Managed Payout Fund (老後の収入確保ファンド)を考える

401(k)やIRAで一生懸命貯めてきたリタイヤメント資金。リタイヤするまでは毎月、毎年貯めていくことに注力してきましたが、いったんリタイヤしたら今度は使うフェーズに入ります。この変化は案外ドラスティックで、だんだんと貯めるフェーズからだんだんと使うフェーズに変わるわけではなく、多くの人の場合、退職すると同時に180度お金の動きの向きが変わります。貯めていた時は資金がだんだん増えていくのを見ていたのに、使うフェーズに入るとだんだん資金が減っていくことになります。そのことだけでも心理的に心細く、場合によっては罪悪感さえ感じてしまう人もいます。加えて、使いすぎれば寿命までリタイヤメント資金がもたないという危険性もあります。さらに、自分ではどうにもコントロールできない市場(株式市場動向や利子の変化)からくる影響にもさらされるわけす。「いくらをどう引き出すか」は大きな課題であり、できれば誰かにマネージしてもらい、月々(あるいはその他定期的に)一定額を自動的に受け取れるようにしたいと思うのも自然なことです。それをしてくれるファンドとしてつくられたのがManaged Payout Fundです。

Managed Payout Fundのしくみ

たとえばTarget Date Fundで投資をしてきたとしましょう。リタイヤメント希望年に向けて、だんだんとリスク低下させて(株式比率を低下させ、債券比率を上げていく)投資がされてきました。どこの会社のTarget Date Fundかにもよりますが、リタイヤメント年には、50%程度が株式に投資されているケースが多く、その後リタイヤ後10年以内で株式比率30%くらいまで下げるのがふつうです。これは投資という意味からは、リスクが下がり自動調整されて便利ですが、ただお金の引き出しという面においては何の対応もありません。お金を引き出したければ、自分でファンドを売って現金化する必要があります。

これに対して、自分で都度現金化しなくとも、定期的にある程度安定した額を受け取れるようにつくられたファンドがManaged Payout Fundです。Managed Payout Fundは、Target Date Fundと似て、いくつかのインデックスファンドを組み合わせたファンド(Fund of fundsと呼ばれる)です。とくに配当金や利子などのIncomeを生むファンドなどの比率を高めつつ、同時に分散投資の概念を踏襲して高分散のインデックスファンドを使って投資を行います。このファンドを持っていると定期的に、Incomeを受け取ることができます。各社のManaged Payout Fundで運営の仕方は異なりますが、毎月ほぼ一定の額を受け取れるもの、マーケットの良し悪しで受け取る額がある程度異なるもの、配当や利子だけに頼るもの、配当や利子で足りない場合は元金も合わせて引き出すもの、元本はなるべく温存するもの、一定期間後には元本がゼロになるように現金化していくもの(それだけ受取額は多い)など、いろいろです。

アニュイティとの違い

毎月一定のお金を受け取ることができるしくみにはアニュイティがあります。アニュイティにもいろいろな種類がありますが、たとえば貯めてきた資金を将来の月々の一定収入の流れに変えるためには、Immediate fixed income annuityが使われます。まとまった金額を支払い、アニュイティ契約をし、翌月から月々の年金を受け取り、生きている間一生涯同額を受け取り続けることができます。受取額はその時の金利、その人の年齢など様々な条件によりますが、たとえば、今(2020年7月)67歳の人が$200,000をアニュイティに入れれば、今後生涯月々$1,031を受け取り続けることができます(TIAAアニュイティ見積もりツール利用)。アニュイティは長生きリスクへの保険とも言えます。いくら長生きしても、月々の受取額は変わることがなく一生続きます。ただ、反対に早死にした場合は、やはり支払いはそこまで(商品によっては、この問題に対応するものもありますが、その分受取額が減ったりします)です。また、いったん入れた$200,000なりの元手は、アニュイティ受け取り開始後、気が変わったので返してもらうということはできません。

これに対してManaged Payout Fundにたとえば、$200,000を入れたとしても、そのお金は自分のものであり続けるので、「今年は少し贅沢に旅行をしたいからまとまったお金を引き出したい・・・」というケースにも対応することができます。また、アニュイティは基本的に保険会社との個別契約であり、もしもその保険会社が将来的に財政破綻した場合、最悪ケースでは未支払いの受取額を失うことになりますが、Managed Payout Fundは、あくまで個人の所有(金融機関にファンドの保管を委ねているだけ)ですので、金融機関の財政破綻には直接的な影響を受けません。このような利点の一方で、利用の仕方を間違えば早期に資金枯渇する可能性はありますし、また月々受け取る額はアニュイティのように一定保証ではありません。市場状況のよいときには受取額が増えますが、市場が悪化すると受取額は減ります。

便利そうだけど利用は少ない

こう見てくると、Managed Payout Fundはなかなか利用価値がありそうにも思うのですが、ところが実際はあまり使われていないというのが実情です。

Vanguard社は、月々の受取額のレベルが違う3つのManaged Payout Fundを運営していましたが、2014年にこの3ファンドをひとつにまとめ、Vanguard Managed Allocation Fund(VPGDX)というファンドとしました。月々の受け取り額を一定に保つ代わりに、年間の受け取り目標を残高の4%とした上で、その4%を月々の受け取りという形で受け取る機能は残しました。それでも顧客の反応は思わしくなく、資産残高も増えず、また月々の受け取りという本来のManaged Payoutの目的のためにこのファンドを使う人も増えなかったようです。2020年になって、ファンドマネージャーの変更と投資指針の見直しを発表しました。また、月々の受け取り機能は完全になくなりました。月々の受け取り機能がなくなった今、このファンドは、配当金や利子を生むものを中心にした株式、債券に加え、コモディティや不動産などの代替媒体に幅広く(少し特殊な選び方で)投資するアクティブファンド(ファンド費用は0.30%)という位置づけになりました。投資している人も配当金や利子などが目当てというよりは、そのようなタイプのアクティブ投資を好む投資家が多いようです。ある意味、Vanguardは、Managed Payoutが難しいことを認め、敗北を宣言したということになります。

Fidelityは、Income Replacement Funds (ファンド手数料0.50-0.70%)を提供しています。これは、ターゲットデイトファンドのPayout版ともいえ、たとえば2042年というターゲット年を決めると、その年までの間、利回りとともに元金を計画的に崩しながら月々の一定額を確保する(2042年には元金を崩し終わる)という、ある意味画期的なアイデアのものです。資金枯渇せず、でも貯めたお金はきちんと使い切って死ぬ・・とでもいいましょうか、それを実現するファンドのはずでした。ただ、年号が最高で2042年までしか見当たらないので、こちらも運営しあぐねているのかもしれません。

Charles Schwabも Monthly Income Funds (0.47 – 0.66%)を提供しています。3レベルの月額受け取りレベルを設定し、市場の状況によって受け取れる額に範囲を持たせています。受取額レベルでも投資株式パーセンテージでも真ん中レベルのEnhanced Payoutモデルだと、高利回り年には残高の4-7%の受け取り、低利回り年には残高の1-4%の受け取りとしています。市場の状況で受け取りの額にかなりの幅が出る可能性があります。3つのファンドを合わせて投資資産高は$200ミリオンくらいにしかなりません。

資金枯渇のない安定した引き出し額の受け取りは、誰もにとって重要課題であり、もしもうまく機能するならば、0.30%を超える少し高めの手数料を払うことも理に適うかもしれませんが、過去10年間の状況を見ていると、各社ともManaged Payout Fundは運営しあぐねているという状況で、このタイプのファンドは先細りのように感じます。モーニングスターのカテゴリー分けでも、このタイプのファンドの資産トータルはわずか$6ビリオン。Target Date Fundは$2.3トリリオン(2019年末)ですから、比べると雲泥の差です。

そうするとどうすればいい?

お任せで投資運用しつつ受け取りを確保してくれるシンプルな解決法、つまりTarget Date Fundの引き出しバージョンは今のところないということになります。よって、老後の毎月の生活資金の確保に関しては、月々絶対必要な固定費をきちんと確認し、ソーシャルセキュリティで賄えない部分については、必要に応じアニュイティでの固定収入確保を考えるのがまずは第一ステップ。そして、ある程度融通のきく変動費部分については、個人個人で計画的な引き出しルールをつくり、それに従って自分で引き出していくというのが今のところのベスト策かと思います。そのうち、Managed Payout Fundのようなファンド形式ではなく、もしかしたら個人的な情報を入力していって、その時の市場の状況を鑑みたうえで、それぞれに合った引き出し額を都度提示してくれるAPPみたいなものができるのではないかと期待しています。

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6 comments

  1. 私もリタイア後の運用について、勉強を始めました。色々な方法論はあるようですが、これという王道がないように思われます。老後数十年の間、世の中や自分がどうなるか不確定要素が多すぎるのも問題ですね。老後の運用に比べれば、貯めるフェーズの方が王道も確立していてずっと簡単ですね。これからかなり勉強して自分に合った方法論を見つけていくしかなさそうです。貯めるフェーズに比べて、使うフェーズの情報量も少ないです。今後もこのような情報を発信して頂けると助かります。

    1. 私も本当にそう思います。使うフェーズはまだまだこれから発展するエリアなのでしょうね。考えてみれば貯めるフェーズの王道が確立するのにもかなり時間がかかったことなのでしょう。。情報交換しながら一緒に進んでまいりましょう!

  2. 老後の生活費でソーシャルセキュリティでカバーできない部分はAnnuityの保険を購入することが第一ステップっていうことですね。生涯一定額受取の保証という面で安全性がありますが、長生きしなかったり解約できないという不便があるので購入額を考えた方が良いですね。またlong term careも高いので今後考えさせられます。AnnuityとLong term careは保険屋さんにお世話になりそうですね。ありがとうございました。

    1. そうですね、アニュイティの購入も慎重に考えないといけませんね。今後このエリア研究が進むことを期待しています。

  3. いつもいろんな情報をありがとうございます。
    アニュイティは死亡したら全額無くなってしまう???のでしょうか。となると、すごく損ではないかと思っています。長生きして生き延びたら、毎月定額が支払われるのはよいと思うのですが。
    それと、FDICがカバーするアニュイティもあるとか?となると、保険会社がダメになっても250,000は保証される?のかな。
    なんかあまり詳しく調べてないのであまりよくわかりませんが、老後資金をどうしたらうまく使えるのか、、、まだ10年は先、いや、トランプのせいでソーシャルセキュリティがなくなったら20年は先、、、になりますが、老後は難しいですね。。。

    1. ご本人が死亡したら全く無くなってしまうものもあれば、配偶者なりに引き継げるもの、死亡しても10年間など期間限定で必ずもらえるものなどいろいろあります。もちろんその条件によって、受け取れる額も変わります(ご本人が死亡したら全くなくなってしまうものが、いちばん額的には大きいと思います)。FDICにカバーされるアニュイティというのは聞いたことがないので、よく知りません。ふつうはカバーされません。そういう意味ではソーシャルセキュリティをなるべくたくさんもらえるように長くたくさん働くというのは、将来減額などの可能性があり得るものの、一番固いアニュイティ確保ともいえるかもしれませんね。

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