Vanguardターゲットデイトファンドのキャピタルゲイン問題

Vanguard ターゲットデイトファンドは業界ナンバーワンのシェアを誇る人気ファンドですが、2021年に、通常と比べてあまりにも大きなキャピタルゲインを出したことで問題が浮上しています。このキャピタルゲイン、401(k)やIRAなどの税優遇のある口座で持っている限りにおいては問題になりませんが、課税口座(Taxable Account、Brokerage Accountと呼ばれる)で持っている場合は、当年のキャピタルゲインとしてタックスリターンで報告し、キャピタルゲイン税を支払う義務が発生します。そもそも、税金をあまり心配する必要のないインデックスファンドをベースにしたターゲットデイトファンドで、なぜ例年に比してあまりにも大きなキャピタルゲインが発生することになったのか、これを考えてみます。

謎のキャピタルゲイン

私自身、課税口座でVanguardのターゲットデイトファンドを持っています。例年、タックスリターンは遅めの3月末とかに始めるのですが、最近はタックスリターンのなりすまし詐欺などもあるので、早くやってしまおうと始めたわけですが、その時Vanguardの1099-DIVを見て、例年にはない大きなキャピタルゲインがあったので、不思議に思っていたところでした。

Vanguard発表のDistribution予想によるとこんなかんじです。たとえば、2040ファンドを持っていたら、残高(NAV=Net Asset Value)の15.55%がキャピタルゲインという数字です。

前年2020年の数字では、このキャピタルゲインは軒並み1%以下、2040ファンドでは0.40%でした。0.40%が15.55%、なんと39倍になった裏には何があるのか?

2021年はUS株式市場が大きく値を上げたからかな・・・などと思ってはみたものの、それでもちょっと大きすぎるキャピタルゲインのサイズに首をひねっていたものです。そんな中、あるクライアントの方からもご質問をいただき、調査を始めてみたところ、その理由がわかってきました。

まずは、ミューチュアルファンドの利回りと税金のしくみついてまとめてみます。

ミューチュアルファンドの利回りと税金

私たちがミューチュアルファンドを買うとき、利回りはいくつかの形で発生します。以下が主なものです。

  1. ファンドの中に含まれる株式が配当金を出す
  2. ファンドの中に含まれる債券が利子を払う
  3. ファンドの中に含まれる株式、債券なりが値上がりする

1の配当金と2の利子は、実際その分の額を受け取ったわけでその年の所得です。実際には口座から引き出すことなくそのまま再投資されるとしても(ふつうはこのような設定になっています)、その額に対しては税金を払う必要があります。1は配当金(Dividend)としての課税、2は利子(Interest)として課税され、当年のタックスリターンで報告して納税します。投資利回りに対する仕方のない課税で、税金を払いたくないから給料を稼がないとは言わないのと同じで、投資をするからには払ってしかるべきものです。

3の値上がりはちょっと話が違います。持っている株式ファンドや債券ファンドが値上がりしただけでは課税対象にはなりません。実際に、そのファンドを売って現金化するときには、売値から買値を引いた部分についてキャピタルゲインを支払うことになりますが、売却までの投資期間においては、「ただ値上がりした部分」については税金を支払う必要はありません。含み益というやつです。

ただし、たとえ自身が売らなくとも発生するキャピタルゲインというのも存在します。これは3の自身がファンド売却をして発生するキャピタルゲインとは別のもので、ファンドマネージャーがファンド維持の一環として行うファンド内での売却によるキャピタルゲインです。

ファンド内の売却によるキャピタルゲイン

ファンドマネージャーがファンド維持の一環として行うファンド内での売却とはどなものでしょう。どういうときにファンド内での売却が起こるのでしょう。キャピタルゲインを発生させる売却が起こるには、以下のようなケースがあります。

A. アクティブファンドで、機をみて安く買って高く売ることで利ザヤを増やすことを狙っての売り買い。アクティブファンドは基本的に売り買いを恒常的に行っていますから、おのづとファンド内に蓄積するキャピタルゲインは膨らみます。今回のVanguardのターゲットデイトファンドはインデックスファンドベースなので、このような売り買いは起こりません。

B. インデックスファンドで、市場インデックス自体が変更になった(S&P500から企業が外れる)ことで、その市場インデックスをフォローするインデックスファンドが売りをしたとき。これはたまに起こることであって、今回のような大きなキャピタルゲインにはつながりません。

C. ファンドが、投資内容の適正比率を保つため、リバランスをするとき。たとえば、80%株式:20%債券で投資を始めたが、株式市場の好調で株部分が伸び85%:15%になったので、5%の株式を売って債券を買ったときにキャピタルゲインが出るケース。これは、2021年の株式市場の好調を見るときありえなくはないですが、ただ上で見るようなレベルのキャピタルゲインにつながることは考えにくいです。

D. ファンドが大きく売られて現金化されたとき。誰かがファンドを売ったとき、ファンドマネージャーは現金を確保して払い出す必要があります。もしも同時にそのファンドを買う人がいれば、ファンド内の投資を売ることなしに、買う人から受け取った現金を売った人に横流しにできますが、買った人より売った人が多いとき、つまり入ってくる現金より出ていく現金が多いときには、ファンドマネージャーはファンド内の投資を売却することになります。これによりキャピタルゲインが発生することになります。

Vanguardの企業努力

今回は、どうやらこのDが原因だったようです。これほどのキャピタルゲインを発生させる売り、ファンドからの現金流出はなぜ起こったのか。

Vanguardのターゲットデイトファンドは業界シェアナンバーワンの良質ファンドです。年々、投資残高も着実に伸びています。Vanguardは企業努力を怠らず、投資残高が大きくなれば、Economy of Scaleでその分手数料も低くすることができ、それをこれまでも投資家に継続的に還元してきました。今回は、その企業努力ゆえにこの残念な問題が起こってしまったようです。

2020年の12月に、VanguardはターゲットデイトファンドのInstitutionalシェア(大規模雇用主向け。401(k)など用)の最低投資残高レベルを、$100ミリオンから$5ミリオンに下げました。個人として自分で投資する(雇用主経由ではなく、IRAや課税口座での個人投資の)場合は、個人投資家としてInvestorシェアを使うわけで手数料は0.13%から0.15%程度ですが、雇用主経由のInstitutionalシェアは手数料の割引があり0.09%程度まで下がります。

それまで$100ミリオンの投資残高を集められなかったスモールビジネスはInvestorシェアでの401(k)運営を余儀なくされていましたが、いきなり下限が$5ミリオンに下がったことで非常に多くのスモールビジネスが、Institutionalシェアでの運用をする資格を得たわけです。

・・・とことまでは、やっぱりVanguardはすばらしい・・ということになるのですが、ここからが問題です。Institutionalシェアのターゲットデイトファンドと、Investorシェアのターゲットデイトファンドは内容的に全く同じでも、別ファンドとして運営されていました。InvestorシェアからInstitutionalシェアに乗り換えるには、前者を売って現金化しそして後者を買うという手続きが必要になったわけです。

そこで起こったのがInvestorシェアのファンドからの現金流出です。たとえば上の2040年ファンドを例にとってみれば、2021年の1月から9月の9か月間で$16ビリオンが流出しました。同時に$6ビリオンが新たに入ってきましたが、それにしても差し引き$10ビリオンの流出です。ファンド残高の1/4程度が現金化されたことになります。

これにより、上記Dの売りが余儀なくされました。現金としては、Institutionalシェアのほうに入ってくるものが存在するので、それを払い出せればよかったのですが、いかんせん別ファンド運営であったので、Investorシェア・ファンドを大きく売る必要が出たのです。

Vanguardの残念な判断ミス?

2021年9月には、VanguardはInvestorシェア・ファンドとInstitutionalシェア・ファンドをマージさせると発表しました。ひとつのファンドとして運営することになるというわけです。この合併は2022年2月まで段階的に進めるようです。前述のとおり、ふたつは内容的には全く同じであるため、最初からマージさせておけば、新たにInstitutionalシェアにqualifyしたスモールビジネスは、ファンド・シェアを売ることなく単にシェアクラスの変更手続きをするだけでよかったのだと思います。また、Investorシェアを持ち続けている人は、現金流出+キャピタルゲイン発生により、身に覚えのない(自分が全く関与しない)キャピタルゲイン税を支払うはめにもならなかったのだと思います。

なぜ、最初からマージ処理を進めなかったのか・・・スモールビジネスの乗り換えによって、このような無駄な(と私は思います)キャピタルゲイン発生が起こることが予期できなかったのか・・・ミステリーです。Vanguardファンとしては大変残念なことです。

このような事件を経て、今後課税口座でターゲットデイトファンドを持ち続けることのProとConを今後考え直したいと思います。

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4 comments

  1. なんとなく、バンガードのTDで税金問題発生とは聞いていましたが、なるほど、そういうことだったんですね。バンガードはカスタマーサービスもWeb siteもいまいちだし、最近のアプリの変更もはあ?というものだったり、John Bogle亡き後(というかその前から?)なんだか下り坂と思っていました。しかし、その肝心のファンドだけは、やはり何といっても業界一と思ってました。なのにそのファンドにまでこんなことがあっては、どうしちゃったの、、ですね。サービスは完全にFidelityやSchwabに後れをとってますが、ファンドだけは何とかバンガードの名に恥じないものであり続けて欲しいです。

    1. 私も本当に同感です。Web siteに使いにくさ、カスタマーサービスのいまいちさは、ファンドの質の高さで補えると思っていましたが、今回はかなり大きな失敗だと思います。しかも、この件に関してVanguardから何のアナウンスメントが出てないというのも残念なことだと思います。がんばれ、Vanguard!

  2. とても興味深い記事です。 とても参考になりました。 今年これから、新規で、Vanguardターゲットデイトファンドの課税口座を開設する場合は、どうなのでしょうか? この様な莫大な税金の心配をしなければいけないのでしょうか?  課税口座に限りませんが、2022 年の初めは、多くの投資家が株を売ったと思うのですが、それが課税口座のミューチュアルファンドの税金にどう影響が出ているのかも、気になります。

    1. よいご質問です。今回のVanguardの件は、かなり特殊なケースですので、この件があったからといって課税口座でのターゲットデイトファンドの利用が全く排除されるべきということになはならないように思っています。そのうち記事にまとめるつもりです。
      投資家ご本人が投資を売って、キャピタルゲインがあれば、課税口座では常に課税対象になります。

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