優秀すぎる学生は不合格にします?

最近のアメリカの大学受験は、競争率はどんどん上がり続け、トップ校の合格は宝くじ状態と化し、そのうえ成績的には絶対受かるはずの大学からは不合格通知がくる・・なんだか首を傾げたくなるミステリーは多いもの。今日はその不合格通知の話。A大学にもB大学にも合格したのに、それよりは明らかにランクが下がるC大学からは不合格通知が!・・ふつうはそんなことあまりないだろうと思いきや、実は案外あるらしいのです、こういうケース。

合格にしたら来てもらわないと困ります・・

 

合格者数÷受験者数を合格率(英語で言うとselectivity)と呼び、この合格率は低ければ低いほど、大学ランキングが上がるため、各大学は合格率をなるべく低くすることに心を砕くという話を以前の記事で書きました。合格者数は、大学の規模が一定であることを考えると、毎年大きく変化することはありません。よって合格率を下げるには、受験者数を大きくする必要があり、各大学は受験者の獲得のためマーケティング活動に力をいれ、できるだけ多数の受験者を集め、できるだけ多数の受験者を不合格にすることでそれを行っていることを書きました。

合格率と並んで大学が大切に思っている数字があります。歩留まり率(英語ではYield)と呼ばれる、実際に入学する学生数÷合格者数です。本命で受ける学生が多い大学では、合格すればほとんどが入学するため歩留まり率は高くなり、滑り止めで受ける大学ではそれが低くなります。大学の成績としては歩留まりが高ければ高いほうがいいわけで、これもまた大学ランキングを左右します。

 

入学予想が難しい

 

歩留まりは天下のハーバードが最高で81%、スタンフォードが76%、MITは72%、プリンストン、イェール、コロンビアは60%台、それ以下何万もの大学が50%以下に集中しています。日本の国立大学の全国平均は92%ですが、アメリカの最高値を記録したハーバードでもそれより10%以上低い81%というのは、アメリカ大学の全体的な歩留まり率の低さを象徴しています。

なぜか。。それは先に書いた合格率を下げるための、受験者数を増やすマーケティング努力の結果です。それぞれの大学が、たくさんの学生にパンフレットやe-mailを送り受験を呼びかけ、受験のプロセスをなるべく簡単にし多くの学生に受験してもらうことに努めている結果、学生はひとりで10校とか15校とかの大学を受験します。そしてラッキーだと、そのうち複数の学校から合格通知を手にするわけですが、実際に行くのは1校ですから、当然のことながら合格した学校のうち1校以外は入学しません。そして、入学してもらえなかった大学は、歩留まり率が下がることになります。

皮肉なことに受験者数を増やすマーケティング努力が、合格率を低下させることには役立つものの、歩留まりを確保することを難しくしています。たとえトップ校であっても、実際に合格した学生のうち誰がどのくらいの確率で入学するかの予想が困難になっているからです。合格率を下げるため合格者をなるべく少なくし、ぎりぎり人数しか確保しておかないと、もしも予想より多くの学生が他の大学を選んだ場合、十分な学生を得られず大学のキャパシティに穴を開けることになる。定員割れでは困ります。反対にあまりに余裕のある合格者の確保は合格率を上げてしまううえ、もし予想以上の学生数が入学すればオーバーキャパシティーとなります。大学運営も大変です。。

 

ウエイトリストとタフツ・シンドローム?

 

そこで登場するのがウエイトリスト。合格率は低くしたいので合格はさせないけれど、もし穴が開いたときには埋めることができるように確保しておく補欠の学生です。ウエイトリストを使う大学の数は増加する一方で、その反作用とでも言いましょうか、ウエイトリストされてから実際に入学が許可される確率は減少しています。大学によっては非常に多くの学生をウエイトリストしているところもあり、その割にはそこから実際に入学する確率は非常に低いというところもあるようです。大学にしてみればたくさんのウエイトリストを出すことは大学ランキングにも無関係だし、コストもほとんどかからない一方で、もし入学者が予想より少なければそこからすぐに補充できるという便利さがあります。どうやら、合格率を下げるためのPRマーケティング活動とウエイトリストの利用は、大学にとっては都合のいいコンビネーションであり、学生側にしてみるとなんだかいいように使われている気がしますね。

また、最近ではタフツ・シンドロームというのもあるようですよ。

tufts syndrome

タフツ・シンドロームというのはタフツ大学が始めたのでそういう名前で呼ばれるようになったのらしいですが、非常に優秀な学生であり、他のもっとよい大学に合格すると予想されるため、自分の大学にはきっと入学しないだろうと思われる学生を、敢えて不合格にしたり、あるいはウエイトリストにするというやり方だそうです。全米27位のタフツ大学はよい大学ですが、アイビーレベルの大学を受ける学生からはセーフティー校(合格が固い大学=滑り止め)です。ところがセーフティ校だと思って受けたのに、ハーバードやイェールに合格した一方で、タフツには不合格というケースが出始めました。タフツからすると、どうせハーバードに行くとわかっている学生をわざわざ合格させると、歩留まり率が低くなるので、最初からやめておくという理論なのでしょう。

このやり方は他大学も真似するところが出てきて、スタンフォード、コロンビア、イェール、プリンストンに合格してワシントン大学セントルイスからはウエイトリストされたとか、ノースイースタン大学から不合格だったとか、そんなふうに影響が広がっています。“I got tufted.”とか”It’s so tufty”のように動詞や形容詞にもなっているのですって。

 

消費者として考えておくこと

 

いやあ、大学選びも難しくなったものですね。あなたが優秀すぎれば、大学はきっとあなたはうちには入学しないだろうと合格させてくれない。あなたが十分優秀でなければ、大学はあなたが入学しては困ったものだと合格させてくれない。つまり、ちょうどよいスポットにばちっと合っていないと合格できないということです。

ということで、受験する大学選びはちょっとばかし至難の業となりそうです。FAFSAの提出先として大学を列挙するときはアルファベット順にすることを薦めている専門家もいます。なぜなら、FAFSAの大学順を志望順に書く学生は多く、どのくらいの確率で自分の大学に来そうか(合格させたら)をこの大学の列記順で図る大学もあるのだからだそうです。

タフツシンドロームについては、受験時に学生側で対処できることは少ないですが、ただ、実際に合格してからは学生側も多少強気に出て戦うことができます。「合格させた」ということは大学側としては「できるだけ入学してほしい」と思っているということです。歩留まり率を高く保つためです。合格したということは、大学の歩留まり率を左右し、ランキングをも影響する力をもっている(たった一名の力ですが、でもばかにできない力です)ということです。とくに他の同等レベルの大学にも合格していたり、それがランキング上の直接的な競合大学ならなおのこと、大学は多少スカラシップやグラントを上乗せしてでも、ぜひ入学してもらいたいと考えるはずです。「もう少しファイナンシャルエイドを出してもらうことはできないでしょうか。おたくの大学にぜひ行きたいのですが、金銭的にもう少し楽になるとうれしいのです。」と率直なお願いをしてみましょう。とにかく聞いてみることで失うものはありません。合格までこぎつけたのなら、多少強気に聞くだけ聞いてみることで、数千ドルのエイドを増やしてもらえるということもあるわけなのです。

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