場合より有利なのか、そうでないのかを把握しておくといいでしょう。

 

IRAのいいところ

1.投資媒体の選択肢がたくさんある

401(k)は法律の範囲内で、雇用主が運用ルールを決めますので、比較的たくさんの投資媒体が提供されている場合もあれば、非常に限られた選択肢しかない場合もあります。いずれにせよ、あらかじめ用意されたファンドの中から投資先を決めねばならないわけですが、これに対し、IRAでは比較にならないほど多種多様な選択肢から選ぶことができます。401(k)で提供されている選択肢のうち、リスク許容度や利回り、手数料などの面において、自分のニーズに合うものが見つかれば問題ありませんが、そうでない場合は、IRAを通してもっとぴったりのものを見つけることが必要かもしれません。

 

2.投資の変更(売り買い)が簡単

ファンドAはどうも思うように利回りがないので他のファンドに乗り換えたい、あるいはちょっとアロケーションを変えたいなど、投資に変更を加えたいとき、IRAであれば大きな制限なくいつでも自由に行うことができます。これに対し、401(k)の場合は、1年に○回までとか、3ヶ月に1回までなどというように、ファンドの売り買いが制限されていることが少なくありません。ただし、よく計画された長期的な投資をしているのなら、そもそも頻繁に売り買いをする必要はないですし、すべきでもありません。その観点からすると、401(k)でも十分であるともいえます。

 

3.手数料が低く抑えられる可能性がある

「401(k)のいいところ」の項目のひとつに、「Sales Loadなどの手数料が免除されることがある」というのがありましたが、場合によってはまったくその反対のケースもあります。とくに小さな会社の401(k)などでは、大きな401(k)プランなどに比べて、プランのアドミニストレーションやアドバイザリー手数料などが非常に高い場合も多くあるようで、かえってIRAを通して手数料の安いインデックス・ファンドなどに投資したほうがずっといい場合などもあります。繰り返しますが、401(k)は雇用主により条件がまちまちですから、自分の401(k)プランにはどのような投資の選択肢があり、手数料はどのくらいか、それは個人的に投資する場合より有利なのか、そうでないのかをちゃんと理解しておきましょう。

 

4.エステート・プラニング(相続対策)に有利(Roth IRAの場合)

401(k)やTraditional IRAは70歳半を超えると最低引き出し額(Required Minimum Distribution)を引き出さねばならないというルールがありますが(401(k)の場合は、70歳半になってもまだ労働しておれば、引き出し開始をリタイヤ時まで延期可)、Roth IRAはその必要がありません。まったく手を付けず、そのまま子どもにお金を残すことができます。子どもは、税金を払うことなく資金を使うことができます。

 

5.ソーシャル・セキュリティ年金にかかる税金を低くできる(Roth IRAの場合)

老後、401(k)からの引き出し額やTraditional IRAからの引き出し額は、「収入」として数えられ、所得税がかかりますが、それに加え、ソーシャル・セキュリティ年金にかかる所得税を引き上げるという副作用もあります。言い換えると、401(k)やTraditional IRAからの引き出し額が多いと、ソーシャル・セキュリティー年金への課税が多くなるということです。これに対し、Roth IRAの引き出し額は「収入」には数えられず所得税がかからないうえ、ソーシャル・セキュリティ年金にかかる税金を低く抑える効果があります。老後に支払う税金をなるべく抑えるためには、401(k)、Traditional IRA、Roth IRAやその他の投資プランからの引き出しをうまくコーディネートし、引き出しのタイミングを計ることが必要になります。この点では、Roth IRAの利用価値は高いといえます。

 

あくまで自分のニーズに合わせて・・・

401(k)かIRAか・・・まず基本ルールとしては、401(k)の雇用主マッチングは最大限に利用しましょう。マッチングは「タダでもらえるお金」ですから、もわらない手はありません。最大限もらえるように401(k)に積み立てをします。その後の使い分けは、あくまで自分のニーズに合わせてすることになります。

過去5年位の間に、401(k)で提供されるファンドの低手数料化はますます進みました。以前は、手数料の高いアクティブファンドがずらりと並んでいたのが、Vanguard、Fidelity、Charles, Schwab、TIAAなどの低手数料会社に運営が変更になり、提供されているファンドもインデックス・ファンド・ベースのターゲット・デイト・ファンドが劇的に増えました。以前のようにいろいろなファンドを選んで組み合わせる必要もなくなり、自分のリタイヤメント年に合わせてターゲット・デイト・ファンドを一つ選べば終わり・・ということも増えました。

ご自分の401(k)が、これら低手数料会社のターゲット・デイト・ファンドをメインに提供していれば、迷わず401(k)を優先に使われればよいと思います。

反対に、ご自分の401(k)が上のケースではない場合、なんとか提供されているファンド・ラインアップの中から、手数料の少ないファンドで納得のいくポートフォリオを組むことができるというのであれば、401(k)も悪くないですが、それが難しい時は、IRA口座をVanguardに開いてターゲット・デイト・ファンドに投資・・というのが一番簡単な迂回策です。ただし、IRAだけの積み立てでは不十分そうだ・・というのであれば、なんとか工夫をして401(k)も使っていく必要があるかもしれません。

また、エステート・プラニングや老後の税金対策が重要だというのであれば、Roth IRAを利用するのが得策です。ただ、このようなケースは数的にはまれといえます。もちろん、積立額に余裕のある人は、401(k)もIRAもどちらもお使いになればいいと思います。

18 comments

  1. いつも、素晴らしい情報ありがとうございます。
    ROTH IRAについてですが、若い時にはROTHに投資した方が有利なこともあるのではと思いました。
    若い時には、Tax Bracketも低いことが多く、ROTHは長期投資になるので401Kでの控除より引き出し時に増えた分に税金がかからなRothの方が有利かと思いました。また、将来の税制がどうなるかわからないということも考えると若いうちは両方に拠出しておくのが、安全かなとも思います。ということで、私の娘には401Kにマッチングまで入れたあとは、Rothを勧めていますが、どう思われますか?

    1. はい、そう思います。若い時には低ブラケットですので、Rothがいいと思います。
      まだお若い娘さんには401(k)までマッチングで入れた後、Rothというのは、良いと思います。401(k)で大企業割引ですごく手数料の低いファンドが使える・・などがあればまた別かもしれませんが、それでもVanguardとかなら低手数料の良質ファンドをIRAで選べますので、その考え方でよいのではないでしょうか。

  2. いつも勉強になります。
    退社後に401KからIRAにロールオーバーするときはファイナンシャルアドバイザーに任せた方が良いのでしょうか?以前の記事でFiduciary Ruleの事が書かれており、ロールオーバーやMutual Fundsを買うにフィーやコミッションが発生し残額が減ると理解しております。私はファイナンシャルアドバイザーを使ってませんが、使うメリットはあるのでしょうか?例えば管理費で3-4%など年間請求されたら、インパクトが大きいと思います。それだったらVanguardのインデックスの方が良いかなと思います。
    宜しくお願い致します。

    1. 年間管理費を払ってアドバイザーを使う意義はある方もいらっしゃるかと思いますが、まだ当分ほったらかしの長期投資が可能なほとんどの方の場合、あまり意味がないかと思います。ロールオーバーなら、自分でも手続きできます(Vanguardのサイトにロールオーバーの手続きのしかたが書いてあります)。Vanguardのイデックスがいいと思います。

      1. アドバイスありがとうございました。
        金額も小さく、20年はほって置こうを思いますので特にアドバイザーに依頼する必要は無いですね。

  3. 401KとTRADITIONAL IRAの両方に積み立てていますが、その両方の合計の年間の上限について質問があります。私は50歳未満の米国在住会社員です。私の場合、毎年タックスリターンの時期にアカウンタントがW-2 FORMにある401Kの積み立ての金額を見て、「昨年のIRAにはいくらまで積み立てができます」、と計算してくれているのですが、それがよく分かりません。単純にIRAの年間上限が$5500という訳ではないようでして、私自身少し混乱しています。私自身、毎年IRAアカウントには上限である$5500を積み立てたいと思っているので、ご解答いただけましたらと思いコメントさせていただきました。よろしくお願い致します。

    1. Traditional IRAへの積立で、税控除とできる額には、収入のレベルによって限度額が設定されています。ですので、その年の最終的な収入をタックスリターンのときに確認したうえで、税控除で積み立てられる額を計算するということになっているのだと思います。限度額についてはこちらの記事が参考になるかと。

      https://smartandresponsible.com/blog/ira2018/

      1. 今までの疑問が解決され、大変参考になりました。
        ありがとうございました。

  4. いつもためになる情報をどうもありがとうございます。
    税金控除のため、ここ6年ほど限度額の5500ドルを自分の3つの銀行のtraditional IRA に入れてました。
    タックスリターン時に払い込みを避けるためと元本保証にこだわったので金額が全く増えてません。
    ここで質問です。
    金額の運用ができるIRAに移すことはできますか?
    バラバラの銀行から1つの銀行に統一することはできますか?
    長々となりましたが教えて頂けたらお願いいたします。

    1. はい、IRAは、個人的にどこの金融機関を選ぶのも自由ですし、金融機関の提供しているどんな貯蓄、投資商品を選ぶのも自由です。金融機関の変更するにはロールオーバーをします。変更先の金融機関で手続きを手伝ってくれます。

      1. ご返答、どうも有難うございます。
        これから少しずつ改善していきたいと思います。

  5. いろいろ調べてるとこのサイトに出会いました。素晴らしい情報サイトですね。

    私は現在54歳です。本件とは少しずれてしまうかも分かりませんがお時間が有れば教えて頂きたくコメントさせて頂きました。
    日本で働いたのは家業(国民年金なし)、アメリカでは小会社での勤務(401K無し)、IRAもした事が有りません。私のSavingは銀行のCDsとFundになります。最近になってCalSaversと言うものを知りましたが実際に計算するともらえる金額は自分で貯蓄した金額と変わりません。自分で貯蓄するのとIRAやCalSaversではどのようなBenefitは有るのでしょうか?有ったとしても50歳を過ぎてからでは遅くはなにのですか?

    1. コメントありがとうございます。CalSaverは基本的にRoth IRAです(収入限度が一定以下ならTraditional IRAにもできるようです)。私の理解では、自分でどこかでIRAを開いて積み立てをするのと、CalSaverで積み立てるのはそれほど大きな差がないように思います。CalSaverは給与天引きにできるようなのでそれが便利だという方にはよいかもしれません。CalSaverの中にもいろいろな投資ファンドがあるので利回りはまちまちだと思います。もしそれなりのリスクを取って投資すれば貯蓄よりは利回りがでると思います。IRAやCalSaverは税金優遇がある点が、自分での貯蓄とちがいます。こちらをご覧ください。
      Roth IRAとTraditional IRAどちらを選ぶ 2018年限度額

  6. 2つ質問があります。
    (1)手数料の低いターゲットデイトファンドとありますが、私が401Kで使っているものは0.5%弱です。Vanguardのものと比べると高いです。ターゲットデイトファンドをやめて、インデックスファンドを3つか4つ組み合わせた(どれも0.04%くらいの手数料)方がいいと言えるくらいの高手数料でしょうか?

    (2)若い頃はRoth IRAもしていたのですが、最近は限度額まで拠出できないので、何もしていません。このような場合、Traditional IRAを始めた方がいいのでしょうか? 普通の課税投資口座はもっています。Taxableの口座とTraditional IRAを比較して、どちらがいいのかよくわかりません。

    1. (1)0.5%はちょっと高めではあります。おそらくそのターゲットデイトファンドの内容を調べると、構成要素となっているインデックスファンドがわかりますから、それを個別で組み合わせて手数料を下げるというのはよい方法と思います。ただその時、リバランスとか経年のリスク調整は自分ですることになりますので、その手数料として0.50-0.04%を払うと思えば、高くはないかもしれません。あとは、残高の問題ですね。バランスが多いほうが手数料が高くなりますので、少ないのであればあまり気にしないでターゲットデイトファンドでもいいか元思います。
      (2)https://smartandresponsible.com/blog/?s=%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%89%E3%82%A2  が参考になるかと。。

  7. 現在61歳、3年前に退職しました。かつての勤務校において、403(B)はバンガードを選択、28年間積み立てました。来月あたりから、毎月1500ドルぐらいを引き出そうかと考えています。この場合、403(B)をIRAにロールオーバーする際には、全額を一度にIRAに移した方が良いのか、それとも小出しで移動した方が良いのか、迷っています。

    バンガードによると、403(B)からIRAへロールオーバーする手続き料金は無料、ただノータリーが必要な書類があるとのこと。ただ、夫いわく、403(B)に入れておいた方が安全だから小出しに移動させた方が良いのではと。例えば、誰かに訴えられて支払いが必要になった時、403(B)のお金は誰も手をつけられないそうで。はたしてこれが真実なのかは存じませんが。。

    何かアドバイスがありましたら、教えていただけると幸いです。

    1. 403のほうが、Lawsuitに対しては保護があります。IRAに関してはFederalレベルでの保護はなく、どこまでの保護があるかは州によるようです。通常IRAにロールオーバーされる場合は、金融機関をひとつにまとめたいとか、よりよいファンドが選べる金融機関に変えたいなどの金融機関レベルでのPreferenceが焦点になることが多く、その場合はふつう一括でロールオーバーします。ケースバイケース化と思います。

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