アメリカの年金で日本生活と日本の年金でアメリカ生活の光と影

日本でもアメリカでも働いてこられて、両国から年金が期待できる方もいらっしゃるでしょう。老後はアメリカで暮らそうと思っているが、日本からの年金も生活費の一部として考慮する場合、特別な注意点があります。事務処理上の問題ではなく、貨幣価値の問題です。そもそも日本円の年金をドルに変換して使うという時点で為替の問題もありますが、もっと大きな問題は為替によるものではなく、両国のインフレ率の違いとそれに対する年金調整率の違いによるものです。今日は、そのあたりを深く考えてみたいと思います。

 

年金額にはインフレ調整が必須

年金は字のごとく、年々もらう老後の生活費です。65歳でリタイヤし95歳まで生きるとすると、30年という長い期間、固定収入としてこの年金に(全額でなかったとしても)頼りつつ生活していくことになります。健全な経済には適度なインフレ(消費者物価の上昇)があります。これは経済が成長し、生活が豊かになっていく指標でもあります。

物価が少しずつ上がっていくわけですから生活費も上がっていくわけで、それに見合った形で年金額も上がっていくというのがあるべき姿です。そうでないと、同じ年金額をもらっていても、物価がどんどん上がっていけば、去年買えたものが今年は同じ分だけ買えない、つまり購買力の低下が起こります。別の言い方をすれば、同じ額面の年金をもらっていても、その貨幣価値の低下により、もらったお金が実質上目減りしたのと同じということになります。

インフレは国ごとに違います。下が日米のインフレ率をグラプにしたものです(出典:経済のネタ帳)。

日本のインフレ率は常にアメリカよりも低く、ゼロのラインの上を行ったり、下になったりというレベルです。アメリカも一時的にゼロに近くなることもありますが、Federal Reserveが目標とする2%ラインをキープしようとがんばっているため、長期的にはそのあたりを維持しています。

それぞれの国の年金は、それぞれの国で生活することを前提に支給されます。日本の年金は、日本でもらい日本で使うことを前提にしているため、たとえ年金額が10年間同じであっても、インフレがほとんどなく物価がほとんどあがらないのなら大きな問題にはなりません。実際、日本のファイナンシャルプラニングの計算などを見ても、インフレを考慮していない計算が非常に多いです。これはインフレがないのなら、それはそれで問題がないといえます。

しかしながら、インフレがない前提で支給されている日本の年金を、アメリカに持ってきてアメリカで生活する場合は少々困ったことになります。アメリカでのファイナンシャルプラニングにはインフレは必ず考慮されます。現在私の使っているファイナンシャルプラニングのソフトウエアでの、将来的なインフレ率のでデフォルト値は2.25%です。上がっていかない日本の年金を使って、年々2.25%上がっていくアメリカの生活費をカバーすることは、1年後、2年後には大きな問題にならなくとも、10年後、20年後には大きな問題になります。

 

日本とアメリカの年金額調整

2019年のソーシャルセキュリティ年金額は、前年比2.8%上がりました。2020年はさらに1.6%上がります。一方で、2019年の日本の年金額は0.1%上がったにすぎず、これは4年ぶりの増加改定です。

下が、日本の物価変動率(インフレ率)と年金額改定率の表です(出典:All About マネー)。上で書いたように、日本はインフレ率自体がアメリカよりも小さい上に、年金額の改定率はその小さいインフレ率よりもさらに小さい(というかほぼ改定がゼロに近い)ことが分かると思います。

日本では、「マクロ経済スライド」というしくみがあって、これは「社会全体の公的年金制度を支える力(現役世代の人数)の変化」と「平均余命の伸びに伴う給付費の増加」という、マクロでみた給付と負担の変動に応じて、給付水準を自動的に調整するしくみです。現代世代の人数は少子化でどんどん少なくなり、反対に受給する世代はどんどん増えるので、収支のバランスをとるために、たとえインフレで物価が上昇したとしても、その上昇分を全額カバーするほど年金額を増額することはせず、調整額を低いレベルに抑えるというものです。

一方でアメリカでは、前述のように2%レベルをうろうろするインフレ率に追随する形で、ソーシャルセキュリティ年金に調整がほどこされます。下は、アメリカのインフレ率と、ソーシャルセキュリティのCOLA率(Cost-of-living adjustment=生活費のためインフレ調整率)をグラプにしたものです。

 

光と影

この影響で、どんどん増えていくソーシャルセキュリティ年金をもらいながら、生活費がほとんど上がらない日本で老後を暮らすのは楽ちんです。毎年2%ずつ増額されるとすれば、、ソーシャルセキュリティ年金を日本円に交換した10万円は、10年後には12万1,800円、20年後には14万8,500円、30年後には18万1,100円までになり、物価があがらなかったとすれば実質上年金がどんどん増えたことになります。

反対に、なかなか上がらない日本の年金で、物価が着実に上がっていくアメリカで老後を暮らすのは大変です。日本からもらってドルに換金した$1,000の年金は、10年後には$820の価値、20年後には$672の価値、30年後には$552の価値しかありません。

もちろんこれに加えて、為替の変化による影響もあります。円とドルの力関係で、換金して受け取る年金は増えたり減ったりします。増えればラッキーですが、減れば泣き面にハチです。

日本の年金でアメリカでの老後を送る場合は、ある程度このあたりの点を考慮しつつ、不足分があるとすれば他に用意したリタイヤメント資金から補てんできるよう用意をしていくことが肝要です。

4 comments

  1. 毎週役立つ記事ありがとうございます。
    最近、日本で年金手帳を廃止する動きがあるとニュースで目にしました。やはりデジタルで管理するようになるのと思います。今ある手帳を大切に保管していきたいと思います。
    米国のソーシャルセキュリティは4~5年毎?に明細書を発送するようになったと聞きましたが、WEBに登録して毎年確認した方が良いのでしょうか?
    よろしくお願いします。

    1. へえ、そうなんですか。年金手帳なくなっちゃうんですか。。
      ソーシャルセキュリティーも明細を以前は毎年送ってきていたんですけどね。オンラインでのチェックは必要に応じてでいいのではないでしょうか。プラニングするときや見直しのときなど。。

  2. ありがとうございます。まだソーシャルセキュリティの受給年齢に到達するまで15年あるので必要になったら確認したいと思います。

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