Socially Responsible Investing(SRI)という名をあちこちで目にした方もいらっしゃるでしょう。日本語では社会的責任投資と訳され、企業が負うべき社会的責任をきちんとはたしている企業を対象に投資を行っていくことを指しています。実はこの考え方自体はかなり以前から存在したようで、1920年代のキリスト教倫理観により、武器やギャンブル、たばこ、アルコールに関連する企業を投資対象からはずすという考え方にはじまったようです。最近では2012以降急激に注目が集まり、2016以降は年間40%の成長率で投資額が増えているということです。昨今では401(k)でもSRIファンドが選択肢として提供されることも増えてきたようです。投資をするにあたって、SRIについてどう考えるかについて探索してみたいと思います。
投資のそもそもの目的は、企業の成長により配当金かあるいは株価の上昇という金銭的見返りを求めることです。その場合は企業の成長性や財務上の健全性などの経済的価値基準によって投資をするかどうかの判断が行われます。一方でSRIでは、それらの指標だけではなく、たとえば、その企業が非社会的なビジネスを行っていないかなどの指標が投資判断に使われることになります。最近ではSustainable Investingなどという言葉もあらわれ、環境(Environmental)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のエリアにおいて持続可能なビジネスを行っている企業を選択してする投資として、この3つのことばの頭文字をとりESGなどという用語もよく目にするようになりました。
大きく分けて3つのタイプ
価値観ベースの投資:
投資をする際の価値観を定義し、それに合致しないセクター(たとえば、たばこや武器、化石燃料など)を排除するという投資のしかたです。どんなに成長企業であっても、そのセグメントに属するならば排除するので、自分の価値観にあった投資法が実現できる反面、投資利回りが犠牲になる可能性もあり、またインデックスファンド投資などのように市場全体を持つリスク分散は望めません。
ESG投資:
ESGはインデックスファンド的に広く一般の企業に投資しつつ、環境・社会・ガバナンスの基準において、他企業と比較してベターな企業に投資していくという考え方です。上の価値観ベースの投資法は、具体的に一定のセグメントを投資対象から完全に排除するのに対し、ESGは常に比較という概念があり、たくさんある企業のなかで比較的良いと思われる(別の言い方をすれば、比較的悪くない)企業を選びつつ、それでもできるだけ広く市場全体をカバーして投資(インデックス投資の考え方)しようというやりかたです。たとえば、化石燃料を扱う企業であっても、他の化石燃料を扱う企業と比較して、ESG上の評価が比較的良いと判断されれば、投資対象として入っている可能性があります。
インパクト投資:
具体的かつ直接的な結果を生むことを狙って投資をすることで、たとえば、低所得者の持ち家取得を促進する団体に投資するとか、公害防止のための対策を推進している企業に投資するなどです。慈善事業的な意味合いが強く、資産運用としての投資というよりは、社会を変えるための資本提供に近いといえるでしょう。
SRIには定まった定義がない
上の3つは大きく分けてのカテゴライゼーションでしたが、実際にはSRIと呼ぶときに満たさなければならない基準というものはなく、またどこか監視局が内容を吟味しているわけでもないので、それぞれの投資法や投資ファンドによって、そのSRIの実行内容はまちまちなようです。
上の中では価値観ベースの投資やインパクト投資は、強い信念、信条があって、それを貫きたいという場合に良いと思います。この場合は、ある程度自分でリサーチして投資対象を選び、またその投資内容を吟味するという作業が必要になると思います。価値観ベースの投資の場合は、どのような企業セグメントを排除しているのか、あるいはどのような企業セグメントにフォーカスしているのかの吟味が必要だと思います。リサーチは必要ですが、自分の願うところ、信じるところにピンポイントで投資ができます。
一方でESGについては、ファンドで提供されていることが多く、それぞれファンドマネージャーがどのような基準で投資判断をしているのか吟味する必要があります。ESGという名前がファンド名に入っていても、そのファンドがどのような基準で選択を行っているかはまちまちです。また、その判断基準は一次元的ではなくて多次元的にもなりえます。ある点では社会責任があるとみなされても、他の点では社会責任に該当しないとみなされることもあるでしょう。たとえば、核エネルギーをとってみると、原発事故の側面から見れば社会責任に背くものとして判断されますが、化石燃料の代替エネルギーとみれば環境的にサステイナビリティを提供するものとも判断されます。それを投資判断にどうつなげていくかは、もしかしたらかなり主観的なものにもなりかねません。自分の思いとそのファンドの判断がかならずしも一致しているとも限らず、ESGという名前がついているからといって容易に選ぶと、意図したところと違う結果になることもあります。
売り文句に左右されない
ESGファンドによっては、投資対象の選択・吟味をするのに労力がかかるため、ファンド手数料が高いものもあります。金融恐慌以降、手数料の高いアクティブファンド(儲かる投資対象を選ぶためにアクティブに吟味・選択を行うファンド)への見直しが行われ、アクティブファンドの人気は低下しインデックスファンドに資金が流れましたが、今になって、社会責任という態の良いうたい文句をつけプレゼンテーションを変えたアクティブファンドが登場してきた感もあります。高い手数料を払っても、そのESGが自分の価値観に合うので投資したいと判断するのなら十分に価値がありますが、そうでないなら無駄なことです。本当に社会的に責任のある投資を目指すがゆえに運営されているファンドなのか、あるいはただマーケティング的にそのレッテルをつけておけば売れるからそうしているだけなのかは見極める必要があると思います。
SRIやESGの人気が高まっている昨今、投資対象となる企業側においても、投資資金を集めるため、あるいは消費者の関心を引くために、社会責任とかESGという用語が販売促進のために使っている場合もあります。いろいろな形でアピールポイントがあるでしょうが、それらがマーケティング的に扱われるとき、果たしてどれほど真の社会責任の価値を提供する企業なのか見極めが難しい場合もあるでしょう。たとえば、フォルクスワーゲンは、クリーン・ディーゼルと銘売って、環境にやさしいディーゼルカーを開発した・・はずでしたが、実は排気ガス試験を不正に操作していたわけでした。見極めるということは、なかなか一筋縄ではいきません。
たとえばVanguardの場合
いろいろあるSRI投資ですが、その中でも低手数料会社Vanguardの提供するESGファンドを見てみたいと思います。Vanguard FTSE Social Index(下図左)と、基本的インデックスファンドVanguard Total Stock Market(右)を比較してみます。Total Stock Marketはアメリカ市場全体にまんべんなく投資するインデックスファンドですが、Social Indexはこれに近い形にならって広くまんべんなく投資するESGファンドで、ESGの観点から基準に満たない会社は抜いて投資がされています。下にあるとおり、構成要素的にはかなり近いものですが、Total Stock Market Indexの投資株数は3,433株であるのに対し、Social Indexは排除した会社があるため479株です。ファンド手数料(Expense Ratio)はTotal Stockの0.01%に対し、Social Indexは選択する手間がかかり0.14%です。
具体的に投資しているトップ10企業を比較してみると、右側(Total Market)に入っているJohnson & Johnson、Berkshire Hathaway、VisaがSocial Indexでは抜かれているのがわかります。
気になるパフォーマンスはどうでしょうか?3か月間のベスト/ワースト期間とその利回り、1年のベスト/ワースト期間とその利回りを比較したのが下です。まずはワーストから見ますが、コロナ危機当初の暴落時期を含んだそれぞれの時期において、下げ幅はTotal MarketよりSocial Indexのほうがましという結果でした。一方、ベストのほうはふたつのファンドで、期間が若干ずれますが、利回りの数字には大きな差があるのがわかります。ただし、恒常的にこうであるということことでは必ずしもないかもしれません。単に、含む株式が違うのでパフォーマンスに差があるということしか言い切ることはできません。
・・とここまで見てきて、だからどうなのだと言われると結論に困るのですが、本当にSRIを突き詰めたければ、やはりより直接的な価値観ベースの投資/インパクト投資を(たとえ利回りは犠牲にしても)することが一番ストレートフォワードかと思います。一方で、ESGは手っ取り早く投資ができる反面、選ぶファンドにもよりますが、SRIの意味はすこし不明瞭になる可能性もあり、また経済的な投資の意味では高分散を犠牲にし、それが吉とでるか凶とでるかはその時々によるという感じかと思います。
私個人的には、本当に自分の信念にあったESGというのがよくわからない(自分の信念自体わからないところもある)ので、敢えて長期投資は割り切ってインデックスファンドでやっておいて、その代わり応援したい団体には寄付なので返還するというのが良いかなと思っています。また、将来的に本当に良いと思えるESGやインパクト投資などに出会えればぜひ、一般投資とは別枠でやってみたいと思っています。