20代で働きはじめ、30代で本格的にリタイヤメント資金を貯めはじめ、60代後半でリヤイヤし、その後95歳までリタイヤメント生活を送った場合、30数年の資金蓄積期間があった後、30数年の資金利用期間があることになります。寿命は延び続けており、2012年のアメリカの平均寿命は78.8歳(男性76歳、女性86歳)。ちなみにこの78.8歳という数字は、全米全人種の男女あわせた平均値で、アジア人はアメリカの中でも最も長寿の人種です。たとえばカリフォルニアのアジア人の平均寿命は86.3歳、ニューヨークのアジア人の平均寿命は88.6歳です。医療予防と治療技術の発展とあいまって、今後も寿命は延びつづけると予想でき、ファイナンシャルプラニングをする場合、現在デフォルトで使われる平均寿命予想値は95歳です。寿命の延びとともに、リタイヤする年齢も少しずつ上がってきてはいるものの、限られた労働期間で長いリタイヤ期間をサポートするという傾向が進んでいくと予想されます。一般的な傾向として、私たちはリタイヤメントについて、その資金準備期間に注目を当てがちです。「リタイヤメント資金必要額予想」、「リタイヤメント資金準備」、「リタイヤメント投資策」などという言葉が使われた記事やニュースをよく見かけます。しかしながら、本当は貯めるだけ貯めてリタイヤしたらそれでよし・・というものではなくて、実はその後の資金を「使う」フェーズでのプラニングが非常に、非常に!、非常に!!、大切です。今日はその話。。
リタイヤメント後の難しいタスク
人はお金を貯めます。子どもに財産を残したくて貯める人もいますが、多くの場合、家を買うとか旅行とかの一時的な目的だったり、あるいは学費やリタイヤメントのためだったりなど、将来自分がそのお金を使うめに貯めます。貯める期間には、なるべく利率がよく、元本を減らさないように大きく増えるようにと貯めます。一方、使うフェーズはというと、家を買うとか旅行の場合などは一度にボンと使っておしまいですね。それが学費の場合はというと、4年なり6年なり、必要に応じてお金を引き出して使うことになり、税金上とファイナンシャルエイドをもらう上でなるべく有利に進めるためには、ある程度の計画が必要です。またリタイヤメント資金となると、25年、30年という長い期間をかけて計画的に資金を使っていく・・使いながら投資もしていく・・・ということになります。学費の場合は、ちょっと足りなければ労働収入から少し出したり、ローンを組んだりという手もありますが、リタイヤメントの場合は貯めてきた資金だけが頼りとなります。リタイヤメント後は、貯めたお金を運用しながら使う期間が非常に長い上、その間ずっと資金の枯渇を防ぎつつ十分な生活費を確保するというなかなか難しいタスクが課せられます。
貯める期間は案外シンプル
貯める期間にどう効率的に投資するかについてさまざまな人がさまざまなテクニックを語っています。こうするといい、ああするといい、このファンドがいい、あの投資法がいいなどいろいろな話を耳にする機会も多いでしょう。しかしながら、テクニックや投資法に心を砕くよりも、実際のところもっとも大切なことは実は非常にシンプルです。それらは:
- できるかぎりの積み立てをする
- 積み立てはなるべく早くはじめる
- できるだけ長く働き長く貯める
- 市場がいいときも悪いときもコンスタントに貯め続ける
- ライフスタイルを見なおし、リタイヤ前に健全な消費生活を送っておく
- 健全なアセット・アロケーションを実現し、長期的に維持する
- 投資の手数料をなるべく避ける・低く保つ
パーソナル・ファイナンスの雑誌などを手にとっても、どこの会社の株が伸びそうか、どのような投資商品に投資すべきか、アセット・アロケーションの最適な割り振り方はどうかなどの記事を非常に多く目にします。ワンランク上の投資成績を達成するために、Actively Managed Fund(ファンドマネージャーが、マーケットの機を見て、ファンドの中の株や債券などを頻繁に売り買いすることで、従来のインデックス・ファンド以上の利回りを狙うファンド)に投資をしたり、インベンストメント・アドバイザーを雇ったりするひともいます。しかしながらBoston CollegeのCenter for Retirement Researchの研究によると、アセット・アロケーションや投資テクニックなどによる効果はそれほど大きなものではなく、どちらかというと上のようなベーシックなことがらがリタイヤメント資金構築に重要であるという結果でした。
つまり、難しいことに心を奪われてあれこれ悩むより、とにかくできる限りの額をコンスタントに貯め続ける・・これだけです。低手数料ファンドを使い年齢相応のアセット・アロケーションを実現したら、あとはいい時も悪いときも貯め続ける。ただそれだけ。非常にシンプルで、これが多くの場合ベストの方法です。
使う期間はすべてが逆に
シンプルな貯める期間に比べ、使う期間はずっと複雑さが増します。まず大きなちがいは、貯める期間では元本がどんどん増えていくのに対し、使う期間では元本がどんどん減っていくということです。貯める期間は上り坂ですから、元本も増えそれによって元本を元に投資して得られる利回りも増えていきます。利回りは元本に加えられ、翌年以降は大きくなった元本にさらに利回りがのっていきますから、複利で雪だるま式に投資ポートフォリオが大きくなっていくということになります。たとえものすごく儲かるファンドに投資していなくても、健全なアセットアロケーションを実現し、手数料が低いファンドにコンスタントに貯め続けていれば、長期的には投資ポートフォリオは伸びていくはずです。
ところが使う期間は、その反対が起こります。リタイヤメント資金が非常に大きいので利回りだけで生活していけるという場合は例外ですが、実際は多くの場合、リタイヤメント資金が十分に貯まっていなかったり、年々の市場動向で十分な利回りがでない年があったりで、生活費の確保に元本を使わざるを得ない場合が多いでしょう。こちらも先のように複利で働きます。ただ逆パターンで働きます。元本が減れば、それに対する利回りも減るので、さらに利回りだけでは足りず元本を使うことになり、そうなるとまた将来の利回りが減るというネガティブスパイラルに入っていきます。
市場動向にも大きく左右される
使うことで元本が減るだけでなく、株式市場が下向きの年は、使わなくても投資ポートフォリオが小さくなります。小さくなった元本を使うということは、値下がりした株式ファンドを売るということで、つまり「安いときに売る」という一番よくないパターンに陥り、値下がりで元本減+元本引き出しで元本減というダブルパンチになります。貯める期間には、市場がいいときも悪いときにもあまり気にせず、ただコンスタントに貯めるだけでよかったものが、使う期間では市場の動向しだいで、リタイヤメント資金が長続きするか枯渇するかの分かれ道にもなります。
Dollar Cost Averagingという言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。これは上の貯める期間において使われるテクニックで、毎月コンスタントに定額を積み立てるというやり方のことです。毎月一定額、たとえば$300をコンスタントに積み立てるという設定にしていると、市場低迷期には$300÷低い株価=より多い株数となり、安いときこそたくさん投資するという効果が自然と得られます。反対に、市場高揚期には、$300÷高い株価=より少ない株数となり、高いときには少しだけ投資するという効果が自然に得られます。自分で市場の状況をみてあれこれ判断する必要がなく、またタイミングを逸することもなく、なるべく安く買うことが自然と行われます。貯める期間にあっては、非常にシンプルで効果の大きい方法です。
一方、使う期間では、これが逆に作用します。毎月$3,000をリタイヤメント資金の投資ポートフォリオからコンスタントに引き出すとしましょう。市場高揚期には、$3,000÷高い株価=より少ない株数となり、高いときには少しだけの投資を売り換金して生活費に充てることになります。本当なら、高いときにもうちょっと売っておいて、後の生活費として確保しておくのがいいかもしれませんが、月々定額コンスタントに引き出すならその効果は生まれません。反対に、市場低迷期には$3,000÷低い株価=より多い株数となり、株安のときに売り換金してしまう(安くたくさん売る)ので、その後の投資元本を大きく減らしてしまうという好ましくない効果が生まれてしまいます。なので、貯めてきたのと同じ考え方で、コンスタントに元本を引き出し使っていくというやり方は、往々にして危険なものになりがちです。
4%ルールってどうなの?
ではどうやったらリタイヤメント資金を枯渇させないで長く大切に使えるのか・・これは多くの人にとって悩ましい課題です。よく目にするのは、投資ポートフォリオの何パーセントなら年々引き出しても安全かという「セーフティ拠出%」として提示される4%という数字です。リタイヤメントした年には、投資ポートフォリオの4%にあたる額を引き出し、その後その額をインフレーション(物価上昇)の値に応じ調整していくというやりかたです。$800,000の投資ポートフォリオであれば、一年目の拠出額はその4%の$32,000。2年目はインフレが3%とすれば、$32,000x1.03の$32,960を拠出するということになります。実際、この4%ルールは誰にでもわかりやすくそれなりのアピールがあるのですが、これはあまりに短的なやり方でこれを「セーフティ拠出%=リタイヤメント資金を生涯もたせる引き出し率」として信頼しすぎるのは非常に危険です。
実際、リタイヤメント資金を枯渇させず利用するためには、上の「4%ルール」をはるかに越えたプラニングが必要です。リタイヤメント資金のポートフォリオ額はいくらか、寿命は何歳か、生活資金を下げたり調整したりすることはできるか、401(k)やTraditional IRAなどのRequired Minimum Distributionを考慮せねばならないか、ソーシャルセキュリティやペンション、アニュイティでいくら確保できるか、税金上でどう有利に運ぶかなどを考え合わせた上で、その年に市場動向を見ながら無理のない拠出をしていく必要があります。ここでの大きなポイントは、最後の「市場動向を見ながら」というところです。
Smart & Responsibleではリタイヤメント資金の投資法についてたくさんの記事を書いてきましたが、その中に「市場動向を見ながら」と書いたことはありません。リタイヤメントなどの長期投資においては、市場動向を追うのではなく、ただ適切な投資ファンドにコンスタントに積み立てをしていくシンプルなやり方(上のDollar Cost Averaging)をお勧めしています。しかしながら、使う期間にあっては、市場動向を無視することはできません。上記のように歯車が貯める期間とは逆に回るリタイヤメント後のフェーズでは、市場の動向を見て市場が下がっているときには、なるべく元本に手をつけないで保護することが非常に大切だからです。
以降の記事では、ではどのようにそれを実現したらいいかを考えて見ます。