負債とか借金とかいうと、ふつうはあまりよくないイメージがありますね。日本人は、アメリカ人一般に比べると比較的負債を持ちたくない、できる限り借金はしないという考え方の人が多いように思います。しかしながら現代の私たちは一切借金をしないで暮らせるかというと、ほとんどの人はそうではありません。つまるところ、クレジットカードを使って生活していれば、たとえ月々全額を返済していたとしても、かなり短期間ではありますが借金をしていることになります。お金を全く借りないで生きることは不可能とも言ってもいいでしょう。
ではそんな世の中で、どうやって負債と付き合っていけばよいのでしょうか。今回はローンの良し悪しについて考えてみます。家計の中の賢いローンとの付き合い方を学んでいきます。
借金のメリット
まずは、借金のメリットから考えます。
早く手にできる
何かものを買いたいとき、お金を貯めてから買うのが本来の考え方です。ところが、時によってはそう行かない場合もあります。たとえば、家の購入を考えてみましょう。全額お金が貯まってから買うというのでは、50歳や60歳まで待たなければいけないかもしれません。それでは、人生の多くを自分で家で過ごせないことになってしまいます。
もしローンを組んで家を買えたなら、人生の早い時期に自宅を持つことができるようになります。全額がなくとも、お金を借りて必要なものを手に入れることができるのは大変便利なしくみです。
クレジットをつくる
現代においては、私たちはクレジットと無関係には暮らせません。モーゲージや自動車ローンを組むのはもちろん、クレジットカードを持ったり、アパートをレントしたり、携帯電話の契約をするのにもクレジット履歴が必要です。
どんなに収入が良くても、どんなに資産があっても、全くお金を借りなければクレジットはできません。「借りたお金をきちんと返すことができる」ことの証明がクレジットなので、「お金がある」だけではだめなのです。ですから、クレジットカードやローンを組んで責任を持って返済することが必要になります。借金はクレジットをつくるという重要な役割があるのです。
レバレッジ
レバレッジという言葉は、あまり聞いたことがない方もいらっしゃるかもしれません。「レバー」とか「てこ」とかのほうがなじみがあるでしょうか。「てこの原理」というのがありますね。なかなか動かない重いものの下に「てこ」を入れてぐいっと押すと、案外簡単に動くというやつです。「てこ」というのは、比較的小さな力を大きな力に増やしてくれます。
借金のレバレッジというのは、借り入れを利用することで、比較的小さな自己資金を大きく増やすことです。たとえば、少しの自己資金とそれをベースに借りられるお金とを合わせて株を購入し、大きな投資リターンを狙うレバレッジ取引(信用取引)というのがあります。大きく増やし、借りたお金を返したあとでも、自己資金だけで得られるリターンよりずっと大きな見返りが期待できるというものです。レバレッジは、小さなものを大きく拡大するのです。お金を借りてビジネスを立ち上げ、企業を成長させるというのもこの借金のレバレッジの考え方に基づいています。
借金のデメリット
では、借金のデメリットを見ていきましょう。
コスト
まずはコストです。つまり借金したら利子を払わなくてはなりません。また、借金をするときの審査などの費用として、審査料やクロージング手数料がかかることもあります。
利子の高低は、そのときの市場の状況にも左右されますが、個人のクレジット履歴や抵当のあるなしに左右されます。できるだけ低利子で借りるためには、日ごろからクレジットスコアを良くしておくことが大切です。
抵当というのは、もし借金返済が滞った場合に、売却して換金することができる「価値あるもの」です。モーゲージローンの場合は家、自動車ローンの場合は自動車がそれに相当します。ローン発行の金融機関は、家や自動車を抵当にとり、ローンが回収できなくなったときの保証とします。
このように抵当があったほうが、お金を貸す金融機関としてはリスクが小さくなります。リスクが小さい分、低利子で貸してくれます、一方、抵当がないと、金融機関はローンを回収しそびれて泣き寝入りいうことにもなりかねません。つまり貸付リスクが高いということで、結果的に抵当のないローンの利子は高くなります。ローンを組むなら、抵当があるローンを優先させるべきです。
返済管理
ローンを組んだら返済があります。返済が滞るとクレジット履歴に傷がつきますから、計画的に月々、年々、返済を進める管理が必要になります。
銀行の自動引き下ろしなどを利用すれば、「うっかり滞納」は回避することができます。それであっても、完済までの計画的な管理はきちんとする必要があります。月々の返済は、その分、月々の使えるお金を減らします。ローン返済のために、リタイヤメント積み立てができない、バケーションに行けないということもありえます。ローンを組んだあとの生活まで考えてローンを組み、組んだローンは責任を持って返済する姿勢が必要になります。
失敗すると痛い
滞納するとクレジット履歴に傷がつくだけではなく、滞納した分に利子がつき、負債が雪だるま式に増えるという悪循環に入ります。
また、メリットと思って行ったレバレッジ投資が、「大きなリターン」の代わりに「大きな損失」を産むと、大きな負債となって残る可能性もあります。レバレッジは、小さなものを大きく拡大します。うまくいけば小さな資金を大きな利回りに拡大しますが、失敗すると小さな借金を大きな借金に拡大します。
そういうわけで、レバレッジは対応可能な範囲で行うことが必要です。家のローンの例でいえば、自己資金とモーゲージローンの比率やその絶対額がバランスが取れていることが大切です。このバランスがとれず返済能力のないレバレッジ(モーゲージ)を組んで家を買ったところ、不動産価格が下がって返済不能者が増えたのがサブプライム問題でした。
良い借金
こうしてみてくるとわかってくるのが、よい借金とは以下のような点を備えているものです。
- 抵当がある
- 利子や手数料が低い
- 月々の返済が十分できる範囲のものである
- 対応可能なレバレッジである
これらに当てはまるのは、モーゲージローン、エクイティローン、自動車ローン、スモールビジネス・ローンなどです。
自動車ローンについては少し微妙で、ものによっては利子がかなり高い場合もありますから、その場合はここには入りません。
また一般的に、スチューデント・ローンも「良い借金」に含まれることがあります。ただスチューデント・ローンの場合、物理的な「抵当」はありません。将来の収入への「投資」と考えられることもありますが、将来的なリターンの価値が簡単に推し量れません。将来仕事からどのくらいの給料が期待できるかはっきりわからないことも多いからです。借りすぎると、「レバレッジをかけすぎる」ことになります。どこまで借りるかは慎重に考える必要があります。
悪い借金
対極にある悪い借金は、以下のような点を備えているものです。
- 抵当がない
- 利子や手数料が高い
- 月々の返済能力を超え、やりくりを困難にする
- レバレッジが高すぎて、失敗したときに大変なことになる
これらに当てはまるのは、消費者ローン、クレジットカード負債などです。
クレジットカードを使うのは問題ありませんし、クレジット履歴を維持したり、カードの特典を利用する面ではかえって推奨されるべきものです。しかしながら、クレジットカードを使ったら、基本的に月々支払いきること、つまり1か月以内の負債に抑えることが肝要です。1か月以内であれば利子がつくこともありません(カードによっては稀につくこともあります)。
先に紹介した株式のレバレッジ取引(信用取引)と似た例で、レバレッジをかけて外貨やクリプトカレンシーや不動産物件などを購入するというやり方もあります。これらはそのリスクや失敗時の対処法をよく理解して行うならよいですが、気軽に行えばたいへん悪い借金になり得ます。 パーソナル・ファイナンスでは、クレジットカードは月々完済し、必要に応じてよい借金を取り入れながら、計画的に返済を進めていくというのが推奨されます