上がりはしても決して下がらないアニュイティ(2)

「もし市場がマイナスになっても、残高が絶対減らないプロテクションのついたアニュイティを購入しようとしているのですが、どうでしょう?」というご質問も最近よくお受けします。アニュイティの中でもFixed Index Annuityという商品に焦点を当て、前回はそれがどのような商品なのかについて調べてみました。今回は、その購入をどう決断したらよいのかについてポイントを考えてみます。

前回も書いた通り、アニュイティは大変複雑で、その提供する価値とコストを具体的に把握して、買うか買わないかを理性的に判断するのが大変難しい商品だと感じています。決断にあたっての不確定要素も多く、いつまで生きるか、アニュイティでの運用結果はどうか、それに応じて月々いくらもらえるのか、契約時点でははっきりしません。複雑で変数が多いアニュイティですが、吟味のとっかかりとして、まずは部分ごとに分割して考えてはどうでしょう。増やすための「運用部分」と、アニュイティ額を決定してもらい始める「年金化部分」を分けて考えます。

年金化ニーズがメイン

運用部分と年金化部分とに分けた場合、まず考慮すべきは年金化部分のニーズだと思います。アニュイティを購入した方がいいかどうかの最重要の鍵となるのは、年金を受け取るニーズがどのくらいあるかです。将来リタイヤメントに入ったとき、月々決まった額を受け取る必要がある、そしていつ死ぬにしてもそれまでその固定額を確保したいという年金化の部分への必要性こそが、アニュイティで満たされるべき部分です。

リタイヤ後の固定収入は大変心強いものです。ソーシャルセキュリティはその固定収入の最たる要素ですが、それでは足りない場合も多く、その場合はアニュイティで補っていくことになります。固定収入により月々の生活費のやりくりが楽になるとともに、それが一生確保されることは大変に心強い安心です。

アニュイティの購入を考えている場合には、まずは老後の基本的生活費がいくらくらいなのか、それに対しソーシャルセキュリティではどのくらい固定収入が期待できそうなのかを、ざっとでいいので査定する必要があります。もしも、ソーシャルセキュリティで月々の生活費の大部分がカバーできそうであったり、余興/旅行などの変動費は固定収入でなく都度引き出す形で対応したいのであれば、敢えてアニュイティを購入する必要は低いといえます。年金化の部分こそがアニュイティの存在意義ですから、この部分へのニーズがないのなら、たとえ運用のニーズがあったとしてもアニュイティは購入すべきでないケースがほとんどです(高額所得者の節税や相続目的など他の利用法はありえます)。

運用にはどうか

では、年金部分のニーズはさておき、運用のためにアニュイティを買うというのが理に適う場合があるでしょうか?「年金がどのくらい必要かわからないが、とりあえず着実に増やしておいて、できるだけ年金がもらえたらうれしい」というような場合、アニュイティの購入をどう決断したらよいでしょうか?

投資運用は、市場(需要と供給で適切な価格がつく場)というものがある限り、高リスク・高リターン、低リスク・低リターンというように、とるリスクと、リスクをとった結果手にするリターンのつりあいがとれています。株式インデックスファンドに100%投資すれば、かなりの高リスク・高リターンです。Fixed Index Annuityを通して保険会社との契約に入れば、手数料を払う代わりに、市場下落の影響を受けなくていいようにプロテクトしてもらえるわけで、リスクが低くなり、そして手数料の分リターンも低くなります。アニュイティのパンフレットを読むと、「悪くても利回りはゼロ。市場成績がよかったときだけ残高が増える」と書いてあるので、リスクだけ低くなり、リターンはそのままのように誤解したりもしますが、そうではありません。前回の記事で書いたように手数料/チャージ/料金として引かれるものがありますから、リターンは確実に限られます。

誰でも市場下落は怖いもの。その影響をリミットするリスクの調整にはいろいろな仕方がありますが、広く一般的に行われているのは、株式インデックスファンドに加えて債券インデックスファンドを混ぜ、その比率を調整することで自分のとれる/とるべきリスクレベルに下げてやる方法です(アセットアロケーション)。Vanguard、Charles Schwab、E*tradeなどに代表される金融機関で投資ファンドの購入をすれば、かかる費用は年々のExpense Ratio(ファンド手数料)のみ。多くの場合、低手数料ファンドなら0.20%以下です。

年々0.20%以下の手数料で、株式インデックスファンド60%:債券インデックスファンド40%程度で組んだ場合、株式100%の時に比べればかなりリスクは下がり、市場の上下による残高の上がり下がりのブレが少なくなることになります。だからといってマイナス利回りがなくなるわけではなく、前年から残高が下がることも大いにあり得ます。ただし10年以上の長期投資で考えれば、一時的にマイナスになった残高はいつか回復し、さらに右上がりで伸びていくのが、市場の歴史の中で確認されています(将来も必ずそうなるという確約ではありませんが)。

一方で、Fixed Index Annuityで運用すれば、市場が悪くなっても絶対残高は減ることがないという安心があります(実際は、手数料が多いアニュイティでは、0%のリターンでも毎年引かれる手数料の分残高が減ることがありますが)。減ることがないという安心の代わりに手数料を支払うわけで、その分リターンは下がります。よって、リスクの調整を、「下がることもあるが、長期的に見れば右肩上がりが期待できる低手数料ファンド投資」でするか、「絶対下がらない保証を多めの手数料をはらって得るFixed Index Annuity」かの選択になります。

この二つの選択でどちらがいいかは、その投資なりアニュイティを保持する期間の市場の動きによりますので、あらかじめどちらがいいということは断言できません。とはいっても、それでは議論が始まらないので、ある程度想像をつけるために下の表をつくってみました。

  • S&P500市場インデックスをベースにしたFixed Index Annuity(80%Participation Rate+6%のCapを想定。その他のFeeはとりあえずなしと仮定)=ブルー
  • 株式インデックスファンド60%:債券インデックスファンド40%で混ぜリスク調整してあるVanguard Balanced Index Fund=グリーン

どちらも初期投資として$50,000を投じ、2005年から2019まで持った場合を考えることにします。

S&P500がマイナス利回りを記録したのは、2008、2015、2018年の3回。アニュイティを持っていれば、これらのマイナスの被害は全く受けずに、残高が増え続けました。

一方で、Vanguard のBalanced Index Fundの場合、債券ファンドを併せ持つことでリスク低下が測られ、S&P500の下げ幅ほど下げずに済んでいるのがわかります。3回のマイナス利回りのうち2015年はマイナスにならず0.76%のプラス。2008年はS&Pは-38.49%であったのがBalanced Index Fundは-22.04%どまり、2018年はS&Pは-6.24%であったのがBalanced Index Fundは-2.80%どまりとなっています。債券を混ぜることでのリスク低下のパワーが見て取れます。

たしかにVanguard Balanced Index Fundは、2008年と2018年は前年割れをしているわけで、残高が減ったのがわかります。ただ、減ったものの、また戻す市場の機能があり、結果的にはアニュイティを上回る残高の伸びがあったことがわかります。

ここからわかることは、運用においては、株式:債券の比率を調整してやることで、リスクの調整をはかり、あらかじめ市場悪化は想定に入れて持ち続ける方法(ここではVanguardの低手数料インデックスファンド=手数料0.07%を利用しました)のほうがよさそうに見えるということです。

ただ、上の表がすべてかということそういうわけではなく、条件の良いアニュイティであれば、そちらのほうが良い結果を生む可能性もあります。Participation Rateが高く、Capが低く、その他の手数料が総合的に低いアニュイティが見つかれば、上の同じ期間であっても、もしかしたらアニュイティのほうが成績がよいこともないとはいえないでしょう(上の期間だとCAPが12%くらい、他の手数料なしではじめてBalanced Index Fundの成績ととんとんになります)。

また、上の期間よりももっと市場の状態が悪い年数が多い場合はアニュイティのほうが有利になる可能性が高いです。たとえば2000年当初のように10%以上の市場悪化が3年も続いた場合などは、アニュイティの方が成績が良くなる(もちろん保持期間によりますが)こともあると思います。

よって、つまるところ、市場の状態に対しどのような期待を持っているか(これからかなり悪い時が続くと信じるか、これまでのパターンに倣い1年悪くても数年以内には復活しまた成長期に戻ると信じるか)に行きつくかと思います。株式市場の動きは著名なエコノミストでも正確に予想することが困難です。つきつめると信じるところの問題なので、結局は個人の判断となります。ただ一つ確実なアドバイスは、もしアニュイティを選ぶなら、とにもかくにもなるべく条件のよいアニュイティを探すということです。

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2 comments

  1. Adminさま、

    日本に帰国する人が401kやIRAからAnnuityにロールオーバーする人が居ると聞いています。 あるエージェントから説明を受けたのですが、「契約次第だが、Annuityはいつでも好きな時に好きな額だけ引き出せる」と聞きました。 また海外送金も小切手でできると聞きました、もしそれが本当であれば、帰国者からすれば401kからロールオーバーしてAnnuityにした方が元本補償で良いような気がします。 Annuityで何かルールが変わったのでしょうか?

    小切手の海外送付はできないという話も聞くのでどれが正しいかわかりません。
     
     
     
     
     
     

    1. 私もよく知りませんが、Annuityも会社によって対応が違うのかもしれませんね。知人の保険ブローカーさんは、自分が扱っているAnnuityは払い出しはふつうアメリカ側の口座に入金、それをお客さんが日本へ自分で送金するのが基本と言っていました。小切手はたとえ送付してもらえても日本での換金がたいへんかもしれません。好きな時に好きな額だけ引き出せかは、Annuityの契約内容によると思います。
      アメリカ非居住者になると投資口座の維持が不可になる(IRAや課税口座で。401に関しては通常継続維持が可能です)ことを考えると、Annuityは一度契約して帰国すればその契約はずっと行きますので、そちらのほうがいいという考え方は理にかなうと思います。

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