リスク・マネージメント ― 家計を守る保険たち

人生にはリスクがつきものです。私たちはリスクをとることなしには生きることができません。自動車を運転すれば事故に遭うリスクはつきものですし、旅行に行けば携行品を盗まれるリスクもあります。だからといって、運転はやめておくとか、旅行には行かないという人は少ないでしょう。みんな、リスクをとって生活しているのです。

リスクをマネージする保険

でもそのリスク、もしも本当に現実化してしまったら困りものです。ちょっとした事故やケガなら、それほど大きな問題もなく立ち上がれるでしょう。でも、家が火事で焼けてしまった、大きな病気になり仕事ができなくなった・・・このような問題が起こると家計の継続が難しくなります。リタイヤメントやお子さんの学資のためにコツコツお金を貯めていても、このような予期しない問題が起こると、それまでのファインシャルプラニングがいっきに崩れてしまう可能性もあります。

そのような可能性をなるべく低くし、もし万が一のことがあってもファイナンスの面でなんとか立ち行くようにするために保険を使います。保険によって「リスクを管理する、コントロールする」という考え方から、これをリスク・マネージメントと呼びます。このリスク・マネージメントは、パーソナルファイナンスの要素として大変大切です。

保険のしくみ

私たちは、自分がいつどんな交通事故に遭ったり、いつどんな病気になったりするかは予測することができません。その確率を計ることもできなければ、事故や病気がどのくらいの度合いなのか、どのくらいお金がかかるかも予測がたちません。

一方で、多くの人が集まって集団となるとき、その集団の中で、一年のうち何人くらいがどのくらいの頻度でどんな交通事故に遭ってどのくらいの被害に見舞まわれるかかは、確率的に予想することができます。これをやっているのが保険会社で、保険会社はその確率を十分に正確に計算することによってリスクを定量化し、それぞれのリスクにいわば「価格」を付けます。私たちは、そのリスクをコントロールするために、その価格(保険料)を払い、リスクを保険会社に肩代わりしてもらいます。

家計が必要とするいろいろな保険

保険には実にさまざまな種類がありますが、パーソナルファイナンスにおいて、多くの人が考慮すべき保険について簡単にまとめてみます。

健康保険(Health Insurance)

病気、けがに対するリスクをカバーします。取得の方法は大きく二種類に分かれます。雇用主のベネフィットの一環として提供されているプランに参加する方法と、個人で購入する方法です。一般的に雇用主提供の場合、雇用主がコストをある程度まで負担してくれることも多く、そのため個人購入のものより保険料が安いです。いずれにせよ、さまざまなプランの中かから、自分のニーズに合うものを選択をする必要があります。自分たちにとって、もっともリスクだと思われる部分をしっかりカバーし、自己責任としてリスクの残る分(CoinsuranceやCopay)については家計の中で無理なくカバーできるようバジェットを用意をしておく必要があります。

アメリカでは、歯と目はそれぞれ別に保険があります。Dental Insuranceは、歯医者さんでのクリーニングや虫歯などの処置、場合によっては歯科矯正などをカバーします。Vision Insuranceは、視力や目の健康検査、眼鏡やコンタクトレンズをカバーします。これらは、雇用主のベネフィットの一環として、保険料がかなり低い形で提供されることが多いです。その分、年々の補償限度額もそれほど大きくありません。大きなリスクを補償する保険というよりは、ベネフィット・プランと考えたほうがいいかもしれません。

一方で、歯でも目でも、「医療措置が必要なもの」に関しては健康保険でカバーします。たとえば、Vision Insuranceを使って眼鏡を作りに行ったところ、緑内障を疑われたというような場合、緑内障の検査や治療は健康保険でカバーされることになります。

自動車保険(Auto Insurance)

事故で、相手に負わせた被害、器物の破損ダメージ、自分の車へのダメージなどをカバーします。各州が、必ず購入しなければならない自動車保険の最低補償ラインを決めています。ただ、この最低補償ラインは本当に「最低ライン」で、実際事故になったら決して十分なものではありません。

また、同じ事故を引き起こしても、訴訟される可能性は、所得が高かったり資産が大きいほうが高くなります。「どれだけ守るべきものがあるか」が、どれくらいのリスクがあるか/どれくらいの補償が必要かを決めるのにかかわってきます。

ホームオーナーズ保険(Homeowner’s Insurance)

火災や落雷・暴風などの自然災害による持ち家への被害や、プロパティで起こった事故などのライアビリティをカバーします。モーゲージを組んで家を買う場合は、ホームオーナーズ保険の加入が必要条件になる(保険に加入していなければ、抵当をとる金融機関がモーゲージローンを貸し付けてくれない)のがふつうです。保険料も、月々のモーゲージ元金の返済と合わせて支払うのがふつうです。

自然災害といっても、一般的には地震の被害や水害はカバーしません。お住まいの場所やそのリスクによって、Flood Insurance、Earthquake Insurance、Hurricane Insuranceを別途購入することも考慮に足ります。

また持ち家ではなくレントをしている場合は、プロパティの中にある所持品への被害をカバーするRenter’s Insuranceというのがあります。

アンブレラ保険(Umbrella Insurance)

アンブレラ保険は、その名のごとく傘のようにおおう保険です。具体的には、自動車保険とホームオーナーズ保険の上に傘をかけ、この二つのいずれかの保険が上限まで補償してもまだ足りない部分を、このアンブレラ保険が補償します。

自動車保険か、あるいはホームオーナーズ保険で、選択できる補償の上限まで契約していて初めてアンブレラ保険を購入することができます。多くの場合、自動車保険、ホームオーナーズ保険、アンブレラ保険は同じ保険会社から買います。こうすることでMultiple Line Discount(同じ会社から複数の保険を買うことによるディスカウント)が受けられます。収入や資産がある程度以上あり、守るべきものが大きい人は購入を検討すべき保険です。

生命保険(Life Insurance)

早期死亡のリスクをカバーします。家計を担う人に万が一のことがあると、残された家族は収入の糧を失います。もしものことがあっても、経済的に立ち行かなくなることがないように、早期死亡の場合に必要な金銭的補償を得られるように買う保険です。

早期死亡があっても、そのことで金銭的に大変な状況にならないのなら、生命保険でカバーすべきリスクはありません。たとえば、お子さんには生命保険は不要です。その人が亡くなって悲しいことと、生命保険でカバーしなければならないリスクがあるかどうかは全く別のことです。

さらには生命保険は人生のフェーズでも必要度が変わります。家を買ったばかりの子育て時代には大黒柱に大きな責任がありますが、子どもが自立してモーゲージ返済も済んだリタイヤメント夫婦の場合にはそれほど大きな責任がないのが普通です。その時々に存在するリスクを認識し、必要なだけの生命保険をキープします。

大きく分けて二つのタイプがあります。ひとつは定期生命保険(Term Life Insurance)といい、必要な期間だけ必要な補償を買う掛け捨て保険です。もう一つは終身生命保険(Whole Life Insurance)といい、その名のごとく終身をカバーし、このタイプのものは貯蓄や投資機能が含まれていることがふつうです。

所得補償保険(Disability Insurance)

けがや疾病によって働けなくなる場合のリスクをカバーします。多くの場合、雇用主からベネフィットの一部として提供されることが多いものです。専門的な仕事についておられる方は、その専門のProfessional Association(学会、職業ライセンスによる団体など)を通じて加入することも可能なことが多いです。個人でも契約することもできますが、保険料が割高になりがちです。

所得補償保険には補償が短期のもの(3か月から6か月程度まで)と長期のものがあります。大きなリスク補償という意味では、長期のもののほうが必要度が高いです。補償される所得は、現在の所得の2/3程度までが限度です。

長期介護保険(Long-term Care Insurance)

ナーシングホームや家庭での介護ヘルパーなどが長期的に必要になるリスクをカバーします。ナーシングホームのコストは州や市によっても大きく開きがありますが、都市部などでは1か月に$10,000を超えることも珍しくありません。長期介護はリタイヤメントの最後のフェーズで必要となることが多く、最後の最後で困らないようにするための保険です。

一日$100とか$150を限度日数まで補償するというタイプが多いです。保険料は安くはなく、また年々保険料が上昇する傾向があり、さらには掛け捨てであること、使わなければそれまで、途中でやめてもそれまで・・・というきびしさもあり、購入はそれなりの吟味と覚悟が必要です。

最近では生命保険と長期介護保険が組み合されたハイブリッド商品も出ています。

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