ESGファンドに投資すべきか?(2)

前回ESGファンドに投資すべきか?(1)では、ESG投資の目覚ましい成長と、その裏にあるファンド会社の思惑や、Blackrock内部告発者の発言などを見てみました。今回は、ESG投資を進めるにあたって、ファンド会社やファンドマネージャーが頼りにしているESGレイティングの堅牢性、安定性、確実性を考えてみます。

Phillip Morris のSustainable評価

ESG投資市場の伸びと足並みを合わせる形で、各企業にESG成績をつけるESGレイティングシステムができました。ESGファンドマネージャーは、それらの評価に従って自分のファンドに入れるべき企業を選んでいきます。まさに、ESG投資が意味あるものとなるためには、そのベースにあるESG評価が正しく意義深いものでなくてはなりません。

現在、MSCI や SustainalyticsをはじめいくつかのESGレイティングシステムがありますが、これらのシステムのESGレイティングを計算するその方法に問題があると指摘する専門家がいます。New York Universityビジネススクール教授のHans Taparia氏は、ほとんどのESGレイティングは、それぞれの企業の実際のESG実績や成果とは無関係であるとしています。たとえば、ある企業が排出ガス問題を多大に引き起こす可能性があったとしても、その排出ガス問題を「よく管理」しようと努力しており、企業の財務状況にネガティブな影響を引き起こさないなら、良好なESGレイティングを得るには十分、つまり良い成績をとるには基準が非常に低いというのです。

たとえば、ExxonやBPは地球環境に対して重大な危機を引き起こす可能性を秘めながらも、「企業努力」のおかげでMSCIのESGレイティングでは平均(BBB)評価を受けています。またPhillip Morrisは7千億箱の煙草を売ったあとでも、「smoke-free(煙ゼロ)な未来」をうたい文句に「企業努力」をしているので、Dow Jones Sustainability Index (DJSI) North Americaにインデックス入りしています。「smoke-freeな未来」は、次世代の無煙ではあるが同様に常習性があり健康に害のある製品は含みません。「smoke-freeな未来」への企業努力によって、政府規制による様々な問題をうまく潜り抜け、企業財務へのネガティブリスクを回避できれると見込まれれば、ESG評価は上がるというわけです。これは本当にSustainableであり、ESGでしょうか。

Coca Colaの排ガス成績?

Taparia氏はさらに、ESGレイティングが計算されるときの各種ファクターの種類や、それぞれのファクターに割り振られる重みづけがまちまちで一貫性がないことも指摘しています。数的に自動計算されるわけではないので、そこには人の客観性が入り込むという問題もあります。ひとつのファクターで悪い評価を受けても他のファクターでよい評価を得れば、全体的レイティング引き上げることができるしくみであり、Tapiria氏は「よいESGレイティングを得るためのバーはかなり低い」としています。

たとえば、PepsiやCoca Cola。どちらも糖尿病、不満、寿命短縮につながる常習性のある製品を売っているにもかかわらず、ESGレイティングは高評価を受けており、ほとんどのESGファンドに含まれています。その理由は、両社ともに健康面・社会衛生面ではネガティブ要素があっても、そのほかの企業ガバナンス、地球温暖化、排ガス面などでは高い評価を受けているからです。PepsiやCoca Colaが排ガス面でよい評価をマークするということ自体ちょっと場違いな気がします。

Amazonは、労働環境・労働条件面での問題やpredatory pricing (略奪的価格設定)などの大きな問題を抱えながらも高いESG評価を受けており、Facebookは、そのビジネスモデルによってネット上でのhate speechやmisinformationを引き起こしたり、若者の精神衛生を侵すようなサービスを提供しているという批判を受けながらもやはり高いESG評価を受けています。Alphabetも同様で、自由な市場主義を妨げるモノポリ―的存在とされながらもやはり高いESG評価です。3社とも市場のほとんどのESGファンドに含まれいます。高いESGレイティングの原因は、地球温暖化、排ガス面で高い評価を受けているからです。

ESGファンドは投資パフォーマンスが良い?

最近、「ESG投資はよい投資パフォーマスにつながる」とか、「ESG投資は、(一般的インデックス投資に比べて)利回りを犠牲するということはない」というような見出しの記事を多く見ます。結論の落としどころは、「ESG面でがんばっている企業は、結果的によい企業成績を生み、投資家により高い利回りをもたらす」というものです。

Taparia氏はこう書いています。ESG株と利回りとの関連はたとえあったとしても小さく、また吟味する期間によっても変わってくる。つまり、これは以前に、アクティブファンドが長期間にわたって常によい成績を出すことはほぼ無理とうことを吟味してきましたが(参考:インデックス投資を理解する(3):儲かりそうなものを見つけようとしない!、それと同じことだと思います。あるときはあるESGがよい利回りを出すでしょうし、他の時はほかのファンドがよい利回りを出します。それはその時その時によって変わるということです。恒常的にESGファンドがよい成績を出し続けるかというと、決してそんな証拠はないということです。

また、さらにTaparia氏は続けます。たとえあるESGファンドがよい成績を出したからといって、それがESG要素のスクリーニングのせいだとは結論付けられないということです。ESGレイティングよいAmazon、Facebook、Alphabet、Pepsi、Coka Colaに投資しました・・だから利回りがよかった・・・というよりは、それら大手の会社は社会の流れに乗るため一応のESG対策をとり高いESG評価を得たため、結果としてESGファンドに含められている・・というだけのこと・・ということです。

実際、もしもESGファンドがAmazon、Facebook、Alphabetを前述のような非社会的要素のために排除していたとしたら、その利回りはほかのファンドに比較して悲しいものになるでしょう。これらの会社はアメリカ社会の牽引的存在ですから。逆にいえば、Amazon、Facebook、Alphabetに投資するためにわざわざ手数料の高いESGファンドに投資する必要があるのかとも思います。それなら最初から、手数料が極小のアメリカ国内市場インデックスに投資すれば、かならずこれらのメジャー会社は含まれています。

企業は、よいESGレイティングがもらえないとなれば、マーケティングイメージ的にもダメージがありますし、株価が下がるのも困りますから、必死で好成績をもらえるよう努めます。それが本当に、環境・社会・ガバナンス面において企業の社会責任を促進するものであるかもしれないし、単に表面上のつじつまあわせということもあるでしょう。後者であるなら、企業の社会責任を問うはずのESGが、結局は企業の利益追求の一策になるだけのことかもしれないとも思います。企業が本当に社会的責任を果たしたいなら、よいESGレイティングを取ることに心を砕く代わりに、雇用者の給料を上げ、労働条件を改善し、常習性のない商品を売り、たとえコストが上がったり、競合他社にシェアを喰われたとしても環境によい商品をつくること・・・・つまり自己犠牲が必要なのだと思います。企業の自己犠牲は、企業の利益を減少させ株主への利益を引き下げます。つまり株価は下がるわけです。企業が社会責任をとって、しかも株価が高くなり、企業も投資家もWin Winなどということ可能なのでしょうか。

投資家としては、少なくとも現時点では、ESGファンドを買うことで本当に社会責任に貢献するという確信がちょっと持てない段階だと思います。さらに、ESGというマーケティング文句に載せられ、実際は利益追求の「ESG企業」と利益追求のファンド会社にあおられて、一番損をするのは個人投資家…などということがあってはならないと思います。当面は、ただふつうのインデックス投資が無難ではないかと思うものです。

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