投資の手はじめ(1) - リスクとリターンとコロイモの話

投資のリスクときくと、それイコール「損するもの」だと思っていませんか?リスクって悪いばかりのものでしょうか?リスクゼロの状態がわたしたちにとって一番いい状態なのでしょうか?ことわざにありますね、「虎穴に入らずんは虎児を得ず」。リスクがなければリターンはないのです。つまり、リスクとリターンは裏腹の関係です。そもそもリスクとは何なのか。リターンとの裏腹関係はどういったものなのか。投資の手はじめ(1)と題して、ゆっくり考えて見ましょう。。。

まず、リスク=損ではありません。もし株に投資したら絶対損をするとわかっていたら、誰もその株には投資しませんね。リスクがあるとは、いいこともあるが悪いこともあるという状態。つまり結果が不確定である状態のことです。いい結果と悪い結果の開きが狭いほど、不確定部分が小さいのでリスクが少なく、反対にいい結果と悪い結果の開きが広いほど、不確定部分が大きい、つまりリスクが大きいということになります。

わたしたちは普通、不確定要素を嫌います。リスクをとりたくないわけです。しかし、リスクをとらなければ生きていけないことも知っています。たとえば、車を運転すれば事故に巻き込まれるリスクは常にありますが、ニューヨークにでも住んでいるのではない限り、そのリスクをとって運転することを選びます。こどもを学校に行かせると、帰り道に誘拐されるリスクもありますが、だからといって学校に行かせないという人もいないでしょう。つまりリスクとリターン(運転や学校教育から受ける利点)とを比べて、リターンに意義があると評価したら、そのリスクをとって生きているわけです。

少し話をすすめて、リスクの大きさとリターンの大きさの関係について考えてみましょう。こんなたとえ話を使ってみたいと思います。

あなたはある国に畑を3つ持っていました。畑では、この国の主食であるコロイモ(超てきと~な名前なので気にしないで…)をつくるとします。残念ながらあなたは老齢で、自分で畑をすることができません。そこで畑を農夫に貸すことにしました。あなたの報酬は2段階。定額賃料と出来高料です。畑の出来高がどうであれ、農夫はあなたに前もって合意した定額賃料を(コロイモで)払います。加えて、その年の出来高に応じて、その一部をあなたに(コロイモで)収めます。

農夫Aが現れていいました。

「わたしは先祖から代々伝えられている農法を知っています。この農法は、天候やその他の要素になるべく影響されないで、安定した収穫をお約束するものです。ですから出来高料も安定して納められますよ。収穫のいいときで55コロイモ、悪いときでも45コロイモをお納めします。」

この農夫にはひとつめの畑を、50コロイモの定額賃料で貸すことにしました。とすると、定額賃料と出来高料をあわせると、95コロイモから105コロイモの範囲で報酬が入るという計算です。真ん中の値は100コロイモ、なかなかいい契約をしたと満足なあなたのところに…

農夫Bが現れていいました。

「わたしは自分で開発した農法でもう何年もやっています。わたしはこの農法を熟知していますが、ただ天候だけはわたしにはコントロールできません。天候がいい一年ならば出来高もいいので、出来高料として70コロイモお納めできますが、悪天続きの一年だと最悪で30コロイモくらいで許していただけると助かります。」

どうします。この農夫にも定額賃料50コロイモで貸しますか?いいときの出来高料70コロイモは魅力ですが、悪いときの30コロイモはどうでしょう。農夫Aに貸しておけば45から55のコロイモが出来高料として安定して期待できるのを考えるととちょっと悩みますね。悩んだあげく、少し賃料を上乗せして55コロイモでふたつめの畑を貸すことにしました。そうすると、定額賃料と出来高料をあわせて、85コロイモから125コロイモの範囲で報酬が入るという計算です。真ん中の値は105コロイモ、ま、妥当かなと思ってお茶でも飲んでいるあなたのところに…

農夫Cが現れていいました。

「わたしはこの新鋭の農法を試してみるつもりです。この画期的な農法は、うまくいったら大豊作が期待できます。もちろん豊作ならそれに見合った出来高料をお納めします。90コロイモでどうでしょう。しかしもしうまくいかなかったら収穫も激減しますので10コロイモあたりで許してください。」

さて、どうしましょう。ここまでくるとかなりのギャンブルですね。農夫Aがもうひとつこの畑も借りてくれればいいのにという考えが一瞬頭の中に浮かびましたが、目の前の農夫Cは一生懸命です。「ぜったい成功させてみせます。毎日一生懸命働きますから、どうか畑を貸してください。」と頼み込みます。うまくいけば90コロイモが納めてもらえますが、かといって10コロイモという可能性もあるわけですから慎重にならざるを得ません。「じゃあ、定額賃料は少し高めの65コロイモでもいいかい?」とあなたが聞くと、農夫Cは「はい、それで結構です。」と言いました。こうして3つめの畑は農夫Cに貸しました。定額賃料と出来高料あわせて、75コロイモから155コロイモの範囲で報酬が入る計算です。真ん中の値は、115コロイモ。ちょっとアブナイ賭けだから、こんなとこかなと納得のあなた。

表でまとめてみましょう。

 

農夫Aが一番リスクが小さい農夫です。最悪で95コロイモ、最高で105コロイモ、中央値で100コロイモと安定的したリターンが見込めます。農夫Bはそれよりちょっとリスクが高くなります。最悪で85コロイモ、最高で125コロイモ、中央値で105コロイモ。ちょっと報酬の幅が広いですね。不確定部分が大きくてちょっと不安なので、農夫Aに比べてと、5コロイモ分、定額賃料を上乗せさせてもらいましたね。農夫Cはもっとリスキー!最悪で75コロイモ、最高で155コロイモ、中央値で115コロイモ。こりゃかなりアブナイだろうと、農夫Aに比べて、15コロイモ分、定額賃料を上乗せさせてもらたわけです。つまるところ、低リスクなら低リターン。高リスクなら高リターン。リスクとリターンは裏腹であることがおわかりでしょうか。もしも、農夫Aから115コロイモ(定額賃料65コロイモ)を要求することができたとしたら(低リスク・高リターン投資)、農夫Aは賃料が高すぎるとボヤきつつ、100コロイモで貸してくれるほかの地主を探して旅立っていくでしょう。反対に、農夫Cが100コロイモ(定額賃料50コロイモ)しか払わないとあなたに言ったら(高リスク・低リターン)、あなたは農夫Cには貸さないで農夫Aにもうひとつ畑を借りてもらうでしょう。こうやって、市場ではリスクとリターンのペアが調整されて、最終的には低リスクなら低リターン、高リスクなら高リターンに落ち着くわけです。

ファイナンシャル版「虎穴に入らずんは虎児を得ず」お分かりいただけたでしょうか。得られる虎児の数は、入る虎穴の大きさに相応するというところでしょうか。まとめますと。。。

  • リスクとは、いいこともあるが悪いこともあるという不確定性のことである。
  • リスクの大きさは、不確定性の大きさに比例する。不確定性が大きいこと、つまり予想しうる最悪の結果と最高の結果の範囲が広いほど、リスクが高いことを意味する。
  • 高リスクなら高リターン、低リスクなら低リターンというように、リスクとリターンは裏腹の関係である。

以上、投資の手はじめ(1)でした。

投資の次のステップは、「では自分はどのくらいのリターンを期待しつつ、どのくらいのリスクをとりたいか」を決めることです。自分の許容リスクを明らかにするということですね。それは次回、投資の手はじめ(2)にまわしましょう。今日のところはおつかれさまでした。

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