アクティブファンドとのつきあいかた

このブログでもインデックスファンドの魅力は何度かお伝えしています。2007年から2008年の金融恐慌以来、インデックスファンドの人気は年々高まり、良質なインデックスファンドで有名なVanguard社は運用資産を着実に増やしています。では、個人の一般投資家にとっては、インデックスファンドだけで十分で、アクティブファンドは絶対持たないほうがよいものなのか、それとも利用価値は残っているものなのか、今日はその当たりを考えてみます。

 

アクティブファンドからパッシブファンドへの乗り換え続く

金融恐慌以来、インデックスファンドに代表されるパッシブファンド(機会を見た売り買いを繰り返さず、市場インデックスなどの一定株式を一定比率で持ち続けるだけのファンド)は継続的にそのシェアを伸ばしています。2014年にはパッシブファンドに流入した資金は$422.7ビリオン、2015年は$418.5ビリオン、2016年には$504.8ビリオンに達しました。このサイズの資金流入は、恐慌前の2007年にパッシブファンドに流入した資金の2倍レベルになっています。金融恐慌以来、パッシブファンドは毎年資金流出より資金流入が大きく上回っています。

反対に、アクティブファンド(機会を見て、投機的利益を得るために売り買いを繰り返すファンド)は、金融恐慌以来、2013年だけを例外に、毎年資金流出が資金流入を上回っています。恐慌以前は、株式ファンド全体に対して80%程度がアクティブファンド、20%がパッシブファンドという比率でしたが、現在はアクティブ55%、パッシブ45%となっています。

 

乗り換えの理由

アクティブファンドからパッシブファンドへの資金の流れは、大きく分けて二つの理由があります。ひとつには手数料。2015年末の時点でアクティブ株式ファンドのExpense Ratioの平均値は1.14%、パッシブ株式ファンドのExpense Ratioの平均値は0.76%でした。債券ファンドでは、アクティブファンドで0.93%、パッシブファンドで0.43%でした。これはあくまで平均値で良質のパッシブファンドを探せば、0.05%~0.10%あたりの超低手数料ファンドも存在します。手数料は直接的に利回りを減らすため、低手数料ファンドを選ぶことはファンド選びの重要ポイントです。金融恐慌前は3.0%以上の高手数料を課すファンドも存在しましたが、手数料を吟味するという消費者の目が鋭くなかったため、隠された存在でした。恐慌を機に、たとえ利回りがマイナスであってもとられつづける手数料に目が向けられ、高手数料の意義を疑問視する向きがでてきました。これがパッシブファンドへの乗り換えに大きく貢献しているだろうことは容易に想像がつきます。

もうひとつの資金の流れの理由は、アクティブファンドの運用成績です。投機のチャンスを狙い安く買って高く売るアクティブファンドが、市場全体をパッシブに持つインデックスファンドよりも儲かるだろうというのが投資家の期待でした。ところが、それがそうでもなさそうだということがだんだんと投資家の中に浸透してきたということがあります。たまに大きく当てる、あるいはある限られた間、インデックスを上回る利益を記録し続けるアクティブファンドは確かにありますが、ある程度長い期間をとって押しなべて見ると、当たりの次にははずれがきたりで、恒常的に勝ち続けるファンドは例外的な少数であるというリサーチ結果はいたるところで出ています。アクティブファンドは上で見た通り手数料が高いので、多少よい成績を出したとしても、手数料を差し引くと結局はインデックスファンドのほうがよかったというケースも多数みられます。このようなリサーチがメディアを通じて多く出回るようになったことも、アクティブファンド離れを進めました。

 

アクティブファンドは存在価値がないのか

では、アクティブファンドはもう利用する価値がないのでしょうか?すべてインデックスファンドでポートフォリオを組むのがよいのでしょうか?

 

低手数料インデックスファンドで有名なVanguard社が、興味深いレポートを出しています。Vanguardとくればイデックスというのがお決まりの話の流れなのですが、実はVanguardは、1976年の創立以来れっきとしたアクティブファンドも提供し続けています。Vanguard社がアクティブファンドに対してどういう姿勢をとっているかを見るのは興味深いものです。以下レポートから、アクティブファンドに存在価値があるとすれば、どのような点がポイントになるのかを見ていきましょう。

 

基本はやっぱり低手数料

前述のとおり、手数料はファンド選びの第一歩であり、手数料が低いことがパッシブであれアクティブであれ、ファンドの成功率を大きく左右します。手数料が高いのは、マネージャーの高い能力と経験のためだとか、あるいはマネージャーの深いリサーチ努力の由だと考えるなら、もしかしたら高い手数料だとそれなりの成績が出るのではないかと期待する気持ちもあるかもしれませんが、リサーチの結果はそうではありません。Vanguardのレポートは、株式アクティブファンドを手数料の大きさでカテゴリー分けし、インデクスファンドの成績と比較した結果を出しています。投資期間が15年の場合、手数料が最も高いアクティブファンド(手数料トップ25%)で、インデックスファンドよりよい成績(手数料差し引き後)を出したファンドは全体の10%でした。一方、手数料が最も低いアクティブファンド(手数料ボトム25%)でインデックスよりよい成績をだしたファンドは34%でした。手数料が高いとインデックスファンドよりよい成績を出すことが難しいのがわかります。反対に、手数料がそれなりに低ければ(ボトム25%)ば、三分の一のアクティブファンドがインデックスファンドよりよい成績を出したということも、意義深いことです。アクティブファンドはなんでもダメというわけではなくて、手数料が低ければ成功する確率も上がるということです。実はこれをさらに長くして25年という期間での結果は、最も手数料の安いアクティブファンド(ボトム25%)の45%がインデックスよりよい成績を出しています。

市場ではつねに価格調整機能が働き、価値より高い株式はすぐに売られて安く調整され、また価値より安い株式はすぐに買われて高く調整されるため、機を見ての売り買いは理論的には意義あるレベルの利益を出すことはできない(Efficient Market=市場の効率性といいます)という考えは確かにある程度正しいですが、市場の効率性は完全(100%)ではないので、ある程度の投機的利益は残っているということなのでしょう。そのため、市場を全部持つインデックスファンドよりも上回った利益が出せるというケースも、存在はするということです。

 

成績よりも、運用姿勢とポリシー

インデックスファンドはただインデックス内の株構成にならってファンドの株式(なり債券なり)を整えればいいだけですから、マネージャーのタスクは最小限です。一方で、アクティブファンドでは、機を見たり、株式(なり債券なり)のデータを吟味して、売り買いを判断する必要があるため、能力のあるマネージャーとしっかりしたファンド運用ポリシーが必須となります。

Vanguardの創始者ジョン・ボーグルは、1984年にファンド運用の柱として、以下の4Pの考え方を確立し、今もVanguardはこの考え方を基本に運用を行っています。

  • People(マネージャーの経験、能力、姿勢、謙虚さ)
  • Philosophy(その会社自体に通ずる投資に対しての哲学やポリシー)
  • Process(その哲学やポリシーを実行するためのプロセスにおいて、戦略的な優位性と統一性があるか)
  • Portfolio(その会社が運用してきたポートフォリオが、会社のポリシーやプロセスとマッチしているか)

現在はこれにFirmとPerformanceという指標も加わっています。ちなみにこれらはMorninstar社が最近始めたAdvisor Rating(Gold, Silver, Bronze, Neutral,Negativeの5種類)の評価指標とも似通っています。Morninsgstarは以前は一つ星から五つ星までのStar Ratingという評価システムしか提供してきませんでしたが、Star Ratingは過去の数的成績によってランク付けするものでした。過去のパターンが将来続くという保証はなく、その他のリサーチにも表れているように、過去によい成績だったファンドがそのあと悪い成績に陥るということは大いににあり得ることです。過去の成績だけでファンドを選ぶことはベストプラクティスとはいえません。この考えをうけて、過去データではなく、ファンド運営の質的内容を吟味することで将来に向けての成績をよりよく予測することを目的に、Adviser Ratingというシステムが新しく開発されたわけです。Vanguardのレポートにもあるように、このようなファンドの質的な運用内容に注目することは、成功するアクティブファンド選びで大切なポイントといえます。

 

アクティブでもやっぱり長期投資

アクティブファンドのうち、15年間インデックスファンドよりよい成績を収めたファンドだけについて調べた結果、このような優良アクティブファンドであっても、年々継続的に好成績を納めることはかなり難しいというデータも出ています。15年のうち7年間はインデックスより悪い成績だったのが26%、8年以上(つまり15年の半分以上)がインデックスより悪い成績だったのが33%、5~6年がインデックスより悪かったのが36%という結果で、15年総合ではインデックスに勝っているものの、複数年間インデックスに負ける時期もあったことがわかります。

これはアクティブファンドについて今までなされたリサーチとも通ずるもので、恒常的に勝ち続けることは難しいという結果を反映しています。ただ、よい会社のよいマネージャーのファンドを選び、しかも長期投資の姿勢で投資するならばインデックスよりよい成績を、期間総合で望むことも可能ではあるということです。この理由から、このVanguardのリサーチでは、アクティブファンドを選ぶ場合も投資家は短期的な視野で投資に臨むべきではないとしています。ある程度の成績不良年があっても、優良ファンドであれば持ち続ける限りにおいて長期的によい成績を収める可能性があるからです。

ここまではアメリカのアクティブファンド全体の話でしたが、Vanguardは自社のアクティブファンドの過去の運用成績をまとめています。Vanguardアクティブファンドが10年、20年、30年にわたって、インデックスファンドの運用成績を超えて超過リターンを出しているかを発表しています。測定の方法にもよるのですが、結果はVanguardのアクティブファンド全体がインデックスファンドの運用成績より平均0.11%~1.11の範囲の超過リターンを生んだとしています。これはちょっと範囲が大きいので、もう少しピンとくる数字に直すと、多くのアクティブファンドで0.30あたりから0.65%あたりくらいの超過リターン(インデックスの利回りを超えた差)を出しているととらえていただければよいかと思います。Vanguardのレポートは、この超過リターンもあくまで長期で持ち続けることで実現できる数字であることを強調しています。

 

ということでどうする?

まとめると、アクティブファンドでもよい成績を出すファンドは少ないが存在するということです。ただ多くはインデックスに負ける確率が高く、たとえ勝つアクティブファンドであっても、あくまで長期投資が必要なスタンスであり、またインデックスを上回る超過利回りはおそらく1.00%に満たない(優良ファンドの多いVanguardの成績で)であろうということです。

よって着実路線で行きたい人は、あえて無理してよい成績を出しそうなアクティブファンドを選ぶのは見過ごし、最初から低手数料のインデックスファンドを選んだ方が理に適うでしょう。選ぶ努力もいらず、一生懸命にやっているアクティブファンドより概して優良な成績が出せるのなら、それで十分という人も多いでしょう。

反対に少し自分でも調べてみてよいアクティブファンドに「理性的な賭け」をしてみたいといいう人は、インデックスファンドをベースにしたポートフォリオに少しアクティブファンドを加えてみるのもよいかもしれません。Vanguardもインデックスファンドとアクティブファンドは決して一つをとったらもう一つを捨てるというようなものではなく、共存も可能だとしています。Passive-Active Investingというのだそうです。

 

2 comments

  1. はじめに、以下のコメントは、岩崎様の記事の主旨とは、少しズレていることをお許しください。誤解を招かないかな?と気になった事柄についての記載です。

    インデックスファンドの良さ、Vanguardの良さは、あくまでも、ある条件下で存在するものだと思います。

    どのファンドも、長期投資が基本なのには変わりませんが、バンガードのインデックスファンドを、手数料の低さだけに惹かれて購入する方がいるとしたら、やはり要注意だと思います。インデックスファンドよりその他のファンドが良いと比較しているのではありません。

    リタイアメントやその他の目的でファンドを持つ場合、ファンドの移動の必要性を知らずに、ご自身でカスタマーサービスに英語で指示を出せない方がvanguardのインデックスファンドを、例えばリタイア直前、又はリタイア後にまで放ったらかしにしてしまうような事は、リスクを伴うことも強調して頂きたく感じました。

    実際、誰かに勧められたままインデックスファンドを購入したものの、それ以来ステートメントを見てもいないし、どうなっているのか、どうするべきかもわからないというような方が少なからずいるということです。

    その度、プロにお金を払って相談することができる方ならよいと思います。

    インデックスファンドのパフォーマンスがよいのは、市場の流れに沿うだけのファンドなので、長期投資であれば不思議ではないですが、市場が下がれば、インデックスファンドもそのまま下がる→また、好転するまでは保有し続けられるなら問題はないが、キャッシュ化しなければならない期限がある場合には、予めファンドを移動するべきだというごく基礎的な事が念頭にない方も日本人の方には多々見られます。どの位前に移すかアイデアがないパターンです。
    勿論、よくご存知の方も沢山おられます。

    バンガードのインデックスファンドは、長期間寝かせておけ、いつファンドを移動すべきかを、キチンと頭に入れて自分自身で管理できる人、又は、管理する自信はないけど、とりあえず少額でミューチュアルファンドを始めたい人には、とても良いと思います。

    岩崎様が、同じ事を他の記事内で仰っているのは承知しておりますが、この事を読者の方々がしっかりと理解しているか疑問であったので、しつこくコメント致しました。

    失礼致しました。

    1. そうですね、どのような商品でも、勧められるまま買って、買ったらそのままノータッチでいいというものは皆無だと思います。インデクスファンドはあくまで原材料なので、それをどのように使うかはよく考えねばなりません。大福さんの提案されておられるように、もしインデックスファンドをお考えの方がいらっしゃれば、どうぞ一つの記事だけでなく、このブログの中にある記事を全体的に読んでくだされば幸いです。

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