アメリカ大学の学費 - キケンな思い込み

アメリカの大学の学費(授業料と寮費・食費を合わせたもの。1年あたり)の平均値は、州立大学で$16,000強、私立大学では$37,000強だそうです(2010調べ)。学費は2000年以降、平均家庭の収入の伸びおよび物価指数の伸びを、はるかに超える勢いで増加し続けています。少しでも自己負担を少なくしたいのは誰もの願いですが、それを妨げるのがキケンな思い込み。「私立は公立より高い」「州外の大学へ行くならout-of-state授業料を払わねばならない」「収入が多すぎるからFAFSAは申請しても仕方がない」と思い込んでいませんか。

思い込みその1.私立は公立より高い。

これは多くの人が信じていること。わたしもそうでした。「私立大学なんて高くてとても行かせられない」と何度も言葉にしたものです。でも、私立の中にはAidが充実したところも多く、場合によっては私立のほうが州立よりも安いということはよくあるようです。CollegeNavigator で、自己負担費用(Net Priceと呼ばれる。学費、寮や食費、教科書などの雑費の合計額から、Aidで受けられる各種奨学金を差し引いたもの。2090-2010のデータ)を調べてみました。たとえば、あなたの収入が$75,001 – $110,000の場合、Harvard Universityだとあなたの自己負担分は$9,023、州立大学のUniversity of Massachusetts-Bostonだとあなたの自己負担分は$15,640という結果でした。同様に、Stanford Universityだと$11,788、州立のUniversity of California-Berkeleyだと$22,867という結果です。私立は高いから最初から除外して受験したりすると、かえって高くつくことになります。ちなみに、合格した学生のFinancial needsはすべて満たす(自己負担できない分は大学側がAidでカバーする)と公言している私立大学のリストはこちら

これに加えて、卒業までに要する年数も考慮に入れなければなりません。たとえ1年あたりの費用が少なくても、卒業に5年かかれば1年あたりの費用はかえって多いということにもなりかねないからです。ちょっと古くて残念ですが2002年のデータで、4年間で卒業する学生の%を見てみますと、州立大学だと29.9%、私立だと51%という結果です。私立のほうが充実したカウンセリング体制がある、州立は予算削減のあおりでとりたい/とらねばならないクラスが思うようにとれないなど、いろいろ理由はあるでしょうが、これは注意したいポイントですね。具体的な大学ごとの卒業率のデータは前述のCollegeNavigator で調べることができます。

 

思い込みその2.州外の州立大学に行くには、out-of-stateの授業料を払わねばならない

これも多くの人がそう信じていることではないでしょうか。ところが本当のところは、州外の州立大学にいく場合も、あわよけばin-stateの授業料、悪くても通常のout-of-stateの授業料よりはずっと減額された料金で通えることがあるのです。

Reciprocity(相互協定..とでも訳しましょうか)という制度があって、その協定に参加する州の中の大学であれば、たとえ州外の大学に行く場合も授業料が減額されるのです。残念ながら、ニューヨーク、ミュージャージー、ペンシルバニアの3州とワシントンDCにお住まいの方には、このような協定がありません。それ以外の地域では4つの協定が存在し、どの州もその地域の協定に参加しています。その協定に参加する大学間で取り決めがあり、学生が協定内の州外の大学に行く場合には授業料の減額を受けることができます。

具体的な授業料の減額は、それぞれの協定で取り決められるところで、完全にin-stateの授業料まで減額される場合もあれば、「in-stateの50%増し(out-of-stateよりはずっと安い)」などのような形の取り決めがある場合もあります。その他減額を受けるためには、専攻の縛りがあったり成績の基準があるなど、条件が設定されている場合もあります。いずれにせよ、詳しくはそれぞれの協定について自ら調べ申請することが必要ですが、積極的に動くことで大きなコスト削減となる可能性が大いにあります。

4つの協定とは:

ニューイングランド・エリア: New England Regional Student Program http://www.nebhe.org/programs-overview/rsp-tuition-break/overview/
参加州: Connecticut, Maine, Massachusetts, New Hampshire, Rhode Island, Vermont
減額後の授業料のめやす: 最高でin-state授業料の1.75倍 平均で$7000/年の減額

南部エリア: Academic Common Market  http://www.sreb.org/page/1304/academic_common_market.html
参加州: Alabama, Arkansas, Delaware, Georgia, Kentucky, Louisiana, Maryland, Mississippi, Oklahoma, South Carolina, Tennessee, Virginia, West Virginia
減額後の授業料のめやす: in-state 授業料

西部エリア: Western Undergraduate Exchange  http://wiche.edu/wue
参加州: Alaska, Arizona, California, Colorado, Hawaii, Idaho, Montana, Nevada, New Mexico, North Dakota, Oregon, South Dakota, Utah, Washington, Wyoming
減額後の授業料のめやす: 最高でin-state授業料の1.5倍 平均で$7500/年の減額

中西部エリア: Midwest Student Exchange Program  http://www.mhec.org/MidwestStudentExchangeProgram
参加州: Illinois, Indiana, Kansas, Michigan, Minnesota, Missouri, Nebraska, North Dakota, Wisconsin
減額後の授業料のめやす: 最高でin-state授業料の1.5倍 平均で$4274/年の減額。私立大学も参加しており、協定内の州からの学生に対し10%の減額

 

思い込みその3.収入が十分低くないので、FAFSAのアプリケーションは提出しても仕方がない。

FAFSA(Free Application for Federal Student Aid)は、名前のとおりFederal Student Aidを受けるためのアプリケーションです。お察しのとおり、ある程度収入があるとFederal Student Aidはなかなか受けられないものですので、多くの人がFAFSAを申請しないという現状があります。しかしながら、ある専門家によれば、「Aidを受けられなかった学生の半数は、単にFAFSAを申請しなかったからだ」そうです。多くの家族が、自分たちの収入・財産では何のAidも受けられないと、間違った考えを持っているわけです。

Aidの受給有無やAidの額は、EFC(Expected Family Contribution)をもとに決定されます。EFCは、その家族の財力で学費のうちどのくらいを負担することができるかの目安で、FAFSAの決める特別な計算式によって求められます。あなたに安定した比較的高い収入がありEFCが$30,000という結果だった場合、年間費用のうち$30,000は自分たちで負担することを求められるということを意味します。学費が年間$40,000だった場合、Aidの対象となるのは差額の$10,000という計算になります。しかしながら、もしあなたに、同時に大学に在学するふたりの子どもがいる場合(たとえば、大学4年生と大学1年生などのように)、子ども一人当たりのEFCは$30,000÷2人=$15,000となり、年間費用$40,000-$15,000=$25,000がAidの対象となります。このように、収入が高くてもEFCの計算式のしくみがゆえに、Aidの受給資格が得られる場合があるわけです。

離婚している両親の場合、たとえ両親の一人がかなりの高収入であっても、FAFSAの申請では学生が一緒に住んでいる両親のほうの収入と財産が計算上考慮の対象となりますので、FAFSAを申請してみる価値があります。

また、FAFSAはFederal Student Aidのためにだけに申請するものだと考える人が多いのですが、実は他の用途にも使われています。たとえば、State Grant(州からの奨学金)。Federal Aidより、敷居が低く受けやすいものですが、FAFSAを申請していないと受給できないものが多いそうです。それから、Work-study program(学生がパートタイムでキャンパスで働くことにより、学資の補足とするプログラム)をやってみたいと思っても、こちらもFAFSAの申請をしていないと参加する機会は与えられません。加えて、最終手段としてスチューデント・ローンを探さなければならない場合、Federal student loan(政府ローンであり、第三者金融機関からのローンよりも金利やその他条件が優遇される)を受けたいと思っても、FAFSAを申請していないと考慮されません。

とにかくFAFSAのアプリケーションは提出すること!これが得策のようです。

14 comments

  1. 昨日の夜、主人と長男と長男の大学のことを話したところでした。とってもタイムリー。時間はかかるけれど、いろんな情報を集めて考えて見ることが大切だということですね。

    1. コメント、ありがとうございます。お互い、子どもをもつ親として、悩みつつもできる限りのことをしていきましょう:)

  2. 現在、日本の高校に通っている高校三年生です。
    2年後からアメリカ大学への進学を考えているのですが、
    日本に在住でも上記に記されているような制度はつかえるのでしょうか ?
    またcommunity collegeからの編入の場合は、どうなるのでしょうか?
    突然の質問失礼いたしました。

    1. Saoriさん、Reciprocityについては州の居住者である必要があります。ベースとする州が決まってはじめてReciproctyを使えます。FAFSAは永住者(GC保持者)であればアメリカ人と同様に利用できます。私立大学のスカラシップは大学ごとにまちまちで、大学によってはインターナショナル学生専用のスカラシップを用意しているところもあるかもしれませんが詳しい情報は個々に調べてみてください。community collegeで安く2年分単位をとって、その後大きな大学に編入するのは賢い節約方法ですね。その間に州の居住者としての資格もとれれば、なおさらその後のコスト削減に役立つかもしれません。夢と志を持って進めば必ず道は開けると思いますから、どうぞがんばってください。

  3. 初めまして、日本在住で日本国籍しか無い者で、community collegeからの編入の場合は居住者である必要があるというのは、居住者=U.S. citizen でしょうか? それとも居住者に日本国籍の者でもなれる方法があるのでしょうか?

    1. 日本国籍の方でも居住者になれます。居住者=US Citizenではありません。授業料の面での「居住者」というのは、各州がその州の州立大学で、居住者であればState Tuition、居住者でなければOut-of-state Tuitionをチャージするしくみの中での、その基準としての「居住者」です。州によって居住者と認められるための基準が違うと思います。何年州内に住んだか、これからどのくらい住む予定かなど、いろいろな基準があるようです。State名とTuitionとResidencyなどのキーワードでgoogle searchして見ると情報が出てくると思います。

  4. この秋から11年生になる息子を持つ母です。大学進学を考えていますが、アメリカの仕組み等々分からないことばかりで頭がパンクしそうです(笑)。息子は11年生になりますが、FAFSAを申し込むことが出来るのでしょうか。初歩的なことかもしれませんが私自身分からないのでお教えいただけるとありがたいです。

    1. アメリカ市民かグリーンカード保持者なら申し込めます。このブログにはファイナンシャルエイド関係の記事がたくさん載っていますので読んでみてください。こちらからはじめるとよいと思います。

  5. 現在11年生の娘がアメリカの大学への進学を希望しており、大変参考になります。FAFSAは子供がアメリカ市民で親がE-ビザ保持者でも申請に問題ないですか? また子供が2人いるのですがそのうち1人が日本の大学に進学しております。その場合も同様に控除の対象になるのでしょうか?

    1. 親のビザステータスは関係ありませんので、大丈夫です。FAFSAのアメリカ連邦政府、州などのファイナンシャルエイドなので、日本の大学は対象外です。

      1. 早速の回答ありがとうございます。再度確認させて頂きたいのですが、FAFSAを申請する時に、
        子供2人のうち上の1人は日本の大学に行っている場合(もちろんファイナンシャルエイドは受けていません)大学に通っている子供の数は2人とカウントされるのですか? それともアメリカの大学に通う子供の数ですか?

        1. これは多くの人に関係する質問かもしれませんね。ご質問ありがとうございます。「カレッジに通っている子ども」の定義は、法律で定められているTitle IV Institutionに相当する学校に通い、DegreeやCertificateやその他のCredentialを取得することを目的にしており、しかも家族がその教育費を負担することになっている子どもです。Title IV Institutionかそうでないかは、こちらのDBで検索できますが、日本の大学は対象外です。よって日本の大学に通うお子さんは「カレッジに通っている子ども」に含められません。ただし、「家族の数」には含められます。

          1. よく分かりました。これから1年かけて色々と勉強しますのでまたよろしくお願いします。

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