引っ越しの理由はいろいろあるでしょう。同じ地域でもっと大きい家にアップグレードする、転職のため他の地域に移る、リタイヤメントが近づいたので小さな家にダウンサイズする・・などなど。そんなお引越しの際、それまで住んでいた自宅を売るのか、それともレントで貸し出すのか・・・。多くの人が直面する疑問かと思います。それぞれのケースで考慮点もまちまちかと思いますが、おおまかなガイドラインを今日は考えてみます。
戻ってくる可能性があるか?
お引越しがなんらかの理由でテンポラリーなものである可能性が高い場合、売らずに貸すという選択は大いに理に適うものでしょう。売って引っ越し、戻って買うというのでは各種手数料や手間が2度かかります。それならば、当面貸し出し、レント収入でモーゲージ返済などはカバーしておいて、必要になったら帰ってきてまだ自宅として住むのは当然の選択でしょう。
新しい家の頭金は?
引っ越し先では賃貸で・・というのならいいですが、新しい家を購入する場合にはダウンペイメントが必要です。家の価格の20%が目安となる頭金を貯蓄から捻出できるのであればよいですが、今の家を売らないと用意ができない場合も多いでしょう。不動産市場がホットなエリアでは頭金が少なくては、オファーを入れても勝ち取れないこともあります。また、不動産が高額なエリアでは、頭金が少ないと月々の返済額が大きくなり生活が回らないこともあります。そんな場合は、現在の家を売ってエクイティーを現金化し、それを頭金に回すというのが適切な判断でしょう。
大家業に前向きか?
戻ってくるつもりはなく、新しい家の頭金もクリアしている場合は、貸し出すというオプションも現実的になってきます。貸し出すということは大家になるということで、この仕事には案外向き不向きがありますから、自分の適性を確認しておくのが賢明です。下記の記事を参考にしてみてください。
不動産投資シリーズ(1) - ちょっと試してみたい人に・・・
キャッシュフローがプラスか?
貸し出すことが金銭的に合理的がどうかを判断する指標は大きくふたつの柱があります。ひとつはレンタルインカム、もうひとつは値上がり益(キャピタルゲイン)です。
レンタルインカム狙いなら、月々のキャッシュフローがプラスを生んでいなければなりません。まず、貸し出した場合どのくらいのレントが得られるのかを調べます。レントは毎月必ず入るとは限りません。テナントが見つからない確率もあります。空室率をある程度見込み、月のレントx12か月x80~90%(空室率を20%~10%とした場合)を実際の収入と予測するのがよいでしょう。
ここからカバーする費用を見積もります。モーゲージ支払い額、保険、プロパティ税、修理費用、HOA費、管理会社をつかうならその費用、テナントを見つけるための費用などを支払います。差引残る額が月々のキャッシュフローになりますが、これがプラスであればあるほどレント物件としては優良ということになります。キャッシュフローが小さいか、極端な例ではマイナスであったとしても、ある程度大きな値上がり益が見込めるというのであれば、地道にレントし続け、モーゲージ返済が進むにつれてエクイティ(市場価格―モーゲージ残高)を蓄積していくというやりかたもありだとは思いますが、実際的にはキャッシュフローがマイナスだと苦しい場合も多いでしょう。
値上がり益は?
レンタルインカムだけでなく、値上がり益も不動産投資のおいしい部分です。今住んでいる家がこれから値が上がっていくと見込まれるなら、そのまま保持し続けるのはよい選択かもしれません。反対に値下がる可能性があるなら売ってしまったほうがよいことになります。今後不動産市場がどうなるかは、なかなか見極めが難しいところでしょうから、これはある程度手探りになります。
値上がり益を見込むにあたってひとつ気に留めておきたいのが税金です。不動産は売却するときキャピタルゲイン税が発生することになりますが、売却前の過去5年の間、通算2年間自宅として住んでいた家の場合は、シングルの方で$250,000まで、夫婦で$500,000までキャピタルゲインを税控除できるという優遇があります。つまり、引っ越してから3年以内に売却した場合は、大きくキャピタルゲイン税を下げる、あるいはまったく回避することができるわけです。
参考 家を売った時の税金
たとえば以下のような場合を考えてみましょう。
8年前に$400,000で購入した家から引っ越すことになった。現時点での市場価値は$600,000。当初$300,000で組んだモーゲージは、現時点での残高は$240,000で、利子は3.75%。貸し出した場合の予想レントは$2,500。さて売るか、それともレントに出すか。。。
現時点でのキャピタルゲインは$200,000(話を簡単にするために、ふつうキャピタルゲイン計算にはいる改善費や諸経費は無視して考えます)。8年間住んできた家なので、今売ればこの$200,000は非課税で手にすることができます。反対にレントに出せば月々$2,500が入ってきて、ここから諸経費を差し引くとキャッシュフローはそこそこプラスです。今後もある程度の不動産価格の上昇は見込めるので、このまま投資物件として持っているのもよい選択だと思われる。。。
こんな場合の損得計算をしてくれるカリュキュレータがあります。
このカリキュレータを使って計算してみましょう。ちなみに不動産価格の上昇もレント価格の上昇も年に4%だと見込んだ場合、キャピタルゲイン控除できる3年ぎりぎりまでレントしてその後売却すると。。。
引越し時点で売ってしまった場合と、3年レントしてから売った場合とはほぼ同じ効果になります。引っ越し時点で売った場合も3年ぎりぎりで売った場合も、キャピタルゲインは非課税で手にでき、売却関係の諸経費(不動産ブローカー手数料など)がかかり、これはRentの赤線の最期の$380,000から$370,000強への$10,000分の下げに表れています。
これを5年レントしてから売ったとすると。。。
5年レントすると、もはやキャピタルゲイン税控除の恩恵が受けられず、値上がり益に対してキャピタルゲイン税を支払うことになります。5年目のRentの赤線の降下率が、上のケースの諸経費に加えキャピタルゲイン税が含まれ、合計$50,000程度の出費となります。この場合はさっさと売ってしまったほうがよかったということになります。
ここまでは不動産価格の上昇を年間4%と見ていましたので、これを6%に上げると・・・
この場合は、不動産価格の上昇が力強く最後にキャピタルゲイン税がフルに課税されるものの、それを払ってでも有り余るキャピタルゲインが出ているので、レントしたほうが若干得という結果になります。
さらに10年持てば、キャピタルゲイン税を支払ってでも、より大きな得が出ます。
ここでは一律4%なり6%なりの上昇を見込みましたが、もちろん不動産市場がどうなるかを正確には読むことはできないと思いますので、物価上昇がそれほど見込めない場合も、いつか大きく上がるまで持ち続ける覚悟も必要になります。そのような覚悟がない場合は、今のうちに税優遇で値上がり益だけを手にしてさっさと物件を手放すというのもよい選択かもしれません。あくまで個人的な判断ですが、すべての情報を考慮したうえで納得の上判断されるのがよいでしょう。