上がりはしても決して下がらないアニュイティ(1)

株式市場に不安がある時期には、「着実に入る配当金や利子が出るファンド」や「上りはしても下がらないアニュイティ」などの人気が上がる傾向があり、前回はこの前者のケースの配当金や利子を出すIncome Fundについて取り上げてみました。今回は、後者のアニュイティを見てみましょう。「もし市場が今回のCovidのように大きく下げても、残高は決して下がらないプロテクションのついたアニュイティというのを購入しようとしているのですが、どうでしょう?」というご質問も最近よくお受けします。アニュイティは目的にあったぴったりの使い方をすると大変に素晴らしいものである反面、よくわからず適当に購入すると残念なことに終わる可能性のある商品です。今回は、アニュイティの中でもFixed Index Annuityという商品に焦点を当てて、考えてみようと思います。

ネーミングも内容もさまざま

アニュイティほど、商品を理解するのに難解なものはないと常に思っておりますが、その難解さはネーミングにおいても同様です。Index Annuity、Equity Indexed Annuity、Fixed Index Annuityなどいろいろな呼び方がありますが、基本的にこれらは同じようなタイプのアニュイティです。各保険会社が好きなように魅力的な名前をつけますので、いろいろバリエーションが存在します。また、同じ名称で呼ばれるアニュイティだからといって内容がまったく同じということはほぼありえず、中身の条件設定にもかなりのバリエーションがあります。ここでは、Fixed Index Annuityという名称で内容を見ていきますが、あくまで典型的な一ケースということでご理解ください。

Fixed Index Annuityは、何らかの市場インデックス(S&P 500, Nasdaq, Russell 2000など)の成績をベースにして、将来的に受け取る年金額(アニュイティ額)、あるいはそれが計算されるベース額が決まる保険商品です(アニュイティは保険商品であり、投資商品ではありません)。株式市場に対し直接投資するわけではなく、市場インデックスの成績をベースに受取額が決められるものです。契約により、市場が下がった(マイナス)になった場合でも、損失からは守られ、前年度の残高が据え置かれるという「プロテクション」がついています。

この「プロテクション」はもちろん無料ではなく、その代わりに、市場が伸びたときにも、その利回りをそのまま手にすることはできず、手にできない利回りは保険会社のものとなります。つまり、マイナスもプラスも保険会社とシェアすることで、ロスもない代わり大きなリターンもないというものです。直接インデックスファンドに投資するのと違い、保険会社との契約によって、市場インデックスのパフォーマンスから受けるロスとゲインに限度が施されるわけで、その契約の内容をよく理解する必要があります。またこの契約の内容がかなり複雑でもあります。

投資ではなく保険

前述のとおりFixed Index Annuityは投資ではなく、保険です。そもそもアニュイティは、長生きリスクに対しての保険として開発されました。生命保険が「早死して収入がなくなり、残された家族が困るリスク」に対する保険である一方で、アニュイティは「長生きしすぎてリタイヤメント資金が枯渇するリスク」に備えて、生きている限り決まった年額(アニュイティ額)がもらえる保険契約なのです。

よく、「投資ファンドをVanguardとか一つの金融機関に持っていても大丈夫ですか?」「金融機関も分散したほうがいいですか」というご質問を受けます。投資ファンドに関しては、投資家本人がファンドを「所有」しており、金融機関はそれを保管管理してくれる倉庫のようなものなので、もし金融機関がつぶれたとしても投資ファンドがなくなるわけではありません(くわしくは、ファンドはいくつかの投資会社に分散投資がいい? )。一方で、アニュイティの場合は、保険会社と個人の一対一の契約であり、保険会社がつぶれたらアニュイティの将来の支払いがなされない可能性は大いにあります。よって、生命保険でもまたアニュイティでも、保険の契約においてはその保険会社の財務の健全性、将来的なビジネスの継続維持の力を確認する必要があります。

運用は得意ではない

本来は保険商品ですから、力強く運用して増やすことにかけてはアニュイティは不適であることが多いです。直接投資であれば、ファンド手数料(インデックスファンドなどが課すExpense Ratio)だけ払えば済むところ、アニュイティは保険契約であるがゆえに、追加でいろいろな手数料がつきます。

よく「このアニュイティは手数料はないと言われた」というのをお聞きするのですが、それが本当なら保険会社は利益が出ないことになってしまいます。何をもって「手数料」と呼ぶかという定義がずれているのだとは思うのですが、アニュイティには必ずいろいろと引かれる手数料、チャージ、料金というものがあります。それらすべてが決して悪いものではなく、必要なサービスに対しての代価なら喜んで払うべきです。肝心なのは、そのサービスが自分に適切であるか、自分のニーズにあっているかの判断を個々人がすることです。

Fixed Index Annuityの手数料

それぞれのアニュイティで設定されている手数料やその名称はまちまちですが、以下のようなものがあります。これらは口座残高から年々引かれる形で課せられます。明確に、Statementで“〇〇Fee”と表示されるものもあれば、すでに引かれた形で残高表示がされる場合もあり、何がどれだけ引かれているのかはわかりにくいケースもあります。ただ、どんな手数料、料金、チャージがあるかは保険契約を読めばかならず開示してあります。

Return Limit/Cap:

市場成績が良かった場合、契約者が享受できる利回りと、保険会社がキープする利回り部分とが決められています。どれだけを保険会社がキープするのかがReturn Limits とかCapと呼ばれます。たとえば、このリミットが5%であるなら、市場利回りがどんなに大きくとも、5%を超えた部分は保険会社の取り分となります。

Participation Rate: 

Return Limit/Capの代わりに、またはそれに加えて、Participation Rateが設定されている場合もあります。市場利回りのうちParticipation Rateの分だけが契約者のものとなります。たとえば、その年の市場成績が8%で、Participation Rateが50%なら、4%を受け取り、4%は保険会社がキープします。

Spread/margin/asset fee: 

こちらはパーセンテージで表示された固定費用です。たとえば、その年の市場成績が8%で、このFeeが3%なら、5%のみを受け取ることになります。

Mortality Expenses:

長生き保証の保険料金部分です。生命保険に保険料があるのと同様、長生き保険のアニュイティには保険料があります。また、この部分がマーケティング/販売にかかる費用もカバーします。

Administration Fee:

一年にいくらというような形で固定費として課せられることがあります。

Riders(特約) Fee;

Riderはつけなければ余分に費用は発生しませんが、つければつけた分だけ(複数のRiderを契約することが可能)料金が発生します。たとえば、契約期間中、「最低利回りを確約するRider」などは魅力的に聞こえますが、同時に料金が年々発生するので、契約する価値があるかは吟味が必要です。

Surrender Charge:

契約後何年かの間にキャンセルした場合、あるいは一定額以上を引き出した場合に課せられる費用です。この額は大きいので、当面は絶対必要のないお金だけをアニュイティに入れます。

手数料にはこれ以外のものもあるかもしれませんし、この全部をすべてのアニュイティが課しているわけでもありません。いろいろなコンビネーションがありますので、どんな費用(手数料、チャージ、料金)が間接的、直接的に引かれるのかをきちんと確認する必要があります。

よく「このアニュイティはどうでしょう?」と、年々どう残高が増え年金額がいくら受け取れるかを試算したシミュレーション表を見せてくださるお客様がいらっしゃるのですが、それらのシミュレーション表は、ある程度の前提をもとに計算してみた表にすぎません。前提の一番大きな要素は市場の動きであり、これはだれにも正確に予想することが難しいので、そのような表はかなり大雑把な目安でしかなく、決断をするには不適切なものです。どちらかというと決断に必要なのは、上記であげたようなどのような手数料、料金、チャージがあるかを洗い出し、それが自分のニーズに合うかどうかです。アニュイティ購入も、ものを買う時と同じように、料金と価値のトレードオフで決めるべきです。すべての料金を把握した上で、得られるベネフィットと比較します。

難しいのは、あまりにも変数が多いことです。市場がどう動くかわかならい、自分がいつまで生きるかわからない、手数料なども市場利回りに基づいているので、きちんとした比較検討が困難です。頭が痛いですね。その辺り、次回に考えてみましょう。

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