最近、ESGという三文字、あちこちで見かけます。アメリカだけでなく、日本でも騒がれるようになりました。本ブログでも一度以前に関連記事を書いていますが(Socially Responsible Investing(社会的責任投資)についてどう考える)、それ以降ますますすごい勢いで伸び続けている投資カテゴリーです。以前はこのSocially Responsible Investingという用語がよくつかわれていましたが、最近はもっぱらESG InvestingとかESG Fundsなど、ESG=Environmental, Social, and Governance のほうが一般的なってきました。あまりに騒がれるので、インデックスファンドによるパッシブ投資を提唱している本サイトでは、この流れをどうとらえたらいいかについて考えてみます。
ESG投資とは
ESGはインデックスファンド的に広く一般の企業に投資しながらも、Environmental、Social、 Governance の基準においてより優良な企業を中心に投資していくという考え方です。企業間でのESG面での優劣をみきわめるため、ESG評価会社が各社の企業姿勢やESGパフォーマンスに成績をつけるESGレイティング・システムもいくつかできました。ESGは常に比較という概念があり、たくさんある企業のなかで比較的良いと思われる(別の言い方をすれば、比較的悪くない)企業を選びつつ、それでもできるだけ広く市場全体をカバーして投資(インデックス投資の考え方)しようというやりかたです。
ESGの驚異的伸び
下は過去10年間のESGファンド(Exchange-tradedはETF版、Open-endedはミューチュアルファンド版のことです)の伸びを示しています。過去10年間で約4倍になりました。あるリーチによると “sustainable”とかESGというタイトルがついて売り出されているファンドは、手数料型投資マネジメント(投資アドバイザーが手数料をとって顧客に代わって投資管理するもの)で投資されているファンド総額において、三分の一を占めると報告されています。10数年前には、こういう名前の付いたファンドはほぼ皆無だったことを考えると、驚きと言わざるを得ません。
急激な成長の裏にある理由
MarketWatchへの投稿者であり、市場ストラタジスト、香港科学技術大学教授でもあるMichael Edesess氏は、このESG投資の驚くべき成長の理由に以下の3つの要素を上げています。
1.2008年の金融恐慌以来、ファンド手数料は低下の一途をたどり、手数料の高いアクティブファンド(儲かるものを選んで投資するファンド)離れがすすみ、低手数料インデックスファンド(特定銘柄を選ばすただただ市場全体に投資するファンド)への移行が加速度的に進んだ。これにより、投資マネジメント会社にとっては手数料収入が激減したわけだが、そこにESG投資があらわれ、再び高い手数料(ESGにふさわしい会社を見極めて選んで投資するため)を正当化するよいきっかけになった。“sustainable”とかESGと銘打ってマーケティングすれば、少々手数料が高くても売れるわけである。
2.投資をする個人個人にあって、Climate Change(気候変動、環境問題)、Injustice(不正)、Inequity(不平等)への意識や関心が、過去数年で急激に高まった。
3.“sustainable”であり”ESG的な“投資をしたい/すべきだという意識が高まり、自分の行動(投資も含む)が社会的に責任あるもの/”正しい“ものであることに対する、投資家側のニーズが高まった。ガス排出規制、リサイクル、プラスティックバックの不使用、肉を食べない・・・などなど、個々人が社会や環境にやさしい生き方をすることを期待されるようになった(or 少なくともそう感じて行動する人が多くなった)。むしろそうしないと罪の意識につながるようなアピールもある。
Edesess氏は、新型アクティブファンドで手数料収入を見込みたいファンド会社/投資マネジメント会社と、社会的に“正しい投資をしたい”、“主義を貫きたい”、あるいは“やらないことで罪責感をもちたくない”という個人投資家とのニーズがあいまって、驚くほどのESG市場拡大が起こっているとしています。
BlackrockやVanguardも
これだけESGファンドが人気を博し成長を続けると、やはりファンド会社としてはESGをやらないわけにはいきません。競合他社にシェアを取られないよう戦うためにも、またふつうのインデックスファンドより高い手数料収入を稼ぐためにも、ファンド会社にとってはESGはおいしい魅力的なエリアなわけです。低手数料インデックスファンドで有名なVanguardやBlackrockも次々とESGファンドを導入しました。
Tariq Fancyという人がいます。彼は、BlackrockがはじえめてSustainable Investment部門をつくったときの、初代グローバル最高投資責任者 として2018年に就任しましたが、わずか1年9か月で辞任し、最近ではESG投資に関して内部告発的なレポートを発表しています。
Fancy氏は、たとえばGreen Bonds(“グリーン”<環境にやさしい>債券)についても書いています。Green Bondsは今や$1トリリオンまでに成長したたいへん人気がある投資媒体なのだそうですが、それが「本当に環境を守るためにポジティブな影響があるのかは疑わしい」としています。Green Bonds投資家は、環境を促進するためのすばらしい企業活動のためにお金を貸していると思っているかもしれないが、必ずしもそうではない場合もあるという指摘です。Fancy氏が言うには、「企業の中で環境保護を名目にした委員会のようなものを設置してさえいればGreen Bondsというネーミングで負債発行をすることができ、その企業が委員会の外で他の資金を使ってどんなに環境に悪いことをしていたとしてもそれは問題ならない」と指摘しています。
Fancy氏は、内部者として、「ESGが投資家にとって巷でいわれているようにすぐれた投資法ではないと、かなりの自信をもって断言できる」といっています。いってみれば、「ESGは売り文句となって一人歩きしており、“社会的に責任ある投資をすれば見返りがある”というような売られ方をしている。限られたケースでそういうこともあるかもしれないが、実際は大きく誇張されていると思う。そのうえ、ESG投資によって実際に社会に対してポジティブな影響があるかというとそうでもないと考える。」と発言しています。
で、どうする?
実際のところは数字などではっきり示すデータがないので、人それぞれの判断によらざるをえないという現状かと思います。私自身はESGは“新しいセールスキャッチ”の域を出ていない(少なくとも今は)と思います。そこにはESGという売り文句でどんどん投資資金を獲得し、しかもより高い手数料で売り上げを伸ばしたいファンド会社の思惑が見え隠れするように思います。せっかく社会的責任をとろうと投資したのに社会にポジティブな影響がないのも困りますが、ESGでリスク分散が偏って投資ポートフォリオがひずむのも悲しいと思います(敢て偏った投資がしたいなら、それはその人の考え方ですが)。もしかしたら、それは“社会的に責任のない”自分勝手なことなのかもしれませんが、社会貢献はもっとダイレクトでわかりやすい形(ごみを出さない生活をしたり、直接団体に寄付したり、ボランティアしたり、あるいは特定製品の不買運動をするなど)でするとし、投資に関しては今まで通りインデックス投資がよいのではないかと思うものです。
遅れ馳せながら、明けましておめでとうございます。
新年早々、興味深いトピックで、今年もどんな記事が展開されるか、楽しみでなりません。
ESG投資は、現時点では新しいセールスキャッチの域内であるとのお考え、私も同感致します。何につけても、こうした新しいマーケットは、時代の流行と密接にありますので、それが本当にサステナブルなものであるか、自分のお金を預けるのにふさわしいものであるかは、その方向性を見極めるまでにしばらく時間を要すると思っております。
特に「ESG的」の概念については、「個人ができる小さなことを、こつこつと」が基本だと思いますので、一時的なムードに流されるだけでその後は忘れてしまったり、「新しいお金稼ぎ」の手段としてではなく、皆が長い目で本来の意味を理解できる世界になることを願っております。
あけましておめでとうございます!「見極める」、本当にそう思います。
「個人ができる小さなことを、こつこつと」、、、いいですね。本当にそれに尽きるような気がしています。