以前、リタイヤしたあとのアメリカと日本での必要資金を比較したことがありました。そこそこの生活で最低限必要となるベースライインの生活費は、日本では23万円に比べアメリカでは$4,000ほどというような比較でした。結果的に、退職のために貯めておかなければならない額にも差が出るわけで、日本なら平均的なサラリーマンの場合、年金と退職金で見込める額にプラスして数千万円を貯めておけばよいのではないかという計算でした。これに比べ、アメリカでは「平均的なサラリーマン」像がないので平均ではものは語れませんが、401(k)やIRAなどのリタイヤメント口座を利用して少なくとも$1ミリオンは貯めておきたいとする意見も多数です。そしてこの差を生む二大要素は医療費と固定資産税ではないかという推測もしました。
今日はそのうちのひとつ、医療費のほうに焦点を当ててみましょう。老後でなくともアメリカの医療費は頭がいたいところですが、老後はなおさら頭がいたくなります。歳をとるにつれ病気になったりケガをしたりする確率が増えるうえ、雇用主の提供する質のよい健康保険が当てにできなくなることもありますし、またリタイヤ後は限られた資産をたいせつに長もちさせながら使うことが必要なので、医療費をきちんとマネージするということがより重要になるのです。
医療費だけで$240,000!
Fidelityは、過去十年間収集してきたリタイヤメント後の健康維持/医療費のデータに基づき、2013年にリタイヤする65歳の夫婦を想定したとき、老後の医療費として$240,000が必要になると試算しました。この$240,000という数字には、メディケアの保険料やディダクタブル、Co-Pay、その他の医療や薬の自己負担額などを含んでいます。長期介護費用や眼鏡、補聴器などは含んでいません。
また、Employee Benefit Research Institute(EBRI)の2011年のリサーチでも、処方箋薬の必要度が中程度の65歳の夫婦の場合で、$231,000の蓄えがあればリタイヤメント人生で必要となる医療費が問題なくカバーできる確率が75%、$287,000の蓄えがあれば90%であると発表されています。EBRIの調査によると、メディケアがカバーする医療費は、老後に発生する医療費のうちの60%ほどであるとのこと。残りの40%はメディケアに頼らず自分で工面することになるわけです。
このパーセンテージというものも曲者で、そもそもの医療費が少なければ40%も工面が簡単な額になりますが、そもそもの医療費が膨大であればその40%はとてつもない額になります。Agency for Healthcare Research and Qualityという機関の2009年の調べでは、入院した場合の一日の費用は平均$2,000、トータルの平均は$9,600とのことでした。入院費は州によってもかなり差があります。こちらの表を見てください。一番安いのはワイオミングで一日あたり$1,100ほど、全米平均は$1,960、一番高いのはオレゴンで$3,000弱という結果です。しかもこれは入院に関わるHospitalコストだけですから、そこに手術や検査の費用が加われば、一度の入院で数万ドルのコストというケースは決しても珍しくありません。
日本は計算間違いかと思うほど安い..
一方日本ではどうかというと。。。ご存知のように日本での医療費は、年齢や所得により1割、2割、3割負担となります。入院の場合どのくらいコストがかかるかについては、こちらの表を参考にしてみましょう。
傷病ごとにコストが細かく示されていますが、3割負担の一日あたりの費用は3,500円から27,000円くらいまでの範囲があります。一番多いのは10,000円以下です。3割負担でこの値段なので、もともとの入院費は一日当たり、12,000円から90,000円です。多くの傷病で30,000以下です。それって、ドルにして$120から$900ですよね??ゼロを数え間違えたかと思ってしまうけれど、そうですよね?アメリカの$2,000に比べると完全にケタ違いです。しかも繰り返しになりますが、日本の場合の「入院費」は手術、検査、ケアのトータル費用ですが、アメリカの「入院費」はHospital費用だけです。手術、検査は別途の請求になります。
このうえ、日本では高額医療費へのサポート制度があります。3割負担で支払った医療費が「高額」(日本の「高額」はアメリカの足元にも及びませんけども)だった場合、自己負担額を一定水準に抑えてくれる制度です。所得によっても自己負担額は変化しますが、たとえば、1ヶ月に200,000円の支払いが必要だった場合、低所得者であれば164,600円の払い戻しを受けることができ、一般の人は115,903円の払い戻し、上位所得者であれば、48,333円の払い戻しを受けられます。1ヶ月に1,000,000円の医療費の支払いが必要だった場合、低所得者であれば964,600円の払い戻しを受けることができ、一般の人は889,237円の払い戻し、上位所得者であれば、821,667円の払い戻しを受けられます(試算表はこちら)。結果的にかなり医療費がかかったとしても、1ヶ月の自己負担は数万から数十万円レベルに抑えられるということです。
高額医療の払い戻しを受けるのには、いったん自分で医療費を支払うことが必要で、払い戻しまで数ヶ月の時間がかかります。医療費の支払いに当てる手持ち資金が十分出ない場合には、高額療養費支給見込額の8割相当額を無利子で貸付する「高額医療費貸付制度」もあるそうで、なんと手厚いしくみでしょう。アメリカに比べたら天国です。
ただし日本では、この(高額医療費制度の対象とある)3割負担のほかにも自己負担額があります。その最たるものは悪名高き差額ベット代ですが、厚生労働省調べによると30%の病院で差額ベット代は2,000円以下、40%弱の病院で2,000円以上5,000円以下、10,000円以上の場合は10%強という結果でした。高くても一日$100で済むなら、アメリカの入院に比べればまだ誤差の範囲のような気もします。ただし、日本の入院はアメリカより長いですから、長期にわたると費用もかさみますが。それでも、1ヶ月30日で$3,000。アメリカの一日の「入院費」に毛が生えたようなものです。
リタイヤメント後の生活を考えるにあたってこの差はどうやっても無視できないものです。この差が、アメリカでは医療費だけのために$230,000~$300,000貯めておきましょうというアドバイスを生むことになっています。アメリカでリタイヤメントを考える場合は、この現実を受け止める覚悟が必要なのです。
アメリカの医療費の高さは異常としかいいようがありません。高いのであればそれなりの「質のよさ」を期待したいところですが、そうともいえない現実があるように思います。どっちがいいのかは、人それぞれなのかもしれないですが、「アメリカの医療はここがすばらしい!」と思えることは、数えると10個もないような気がします・・・。
本当に異常だと思います。値段なんてあってないようなものですし。内容や質と値段が完全に乖離してしまっていますね。いったいどうなるのでしょうか。大変な国に暮らしているとつくづく思います。
この件については、今までは漠然とわかっているつもりでしたが、ここまで数字を出されると、さらにショックですね。
こうなると、やはり、リタイヤ後はアメリカ脱出といきたいところですが、問題は連れ合い。日本は大好きなのですが、アメリカ以外の国で行ってもよい国と言ったら、子供の頃からよく遊びに行っていたカナダくらい。私自身、日本では大学卒業後3年ほどしか働いていません。その後、留学してこちらで就職、結婚してしまって数十年。リタイヤ後、アメリカ人の主人を連れて日本で老後を過ごすなんていうことはできるんでしょうかねえ。ご存知でしたら、教えてください。
Hannahさん、なんだってやればできる!…とはいうものの、年を重ねてから言葉のわからない国に行くのはやはりかなりのストレスですよね。国民保険などは、外国人であっても日本に住んでいれば入れるようですから、どうしようもない病気になってしまったりしたら日本移住するという選択肢はあるかもしれませんね(でも日本も財政苦しいので、これからいろいろルールが厳しくなるかもしれませんね~)。自分たちもどうなることやら、あんまり想像がついていません。
日本との比較、こうみるとひどい感じもしますが、日本で暮らしていれば、アメリカよりもこき使われる割に、給料の悪い生活になりますし、株や不動産への投資のチャンスなんかも少ないですし、要するに、それに合わせた医療費なんだろうなと。
私はもう、日米が同等だと思っていません。
アメリカは高すぎるとは思いますが!^^;
確かに給与レベルはアメリカのほうが高い気がしますが、物の値段÷給料の指標をとったとき、どっちが高いかな~。。少なくとも医療費に関しては、アメリカの値段は日本の10倍以上、たとえ給料が倍だったとしても、結果的に指標では5倍(10/2)ってことになって、やっぱり大きな差があるような。。でも、自分で選んでアメリカに住んでいるので、そのあたりは覚悟しないと..と思っています。
>高額医療の払い戻しを受けるのには、いったん自分で医療費を支払うことが必要
そんなことはありません。病院側が説明してくれますが、限度額適用認定証を取ればいんです(経験者は語る^^)http://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3020/r151
また日本は入院が1年内に4ヵ月以上になると限度額が更に半額になるので、ひと月4万円ほど。友達のご主人は急性白血病で亡くなるまで1年半、病院のICUで闘病しましたが、この程度だったと言ってます。
アメリカで$240,000といっても、本当にそれだけ蓄えているのが平均像でしょうか?私の超裕福な友達を除けば、つれあいの家族&友人(65歳以上)はメディケアで1人月額300ドル程度(これでも日本よりはるかに高いけど)。居住地域限定にして安くあげたり、VA(退役軍人)でタダ(低所得者対象だけど彼らは低所得者)
いざ長期介護が必要になれば(義母のように)、介護施設がElder Attorneyを紹介してくれ、その指示で2000ドル以上の預金を全部(といっても数万ドル)息子(つれあいの弟)名義にし、メディケアも介護費用も全部無料でいけてます(ま、生活保護層ですね)。資産を移すのは5年のルックバックがあるけど見つからなければOKと指示された(^0^) つまりほとんど見つからない?
結局こうして政府は低~中所得者層を全て税金で面倒見ているわけです。私はこういう人がかなり多いんじゃないかと思ってます。だから損するのは、2000ドル以上全部を子供名義にするのが惜しいほどの中~高所得者では?この層は保険も安心のため高いものを買い、要介護になっても名義を移さず、spend downさせられてしまう。アメリカでは中途半端に貯めてもしょうがない気がします。
cachacaさん、情報ありがとうございます。医療費のために$240,000は最近言われだした額で、現時点でそれを実現している人は少ないでしょうね。だいたいリタイヤメントの生活費にも十分貯めている人は少ない国ですから。。まったく平均像ではないでしょう。病気をしなければ、そこそこやっていけるというのも事実でしょう。でも老後は病気しますからね~。。このアメリカ医療の実態を見ると、やっぱり将来的には$240,000とは言わないまでも、それなりの覚悟が必要だと思います。医療費破産が日常茶飯事の国ですからね。。
cachacaさん情報、ありがたいです。
私は具体的には知りませんが、周りの人を見ている限り、中間層でもどうにかなっています。
この前、夫の祖母が90歳で亡くなりましたが、何度も心臓の手術を受け、きれいな老人ホームに入り、家も残しています。ごく普通の中間層。しかもあまり財政や福祉が良くないとされるロードアイランド州でもです。ただ、この時代の人は、夫が戦争に行っている人ばかりだから、条件が違う可能性はありですね。
うちの場合は、障がい児の問題ですが、こういう子を抱えると破産するってさんざん言われてきました。でも、現実は、低所得層しか対応していないのかと思っていたサポートが、中間層でもそれなりに受けられ、平均すると、月数百ドルの負担です。日本ではこの辺のサポートは皆無です。
働く時間が無くなるのと、この数百ドルも結構辛いのと、あと、お金をかけようと思えばどこまでもかけられてしまうので、そこにハマってしまう人がいるのとで、「破産」って話になるんだと思います。
証券会社やCNNやフォーブスでは、老後に資産数ミリオンくらいは持っていないと、生きていけないみたいなことになっていますが、本当にそうなのか、知りたいところです。
そうですか、障がい児へのサポートは日本ではほとんど受けられないのですね。。確かにアメリカはシステムがありますね。「老後の数ミリオン」はよく言われますが、もしかしたらウォール街の陰謀かもしれませんね(投資への)。でも、確かに今現在老後を送っている人と、私たちが送る老後とを比べると、ずいぶんと条件が違ってくるように思います(アメリカでも日本でもかな。。)
老後は日本へ帰りたい・・と思ってはいても、実際、日本の将来もかなり暗雲がたちこめていますね・・日本の医療制度も年金制度も、真綿で首をしめるような感じで、今の若者たちを苦しめていきますし・・。
本当にそのとおりですね。若者には希望をもって生きて行ってほしいのですが。。