少ない収入からはじめるリタイヤメント準備

まだ若いからリタイヤメント準備は考えない、収入が限られているからリタイヤメント準備はなかなかできない・・・という場合も、たとえ少額でもなるべく早い時期から積み立て始めることがよいように思います。日々の生活を回すだけで精一杯という場合もあるかもしれませんが、そんな場合でも、使えるオプションを把握しつつ、使える特典はなるべく使いつつ、できる範囲から始めてみることがよいでしょう。今日は、少ない収入から始めるリタイヤメント準備について考えます。

 

毎月貯める

 

たとえ手にする収入が低くても、毎月コンスタントに積み立てる習慣をつけることをお勧めします。たとえ$50でも、毎月貯め始める、これがポイントです。収入が低ければ、生活費をカバーすることで精一杯という部分もあるかもしれませんが、生活を維持しながら、それほど無理をしないで出せる額からとりあえず始めるのがよいでしょう。

401(k)であれば、雇用主のシステムを通して給与から天引き積み立ての手続きをします。401(k)などの雇用主プログラムが使えない方も、IRAを使うことができます。Traditional IRAとRoth IRAの2種類があります(どちらがよいかは後述部分を参照)。金融機関のオンラインサイトでIRA口座を自分で開き、銀行から自動振り込みの手続きをすればOKです。無理のない額を自動化で積み立てるのがミソです。それほど痛みなく貯める習慣がつきます。

 

デフォルト以上を目指す

 

最近では、多くの雇用主が401(k)への積み立てをデフォルト設定しています。給与のうち一定パーセンテージが自動的に、401(k)に積み立てられるようになっています。積み立てをするファンドもデフォルト設定されており、ターゲットデイトファンドになっていたりすることが多いです。デフォルト設定があると、それでおまかにしておけば、みんなもそうなのだからなんとなく安心というような思いがあるかもしれませんが、多くの場合デフォルトの積立率は3%などのように低いパーセンテージなので、はじめの一歩としてはよくても、その後そのままでは不十分です。デフォルト設定がどのようなものなのかを把握すること、そしてその上を目指す余力ができたら、すぐにデフォルトを超えて自主的に積み立てる姿勢がポイントです。

401(k)などの雇用主提供のプログラムであっても、IRAのような個人のプログラムであっても、いったん設定したらそのまま放りっぱなしにしないで、毎年少しづつ積み立て額、あるいは積み立てパーセンテージを上げていくこともポイントです。

 

雇用主からのマッチアップを最大化する

 

401(k)では、雇用主からのマッチング積み立てが受けられることがしばしばです。401(k)は法律の範囲内で、雇用主が運用ルールを決められるので、マッチングの額やルールは雇用主によりまちまちですが、典型例でいうと、「雇用者がする積み立て額の50%を、給与の6%を限度としてマッチングする」というようなケースが見受けられるようです。たとえば年収が$40,000の場合、本人が年に$4,800以上積み立てておれば$2,400($40,000×6% かつ $4,800×50%)を、雇用主が積み立ててくれるということです。これは、まさにフリーマネー、もらわない手はありません。一方IRAでは残念ながら、このような雇用主からの援助はありません。

 

Saver’s Creditを使う

 

このタックスクレジットは利用価値はとても高いのに、あまり知られていない特典です。401(k)、403(b)、457などの雇用主提供のリタイヤメントプログラムや、Traditional IRAやRoth IRAなどの個人リタイヤメントプログラム、,あるいはSimple IRA、SEP IRAなどのスモールビジネスオーナー向けのリタイヤメントプログラムなどへの積み立て額が対象で、その一定パーセンテージがタックスクレジットとして受けられる、つまり大きな節税になるというものです。

具体的には、「18歳以上の、フルタイムの学生でなく、かつ他の人のタックスリターンでDependentになっていない人」が、上記のリタイヤメントプログラムに積み立てた場合、収入に応じて積立額の50%、20%、10%がタックスクレジットとして受けられるというしくみです(下記参照)。クレジットの最大限度額は、シングルで$2,000、夫婦ジョイントで$4,000です。

saver'scredit

 

たとえば、世帯収入が$41,000のご夫婦の場合を考えます。$41,000のままだとSaver’s Creditは10%しか得られませんが、ちょっとがんばってIRAに$4,000積み立てたとしましょう。ここではAGIを下げるためにTraditional IRAを選びます。Traditional IRAの積立額はAGIから引かれ、所得税の課税対象になりません。AGIは$41,000-$4,000で$37,000になり、このレベルだと積み立ての50%のSaver’s Credit、つまり$4,000x50%の$2,000がタックスクレジットとして得られることになります。タックスクレジットは、支払わなければならない税金と相殺して、税金を減らします。

 

この場合のご夫婦のFederal所得税は$1,630ほどですが、タックスクレジットが$2,000あるので、$1,630は相殺され所得税はゼロになります(このタックスクレジットは、Non-refundable Tax Creditと呼ばれるタイプのタックスクレジットで、所得税を減らしますが、所得税を超えて受け取ることはできません)。タックスクレジットは政府からのフリーマネーです。できる限り利用できるように努めたいところです。

 

Saver’s Creditは、前述のとおりIRAだけでなく401(k)などへの積み立てへも同様に適用されます。よく考えて積み立てれば、1)そもそもの401(K)の所得税控除、2)雇用主からのマッチアップ、3)Saver’s Creditのトリプル・ベネフィットを得ることができ、たとえ限られた収入でも効率よくリタイヤメント準備ができます。

 

Traditional IRAかRoth IRAか

 

基本的に、Roth IRAは積み立ててるときに所得税を払い引き出すときは無税でOKである(所得に数えられない)のに対し、Traditional IRAは積み立てるときには無税(所得控除により所得税を減らす)引き出すときには所得税を払うというものです。Roth IRAはAGI(課税対象の所得)を引き下げないのに対し、Traditional IRAはAGIを引き下げます。上の例のように、Traditional IRAに積み立てることで、AGIが下がり、その結果Saver’s Creditをたくさん得ることができるのであれば、Traditional RIAに積み立てるのは得策です。もしSaver’s Creditが得られないレベルになったとしても、老後の所得が今の所得より同じか、減るだろうと予想される場合(所得税率が現在のほうが高く、老後のほうが低いと予想される場合)には、Traditional IRAで先に税控除を受けておくほうがよいと思います。

 

タックスリファンドを積み立てる

 

Saver’s Creditの利用や、その他の場合にも、もしタックスリファンドがあった場合は、それがどうしても他の用途に必要でないかぎり、リタイヤメントに積み立てることを考えましょう。前年のリタイヤメント積み立て分により、所得税控除やSaver’s Creditを得たおかげで戻ってきたタックスリファンドを、さらに本年度分のリタイヤメント積み立てに充てることで、少ない収入でも、政府からの特典を最大化してリタイヤメント準備ができます。

 

一度積み立てたものは引き出さない

 

少ない月々の収入でのやりくりは大変かもしれませんが、一度リタイヤメント口座に入れたお金は相当なことがない限り引き出さないことです。転職した場合、前の雇用主のときに積み立てた401(k)は、退職時に引き出したいという衝動にかられることもあるかもしれませんが、それをしないこと。その401(k)のプログラムが低手数料で質的にもよいものならそのまま運用をし続けるか、あるいは新しい雇用主の401(k)やIRAのロールオーバーすることで、リタイヤメント用の資金として、手つかずのまま運用しつづけることです。

IRAの場合は、雇用主に関係ないので、一度つくった口座はずっとそのまま積み立てを続け運用しつづけることです。

 

高い手数料に注意する

 

限られた収入から一生懸命積み立てる資金ですから、特に運用上の無駄に注意が必要です。401(k)は提供されているファンドから投資先を選ぶしかありませんから、どのようなファンドが提供されており、それぞれがどのような手数料を課しているのかをチェックします。IRAの場合は、金融機関を個人で自由に選べます。Vanguardなどの低手数料の金融機関を選び、ブローカーを通さず自分で直接口座を開くのがよいかと思います。

また、401(K)が使えない方の中には、IRAだけでは積み立てが十分ではないので、IRAの限度額以上に積み立てたいというケースもあるでしょう。アニュイティなどの保険商品を考慮する場合もあるかと思いますが、これらの保険商品は非常に複雑なこともあり、思わぬ手数料や好ましくない条件が隠れていることもありますから、契約は慎重にすべきです。

 

 

7 comments

  1. 先日、529プランのことを調べる中でWebを拝見させていただいてから、色々と拝見させていただいています!

    読ませていただくにつけ、今までもやもやっとしていたものがすごくはっきり見えてきて!有難うございます。

    もしご存知でしたら教えてください。会社が401(k)の用意がない場合、IRA以外にリタイヤメントの積み立てってどのよにするのが一般的なのでしょうか?

    周りの人に聞くと配偶者の401(k)に入れているか、リバースモーゲージという回答でしたが、何か他に積み立てる方法ないものかと考えるこの頃です。

    1. 利用できる401(k)があるのなら、配偶者のだろうが何だろうが、最大限まで使われるのが良いと思います(ただ、手数料の高いファンドには気を付けつつ)。IRAは夫婦二人分かけ、それでもまだ余剰金があるなら、Taxableではありますがふつうの(税優遇措置のない)投資口座か、アニュイティかになりますが、これはその方その方の状況を吟味しつつ決めていく必要があるかと思います。

  2. アドバイス、どうもありがとうございます!401(k)があってもIRAを持つことも選択肢ですね。有難うございます。投資口座とアニュイティはなかなか素人では選択が難しいので、まずは配偶者IRAを考えてみます。

    Taxからベネフィットのことまで、明確にフェアな視点で記載をされており、とても参考になります!

  3. あけましておめでとうございます。いつも楽しく拝見しています。税控除を受けるためにTaditional IRAに入金できる上限について質問があります。例えば共働き夫婦の世帯収入が13万ドルだとして、会社の401kに上限の18000ドルづつ計36000ドルを入れたとします。この場合AGIは94000ドルとなりIRAに更に上限5500×2を入れることでき、最終的にはAGIは94000ー11000=83000となるという理解でいいのでしょうか?IRAもAGIに応じて入金額の上限が決まっていますが、確か99000ドルくらいから入金できる上限が下がっていくかと思うのですが、その計算の方法が今ひとつ分からず、例えば13万のAGIの時は一体最大でいくら入れらるのか、その算出方法もご存知であればご教示いただけると嬉しいです。

  4. いつも参考になる記事に感謝いたします。
    ここ5年間、税控除の為にと、5500ドルをtraditional IRAに入れてきました。
    タックス控除になって目的は達成しましたが、一行に預け入れた額が変わりません。
    てっきりミューチャルファンドと思っていたら、元本保証の貯蓄のようでした。
    これからは同じタックス控除も受けつつ、リスクも覚悟で ミューチャルファンドに投資したいと思います。
    大慌てですが今年の確定申告前に、税控除を受けるために5500ドルを何処に投資すればいいと思われますか?

    1. そうですか、それは気づいてよかったですね。
      個々人のかたのリスクプロファイルを確認せずに具体的なファンドをご提案することはさせていただけませんが、ジェネラルなところではこちらの記事がご参考になるかもしれません。ここではETFでご紹介しているファンドは、ほとんど同じ名称でミューチュアルファンドでも出ています。

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