「節税するためにRothコンバージョンをしたほうがいい」ということをお聞きになったことがあると思います。節税と聞くととにもかくにも是非したほうがいいように思いますが、そんなに話は簡単ではありません。今回は、このRothコンバージョンの意義、どんな場合にその威力が発せられるか、実際のコンバージョンはどんなふうに行うのかなどについて考えてみたいと思います。
そもそもRothコンバージョンって?
そもそもRothコンバージョンというのは何か・・と思われる方もらっしゃるでしょう。Rothコンバージョンとは、Traditional IRAをRoth IRAにコンバートすることを言います。Traditional IRAは所得税非課税で積み立てており、引き出すときには所得税を払うものです。Roth IRAは所得税を払った後積み立て、引き出すときには所得税非課税で引き出せるものです。コンバージョンするかどうかの議論をする時点では、すでにTraditional IRAにコンバートをする対象となるお金があることを意味しています。
401(k)などの雇用主提供のリタイヤメント口座も、通常は(Roth指定しない限り)所得税非課税で積み立てられており、Traditional IRAと同じようにコンバートの対象となります。離職時に直接Roth IRAにコンバートするか、あるいはいったん残高をTraditional IRAにロールオーバーし、それを少しずつRoth IRAにコンバートすることもできます。
今の税率 vs 将来の税率
「Rothコンバージョンをしたほうがいいか」を決めるまず第一の要素は、「今の所得税率と将来引き出すときの所得税率とのどちらが低いか」という質問になります。そしてこれは、コンバージョンをするときだけでなく、そもそも最初に積み立てるときにどちらを選ぶかの問題とも共通です。「今税金を払うほうが得か、それとも後で税金を払うほうが得か」という問題であり、今の税率のほうが安いならさっさと税金を払って、あとあと非課税で引き出せるのがいいですし、今の税率のほうが高いなら今は非課税で免れ、あとあと引き出すときに低い税金を払って使うというほうがよいことになります。
Rothコンバージョンを考える典型的なケースとしては、リタイヤメント前それなりの収入があったため高い所得税率であったので、所得税控除での積み立ての特典を得るため401(k)やTraditional IRAに積み立てをしていたが、退職とともに就労所得がなくなり低い税率になったようなケースです。あるいは退職でなくとも、一時的に所得が低くなったり失業したなどの場合もあります。一時的に所得が低くなった場合は、1年だけのコンバージョンとなりますが、前者の退職とともに所得がなくなったケースでは、複数年にまたがってコンバートをできる可能性が高くなります。
Aさんの場合
今回は、Rothコンバージョンの威力が大きく発揮できるケースを実際に見てみたいと思います。効果がわかりやすいように少し極端な例にしてあります。ケースとしてはこんなかんじ:
Aさんはシングルです。アーリーリタイヤメントを目指して若いころから積極的に401(k)に積み立てを行ってきました。401(k)以外に入りきらないお金はBrokerage Account(課税口座=普通の投資口座で、課税後のお金で投資をする)に積み立ててきました。55歳でリタイヤし、年間$80,000で残りの人生を楽しむ計画です。せっせと貯めた401(k)には$1.5ミリオンがあり、課税口座には$500,000があります。
Aさんは健康でおそらくある程度の長生きが見込まれるため、ソーシャルセキュリティは70歳まで待って受給額を上げてから受給開始をすることにしました。よって、退職当初はまずはBrokerage Accountのお金を中心に引き出して使っていくことになります。また、401(k)は72歳からRequired Minimum Distribution(RMD=必要と不要とにかかわらず引き出さねばならない額、所得として課税される)があります。
Aさんは2021年退職とともに労働収入がゼロになり、ソーシャルセキュリティもまだ受給せず、Brokerage Accountから引き出して生活費に充てるためキャピタルゲインに対しての課税はあるものの、大きな所得税はありません。70歳のソーシャルセキュリティが始まるまでの低所得時期(2035年まで)と、70歳以降RMDが始まる72歳までの中所得時期(2035年から2037年まで)に、Rothコンバージョンをしてはどうかということになりました。
とくに、401(k)には現時点で$1.5ミリオンの残高があり、これが今後も利回りを生み続けると、かなりまとまった額になり、それに対して72歳のRMDは$100,000を超える額になることが予想され、ソーシャルセキュリティ年金と合わせれば、所得税がかなり大きくなることが予想されます。
401(K)をTraditional IRAにロールオーバーし、これを年々少しずつRoth IRAにコンバートしていくことにしました。具体的には、Traditional IRAからのコンバート額がほかの所得(Brokerage Accountの課税利回りや生活費確保によるキャピタルゲイン税など)と合わせても24%のタックスブラケット(最高税率)には突入せず、その前の22%のタックスブラケットにとどまっていられるようにコンバート額を決めます。
下が、そのプラニングチャートです。黄色いところがRothコンバージョン額。24%のタックブラケットのライン(右肩上がりなのは、インフレ調整)の下、つまり22%の税率にとどまるように毎年、2037年までRothコンバージョンをしていきます。これにより、Traditional IRAの残高が年々下がっていきますから、72歳から始まるRMDの額もおのずと低くなります。薄いブルーが70歳から始まるソーシャルセキュリティ年金、緑がRMDです。どの年も押しなべて22%の税率に収まっている(24%ラインの下にとどまっている)のがわかります。
Rothコンバージョンをしなければ、緑のRMDが大変大きくなり、24%やその上の32%のタックスブラケットに達してしまう年がでてきて税金が高くなるのですが、これが回避されたわけです。実際に、どのくらい税金が節税できたかというと、右側の棒グラフの比較でAさんのLifetimeで$229,525の節税になったという計算でした。
下は年々支払う税額のグラフです。赤い部分がRothコンバージョンのため、支払うことになった税金です。グレーの部分は、コンバージョンをしようがしなかろうが、かかった税金です。最初の17年間はところどころ、Rothコンバージョンのため税金が増えたことがわかります。緑の部分は、Rothコンバージョンをしていなかったら、かかった税金です。つまり赤い部分を前払いすることによって、緑の部分は払わないで済んだことになります。Aさんの場合はこの緑の節税できたところが非常に大きい結果となりました。赤いところを先払いすることで、結果として緑は払わなくてよくなり、赤とグレーとの合計額が年々同じくらいです。これは、所得税の対象となる金額が年々なだらかで平坦であること、つまり一定の所得税率にとどまることができ、あまりに高い所得税を払う年がなかったことを意味してます。これがRothコンバージョンの威力です。
コンバージョンをしたほうがよい要素
これほどまでの節税が実現した理由は、Aさんの場合、まず1)大きな401(k)/Traditional IRA
残高があったこと、2)アーリーリタイヤメントのため、70歳なり72歳までの間に長期間あり、度重なるコンバージョンが可能であったこと、3)ある程度まとまった課税口座の残高があり、コンバージョンをする期間の間、Brokerage Accountからの生活費確保が可能であったこと などがあります。これらの要素がAさんほどでないと、AさんほどRothコンバージョンの効果はないかもしれません。
また、税制は政策によって変化し、タックスブラケットも見直されますから、将来にかけて安定的に税率を予測することはなかなか難しいです。上は、一応今の税率を使ってのシミュレーションになります。税率が将来的に低くなるという予想はあまり聞かないので、同じかある程度高くなっていくことを前提にすれば、現在の税率を使ってコンバージョンの意義があれば、コンバージョンを行うことは理に適うと判断してよいかと思います。
毎年計算して決める
このようにある程度予想をたて、具体的には、その年その年の課税所得とタックスブラケットを見ながら、いくらなら高いタックスブラケットに突入せず(Aさんの場合なら24%に突入せず)コンバートできるかを計算し、実際のコンバートを行います。多少計算を間違えたり所得予想を間違えて、高いブラケットに突入してしまっても死活問題ではありません。累進課税では、そのはみ出た所得だけが高い税率(Aさんの場合は24%)で課税されるだけで、そこまでの所得は依然として一歩前の税率(Aさんの場合は22%)で課税されますから、少しはみでたからといって若干の「増税」にはなりますがそれほど気をもむことはありません。
401(K)をTraditional IRAにロールオーバー、さらにこれをRoth IRAにコンバートするというのは、目から鱗でした。当方、今年初旬に49才でアーリーリタイアしており、大変参考になりました。自分のプラニングシートに組み入れて、今後の計画を練り直そうと思います。ありがとうございました。
アーリーリタイヤ、おおめでとうございます!
いつも有益な情報をありがとうございます。質問があります。401k (pre-tax) からtraditional IRAにわざわざロールオーバーしてそこからさらにRoth IRAにコンバートするのは何か理由があるのでしょうか? 401kから直接Roth IRA ロールオーバーできると思うのですが?
よろしくお願いします。
おっしゃるとおりでした!「よって、401(k)のお金もTraditional IRAを経由することで、Rothコンバージョンの対象となりえます。」は間違っていましたので、削除しました。その他文中もわかりやすいように変更しました。ご指摘ありがとうございます。いったん、Traditional IRAにロールオーバーするのがよい点があるとすれば、401(k)を一度にどこかほかの金融機関に移してしまい、同じ金融機関のRothに年々少しずつコンバートする勝手の良さでしょうか。
夫は10年前、私は4年前に定年、現在SS年金と401KをロールオーバーしたIRAから毎年必要お金をおろして、生活しています。二年前にシロアリの被害で家の南側の窓が窓枠はおろか、それを支えているフレームまで再生不可能となって、合計50Kほど費用が掛かりました。翌年のタックスリターンで、かなりの追徴課税が発生、それ以降は毎年20Kを超えないようにIRAからお金をおろしています。
今後の不測の事態に備えて、毎年税金が増えない金額でIRAからRothコンバージョンしていくことを考えています。現在VoyaにIRAの口座がありますが、バンガードにRoth口座だけを開設してコンバージョンは可能でしょうか。
シロアリ、たいへんでしたね。
詳しい状況をお聞きせず正確なことは申し上げられませんが、VoyaのTraditional IRA からvanguardのRoth IRAへコンバートしていくことは、テクニカル面では可能だと思います。
早速の返事ありがとうございます。
Voyaは担当者がいるので相談してみます。
バンガードもステップバイステップの別の項目を参考にして
オンラインでコンタクトしようと思います。
早速Voyaに連絡して要件を伝えたところ、前置きでCPAに確認する必要があるけれど、VoyaからVanguardのRoth IRAにコンバートすると、5年間は引き下ろせないかもしれないと言われました。
まだ確認は取れていませんが、Vanguardにオンラインで既に口座を開設したので、思案中です。
5年間引き下ろせなければ意味がないかもしれません。
一般的に、Rothコンバージョンは所得税の低いときにして、後々の引き出しフェーズの税金をコントロールするという意味合いです(ある程度長期的なもの)。本当にRoth コンバージョンが必要か、よくよく相談されてください。何でもかんでもしたほうがいいということはないです。
そうですね、5年間はちょっと長いです。
ちょっといい考えだと思ったのですが、勇み足でした。
Vanguard のRothはキャンセルしたいと思います、できれば。
こんにちは、毎回大変参考になる話題をありがとうございます。
私は現在50代後半、できれば63歳でリタイアし、70歳までにグリーンカードを放棄して日本へ帰国する予定でいます。
出国時に401k やIRA残高はspecified tax deferred account の対象として課税されるという理解でおります。
そのため、63から70の間にできるだけこれらをRoth IRA へ移した方が節税になるかと思っています。
この考え方で間違っていないでしょうか?アドバイスいただけると嬉しいです
この課税というのは、所得税の課税でしょうか、それとも離脱税の課税でしょうか?Roth コンバージョンは所得税対策で、離脱税対策にはならないと思います。
個々のケースでの吟味が必要だと思います。以下のYoutubeにいろいろ情報があります。
https://www.youtube.com/channel/UCZUlUkPbDrwVrh9d5Ex2_iA/videos
早速アドバイスありがとうございました。Exit tax と所得税が一緒に考えていました。やっぱり専門家に個別に相談したほうがいいですね。まずは色々気づくことができてよかったです。また引き続きこちらで勉強します
いつも大変役に立つ情報をありがとうございます。
上記のケーススタディ、理解しやすいように極端な例を挙げていただいたのだと思います。ちょっとわが家と似ているところがあったので、細かいところですが確認させていただけるとありがたいです。
1.ケースタディの場合、55才リタイアで課税口座に50万ドルがあり年間8万ドル使うとなると、60代半ばで課税口座が底をついて401Kに手を付ける可能性が高いのではと思います。すると、RMDが適用される72才では401Kの総額が減っていて既にタックスブラケットも枠内に収まるレベルになるのでは?
2.わが家は、昨年55才でアーリーリタイアするまで、401Kに入れられない分をTraditional IRA経由でRoth IRAにコンバージョン(1人年間$7000)したり、課税口座に入れたりしていました。現在はDeferred Compensationを主な収入源としており、401Kにはケースタディほどの金額はないため将来RMDによってタックスブラケットが上がる心配は薄いです。先日、投資運用会社の担当者から、手持ちの課税口座から今後も年間$7000を引き出してTraditional IRA経由でRoth IRAにコンバージョンすることを提案されました。Tax-freeのRoth IRAを相続用に保持するためと担当者は説明していましたが、何かデメリット等に気が付かれたらご教示いただけると幸いです。
1. おっしゃるとおりでした。60代半ばで課税口座はなくなり、401(k)に手をつけるので、たとえコンバージョンをしなかったとしてもRMDは低くなりますが、このケースではコンバージョンを差額についてする(生活費を確保して、上のブラケットに達するまでの、ほんの1から2ドル。ソフトウエアでは税ブラケットもインフレ対応がほどこされ、Standard Deduction分を鑑みると、年々少しはコンバートできる計算でした)だけですが、それでも計算の節税効果があるという結果でした。もっと、極端にするために課税口座の残高を大きくしておけばよかったです。
2.アーリーリタイヤされても労働収入があって、IRA積み立てができるということでしょうか?でも、アーリーリタイヤされて高所得でおられないなら、最初からRothに積み立てることはできないのでしょうか?相続目的なら、課税口座での相続は悪くない気もしますがどうでしょうね。Step-up basisのためキャピタルゲインが消えるような気もしますが。。個人的なさまざまな状況がおありだと思うので詳細をお聞きしないでの回答となっていますので、詳しくは担当者の方にご相談ください。
丁寧にご説明いただきありがとうございました。そういえばうっかりしていましたが、IRAは勤労所得が必要ですね。担当者には少しだけself-employedのコンサルティング業をするかもと伝えていたので混乱が起こったのだと思います。彼女の唐突な提案によく理解できなくてモヤモヤしていたのがスッキリしました。ありがとうございました。