ミューチュアルファンドはもうすでに投資しているが、ポートフォリオの一部として不動産への投資も考えてみたいという方もおられるでしょう。不動産投資を考えるシリーズ全4回でお届けしており、前回(1)では、レンタル物件を購入し大家(ランドロード)になるにあたって、どんなスキルがいるのかを書き出してみました。
今回は、大家業を自分でやるのがちょっと大変という場合、どんな手があるのか、大家業抜きの不動産投資の可能性について考えてみます。
信頼のおける管理会社は宝のような存在であり、信頼のおけない管理会社は問題の上に問題が重なる存在・・・とよくいいます。管理費用は低くて4%、高いと15%にも上りますが、カバーするサービスやその質もまちまちです。管理会社を使う場合は、どんなサービスがどのような形で提供されるのかを確認したうえで契約し、いったん契約したあとも約束通りのサービスがきちんと提供されているかを管理する作業が必要になります。
たとえば委託できるサービスは・・
レントの決断のための情報集めと提案
- エリアのレント情報を集め、最適なレントを提案する
- 収入アップのための改修やリモデルを提案する
物件準備
- レンタルできる状態に掃除、準備する。
- ロックボックスを設置する。
- 内装のステージングやランドスケープを整える。
レンター募集
- レンター募集の広告を出す。
- 不動産エージェントと連携する。
- 物件を見せる。
- 問い合わせ対応する(電話やメール)。
レンター選択
- レンターのバックグラウンドチェックやクレジットヒストリチェックなどスクリーニングを行う。
- オーナーが判断できるようレンターの成績付けをする。
レンターの引っ越し立ち合い
- レンタル契約書を用意する。
- 引っ越しの日程決めと立ち合いをする。
レント収集
- レントを収集する。
- 滞納対応をする。
立ち退き対応
- 法的書類を準備する。
- 裁判所での代理出廷をする。
定期的インスペクション
- 定期的に物件をインスペクトし、オーナーに状況を報告する。
ファイナンシャル
- 会計データを維持して報告する。
- 収支レポートを出す。
- 節税の可能性などについて提案する。
メンテナンス
- 24時間ホットラインでのレンターからのクレーム対応をする。
- 必要なメンテナンス処理を行う。
- 大きな回収については見積もりを複数集め、ハイヤリングを行う。
レンターの引っ越し後(Move out)後の対応
- 物件の状態のチェックと報告をする。
- しかるべきセキュリティデポジットを計算し返還する。
・・とさまざまなサービスがありますが(管理会社によってはこれ以上に、管理会社によってはこのうちの一部しか提供しないなどバリエーションがある)、反対に管理会社を雇わなければこれらは大家として自分でしなければならない仕事なわけであり、前回書いた通り大家という仕事が決してらくなものではないことがわかります。
管理会社を使えばらくはできますが、収益率が下がります。シリーズ最後に、実際の数字でケーススタディを見ていきますが、収益力の高い物件であれば、多少管理会社に利益を食われても問題がありませんが、収益率がそれほど高くない物件であれば、せっかく不動産投資をしたのに、最終的にはあまり利がない・・という状態にもなりかねません。いわずもがなですが、不動産投資は、収益力のある物件を掘り出す目利きができ、自分でメンテナンスやレンター対応が苦なくできるタイプの人向きです。そうでない場合は、個別物件に投資するのではなく、REITなどに投資するほうが理にかなっているかもしれません。自分はどんなタイプなのかをよく知ってどちらかを決めるのがよいでしょう。
REITに投資したほうが・・?
REITはReal Estate Investment Trustの略であり、レンタル収入を生む様々な不動産物件に投資する会社です。REITは、ミューチュアルファンドやETFに投資するのと同じような感覚で購入することができます。REITにはいくつかのタイプがありますが、大部分はEquity REITといって、直接不動産物件に投資するものです(それ以外に不動産モーゲージに投資するものもあります)。個人投資家はREITに投資し、REITが投資家から集めたお金をもとに複数の不動産物件に投資します。不動産物件から収集するレンタル収入を、REITは個人投資家に利回りとして戻すという仕組みです。REITは、年ごとに集めたレンタル収入の最低90%を利回り(配当金)として投資家に支払うことが法律で義務付けられています。REITは401(k)やIRAなど税優遇のあるプログラムの中で持ち、高い配当金に対しての税支払いは遅延させたまま再投資を行い、投資残高を成長させていくという持ち方もできますし、あるいは年々支払われる配当金をそのまま受取り、生活費に充てることを目的に投資することもできます。
たとえば下記のREIT(例に使うだけのために適当に選んだものですので、決してこのREITをお勧めするものではありません)を見てみましょう。このREITはシニアケア施設にフォーカスを置いて投資しているものですが、配当金(Dividend)は4.9%とありますので、たとえば$1,000投資していれば、年間$49を受け取れるということになります(もちろん配当金は年々上がり下がりします)。Total Returnは9.0%とあるので、9.0-4.9=4.1%は、このREIT会社の株価がそれだけ上がった(キャピタルゲイン)ということになります。
違う考え方をしてみれば、$100,000の不動産レンタル物件を見つけて自分で購入し、自分で貸し出して、年間$4,900のレンタル純利益を得、物件の価格は年間4.1%ずつ上昇してキャピタルゲインを生んでいる状態と似たような効果があります(ここでは税金については考慮していません。あしからず)。REITでは、物件管理からは解放されるというベネフィットがあります。
自分で非常によい掘り出しもの物件を見つけることができて、レンターの選択やメンテなども低コストで効率的にすることができるなら、上の成績よりよっぽどよい利益が出せる可能性があります。これが、不動産投資に長けた人は、不動産で大きく資産を増やせる理由です。一方で、不動産投資には興味はあるがスキル的にはそれほど自信はないひと、不動産投資をしても結局管理会社に委託するような人は、かえってREITを購入する方が理に適う可能性も高いでしょう。
下記の図のように、自分で個別物件に投資する方法は、ハイリスク・ハイリターン、一発当たれば大きいタイプです。管理会社を使う方法は、ハイリスクの割にはリターンは下がります。この一方で、複数の不動産物件にREITを通して投資する方法は、分散投資のためリスクが下がるとともに、それなりにリターンも下がります。大きく当てる物件、大きく損する物件がある中、REITの投資している物件の平均的な利回りを享受することになります。
大部分のREITはSEC(米国証券取引委員会)の管理下にあり、サービスの標準化や監視制度が発展途上にある物件管理会社に委託することを考えれば、よっぼど公的な監視の目にさらされています。また、REITは市場で取引されており売買がしやすいものです。その意味で、不動産物件そのものを持つのにくらべ換金もしやすい(Liquidが高い)というベネフィットもあります。さらに、REITはいくつもの不動産物件に分散投資していますので、ひとつふたつの個別物件に大きな額を投じるタイプの個人不動産投資よりも、はるかにリスク分散上優れています。欠点は、リスク分散している分、個人不動産投資に比べローリスク・ローリターンですので、見返りが限られるということです。不動産投資に自信がある人は自分で目利きすることで大きく儲けることができますが、この大儲けの要素はRETIでは実現されません。
きっとあなたはREITをすでに持っている?
REITというと何か特別なタイプの会社というように聞こえますが、REITの会社も、AppleやAmazonと同じようにアメリカ経済で機能する会社です(もちろん国際REITもありますが)。その中には大きいものも小さいものもありますが、もしあなたがアメリカ市場のインデックスファンドを持っていたら、その中には確実にREITが含まれています。
たとえばS&P500インデックスに含まれているREITは以下のようになります。
REIT Membership in S&P Equity Indexes
AIMCO
Alexandria Real Estate Equities
American Tower Corp.
AvalonBay Communities
Boston Properties
Crown Castle International
Digital Realty Trust
Duke Realty Corporation
Equinix, Inc.
Equity Residential
Essex Property Trust
Extra Space Storage
Federal Realty Investment Trust
GGP, Inc.
HCP, Inc.
Host Hotels & Resorts
Iron Mountain
Kimco Realty Corporation
Macerich
Mid-America Apartment Communities, Inc.
Prologis
Public Storage, Inc.
Realty Income Corporation
Regency Centers
SBA Communications Corp.
Simon Property Group
SL Green Realty Corp.
UDR
Ventas, Inc.
Vornado Realty Trust
Welltower, Inc.
Weyerhaeuser
VanguardのTotal Stock MarketのようにS&P500より広範囲のインデックスファンドに投資しているなら、さらに多くのREITが含まれています。よって、不動産投資を、他のタイプの会社の株式投資とおしなべて平均的に分散させて投資したいという場合は、わざわざREITを別に買わなくても、インデックスファンドを購入すれば自動的にそれが実現することになります。
反対に、不動産に思い入れがあるので、不動産投資会社にリスクを集中させて投資したいという場合には、別途REITを購入することになります。その場合は、全体の投資ポートフォリオの5%から15%をREITに割り振るとよいという目安があります。不動産はあくまで経済全体の中に占めるほんの一部ですので、たとえば車の会社ばかりに集中して投資しないのと同様に、不動産セクションの比率をあまりに上げるのはリスク集中になるからです。5%から15%という比率は、これ以上の比率でREITを持つことはまちがったことではありませんが、不動産投資にリスクが集中することを理解してうえで行うよう注意を促すものです。
この目安に照らし合わせると、個別のレンタル投資物件に個人投資するのは、REITの15%には比較にならないほどの極度のリスク集中です。繰り返しになりますが、不動産投資に自信のある人はよいですが、そうでもない人はリスク分散を優先させREIT投資のほうが理に適うでしょう。