自動車保険のライアビリティ(賠償責任)のカバレッジは、100/300/50のように3つの数字で表されることが常でしたが、最近では数字がひとつだけ、たとえば「300」のように表記してあるタイプのものが出てきました。ライアビリティのカバレッジを考えるとき、このふたつの違いは何なのか、どう比べたらいいのか、どちらを選んだほうがいいのかなどを考えてみたいと思います。いざ事故のときにあわてなくていいように、自動車保険のなかでももっとも重要な要素であるライアビリティ・カバレッジをきちんと理解しておきたいですね。
スプリット・リミットとシングル・リミット
100/300/50はスプリット・リミット(SL-Split Limit)と呼ばれ、最初の数字はひとりあたりの対人ライアビリティ補償限度、次の数字は事故一件あたりの対人ライアビリティ補償限度、最後の数字は事故一件あたりの対物ライアビリティの限度です。
これに対して、300と数字がひとつで表記されるのはコンバインド・シングル・リミット(Combined Single Limit、以下シングル・リミットとする)と呼ばれ、事故一件につき、対人・対物のライアビリティ合計補償限度を表します。
スプリット・リミットの場合とシングル・リミットの場合で、補償にどのような差が出てくるか見てみましょう。
サンプル・ケース1
車2台を巻き込む事故を引き起こし、合計3人に負傷を負わせた場合。
車#1 : Aさん $50,000被害、Bさん $120,000被害、車両被害#1 $30,000
車#2 : Cさん $60,000被害、車両被害#2 $40,000
100/300/50の場合
Aさん全額補償、Bさん$100,000まで補償($20,000不足)、Cさん全額補償
車#1と車#2は、$50,000をシェア($20,000不足)
合計で$40,000の補償不足
300の場合
総被害額は$300,000であり、車も人も全額補償
シングル・リミットの300のカバレッジのほうが、対人・対物のどんな補償にも補償リミットを振り分けられるというフレクシビリティがあります。これはシングル・リミットの大きな長点です。スプリット・リミットのほうでは、$40,000の補償不足分が出てしまい、アンブレラ保険などエキストラの保険に入っていなければ、これは個人が負担することになるでしょう。
サンプルケース2
相手の車に追突し、合計3人に負傷を負わせた場合。
Aさん $100,000被害、Bさん $100,000被害、Cさん $100,000、車両被害 $50,000
100/300/50の場合
ひとりあたり$100,000、合計$300,000と対物$50,000を全額補償
300の場合
3人の被害者と一台の車に対し、総補償額の$300,000を割り振る($50,000の不足)
このように、スプリット・リミットの場合は、対人と対物とで事故一件に対しての補償リミットが別々に設定されていますので、場合によってはこちらのほうが補償額が多くなることがあります。
どちらを選ぶか?
それぞれカバレッジと保険料との組み合わせを比較して、有利なほうを選ぶことになります。通常、似たようなレベルのカバレッジであれば、フレキシビリティの高い分だけシングル・リミットのほうが保険料が高いようです。スプリット・レベルを一段階上のカバレッジにして、その保険料と比べてみるのもよいでしょう。
1) スプリット・リミット100/300/50
2) シングル・リミット 300
3) スプリット・リミット 250/500/100
とを比較する。
また、アンブレラ保険に加入することを考えているのであれば、それとの組み合わせで保険料を比べてみることも必要です。アンブレラ保険に加入するのであれば、スプリット・リミットであれ、シングル・リミットであれ、基本の自動車保険の不足分はアンブレラ保険によってまかなわれることになります。
4) スプリット・リミット 250/500/100 + アンブレラ保険
5) シングル・リミット 300 + アンブレラ保険
とを比較する。
アンブレラ保険は、基本となる自動車保険のライアビリティのカバレッジ限度がいくら以上でなければ加入できないという条件があります。各社の上限を確認して、自動車保険のライアビリティとアンブレラ保険の組み合わせで保険料を比べるといいでしょう。4)の場合ですと、たとえばアンブレラ保険が$1Mの場合であれば、1.25M/1.5M/1.1Mのような効果になり、5)の場合ですと、シングル・カバレッジで1.3Mという効果です。アンブレラなしの場合、事故のときカバレッジが$250,000か$300,000かという差は、このくらいの補償額を必要とする事故は確率的に高いこともあり、案外大きいように思いますが、アンブレラつきでカバレッジが$1.25Mか$1.3Mかという選択だと、そんなに差は気にならなくなるかもしれません。
保険料をなるべく抑えたいのはもちろんのことですが、いざ補償が必要になったときに、「こんなはずではなかった」とならないように、保険のカバレッジの範囲とその適用方法はきちんと確認しておくことがいいですね。