Last Updated on 2019年11月12日 by admin
今回のシリーズでは人生の最後のフェーズである、相続という問題や死の前段階のための計画について考えます。英語ではエステートプラニングという言葉で呼ばれますが、お聞きになったことはあるでしょうか?エステートプラニングはファイナンシャルプラニングの中の重要な一部です。しっかり生きて、美しく死ぬ・・・とでも申しましょうか、自分の最後と残された者のための思慮があってこそ、完全なファイナンシャルプラニングとなるわけですね。
エステートプラニングは、専門知識が必要な分野で、州によっても法律が異なったり、また法律は刻々と変化するということもあり、それを専門にした弁護士などに相談されることをお勧めします。Smart & Responsibleはパーソナルファイナンスの中の一要素としてエステートプラニングをカバーいたしますが、弁護士ではありませんので法的な手続きや詳細に責任をもつことはできません。以下に記しますことは、あくまでファイナンシャルプラニングの観点から見た場合の一般論としてご理解ください。
遺言書だけではないエステートプラニング
相続とくれば、すぐに連想するのは遺言書。よく映画でありますね、お金持ちが亡くなって、その家族がずらっと部屋に並び、みんなナーバスそうに真ん中に立った弁護士を眺めているシーン。弁護士が遺言書を読み上げるたびに、複雑な表情をする家族たち。。。遺言書がとにかく一番大事・・・と思って当然ですが、実は相続を考えるとき、遺言書はたくさんの中の一要素に過ぎません。
英語では、人が亡くなったときにその人の持ち物をどう分配・委譲するかについて計画をすることをエステートプラニングと呼びます。このエステートプラニングという言葉は、日本語ではあまりなじみがなくぴったりの訳語もないため、時に応じて、資産管理、相続計画、遺産計画、資産家向けコンサルティングなどと訳されています。
エステートというのは、ある人の持つ全資産から全負債を差し引いたものです。その人がまだ生きている場合は、よくネットワース(Net Worth=純資産)という言葉でも呼ばれます。亡くなるとと、ネットワースという言葉は使わず、エステートと呼ぶわけです。
ある方が亡くなると、その人の所有している資産はこのエステートというバスケットにまとめられます。そしてその人の負っている負債もこのエステートというバスケットにまとめられ、すでにバスケットに入っている資産を使って負債の返済がされます。差し引き残ったものが、最終的なエステートで、これをその人の遺志に沿って、家族やその他の人・団体に分配していきます。
その人の遺志を反映させるためのツールでよく知られるのは、先にあがった遺言書ですが、実は遺志の反映には遺言書だけでなく、トラスト、タイトル(所有権)の設定、ベネフィシアリー(受益者)の設定などによっても行われます。ですので、遺言書を書くだけが、エステートプラニングではありません。逆に言えば、遺言書だけではエステートプラニングは不十分です。
お金がある人だけ必要なの?
エステートプラニングなんて必要なほど、うちには資産がない・・・と思われる方もいらっしゃるでしょう。相続税(本来は相続税は相続する人が相続した資産に対し納めるもののことで、日本はこの形態をとっています。一方、アメリカでは遺産を残す人の遺産から税金が支払われるので、正確には遺産税と呼びます。以降、遺産税という言葉を使います)を心配せねばならない方は、確かにそれほど多くないかもしれません。課税対象エステートが$5.34ミリオン以上(2014年)でないと遺産税はかかりません。資産がこれ以下の方は、遺産税をいかにかからなくするかということは心配する必要がありません。(注: 相続者がアメリカ市民の配偶者である場合は、エステートがいくらであっても遺産税はかかりません。)
ただエステートプラニングは決してお金持ちだけのものではありません。たしかにほとんど資産がないといのであれば、エステートプラニングがなくても結果的には問題はなかったという場合もあるでしょう。ただ、自分の持ち物があって、そしてそれを自分の意思を反映した形で、誰か特定の人に残したいという思いがあるなら、遺産税がかかるかからないに関わらず、プラニングをしておくことが必要です。この「持ち物」という言い方は、家や銀行口座など自分の所有しているものだけのことを指しているのではなく、自分が養育の責任を担っている子どもも含みます。アメリカでは、一般に18歳以下をマイナーと考えますが、マイナーの子どもの後見人の指定は、遺言書でなされるべきのものです。
また、エステートプラニングは死後の相続のことだけではなく、実はその前の時点での大切なことがらも対象となります。なんらかの理由で、もはや自分で自分に関しての判断ができなくなった場合(英語ではincapacityという)に備え、あらかじめ自分の治療や延命処置についての考えをまとめておいたり、あるいは自分に代わって判断をしてくれる人を指名しておくということも含まれます。
ですので、どんなに資産が少なかったとしても、ベーシックなエステートプラニングは必要と考えるとよいでしょう。
プロベートって何?
プロベートという言葉をお聞きになった方もいらっしゃるでしょう。エステートプラニングを進める上で、このプロベートという概念は押さえておかねばなりません。財産がそれほどないので遺産税は心配しなくていいという方も、プロベートのことは気にかけておくべきです。税金がかかるかからないとプロベートが必要かどうかは別問題です。
プロベートは日本語では検認裁判と訳され、個人の死後、その人が所有する資産をどのように委譲するかについて決定するプロセスです。まず故人の遺言書がある場合には、それが提出され、資産の委譲を管理する執行人が決定され、執行人は、故人の資産と負債をリストアップし、負債を資産により支払い、税金の計算・納付をし、故人の遺志あるいは州の法律にのっとって残った資産を相続人に分配します。プロベートは公の裁判で、遺言書も公開され、それが確かに故人の遺言書であり有効なものであることが証明される場です。
プロベートは弁護士や裁判所の費用もかかり、また時間もかかるプロセスです。費用はエステート資産の5~7%と言われています。プロベートにかかる費用と時間は、必要ならばいたしかたないものですが、プロベートは不要という思いがあるなら、その旨あらかじめ準備しておくことで回避することが可能です。
すべての資産がこのプロベートというプロセスを通して分配・委譲されるのかというとそうではありません。プロベートによって委譲される資産をプロベート資産(Probate assets)と呼ぶのに対し、プロベートの外(検認裁判によらないで)委譲される資産をノンプロベート資産(Non probate assets)と呼びます。
プロベート資産は、
- 故人ひとりの名義の不動産、あるいはTenant in common名義で故人が所有していた分
- 自動車、宝石、家具など故人ひとりの所有物
- 故人ひとりの名義でPOD/TODベネフィシアリー指定のない銀行・投資口座
- ビジネスの所有権
- 故人以外のベネフィシアリーが指定されていない生命保険、リタイヤメント口座、アニュイティー
ノンプロベート資産は、
- ジョイント所有(Joint Tenancy、Tenants by the entirety)されている不動産
- POD/TODベネフィシアリー指定のある銀行・投資口座
- トラストに入っている資産
- 故人以外のベネフィシアリーが指定されている生命保険、リタイヤメント口座、アニュイティー
無駄なプロベートを回避するためには、自分の持っている資産をノンプロベート資産の形態にしておくことが賢明です。これについては追々見ていきます。
Non Citizenの相続
財産が$5.34ミリオン以内であれば遺産税がかからないということを書きましたが、相続する人が故人の配偶者でしかもアメリカ市民であれば、財産がいくらであっても($5.34ミリオンを超えても)一切遺産税がかからないというもっとすごい制度があります。配偶者が遺産を相続する場合、遺産(課税エステート)の額にかかわらず、限度なしですべての遺産が配偶者控除され一切遺産税がかからないというしくみです(Unlimited Marital Deduction)。相続する配偶者はアメリカ市民でなければなりません。亡くなる人はアメリカ市民でも市民でなくても関係ありません。
遺産を相続する人が、アメリカ市民でない場合は配偶者控除がなく、非配偶者が相続するのと同じルールが適用されます。つまり、遺産(課税エステート)が$5.34ミリオン以上であれば、遺産税がかかることになります。遺産がそれ以下であれば、遺産税はかかりませんので、多くの方が遺産相続上はアメリカ市民ではいことを心配する必要はないでしょう。
もし遺産税がかかるレベルの資産がある場合、配偶者相続に遺産税をかからなくするためには二つの方法があります。ひとつは、残された配偶者がアメリカ市民権をとること、もうひとつはQDOT(Qualified Domestic Trust) というトラストを作るという方法です。QDOTの場合は、亡くなった方の遺産は直接外国人配偶者の所有に移らず、トラストの所有となります。配偶者はトラストから利子を受けることができますが、財産の所有者とはなりません。配偶者の死後、残った財産は子どもなど、トラストで指定されたベネフィシアリーに委譲されます(トラストについては後に説明)。
ご無沙汰しております。
>亡くなる人はアメリカ市民でも市民でなくても関係ありません。
本当ですか。1年半ほど前、ある在日の日米間相続のサイトで以下の返事をもらいました。
死亡;アメリカ市民 → 生存;(非)居住外国人 基礎控除は$5.25M
死亡;(非)居住外国人 → 生存;アメリカ市民 基礎控除は$60,000
非アメリカ市民は、こと遺産税の場合、Resident alien/Nonresident alienの両
方を含みます。
つまり、私が先に死んだ場合、私個人の財産が6万ドル以上あれば遺産税がかかるわけですよね。またアメリカ市民の夫が先なくなり、ジョイント口座が私一人のものとなってから私が死に、アメリカ市民の息子が相続する場合も6万ドル以上は遺産税がかかると理解しています。違うのでしょうか。
「亡くなる人はアメリカ市民でも市民でなくても関係ありません」の一節は、Marital deduction(配偶者控除)のことを指しているので、単に相続する人がアメリカ市民かどうかではなく、配偶者であることも条件です。「基礎控除の$60,000」という数字は、US外に住むNon resident alienがアメリカで持っているある種の資産が$60,000を超えたら、エステイト・タックス・リターンをファイルする必要があるという、ファイリング条件の数字のことをいっておられるのではないでしょうか。基礎控除額ではないと思います。配偶者控除は、相続する配偶者がアメリカ市民であれば、Code§ 2056により、死亡した人の国籍によらず受けることができるはずだと思います(が私は弁護士でないので、ご自分のケースについてはどうぞご確認を)。
以前から、いろいろな人に「Living Trustをセットアップした方がよいよ。」とは聞いていましたが、その内容がよくわからなかったことと費用が数千ドルかかると聞いてそのままほっておいて早10年。
上のコラムを読む限りでは、個人名義の車など以外は、ほとんどノンプロベート資産ばかりなので、アメリカ人の主人にNon-Citizenの私だけど、Living Trustなくてもいいかなあとも思い始めていましたが、去年、ひょんなことから、会社のBenefitの一つのLegal Planを使えば、数千ドルが$500位でできると聞いたので、今年はそのLegal Planにサインアップしてみました。そのプランに入っている弁護士数人にコンタクトしてみて大体、目星をつけ、いざアポを取ろうと思ったのですが、今まで弁護士なんて使ったこともないので、ちょっとひるんでしまい、どうしようかなあ。
でも、やっぱりLiving Trustって、私たちみたいなケースでもセットアップしておいた方がいいんですよね??
コメントありがとうございます。コメントをいただいていた旨の通知がうまく届かず、お返事が遅れて申し訳ありません。
そうそう、会社のBenefitのLagal PlanにはEstate Planningが含まれていることが多いようです。使わない手はない!
弁護士さんとの最初のミーティングは、Estate PlanningのOverviewみたいなものでしょうから、説明してもらってわからないところを質問して終わりだと思います。その後細かい情報を提出することになると思います。Living Trustをつくったほうがいいかもアドバイスがもらえると思いますよ。
エステートプランニングのことを調べていて、このサイトにたどり着きました。上記の方と同じように、資産はほとんどジョイントアカウントなのですが、やっぱりLIVING TRUSTを作ったほうがいいのかなと考えています。たとえば、とっかかりにNOLOのWILL MAKER PLUS2018 &FREE LIVING TRUSTで作って、それをあとで弁護士さんもいれて見直してもらうとか、それを無効にして新規に作りなおすとかもできるのでしょうか?アマゾンプライムディで安かったので、ポチッと押してしまったもののこんな大事なことを弁護士さんも入れずに作っても不備がないのか心配になってきました。将来はアメリカ人の主人と日本に戻る予定ですが、こちらの生活を片付けて日本で引退することなど、もう少しリサーチして行動を起こさないといけません。こういった事情に詳しい弁護士さんや税理士さんを探すことからやらないといけないので、まずは最低限の遺書、トラスト、リビングウィル、POWER OF ATTORNEYだけでも、このソフトで手を付けたいと思っています。最初からエステートプランニングの弁護士をいれたほうがいいなら、ソフトで作ることはやめたいと思います。ご教授お願い申し上げます。
私は弁護士でないので責任をもったことは申し上げられませんが、比較的内容がシンプルで定型のものでハンドルできる内容であれば、NOLOでも十分対応できるのではないかと思います。トラストを組んだり、定型の枠を超えた遺志を組み込みたいときには、弁護士さんに相談するのが良いと思います。エステートプラニングの内容は一度作ったらおしまいということはなくて、何度でも見直し変更はできます(ただ、その都度弁護士料がかかるとは思いますが)。
お返事ありがとうございます。CAに住んでおり、先にも書いたようにほとんどジョイントアカウントなのですが、主人の名義でビジネスをやっているので、トラストはあったほうがいいみたいに書かれていてそうなのかと思いました。NOLOの分はほとんどコストがかからないので、とりあえず自分たちでつなぎ的にやってみて、最終的には、リタイアとか移住のことを考える際に、また弁護士さんにみてもらおうと思います。うまくいけばいいのですが、まだソフトも手元にないので、何とも言えません。もしほかになにか気を付けること等あれば、教えていただくと幸いです。
とても参考になる内容をシェアして下さってありがとうございます。
ただ、文章中に出てくる「遺書」は、「遺言書」ですよね。
遺書と遺言書は別物ですので。英語でも違うかと思います。
よくわからないで書いていました。すいません。
民法が要求する一定の方式にしたがって作成された書面及びその内容を遺言(いごん)といい、その書面を「遺言書(いごんしょ)」と言う
ということですので、二音後では遺言書です。
英語では、Last Will and Testament、Last WillあるいはWillと呼ばれます。法的にBindingなものです。
アメリカの叔母が亡くなり日本居住の姪の私が私的年金投資ira に私の名前を残しています。どう対応してよいのか?
アメリカの叔母様から日本にいらっしゃるかたへのご相続ですね。これはこのコメント欄では簡単に解決するレベルのことではなく、日米間の相続に詳しい会計士・弁護士さんにご相談いただくことになりますが、今残された方が日本にいらっしゃっての相続ですと、日本にいらっしゃる会計士さん・弁護士さんに相談されるのが良いのではないかと思います。
初めまして。自身がNon US citizen (永住権です)の立場から10年前に作成したWill and last testamentaryを書き直すためのリサーチでここのサイトにたどり着きました。とても情報が多く大変勉強になりました。質問なのですがなるべく多くの資産をNon probateにすることで手間が省けたり簡素化出来ることはわかったのですがファイナンシャルアドバイザーに話したところ現在ジョイントname になっている家のタイトルを主人の名前だけのタイトルに書き換えた方がいいのではというアドバイスを受けました。というのも土地の購入で5千万プラス建築に6千万 計1億1千万くらいかかったのですが昨今の土地価格の高騰でたぶん今は3億くらいの価格になっています。主人とは年の差が20歳ほどあるので先に主人がなくなったとき私が家を売ろうとすると差額に税金がかかるがbenifitialyになることで受け継いだ時家の価格basisがUpdateされるからということです。Updateされた時点で家を売れば差額にかかる税金をたくさん節約できるということです。理屈ではわかるのですがジョイント名義からに主人のソロタイトルに帰るのは少し不安なのですがどんなデメリットがあるか教えていただけるとありがたいです。
もしNaokoさんがお家を後々お売りになるのならキャピタルゲインが少なくなるという面でそのほうがいいですが、デメリットについてはOwnershipがなくなることだと思います。これはよくよく専門家と相談されて確認すべきことだと思います。私は専門家ではなく総括的なコメントができないと思いますので、控えさせていただきます。
初めまして。私と妻は60代前半、息子と娘は30代前半で共に結婚しています。4人ともUS市民権を持っています。財産は少ないですが、持ち家と銀行口座(共に夫婦joint名義)に幾らか預金があります。
仮に私か妻の片方が急に死亡した場合、持ち家と銀行の現金は残された配偶者に自動的に移行すると考えて良いのですか? 子供には移行しませんよね? そしてもし二人とも亡くなった場合何もしなければ自動的に娘と息子に半分づつ移行するのですか? その場合もし仮に全部の遺産を片方の子供に残したい場合は遺言を書いておく必要があると思いますが、どのようにすればよいのでしょうか?
よく聞くプロベイトというものは日本に財産がなければ気にしなくてもよいのでしょうか?
何卒宜しくお願い致します
銀行のジョイント預金口座なら、通常は(厳密にはそれぞれの州法によりますが)おひとりが亡くなったら、自動的にもう一人のかたのものになると考えていいと思います。お二人とも亡くなれば、Payabla On Death ベネフィシャリー(ネーミングはいろいろ違うかもしれませんが)の設定があれば、その方に引き継がれることになります。個人的なケースの詳細は、きちんとその州の相続に詳しいEstate Attorneyの方に確認してください。