ファンドの手数料(Expense Ratio)に対する消費者意識はどんどん高まり、15年前には1.5%とか2.0%などという手数料を課しているファンドも案外あったものですが(そして、それらに投資する人も案外いたものですが)、最近ではインデックスファンドなら0.30%以下はふつう、0.10%以下も珍しくなく、0.05%以下でも驚かなくなりました。ところがこれがゼロ=0.00%だったらどうでしょう。Fidelityが手数料ゼロのファンドを出しています。その名もFidelity ZERO。金融においてはとくに、「ただより高いものはない」が常識ですから、いったいこのファンド、大丈夫なのか・・疑問があって当然です。今日はそのあたりを吟味してみましょう。
FidelityのZEROファンドはいくつか種類がありますが、どれも有料バージョンがすでに存在し、それのカウンターパートを無料バージョン=ZEROとして出しています。たとえば、このペア、上がUSの株式市場全体に投資するインデックスファンド、手数料は0.015%です。下がその無料バージョンでZEROファンドです。
上の有料バージョンでもすでに0.015%の手数料ですから十分低いレベルですが、ここでなぜZEROをつくったのか。無料ということはFidelityはこのファンドを売ることでなんの報酬も得ないということですが、そのあたりはどういうことなのか?
中身は?
まずは中身がどう違うのか、見てみることにします。
以下は、二つのファンドに含まれる、各株式セグメントのアロケーションです。これを見る限り、ほぼ比率的にはかなり近いことがわかります。ただ最後の「含まれる株式数」を見てみると差があります。有料のほう(A)は3,676株を含んでいるのに対し、無料のほう(B)は2,632株です。
ファンド投資にはリスク分散が不可欠で、インデックスファンド投資の場合、市場インデックス(この二つの場合は、USの市場全体)を対象に分散投資をしています。リスク分散のパワーは、分散が広がるごと進みます。1株に投資するのに比べると、10株に投資するとリスクが大きく下がります。100株に投資するとリスク分散はさらに大きくなりますが、ただ次の1株を足した時にその1株で下がるリスク分散のパワーは10株目を足した時と、100株目を足した時を比べると、10株目を足した時のほうがずっと大きいです。同様に、次の1株で下がるリスク分散のパワーは、100株目を足した時と、1000株目を足した時を比べると、100株目を足した時のほうがずっと大きいです。株式数をどんどん上げていけば、リスクは必ず(前のと完全に同じ動きをするのでない株である限りですが)下がりますが、次の1株を足した時のリスク分散のパワーは前の1株に比べると小さくなる・・わけです。
そう考えると、2,632株のリスク分散を、さらに3,676株まで増やせば、さらなるリスク分散の効能は得られますが、ただ2,632株でもかなり十分なので、その次の1,000株分のパワーは最初の1,000株分ほどは大きくないといってもよいわけです。
違いは小企業
約1,000株の差は、小企業です。無料バージョンでは、株式時価総額が一定以下かつ株式取引額が一定以下の小企業を除外しています。大中企業(小企業でも大きめの企業も)はどちらのファンドも同じように含んでおり、これらが市場においては主要素です。細かい部分まで市場全体をフォローするのはコストがかかるので、この細かい部分を無料バージョンは除外しているということでしょう。リスク分散理論においては、テキストブック的には3,676株のほうが好ましいですが、実際的にはコストの割にはベネフィットが少ない細かい部分を削除することで2,632株でそこそこのパフォーマンスを確保するという考え方です。
実際、有料バージョンAと無料バージョンBのパフォーマンスの差を比べてみると、上の表のようにほぼ線が重なっています。2018年8月にAとBに$100,000ずつ投資したとすると、3年後の2021年のはAで$163,772とBで$163,883になりました(手数料はすでに差し引き済み)。この3年に関して言えば無料バージョンのほうが結果がよかったことになります。
ただ、これはこの3年だけの話なので、もっと市場が違う動きをしたときには、分散度の高い有料バージョンAのほうが手数料を差し引いてもパフォーマンスがよいということは十分ありえます。有料バージョンが含んでいて、無料バージョンが含んでいない小企業セグメントがリスク分散ではスパイス的なキーになることもあり、それこそがリスク分散の醍醐味でもあるので(Emerging Marketに投資するのと似た感じ)、この差が意味がないことはありません。
このような傾向は、US以外の外国株に投資するInternational Stock Fundの以下のペアでも同じです。
なにかキャッチがあるかと疑ったZEROファンドですが、内容的にはリスク分散が限られるというのが大きな違いでありますが、全体的、とくに短期的な投資においては、ZEROファンドも決して悪くなく、パフォーマンスについては有料バージョンと大きな差が出ない可能性が高いと思われます。
FidelityがZEROファンドを作った理由は、おそらくVanguardなどに流れる低コスト志向の個人投資家を引き寄せ、ZEROファンドでは利益が得られなくとも、それに付随して提供するサービスで利益を得ようということだと察します。そういう意味ではどうやらZEROファンド自体にはキャッチはないといっていいと思います。
キャッチがあるとしたら、このFund自体の問題でなく、このFundはFidelityに口座がないと売り買いできないということではないかと思います。もし、他の証券会社に口座を乗り換えようとした場合、このFundのままでトランスファーできないので、いったんFidelityの口座内で売る必要が出てきます。課税口座の場合、予定しなかったキャピタルゲイン税を払わなくてはならなくなりますよね。
なるほどそうですね! 客寄せのための看板ファンドと考えると納得できます。
いつも有益な情報をありがとうございます。
数年前から投資を始めてようやく上がったり下がったりにも耐性がでてきたので、今年からFIDELITYのHSA口座で少額ですがFSKAXの積み立てを開始しました。本当はVTSAXにしたかったんですが手数料がかかるので諦めました。手数料ZEROのファンドがあることには気が付きませんでした。あまり大差がなさそうなのでそのままにしておこうかと思います。401KもFIDELITY なのですがその手数料もはじめてチェックしました。昔は自分の積み立てと会社の分が別になっていて、自分の積み立てのターゲットデートファンドの手数料が0.37%でこのサイトの数字と比べると少し高めですが、もう一つの口座はグローバルダイバースファンドという名前で手数料が1.8%とかなり高額なことに気が付きました。デフォルトを選んでだと思うんですが年内にターゲットデートファンドに変更しようと勉強中ですが、20くらいしか選択がないので0.37%以下までしかさがらないようです。もうリタイアも近いので今更ですが、このサイトがなければこういう事にも気が付かなかったかと感謝しています。
1.8%は高いですね。気がつかれてよかったですね!
Fidelityのターゲットデイトファンドは2種類あって、FreedomとFreedom Indexというのがあります。内容はかなり似た感じですが、手数料が後者が安いです(前者はアクティブ投資の色が入っています)。でも401(k)のラインアップになければ選べませんね。。。0.37%でも1.8%に比べれば1/4以下でですね!
いつも拝見しています。
健康保険をHSAに決めました、Fidelityで口座を作ろうか考えています。ゼロ手数料は知りませんでしたので朗報でした。ありがとうございます。
HSAは第二のIRAと言われて利用者が増えているらしいですね。もし新しい情報やお考えがございましたら、またシェアしていただければと思います。
お役に立ててよかったです!HSAについてはいくつか記事があります。HSAのキーワードでサーチしてみてくださいね。
有益な情報ありがとうございます。
一括購入を考えているのですが、このゼロ手数料ファンドか手数料0.03%のETFかで迷っています。
他の記事では一括ではETF、積立ならMutual Fundをお勧めされていましたが、手数料ゼロという要因はそれを覆すくらい良いハナシなのでしょうか?それとも0.03%程度ならやはりETFをお勧めされますか?
購入額にもよるかもしれませんが、、、
一括ではETF、積立ならMutual Fundというのは、ETFが積み立てするときに積立額での設定ができず面倒(最近金融機関によってはできるようになっています)だからですが、今回は一括でお考えなら、Mutual FundでもETFでもその面倒な部分は考慮しなくていいので、そうすると手数料優先でいいのではないでしょうか?ETFのほうが税金上有利ということはあるので、課税口座かIRAなどの口座なのかも考える必要はありますが、でもそれほどものすごく大きな差はないかと思います。