老後に利子と配当金だけで生活する・・・は現実的?

リタイヤメントに向かって貯めている間の投資の王道は、それなりにリスクをとって株式比率を上げ、株式インデックスファンドと債券インデックスファンドを組みあわせたポートフォリオでの運用です。最近では、自分で株式ファンドと債券ファンドを組み合わせなくても、リタイヤメントのターゲット年を選べば、ふさわしいリスクレベルですでにファンドが組み合わされたターゲットデイトファンドも人気があります。これがいったんリタイヤすると、いきなり貯めるフェーズから引き出すフェーズに180度お金の流れが変わることになります。一生懸命貯めてきた資産、できるだけ減らしたくないと思うのは普通のこと。できれば、利回りだけで生活していけたらよいのに・・と誰もが思います。たとえば1990年にリタイヤした人達は、1年もの定期(CD)の利子がなんと9%でしたから、利回りだけで生活していくということは全くもって可能でした。ところが、現在では利子は2%前後をうろうろしていますから、銀行預金の利子だけではなかなか生活費はカバーできないのがほとんど(もちろん元金が相当あれば、可能な場合もありますが)です。銀行預金だけとはいわなくても、できるだけ利子や配当金など受け取れる現金を大きく確保し、なるべく元金に手をつけないで運用したい・・・と思うのは人情。今日は、そのような方法にはどんなものがあって、それらは有効な方法なのかについてみてみたいと思います。

利回りに焦点を当てたポートフォリオ

投資ファンドから受け取れる現金のことを、英語ではIncomeといいます。もしかしたらIncome fundなどという名前を目にした方もいらっしゃるかもしれませんが、これはIncomeを生む、つまり配当金や利子など定期的に受け取れる現金を生むファンドということになります。稼いで得る収入のIncomeとは全く関係ありませんのであしからず。

Incomeを確保するための投資には、大きく分けて三つの方法があります。

1)配当金を生む株式に投資する

株式にもいろいろな種類があって、たとえば新しくこれから伸びる会社などは、今後株価が力強く成長する可能性を秘めている一方で、まだ定期的に配当金を出す余力はないことが多いものです。ですので、配当金を定期的に受け取るためには、ある程度実績のある安定した企業を中心に投資をしていくことになります。配当金を受け取ることだけに焦点を当てれば好ましいものの、ただこれらの株式は市場全体のうちの特定の特徴をもった企業に投資が集中することを意味しています。この偏りのことをバイアスと言います。たとえばVanguardのTotal Stock Market Index FundなどUSの株式市場全部を網羅した高リスク分散のファンドなら7,300株程度の銘柄に投資している一方で、Vanguard High Dividend Yield Index Fundなどの配当金に焦点を当てたものだと430程度の銘柄に分散が狭まります。これはかなり大きな偏り(=バイアス)を示しており、ふつうの高分散インデックス投資ではありえない、一定の企業への集中があるということです。状況が良い時には良いですが、何かこれらのセグメントが悪影響を受けるできごとがあると、予想外のリスクにさらされる危険性があります。また、市場の他のタイプの企業セグメントが成績がよいときには、それらの利回りを享受できないということでもあります。

2)高金利債券で運用する

定期的に利子を受け取れるように金利の高い債券に投資をするというやり方もあります。High Yield Bondと呼ばれる債券での運用です。利子が高いのはいいのですが、ふつう利子が高いということはリスクもそれなりに高いということです。株式でも債券でもどんな投資においても、市場原理が働くところではリスクとリターンはつり合いがとれています。高リスク高リターン、低リスク低リターンです。Vanguard Total Bond Market Index FundなどのUSの債券市場にまんべんなく投資するものだとInvestment Grade(高リスクすぎない低から中リスクレベルのもの)を中心に15,000銘柄以上に投資していますが、一方でVanguard High-Yield Corporate Bond Fundなどの高金利ファンドだとリスクレベルが上がった債券を中心にした約500銘柄での運用になります。高金利を狙うために利子支払いの不履行、元金回収不能などのリスクレベルが上がることに加え、分散度が減りやはりバイアスが上がります。

3)長期債に投資する

債券の満期までの期間と関連した指標にDurationというのがあります、このDurationが大きい債券に投資することで受け取る利子を大きくしようとする方法もあります。Durationの大きい債券のほうが往々にして利子が高めということを狙った投資です。前述のVanguard Total Bond Market Index FundなどのUSの債券市場にまんべんなく投資するものだと15,000銘柄以上に投資しており、満期までの平均年数は8.40ですが、Vanguard Long-Term Bond Fundだと、銘柄は2,500程度に限られ、満期までの平均年数は24.40に上がります。銘柄数が限られることで、上記で書いたのと同様なリスク集中(バイアス)があることと同時に、Durationが上がることでの金利リスクがあります。Durationが大きい債券はそれが小さい債券に比べ、市場利子が上がった時に大きく値が下がります。反対に市場利子が上がれば値が大きく上がるわけですが、これも特殊なリスクを負うということになります。

最適解は高分散のインデックスファンド投資

リタイヤメント後の、月々の引き出し額確保の安定性、資金枯渇なく寿命の最後まで全うできる確率、そして寿命の最後に残る残高についての結果は、どの三つにおいてもIncomeにはフォーカスを当てない高分散インデックス投資が勝るという結果でした。

Vanguard社が、上のIncome (配当金や利子)にフォーカスを当てた投資運用方法3種類と、Incomeにはフォーカスを当てずリタイヤメント前の資産運用と同様な高分散のインデックスファンドでの運用を比較したシミュレーション結果を発表しています

なぜIncomeにフォーカスを当てないやり方の方がいいのか?この答えは、投資ポートフォリオの最適な分散、つまりバイアスの無さにあります。配当金がもらえたり、金利がもらえたりということは好ましいことのように思いますが、その分特定の種類の株式に銘柄が集中したり、特定の種類の債権に集中したりということが起こります。高リスク分散の投資ポートフォリオに比較すると、バイアスが高まりリスクが集中することで、それが全体的な投資ポートフォリオの利回り(配当金や利子だけでなく投資自体の値上がりなども含めた全体的な利回り)に悪影響を起こすことが多いということだと考えられます。

高リスク分散の投資ポートフォリオでの投資運用は、月々の必要な生活費を賄う現金は、利子や配当金だけではカバーできないかもしれず、その分は投資残高から追加で引き出しをすることになります。投資元金に手を付けるというとなんだか悲しい気分になるかもしれませんが、実際は「元金」ではなく、「元金が運用された増えた残高」です。増えたものから引き出すのですから、それほど悲しむ必要はありません。また、高リスク分散の運用はIncome焦点型よりも投資残高は効率的に伸びているわけで、上のシミュレーションでは3つの指標においてすべてにおいて、高リスク分散型がより良い結果を出したのはその裏付けです。

端的に述べるに、「投資残高部分に手をつけたくないから、なるべく配当金や利子だけで生活できるよう、高配当・高金利投資を行う」のではなく、「配当金・金利・投資残高の伸び(キャピタルゲイン)をトータルにとらえて、もっとも最適な高リスク分散ポートフォリオで運用し、必要に応じ投資残高からも迷わず引き出す」という方法のほうが、成功確率が高いということです。

人間的には、「利子と配当だけで生活したい」と思いがちですが、それはかえって不適切な投資を生んでしまうというパラドックスです。よって、リタイヤ前もリタイヤ後も、高リスク分散のインデックスファンド投資法は有効で、ターゲットデイトファンドをお使いであるならそのままの運用もよいですし、個別ファンドでの組合せなら株式比率を必要に応じ下げながらインデックス投資を継続するのがベストということになります。

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3 comments

  1. 資産最大化のためには、配当金投資よりインデックス投資が向いているというのが大変わかりやすくまとめられていて、納得いたしました。ただ、最近感じているのは、老後資産を取り崩すという作業が私には心理的に可能だろうかということです。リタイア前は基本的には増えていく一方だった資産が、今度は減りだすという現実に耐えれるか、また買いに比べて、売りはタイミングを見なければならないが、老後いつまでそれが可能なのかと考えてしまいます。私にはリタイアするまでは、資産最大化を目指しインデックス投資、リタイア後はある程度は高配当投資に切り替えて、Passive Incomeを得ていくのが、心理的に私には無理ないのかもと思い始めています。多分、私の性格上、資産取り崩しだと、けちけちになりすぎて、とても老後を楽しむために使うことなどできないんじゃないかと思うんです。リタイア後の高配当株投資の具体例などの記事を出して頂けれると嬉しいです。(たとえ高配当株投資が最適解ではないにしても)

    1. そうですね、わかります。資産取り崩しでなくIncomeだけで十分な方は、それは十分考慮に足りますね。Incomeだけでは十分でない場合は、うまい具合に資産も崩しつつ・・とならざるをえませんが、今後きっと資産運用しつつ自動で引き出しを最適化していくファンドなりロボアドみたいなものが開発されると思います。今は、こんな →→ Managed Payout Fund (老後の収入確保ファンド)を考える 状態ですが、あと10年もすれば引き出し最適プログラムがかなり主流になっているんじゃないかな~と個人的な期待があります。。

  2. なるほどです。今は、まだ毎月貯めている状態ですが、基本全て自動です。引き出しも、同じようにオートパイロットになれば、どんなにいいかと思います。娘の大学費用を投資を崩しつつ支払っていますが、引き出しは手動なので、毎回クリックボタンを押すのが本当ストレスです。色々ロボアドバイザーも進化しつつあるようなので、その進化状況も時々チェックしたほうがよさそうですね。
    いつもいつも、大変勉強させていただいて、本当にありがとうございます。

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