アメリカ金融危機と人間の哀しさ(1)

Last Updated on 2012年7月5日 by admin

CBSのFull coverage: 60 Minutes on the financial crisisというオンライン番組 を見ました。2008年から2012年までに放送されたファイナンシャル・クライシスに関連した6話をシリーズにしてまとめたものです。サブプライム・ローン、Credit Default Swap、ウォール・ストリートのリスクに対する盲目、クライシスの責任追及というような内容で、力のはいったレポーティングです。6話いっきに見たあと、いろいろと考えさせられました。今回は、自分の理解のためにまとめたノートです。私の理解が足りなかったり、思い違いをしているところがあるかもしれませんが、だいたいこんな感じというところで・・・

サブプライム・ローンに代表されるモーゲージをプールして証券化したもの、Mortgage Backed Securitiesといいますが、これが2008年1月の1話目(オンラインでは6話から新しい順に構成されています)でレポートされている主題です。この証券化、一般にはあまり使わない言葉ですが、コトバンクによると「保有している不動産や債券など、キャッシュフローを生み出す資産を有価証券として売り出すこと」とあります。

モーゲージの発行だけを考えると、ローンの貸し手と借り手という2者だけの関係になります。貸したい人がいて、借りたい人がいたときに契約が成り立つことになります。ところが、モーゲージをいくつも集めてそのプールに対して投資したい人を募る(証券化)とすると、そのプールからの利回りを期待して投資する人と、投資されたお金を受けてそれを貸す人と、そのお金を借りる人というように関与する人が3者になります。投資して利回りだけ期待したいけど、ローンの貸し手にはなりたくないという人も参加できる形になります。ローンの貸し手にしても、自分のお金だけでローンを発行するのでなく、投資したい人から集めたお金を貸すことができるようになります。結果的に、コトバンクの説明を借りるなら、「不動産などを証券化することにより資産の流動化が進み、また原債権を保有している企業などにとっては資金調達が多様化する」ことになります。

これ自体は悪いことではありません。投資が活発になり、貸し手の資金不足でローンを受けられなかったひとが、受けられるようになるのならいいことです。問題は、証券化にまつわる複雑さと吟味の質。

ローンの貸し手と借り手だけの関係なら、貸し手は「借り手がちゃんとお金を返してくれるだろうか。契約どおりの返済する能力があるだろうか。」と心配することになります。借り手の返済不能に陥る可能性(デフォルト・リスク)を見極めればいいわけです。しかし、Mortgage Backed Securitiesに投資するひとは、そんなに簡単にはいきません。証券化の対象となっているモーゲージはどんな種類のものか、プールに入っている借り手はどんな人たちか、証券化のプロセスはどんなか、リスク管理はどのようにされているかなどなど、ずっと複雑なプロセスで判断をすることが必要になります。

これらのMortgage Backed Securitiesは、他の債券と同様に、格付け会社に格付けされるべきものでした。格付けは、投資者が正しい判断をできるよう、中立的で公正な情報を提供するべきものです。しかしながら、これらのSecuritiesは理解するのが非常に複雑であるがゆえに、吟味・審査が難しいものでした。結果的に、そのようなSecuritiesをつくった投資会社自身から、「どう吟味し査定してらいいか」について指南を受けたり、商品を分析するためのモデリング・システムをつくる援助をうけていたそうです。また、投資商品をつくった会社から格付け会社に対してお金が支払われてもいたそうです。成績をつけられる本人が、成績をつける人に、お金をあげて成績のつけ方を教えていた・・という、ちょっと考えられないことが起こっていたわけです。そのため、本来ならばよい成績がつけられないような債券にもAAAがつけられる結果となりました。AAAだった債券が何年か後には、$1.00あたり40セントの価値しかない、ひどい場合だとまったくゼロに成り下がったといいます。

Mortgage Backed Securities以外にも、複雑な商品がつくられました。Credit Default Swapと呼ばれる商品で、ローンがデフォルト状態(返済不能状態)に陥ったとき、投資者が損をするわけですが、その分をカバーするべく支払いをするというものだそうです。言うならば、デフォルトに対する保険のようなもので、リスキーな投資で損をした場合の補償をするような商品です。このCredit Default Swapはデリバティブ(金融派生商品)とよばれ、その価値が他の金融商品の価値から派生する(たとえば大元のローンのデフォルトの率が高ければ、それに対して発行されるSwapの値段も高くなるというように)もので、これまた吟味・査定の難しいものでした。

「保険のようなもの」だけれど、「保険」とは呼ばれないのは、保険のように法律により規制されていないからだそうです。規制がないため、この商品はどんどん一人歩きしていったようです。「保険」であれば損害の可能性があるリスクを持っていない人は買うことができません(車を持っていなければ自動車保険には入れないし、家を持っていなければ家の火災保険には入れません)が、このSwapはデフォルトによって損をする可能性のない人でも自由に買えたそうです。つまりモーゲージ・ローンとはまるで関係がない人でも、このCredit Default Swapを買うことができた、つまりただ単だなる「賭け」をすることができたということです。デフォルトがなければ買った分だけ損だけど、デフォルトがあれば大きな支払いを受けられるという「賭け」です。

また、保険であれば、保険を売る側は保険金の支払いのための資金をきちんと用意しておくことが定められています。いざ保険金の支払いが必要なときに、「ありませんでした」では済まされませんからね。ところが、このSwapを売る会社は、いくらこの商品を売っても、実際にデフォルトが起こって支払いが必要になったときのための資金を用意する法的必要性がなかったというから驚きです。

規制がないため、このCredit Default Swapはどんどん売られました。Mortgage Backed Securitiesを売るときに、「もしものデフォルトのときに備えて、Credit Default Swapも一緒にどうですか?」と抱き合わせで売ったそうです。リスキーなものに「保険」をつけてセットで売ることで、相乗効果で売れたそうです。誰がどれだけ売ったかも、誰がどれだけ買ったかも、実際にそのSwapがどれだけリスキーなものなのかも、誰もリポートする必要もなければ、それを規制管理する人もいなかったわけです。番組では、「ワシントンとウォール・ストリートのLove Affaire」という表現を使っていましたが、本来なら規制したり管理したりするべき政府も見て見ぬふりだったのだそうです。事実、このCredit Default Swapようなものを「賭け」で売り買いすることは、ギャンブルと同じだということで100年前のアメリカでは違法であったそうです。それが、なぜか2000年のCommodity Futures Modernization Actという法律で、何がmodernized(現代化)されたのかは知りませんが、合法となったのだそうです。

サブプライム・ローンやそれを証券化したMortgage Backed Securitiesも大きな問題ですが、番組ではこのCredit Default Swap(CDS)のほうがサイズ的にはずっと大きな問題であったと説明しています。モーゲージのデフォルトだけでなく、さまざまな債務者を対象にCredit Default Swapが作られていきました。特定の会社がデフォルトした場合のSwapや特定の国がデフォルトした場合のSwapなども次々につくられ売られたそうです。レポーティング義務がないので、いったいどれだけのSwapが売られたか確かなデータがないそうですが、それは$50トリリオンとも$60トリリオンとも言われ、アメリカの国の負債の4倍というレベルだといいますので想像を絶します。

さてさて、その後については、次回にいたします・・・。

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