わかる長期投資:これだけ押さえてしっかり運用(3)

リタイヤメント資金準備などの長期投資をするにあたって、最低限知っておくべきポイントを抑え、できるだけ簡単に長期投資を始める、あるいは維持していくための考え方を身につけるシリーズを5回に分けてお送りします。1回目では、投資の基本であるダイバーシフィケーションとは何かとその効果について見てみました。2回目では、実際にどうダイバーシフィケーションを実現するかで、二段階に分けて考えることが必要なことと、そのひとつめのカテゴリー内でのダイバーシフィケーションでは、インデクスファンドを使うと効率がよいことをご紹介しました。3回目の今回は、ふたつめのカテゴリーを超えてのダイバーシフィケーションについて考えます。

ふたつめ:カテゴリーを超えたダイバーシフィケーション

さてカテゴリーの中でのダイバーシフィケーションは、カテゴリーごとのインデックスファンドを購入することで実現できることがわかりました。次は、カテゴリーを超えたダイバーシフィケーションを行います。カテゴリーごとのインデックスファンドを組み合わせて、さらなるダイバーシフィケーションを行います。これが2段階目のダイバーシフィケーションです。

まず、二段階目のダイバーショフィケーションを行うにあたって、決めなければならない第一関門が、株と債券の比率です。先に、投資の対象は大きく、1)株、2)債券、3)それ以外に分かれると書きましたが、このうち投資の2大柱は1)の株と2)の債券です。株と債券の比率を決めダイバーシフィケーションを行うこの作業は、アセットアロケーション(資産配分)という名前で呼ばれたりもします。

今まで株式を使って説明を進めてきました。株式は会社の一部を所有する権利であり、株に投資するということはその会社に出資し資本参加をするということです。会社が業績を上げれば配当金あるいは株価の上昇という見返りが期待できる反面、会社がつぶれれば株式はなんの価値もなくなる可能性もあります。会社の将来への賭けであり、ハイリスク・ハイリターンといえます。

一方で、債券は、「いついつが満期でいつまでにいくらお返しします」と約束に基づき有価証券という形で発行されるものです。債券の場合は、その約束が約束通りに遂行されない、つまり利息や償還金が払われなかったり、あるいは財務状況の悪化のせいで債券自体の価格が下落するリスクとがあります。債券は債券なりのリスクがありますが一応「約束」がベースになっているので、経済のさまざまな不確定要素や企業の経営成績次第で価格も配当金も大きく変わる株式に比べると、リスクが低いものです。概して集合として考えるとき、株式は比較的ハイリスク・ハイリターン、債券は比較的ローリスク・ローリターンということになります。よって高リスクが取れる場合は株式の比率を上げ、反対にリスクがあまりとれない場合には、債券の比率を上げるということになります。

実際株式と債券の比率を変えると、どのくらいリスクとリターンが変化するのかを見てみましょう。下の表は、Vanguard社調べのデータに基づいたもので、1926年から2015年までの90年間のS&Pなどのアメリカ国内インデックス指標の過去データをもとに、それぞれの比率で投資を行った場合、年間平均でどのくらいの利回り(リターン)を記録することができたかと、90年間中前年比損失が出た年は何年あったか(ある意味でのリスクの指標)を並べたものです。これはあくまで過去データでの実績なので、今後もこのようなアロケーションをした場合、この利回りが出るというように短絡的にとらえることは危険です。あくまで、ハイリスク・ハイリターンの株とローリスク・ローリターンの債券の比率を変えていくと、どのように期待されるリスク・リターンが変化するかを感覚的にとらえるためにご覧ください。

株式:債券が80%:20%のアロケーションでは、90年間の平均利回りは9.50%と高利回りですが、90年間中23年も損失が出た年がありました。株式比率が下がり債券比率が上がっていくと、平均利回りは下がっていきますが、同時に損失が出た年の数も下がっていきます。より騰落の激しさが少なくなり、リスクがさがっていくのを意味しています。株式:債券が30%:70%になると、利回りは7.20%、損失が出た年数は14年にまでなります。

さて、ではどのレベルのアロケーションの比率を自分は取ればいいのか?これが多くの場合、ポートフォリオ組むにあたっての、一番大きな決断でもあります。

自分の許容リスクを決める

以下にどのレベルのリスク・リターンを狙うべきなのかを決めるにあたっての要素についてご紹介します。

1.投資の期間

たとえ一時的に値下がりしても、長期の投資であればあるほど、値がもとに戻りさらには値上がりするまで待てることになりますから、結果的にリスクをより許容できることになります。市場にはアップ・アンド・ダウンはつきものですから、この長期的投資スパンというのは、許容リスク・レベルに最も影響をあたえる要素のひとつです。

よって、リタイヤメント資金を貯める場合50歳の人より20代の人はより大きなリスクをとれることになります。20代で投資を始めて、株式比率を上げてアグレッシブに投資をはじめ、たとえ30代で大きな金融ショックで株式が暴落したとしても、まだリタイヤメント資金を使い始めるまでには30年以上ありますから、まったく気にすることなくそのまま持ち続け、そのうち株価が戻りさらに上昇をしていくまで待つことができます。反対に50歳の人はあと十数年で資金を現金化する必要があるでしょうから、ある程度は待てますが、20代の人ほど楽観的に待つことができません。よって、リスクを下げた運用が好ましくなります。

2.途中の不確定要素・阻害要素の有無

長期的に投資できると思ったものの、途中、家の修理が入って引き出すことが必要になったり、雇用が不安定になって投資アカウントに手をつけざるを得なくなるなど、長期的投資を阻害するようなことが起こらないか、万が一の場合の余剰資金が別に確保してあるかというようなことも考慮に入れます。長期スパンで比較的リスクを高めに投資していたら、前述のような不慮の事態となり、投資が値下がりしているのにもかかわらず、引き出したりあるいは解約したりを迫られることになれば、当初の投資の目的を達成できないばかりか、低い値段で売らざるを得ず予期せぬ損失をこうむることにもなります。このような場合は大きなリスクがとれません。

急な家や車の修理、予期せぬけがなどに対応するためには、すぐに引き出せるお金として生活費の3から6か月を非常時の蓄えとして現金でためておくことが下準備になります。また、車の買い替えや予期できる家の修理など、あらかじめ予定がたてられるものは、お金が必要になる時期を見越して別ファンドとして貯めておくことも必要です。このふたつの準備が整ったうえで、残ったお金を長期投資に回すという考え方をすれば、投資資金への不確定要素や阻害要素はかなり低くできるはずです。

3.投資や市場に対する知識

わからないもの、理解できないものほど、人を不安にさせます。不安になると人は最善でない決断をしてしまうことがあります。たとえば、市場暴落の際、これは大変だとあわてて売りにでてしまうなどというのがこの例です。ここでポイントとなるのは、市場の読み方や売り買いの見極め方などのテクニック的なことは必要なく、長期投資とは何なのかについての理解のほうが重要です。適切にダイバーシフィケーションを行って運用している投資であれば、たとえ市場暴落の場合もゆったりと構えていられる姿勢をとり続けられるだけの知識と自信が必要になります。これは決して難しいものではありません。ただ、正しい「心構え」が必要です。「市場が暴落して投資資産が三分の二になっても、うろたえません」と言えることが必要です。逆にこの覚悟ができない場合は、リスクをあらかじめ低くして運用する必要があります。以下の記事をお読みください。

誰でもできる成功する株投資(1)

誰でもできる成功する株投資(2)

株式市場の不安定でうろたえないために

株大荒れでもクールにかまえるために

4.目標とするリターン

たとえば、「××ドルの元手で○○年までに△△ドル貯めたい」という目標がある場合、では逆算するとどのくらいのリターンが必要になるかを割り出すことができます。このアプローチは、「許容リスクをまず決めて、それに伴ったリターンを得る」の姿勢の逆をいくもので、「必要なリターンがこれこれだから、そのくらいのリスクを許容する」という姿勢です。ただこのやり方は、実際にはあまり使われていません。

実際アメリカでリタイヤメントをする場合、すでに大きな資産が貯まっているとか、不動産収入などのようにリタイヤメント以降も定期収入が見込めるというような場合でない限り、毎年できるだけ多くの積み立てを行い、できるだけリスクをとりつつ運用することなしには、十分なリタイヤメント資金を準備することができない場合がほとんどです。長いリタイヤメント生活を金銭的にサポートし、医療費や介護費などのためにもある程度余裕のある資金準備をするとなると、ローリスク・ローリターンではなかなか資金準備が進みません。よって、必要なリターンの計算をするという考え方より、通常はその時点で許す限りのリスクをとりつつリターンを上げていくという方法がとられます。

上の1~4を総合的に考えてまとめると、結局、長期資金準備をするにあたっては

  • 非常時の蓄えのための現金準備はしっかりとしつつ、
  • 短中期に必要になる資金は別に貯めつつ、
  • 長期投資に回してよいお金を、投資期間に従って許す限りのリスクをとりつつ、
  • いったん投資したらアロケーションの微調整はしても、市場の動きに反応して売ったりしないで持ち続ける

というやり方がベストということになります。

次回は、実際アセットアロケーションを決め、インデックスファンドを選んでいくステップを見ていきます。

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