自分の家を持つことは長らくアメリカンドリームとされ、実際アメリカでは家を買うのを奨励する多く税制がありました。自分のものにならない借家にレントを払い続けるのはもったいない、家を買って大きく節税しつつエクイティを貯める方が得・・これは皆が口にし皆が耳にするフレーズです。ところが、今回のトランプ税制には、「持ち家が得」を崩す内容が含まれており、その結果、Moody’s Analyticsによれば、今後18か月の間に、2018年夏をピークに不動産価格は全米平均で4%下落、特に東海岸、西海岸の高価格帯においてはより大きな下落を見るだろうという予想です。
得でなくなるその1
「持ち家が得」を崩す税改正のひとつは、モーゲージローンの利子控除はローン額のうち$750,000までに対してのみという上限がつけられたことです。モーゲージ$750,000なんて、誰がそんなに借りるか!と思われる方も多いでしょう。しかしながら、カリフォルニアやニューヨークなどの高価格地帯では、数ミリオンドル以上の家もたくさんあり、高収入世帯では$750,000借りても月々の支払も十分払える世帯も多く、決してあり得ない数字ではありません。「お金持ちだから、モーゲージを借りないで家を買う」というのは日本ではあり得る話ですが、アメリカでは多くの場合そう運びません。「お金持ちだから、たくさんモーゲージを借りて、より高い家を買う」というのがよくある話です。たくさん借りてたくさん控除できるならなおのことです。
$750,000以上ローンを組んでいる世帯のパーセンテージのデータはないのですが、$500,000以上のデータはありました。下のようです。カリフォルニアではなんと、49.1%が$500,000以上のローンを組んでいます。そのうち、$750,000のリミットにひっかかる世帯数はわかりませんが、少なくともカリフォルニアやワシントン、東海岸あたりでは内陸部の州に比べてずっとその数が多いのではないかと容易に想像がつきます。
得でなくなるその2
「持ち家が得」を崩す税改正のもうひとつは、SALT(State and Local Tax Deduction)の上限設定です。これまでは、州や地方自治体へ支払った税金:1)所得税か消費税かのどちらかと、2)プロパティ税が全額、連邦税より税控除できました。これからはこれに、1)と2)トータルで$10,000までの控除と上限が設定されます。
こちらも上の例に倣い、東海岸、西海岸の州、とくにカリフォルニア、ニューヨーク、ニュージャージーなど、高所得者層で高価格の家を持っている世帯が多い地区が大打撃を受けます。(通常ならトランプ支持の)共和党議員のうち、これらの州から出ている議員11人が、このトランプ税法に反対票を投じたことからも、これらの州への憂慮が読み取れます。
所得税が高いので州の所得税もそれなりに高く、その上家も高いのでプロパティ税も高い層、つまり上の1)と2)の州税で合わせて数万ドル以上払っている層が、もっとも打撃を受けます。ビジネス経営者やある程度以上の超富裕者層になると、SALT控除が制限されても、それを超える減税効果が他で見込めるので全体的な税金は削減されることもあります。全体的な減税になるかならないかは別として、いずれにしても今までは高い家を買い高いプロパティ税を払っていてもそれなりの節税効果があったものが、これからは1)の所得税でさえ全額控除できない($10,000まで)ことになり、持ち家を持つ大きなモティベーションがひとつ減ることになります。
たとえば・・・
たとえば、年収$180,000のCaliforniaに住む夫婦が$1ミリオンの家をダウンペイメント20%で買った場合と、年収$220,000のNew Yorkに住む夫婦が$1.5ミリオンの家をダウンペイメント20%で買った場合とで、トランプ税制前(Before)と後(After)でどのくらい控除額と節税額が異なるか計算してみました。
それぞれタックスブラケット(最高税率)はトランプ税改正後は下がります。ただし、モーゲージ利子の控除が制限されるのと、所得税控除(あるいは消費税控除)で$10,000のSALT控除上限を軽く使ってしまい、プロパティ税で控除できる額はゼロになるのとで、家を持つことでの控除額トータルは激減します。家を持つことでの節税額はCalifornia夫婦の場合は半分強に減り、New York夫婦の場合は三分の一以下になります。
ちなみにこれは新たにこれから家を買った場合です。すでに持ち家がある人の場合、これまで通りモーゲージ利子は$1ミリオンのローンまで控除できます。プロパティ税については、今家を持っていても、これから買っても、処置は一緒で制限されます。
もはや持ち家は理にかなわなくなるかも・・
家を持つことでの節税が大きく減少しますので、「レントを支払い続けるより、家を買ったほうがいい」の通説がかなり影響を与えます。この理由で、とくに高価格帯地域では不動産価値が大きく下がると見る専門家も多いようです。下はMoody’s Analyticsの試算したもので、最も深刻な下落を経験すると予想される25カウンティです。パーセンテージは、トランプ税制がなかった場合の予想不動産価格に対する、トランプ税制を施行した場合の予想不動産価格の下落率です。
SALTやモーゲージ利子控除はどちらもItemized Deductionを選ぶことで控除するものですが、一方で、Itemizeをしない場合のStandard Deductionの額は、2017年のシングル$6,350 、ジョイント $12,700が、トランプ税制ではそれぞれ$12,000と$24,000に引き上げられます。これも「レントを支払い続けるより、家を買ったほうがいい」の崩壊を助長します。Zillowによると、これまでは持ち家世帯のうち44%がItemized Deductionを選び、SALTやローン利子の控除を得ることが理に適うケースだったのが、このStandard Deductionの引き上げで、Itemize しなくとも大きな控除が受けられるようになり、結果としてなにもわざわざ家を買ってSALTやローン利子控除を受ける必要がなくなるケースが増え、14.4%しかItemized Deductionをしなくなるという予想が出ています。
いずれにせよ、トランプ税制下では、1)高価格の家こそ税控除額の大きな下落を経験するため、需要が減り値下がりの危険があること、2)すでに家を持っている世帯でも、高所得かつ不動産の高価格帯では、税控除が大きく下がり、持ち家をめぐるファイナンシャルなやりくりが影響を得る可能性があること、3)高価格帯でないエリアでも、Standard Deductionの引き上げで、「家を買って節税する」が当てはまらない層が広がることが予想されます。