来年リタイヤするので401(k)の残高を使ってモーゲージを返済してしまいたいのですが・・というご質問を受けることがあります。そうしたほうがいいか、そうしないほうがいいかは、細かい状況をお聞きして計算をしてみないとはっきりしないことですが、ただ多くの場合はしないほうがいい方に軍配が上がります。老後は負債なしで生活したいというのは誰もの願いでしょう。自分の家がローンゼロ、100%自分のものになるという心理的な安堵感もあります。年金を使ってまでもローン返済はしたくないというのも分かります。借金というものに対してそもそもネガティブなイメージのある日本人にとっては、リタイヤメントを機にモーゲージを一度に返済してしまいたいと考えるのは自然のことにように思えます。今日はこの点について考えて見ます。
借金のない老後はなぜいいか
ただ借金フリーがうれしいという心理的なものはさておき、借金がない老後はなぜよいのでしょう。
まずは、モーゲージがないと月々の固定費用が減るという利点があります。多くの場合、老後の生活費の中にしめる割合では、ローン返済、固定資産税、持ち家保険などを含む住居費がもっとも大きなものです。モーゲージがない人の住居費は、モーゲージをまだ払っている人のそれの三分の一以下であり、また家を持たずレントしている人のそれの二分の一以下であるというデータがあります。住居費は毎月毎月ほぼ固定でかかるものが大部分で、ちょっと今月は節約して費用を減らそうということはなかなかできません。老後の生活費の大部分を、固定でかかる住居費でもっていかれるのはなかなか大変なことです。やりくりという意味では、固定費の比率が低く変動費が多いほうがやりやすいもの。今月は旅行に行くので他の費用を多少抑えたいとか、株式市場が低迷しているので401(k)などのリタイヤメント口座からの引き出しを少し見合わせたいなどというニーズがあった場合、モーゲージがないほうがやりくりがしやすいというのは大きな利点です。
また、モーゲージがないということは、家の市場価値の100%がエクイティであるということで、なんとなればリバースモーゲージなどでエクイティを元にお金を借りることができるというのも大きな安心感です。モーゲージがあってもリバースモーゲージは組めることもありますが、十分なエクイティがたまっていることが必要で、もちろん100%エクイティに越したことはありません。
では、モーゲージを401(k)で返済しないほうがいい理由は何でしょうか。
401(k)マネーにかかる所得税
401(k)はTraditional IRAと同様、所得税差し引き前で積み立てをします。つまり、積み立てをする間は所得税がかかりません。その後、利回りは税遅延で運用されます。つまり、投資をしている間利回りには所得税がかかりません。その反面、引き出してお金を使う段になると、引き出した全額に所得税がかかります。かかる所得税の税率は、その時の所得によります。通常は積み立てをしている勤労期間の所得より、、リタイヤした後の所得のほうが少ないことがふつうですので、大きく貯めて小さく税を払うということが可能になります。
しかしながらモーゲージ返済のようにまとまったお金を引き出すと、その全部に所得税がかかるので、引き出す額によっては税が重くのしかかることになります。特にリタイヤした直後にモーゲージ返済を行ったため、勤労所得と401(k)引き出しが同じ年にまとまると特に大きな税負担になりかねません。たとえば、年収$180,000の方がある年の10月いっぱいでリタイヤし、11月に401(k)から$100,000を引き出しをしてモーゲージ返済を行ったとしましょう。
10月末までの所得は、$180,000x10ヶ月/12ヶ月で$150,000。これに加え、401(k)から引き出した$100,000も所得としてカウントされますので、その年の所得は$250,000という額になります。通常の年収$180,000であれば最高税率(タックスブラケット)が28%であるところ、所得が増え$250,000になると最高税率は33%に上がります(Married Filing Jointlyを想定)。所得自体が増えて$250,000にまるまる所得税がかかるうえ(実際にはここからある程度の控除がありますが)、最高税率が5%上がったためさらに税金が増えるというダブルパンチになります。
もしもどうしても401(k)マネーでモーゲージ返済が必要というのであれば、完全にリタイヤをした後所得が下がってから、タイミングを計って返済するほうが賢明です。たとえば上の例で、リタイヤした翌年は、ソーシャルセキュリティや401(k)をはじめとするリタイヤメント口座からの「生活費のため」の引き出しの合計が$70,000だとすると、モーゲージ返済のための引き出しの$100,000と合わせて$170,000の所得になり、最高税率は28%のままです。所得税がかかることは免れえませんが、少なくとも最高税率を抑えることはタイミングを図ることで可能な場合も多いということです。しかしこれはどうしてもモーゲージ返済が必要な場合であって、一般的には401(k)での返済はお勧めしないことには変わりがありません。
リタイヤメント資金への穴
モーゲージを401(k)で返済しないほうがいい理由のもうひとつは、それによって空くリタイヤメント資金への穴です。上の例のように$100,000を引き出して利用する場合、税率によりますが$30,000近くの所得税を納めることになり、$30,000を他から捻出するなら別ですが、そうでないなら結局401(k)から$130,000を引き出すことになります。
リタイヤメント資金を十二分に貯めているので$130,000くらい減ってもまったく問題はないというのであれば別ですが、この$130,000があるかないかでリタイヤメント資金が底を尽きず最後までもつかどうかの瀬戸際というケースも多いでしょう。現在の5%の運用利回りで持ち続けた場合、これは年々$6,500の利益を生みます。6%の運用利回りならば、$7,800です。これらの運用利益は税遅延で投資元本に加算され、そのまま手付かずで持ち続ければ10年後には$200,000超まで増えます。
一方、モーゲージ利子が4%とするなら、$130,000にかかる年間の利子は$5,200(この利子は、年々返済が進むに連れて、額が小さくなっていきますが)です。つまり、401(k)マネーでモーゲージ返済しないと一年で$5,200ほどの利子コストがかかるということです。しかしながら、モーゲージ利子はタックスリターンでItemized Deductionを選べば税控除の対象なりますので、その人の最高税率にもよりますが税控除の効果を考え合わせると差し引き$3,900前後の持ち出し費用です。年間$3,900前後の費用を削減するがために、5%とか6%の利回りを見過ごすのはちょっともったいないような気がします。
もちろんこれは一般的な例ですので、実際にはそれぞれのケースでシュミレーション計算をして決めることになります。モーゲージ残高、利子、最高税率、401(k)の予想される利回り、手数料、リタイヤメント資産の大きさ、寿命、月々の生活費やその他の個々人の状況を総合的に考え合わせる必要があります。
それでもやっぱり、ないほうがいいモーゲージ
とはいえ、やはりできることならリタイヤメント後はモーゲージフリーであればそれに越したことはありませんね。通常の返済だけではリタイヤメント時までにモーゲージ返済が終わらない場合は、通常の返済額に加えて、月々の余剰金を使って繰り越しで元本返済に充てるのがよいでしょう。ただし、ここでもリタイヤメント準備はおろそかにしないこと。401(k)やIRAに十分積み立てた上で、それでも余剰金があればモーゲージ返済に充てるのがよいでしょう。タックスリターンで戻ってきたリファンドや一時ボーナスなどを元本返済に充てるのもよいでしょう。こうすることで、返済期間自体を短くすることもできるうえ、ローン期間での支払う利子の総合額も減らすことができます。
あるいは、子どもが巣立ったのでもうそれほど大きい家はいらない、学校区にこだわらず他の場所に移ってもいいという状況であれば、ダウンサイズすることでモーゲージを解消することもできます。その時点で溜まっているエクイティ分だけの家に買い換えることで、モーゲージをなくすることが可能です。月々のローン返済額がなくなるだけでなく、固定資産税や持ち家保険も安くなりますし、維持費も削減できる可能性もあります。
繰り返しになりますが、これらのことはすべて個々のケースの状況を総合的に見て、最適な策を見出していくのがベストです。
始めて書きます。ホリデーシーズンからバイトを始めて会社から401kを紹介されました。もし、加入してリタイアしたら税金が多くかかるのなら、毎月その分銀行に貯金するのと変わらないのかなと思いました。でも、私みたいにバイトだと収入が低いから401kのほうがいいのでしょうか?
バイトでも401Kを提供してくれるとは親切な会社ですね。もし短期でしか働かないのであれば、将来の管理を考えて貯金のほうがよいかもしれません。長期的に働いて、そのうち正社員も狙おう・・というのなら、401kを開いて長期的に貯めて行くのがよいと思います。