日本の父からメールがきて、以前マレーシアに住んでいたとき(1998年ごろ)購入したVacation Clubの会員権を売りたいのだけどどうしたらいいとのこと。どうやら、これ、アメリカでいうところのタイム・シェアみたいなものらしく、38年間、一年につき7泊まで、9つの提携リゾートに泊まれるというもので、当時のお金で60万円くらいで買ったとのこと。過去14年間で10回ほど利用したけれど、日本に帰ってきた今そんなに利用するチャンスもないし、毎年1万円の維持費を払い続けるのもばからしいので売りたいということらしい。
タイム・シェアって10年くらい前には流行りましたね。タイム・シェアとは、バケーション/リゾート物件を他のオーナーと共有するもので、一年のうち特定の時期の一定期間その物件を使用できる「部分所有権」のことです。「○○リゾートホテルの10月の第一週の利用権」というようなものもあれば、いくつかのリゾートのうちどれでも使えるというものや、ポイント制でリゾートや時期によって必要ポイントが違うというものもあります。別荘を買うほどお金はないが、ちょっとくらいのお金がある人向けに、かなり強引なセールスがされていた頃がありました。たしかに、ゴージャスなリゾートを毎年ただで利用できる・・・なんて言われると、ちょっとうっとり~ともなりますが。けれども、今となってはタイム・シェアをもてあましている人がとても多いようです。買ってみたものの、利用できない年だってあるのに、それでも維持費は払い続けなければならないので、重荷になってきたというわけです。
父の買った会員権を売った会社に問い合わせてみたら、会員権の譲渡は自由だか、譲渡の際、5,500マレーシア・リンギット(約15万円)の譲渡料が必要とのこと。この譲渡料は現在の会員権の市場価格推定値55,000マレーシア・リンギット(約150万円)の10%だということ。会員権の譲渡に15万円もかかるなんて、しかもこれって会社側にしてみればコストはほとんどかからない、棚からボタモチの利益。しかも、市場価格推定値の55,000マレーシア・リンギットというのもかなり怪しく、リセール市場の価格を見てみると、11,000リンギットから18,000リンギット(約31万円から50万円)あたりの価格で売買されていそう。31万円で売って、会社側に15万円の譲渡料を払えば残りは16万円。。。どうみてもひどい取引だけど、きっとこれも会員権を買うときの契約書に唄われていたのでしょうが、きっとうちの父は読まなかったのだろうなあ。。。
ということで、父にはその旨メールしてみたら、マレーシアの知人に無料で差し上げてもいいくらいのものだねえ、、という返事。それが一番いいチョイスかも。タイムシェアについて読んでいたら、終身生命保険(Whole Life Insurance)のことを思い出しました。決してそれ自体が悪い商品というわけではなく、きっとそれがニーズにぴったりという人も存在するかもしれません。しかしながら、多くの人のニーズには実際はあまり合致していないのに、非常に魅力的な宣伝がされるので、誰にとっても得かのように聞こえる商品というところが似ているかも。
ディズニー・バケーション・クラブなら
たとえば今でも人気のあるディズニーのタイムシェアだなんか、どうなんでしょうね。ちょっと見てみましょうか。今、一時金で$22,400払い、年間の維持費を$870くらい払うと、年間160ポイントがもらえ、そのポイントはどこのディズニー・リゾートのどの時期に使ってもよいが、場所と時期によって必要ポイントが変化するというしくみ。
たとえばこの160ポイントを使うと、Bay Lake Tower at Disney’s Contemporary Resortというリゾートの1ベットルーム・ヴィラに10月の4泊できるという換算らしいですが、たとえばこの同じリゾートをexpedia.comで予約すると一泊$629で、4泊すると$629×4+taxで$3,000くらいでしょうか。$3,000かかるところがタダ、ただし年間維持費は$870。。。それって得?
それが自分にとって得かどうか、自分のニーズにぴったりかどうかは、よ~く吟味したいところ。
今日の支出 対 将来のベネフィット
この会員権の場合、今日の支出は$22,400。将来のベネフィットは年間$2,130の節約(exedia.comで泊まった場合の$3,000 - 会員権の年間費$870)。単純計算すれば、$22,400÷$2,130=10で、10年間使い続ければブレーク・イーブン、つまり元がとれたことになります。しかしながら、それはとってもちょっと単純すぎる計算。本当のところは、今日の$1と5年後の$1は同価ではありませんね。実際、インフレが4%と過程すれば、今日の$1は一年に4%ずつ価値が減っていくわけで、たとえば5年後の$1は今の82セントの価値しかありません。そうすると、5年後に会員権で泊まって節約できる$2,130は、計算してみると今の$1,751の価値しかないということ。そうなると、本当のブレーク・イーブンは10年後ではなく、15年後あたりになります。
コンスタントに定期的に15年間、ディズニー・バケーションに行くのなら、元がとれる。それ以上行きつづけるのなら、元がとれて余りがあるということです。
フレキシビリティは利点、フレキシビリティのなさはコスト
15年間、同じリゾートに同じ時期に行き続けるって案外なコミットメントだとは思いませんか?ディズニーの場合は、ポイント制をとっていて、世界中にあるリゾートに一年のいつでも(ポイントが十分ある限り)行けるという大きな利点があります。使わなかったポイントを貯めて使ったり、前借りして使うこともできるようで、その点ではフレキシビリティが高いといえますね。それでも、一定のシステムの中で一定のルールにのっとったバケーション計画が必要なわけで、まったく自由に行き先も宿泊先も決められるのに比べれば非常に不便ということにもなるかもしれません。
たとえば我が家の場合、夏にしても冬にしても、主人の仕事のスケジュール、子どもの学校や習い事、私自身のさまざまな予定の間を縫って、バケーションのタイミングにしろ場所にしろかなり精巧なプラニングが必要なことが多いです。精巧なプラニングとなると、どうしてもフレキシビリティが必要。というわけで、我が家の場合には、このような会員権はかえって「頭痛」になりそう。フレキシビリティのなさは「コスト」です。一回、二回くらいならいいけれど、毎年、毎年、しかも何十年もとなると、それこそ子どもが成長したり、スケジュールが変わってきたり、その他の状況が変化したりして、使いづらいと感じるのではないかと予想されます。
反対に、年々、大体同じ時期に同じリゾートでバケーションすると決めているような家族には、このような会員権が威力を発揮するかもしれません。そのような家族には、コスト削減のベネフィットがフレキシビリティのなさのコストを大きく上回るからです。あくまで、自分にとってどのくらいメリットがあるのかをよく吟味しないとなりませんね。
インベストメントとしてはバツ
タイム・シェアは、不動産の部分的オーナーシップでありインベストメントであるという見方があります。残念ながら、そうとはちょっと言いにくいのが現実です。
まず、リセール価格はかなり予想がつきにくそうですよ。タイム・シェアが非常に人気があった頃はよかったのかもしれませんが、今は売りたい人過多で、タイム・シェアの種類によっては劇的に価格が下がったり、買い手が探しにくいという状況があるようです。買い手が探しにくいということは、現金化がしにくい(金融用語では流動性が低いといいます)ということです。たとえば、上で紹介したディズニー・バケーション・クラブの160ポイント/年のものだと、おおよそ$12,000くらいで売りに出ています。半額ちょっとですね。会員への特典は新規でもリセールでもほぼ同じ(諸条件が同じなら)であるそうで、では新規で買うモティベーションはなんだ・・・ということになりますね。どうやら、あんまりリセール価格が低すぎると、ディズニー社が介入して、“right of first refusal”(よく読むと会員権の契約書に書いてあるのでしょう)を行使してストップをかけるそうです。そこまでしなければならないとは、本当に新規の値段の$22,400の価値がないからじゃないの?なんて疑いたくなってしまうのは私だけ??
また、インベストメントを買うときは、株や債権を発行するその会社が、将来的に成長が見込める/財務的に安定している会社か見極めますね。タイム・シェアを買うとき、その会社が5年後、10年後、15年後、安定してリゾートを運営しているか、リゾートの質も保たれているかを予想しながら買う人は、残念ながら少ないのではないでしょうか。運営や質の低下は、タイム・シェアの価値やリセールのしやすさに直接的に影響を与えますし、持ち続けるにしても期待した利用ができなくなる可能性もあります。
そう考えると見方を変えれば、タイム・シェアの会員権というのは、発行する会社にとってはとても有利なものであるといわざるを得ません。会社にとっては、株や債権を発行するときに必要となる厳しい審査なしに、比較的簡単に資金集めができるわけですから。反面返せば、消費者にとっては、本当に自分にとって利点があるのかを確かめてからか購入することがとても重要ということです。厳しいことに、「タイム・シェアは、財務的な分析が得意でない、情報リソースを持たない中間所得者層をターゲットにしている」と明記しているような記事もありました。
うちの父はどうするのかな。。ま、でも父の場合は60万円払って10回使ったんだから、よしとしてもいいんじゃないかな、ね、お父さん。。
追記: タイム・シェアのオーナーというと、オーナーとしてのベネフィットとか権利についてフォーカスが当たりがちですが、オーナーとしての義務というのもあるらしいです。しかもこれが案外見過ごしがちなのにかなりヘビーな内容だったりするわけです。このような義務は、契約書にはきちんと書かれているはずですが、よく読まないと「夢のオーナーシップ」が「ホラーストリー」にもなりかねません。こちらの記事「リゾート会員権の購入には注意が必要」に詳しく書かれています。ご購入をお考えの場合は、是非お読みください!