「月々配当があるからよい投資」は本当?

Covidの影響で今春、6週間で約35%下落したUS市場ですが、その後歴史的にも類を見ないスピードで値を戻しました。一方で、実際にはまだまだ経済はダメージを受けており、多くの企業利益は落ち込み、失業者数も大きな改善が見られず、ワクチン開発にも未だ少しばかりの時間がかかりそう・・と、実質的な状態と株価の乖離があるのではないかという疑心暗鬼も存在しています。こんな中、月々案外調子よく、目に見える形で入ってくる配当金があると、なんだかほっとする気持ちにもなります。実際、株式市場に不安がある時期には、「着実に入る配当金や利子が出るファンド」や「上りはしても下がらないアニュイティ」などの人気が上がります。今回はこの前者のケースをとりあげて、このようなファンドに対しての利用のポイントなどを考えてみます。

Income Fundとは

多くの場合、このような配当金や利子が毎月受け取れるように工夫したファンドをIncome Fundと呼びます。ここでのIncomeというのは、給料などとは関係なく、投資から得られる配当金や利子のことを言います。Income Fundというのは、ふつうはリタイヤした後、月々の生活費確保が必要な人のニーズを満たすために使われることが多いファンドです。裏返して言えば、リタイヤメントに入る前の老後資金を貯めているフェーズでは、通常はあまり使われないファンドでもあります。

ではあるものの、株式市場に不安感が高い昨今では、資金を力強く運用すべきフェーズであっても、このようなIncome Fundを購入される方も増えているように感じています。このIncome Fund、運用フェーズで投資してはいけないということは全くありませんが、ただ「毎月配当金があるからよい投資」と単純に決めるのは少し短絡的である可能性もあります。

トータル利回りで考える

投資運用においては、総合的なリターン(利回り)を考慮する必要があります。株式の場合の利回りは、企業が投資家に利益に応じて配分する配当金と、企業努力によって株式が値上がりしていくための値上がり益(キャピタルゲイン)を合わせたものです。もちろん配当金は、状況によってはまったく支払われないこともありますし、株価が下がってキャピタルロスとなることもあります。

株式のトータル利回り=配当金+キャピタルゲイン

債券の場合の利回りは、決められている通りに支払われる利子と、それから株式ほどは期待できないものの、企業と市場の状況の変化によっておこる値上がり益(キャピタルゲイン)を合わせたものです。利子は、最初に「〇パーセントの利子を払います」という約束があるわけなので、配当金とは違いふつうは決められた利子が入ってきます(不履行=デフォルトにならない限り)。債券の値動きは、株式ほど激しくないものの、もちろん値が下がりキャピタルロスになることもあります。

債券のトータル利回り=利子+キャピタルゲイン

Income Fundの中でも、債券をメインに使い利子によって毎月のIncomeを確保するものもありますし、配当金を多く払う株式で組み、配当金によってIncomeを確保するもの、あるいはそのコンビネーションもあります。

リタイヤメント前の運用フェーズで大切なことは、このトータル利回りにフォーカスを当てることです。配当や利子だけのIncome部分がたくさんあるからといっても、キャピタルゲインを合わせたトータルで考え併せたとき、必ずしもトータル利回りがよいかどうかはわかりません。

たとえば・・BlackRock High Equity Income Fund A

たとえば数あるIncome Fundのうち、例としてBlackRock High Equity Income Fund Aというのを見てましょう。このファンドは株式に焦点を当て、US株式74%:外国株式23%:その他3% で組まれ、Income(配当金)確保を目的につくられたファンドです。これと比較するものとして、Vanguard社の低手数料・基本的インデックスファンドで、US株式74%:外国株式23%:その他3%で組んだポートフォリオを考えます。こちらは、配当金にこだわらず、キャピタルゲインを含めたトータルな利回り確保を狙い、全世界市場全体を対象として投資しているものです。

左がPortfolio A:BlackRock High Equity Income Fund (Share A)

右がPortfolio B:VanguardのTotal Stock Market(US株式)とTotal International Stock Market (外国株式)で世界分散したもの

まず、下でExpense Ratio(ファンド手数料)を見ると、Aが1.41%、Bが0.042%です。Aは配当金を着実に多く生む株式を「調べて選んで」投資する必要があり、その手間料としてて手数料が高めです。Bは、市場インデックスに従って全体を持つインデックスファンドなので、手数料は極小です。

また、12month portfolio yield(配当金/利子などIncome部分に関しての利回り。キャピタルゲインを含まない)は、Aは俄然大きく6.35%であるのに対し、Bはわずか1.88%です。$10,000投資していたら、Aなら$635/年の配当金が入ったのに、Bだと$188です。

では、配当金の利回り(12month portfolio yield)ではなくて、もう一つのトータル利回りの要素であるキャピタルゲインのほうはどうでしょうか。下のPotential Capital Gain というところを見てみると、Aのほうは-5.86%、Bのほうは33.24%とあります。Potential Capital Gain というのは、現在キャピタルゲインとして内包されている利回り部分です。今まで値上がりしてきたけれど、まだ売却されたわけでないのでキャピタルゲインとして固定されていない含み益です。

Aは配当は高いがキャピタルゲインが低く(マイナスで)、Bは配当は低いがキャピタルゲインが高いといえます。配当を受け取ることが大変に重要な場合はAのほうを選ぶことも理に適いますが、リタイヤメント資金を貯めて増やそうとしているフェーズでは、おそらくBのほうが理に適うケースがほとんどだと思います。

なお、ファンドに含まれている株式数を見てみるとAは67株式と42債券(主に株式に転換できる転換社債で株式とカウントされています)という限られた数字ですが、Bのほうは10,847株式に投資しています(債券のほうは、3%入れているおまけ的な存在なのでここでは議論から省きます)。全世界市場へのリスク分散という意味で、Bが優れているのがわかります。Aは配当金確保にごだわっているため、分散を犠牲にし特定の条件を満たす株に偏っての投資になっています。

下の表を見ると、Aでは偏りがLarge Cap Value株(配当を出す大型株)とMid Cap 株_に集中しているのがわかります。Large Cap Growth株(株価が伸びると期待される株)は除外されています。たとえば、Apple、Amazon、Microsoft、Facebook、GoogleなどBでは筆頭で含まれている成長株が入っていません。BはLarge(Value+Growth)、Mid、Smallがすべて時価総額比率に応じて含まれており、全世界市場をまんべんなくカバーしています。

パフォーマンスを見てみると以下の通り。赤がA、黒がBです。なお、ここでは、受け取った配当金は再投資によってファンドに戻すと仮定しています。課税口座を前提にしており、世帯収入$150,000のMarried Filing Jointly、22%のタックスブラケットの家庭を前提にしています。

なお、401(k)やIRAなど利回り(配当金もキャピタルゲインも)が非課税で運用される口座では、配当金が出ても(59歳半前に引き出すことはふつうできませんが)課税がない一方、課税口座でこのファンドを持っていると、たとえ配当金を引き出して手にしなくともその年に税金を払うことになります。課税口座では、実際に受け取って生活費として使う必要のないのに、配当金を出すようなファンドには投資しないのが一番です。できれば値上がりで伸ばしていける(キャピタルゲインが主な)ファンドで運用し、将来的にリタイヤして年収が下がり税率も下がってから、低い税を払って換金するほうが望ましいと思います。

なお、もうひとつ、このファンドはBlackRock High Equity Income Investor A という名前で、最後のAというのはShare Class Aということなのですが、このShare Class Aというのは、アドバイザーなど仲介者を通して買ったもので、販売手数料(Sales Load)を課すものであることを意味します。このファンドは販売手数料が5.25%(投資額からこの分が引かれて、投資される)であり、加えて上で述べた年々かかるファンド手数料(Fund Expense)が 1.10%です。

同じファンドであっても、買い方によって仲介者を介すか、ブローケージ会社から直接買うか、それとも401(k)などのプログラムを使って買うかでShare Classが変わり、Share Classが変わると手数料が変わります。同じファンドでBlackRock High Equity Income K(Share Class K)というのもあって、これは直接買う方です。Vanguardなどで直接買えます。この場合は、販売手数料はなし、ファンド手数料は0.80%です。

まとめると、上図でのAとBパフォーマンスの差は、1)年々からかるファンド手数料(Expense Ratio)の差、2)年々かかる配当金への課税、3)分散の度合い(なるべく広く持つか、限られた者だけ持つか)の差、そしてこの図では直接考慮されていませんが、販売手数料の差(Aは差し引かれたところからのスタート)ということになります。

リタイヤメント前の運用フェーズでは、Income Fundではなく、低手数料の基本的インデックスファンドで力強く増やしていくことがお薦めです。どうしてもIncome Fundにこだわりたい場合は、その理由を明確にするとともに、できればブローケージでの直接投資が好ましいと思います。

*なお、たとえリタイヤしてから、生活費確保が必要なフェーズになっても、分散に偏りのあるIncome Fundより高分散のインデックスファンド投資が望ましいという内容を扱っているのが、こちらです。分散投資は市場全体の伸びをキャプチャーするという意味で、大変重要な意義があります。

老後に利子と配当金だけで生活する・・・は現実的?

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