買わせる心理学(1)

Dr. Robert B. Cialdinという人が書いたInfluence: The Psychology of Persuasionという本があります。顧客にモノやサービスを売る時に、どのような心理作戦を使うと人は影響され納得し購買に踏み切るかというポイントと、それを踏まえて消費者として不本意に影響されることに対してどう自分を守ったらよいかというポイントをまとめた本のようです。なんでもWarren Buffetの読みたい本リストに入っている一冊だそうで、私は読んだことはないのですが、内容に興味があったのでサマリーを読みました。今日はそのサマリーに基づき、私の主観も交えて感想をシェアさせていただきます。

人が「納得して」購買や契約や投票に踏み切るとき、主に6つの原理というものが働いているのだそうです。今回は最初の3つを紹介します。

もらったら返したいという思い

とくに日本人にはもしかしたらこの要素、大きいかもしれませんね。「やってもらった」、「お世話になった」、「いただいた」ので、自分も何らかの形でお返して報いたいという思いです。これは人間の相互依存・相互感謝のよい性質であると思うのですが、これが逆手にとられることもあるというわけです。

たとえば、「No obligationでトライアル」、「無料ディナーで商品紹介セミナー」など。よくDMで来るチャリティへのドネーション依頼で、自分の名前と住所のメールアドレスラベルがついてきたり、その上を行って5セント玉がついていたりするのもありますね。たかが5セント、されど5セント。威力は大きいようですよ。Disabled American Veteransという組織の報告によると、ただのドネーション依頼のメールだとレスポンス率は18%のところ、アドレスラベルなどのギフトを入れるとレスポンス率が35%に上がるそうです。

私も実はそれでドネートしたことがあります。後で考えてみてそういう「マーケティング活動」にはお金がかかっているはずで、せっかくドネートしたお金も本来のチャリティ活動に使われなかったりの無駄があるのかもと思い、www.charitynavigator.orgなどのチャリティチェックサイトで調べてみました。そうしたら、CEOやCFOが多額の給料をもらっている今一歩納得のいかない団体だとわかり、それ以降は無視しています。何回か無視するとだんだん来なくなります。

無料で何かトライする、もらうというのは、純粋にトライして見極める目的ならとても良いように思いますが、反対にそれで不本意なものをついつい買ってしまうのなら絶対避けた方がよいものですね。その商品なりサービスがニーズに合うなら買うが、そうでなければNoと言えるか、Noと言っても変に負い目を感じたりしない範囲かをあらかじめ自己確認するのが良いかと思います。また、相手が本当に「よいものだからトライして欲しいが、ニーズに合わなければNoともちろん大丈夫」というスタンスでいるか、それとも「トライさせたら、そこからどう売るか」を考えているそうか、ちょっと想像をしてみるというのもよいかと思います。

一貫した人間でいたいというニーズ

私たちには、自分の言動において「一貫した人間でいたい」という思いがあります。あることにいったんある意思表明をしたり、あることに「Yes」と答えたら、その後もなるべくそれを守りたい、主旨一貫していたいというニーズが組み込まれているわけです。

人に何かについてリコメンしたり、あるいはソーシャルメディアなどで何かについて好意的な(またはその反対でも)ある一定の意見をポストしてしまったりすると、その後、その言動を訂正したいような事柄が起きたとしても、なかなか訂正に踏み切れずそのまま以前の言動を継続するという性質があるようです。

問題は、最初は大変些細なことについて大して重要でない意思表示で始まるのに、それがだんだんと拡大延長されていくことです。同じ線状にあり似てはいるものの、以前よりずっと大きなコミットメントまで発展していく(発展させられていく)のです。最初はいいと思って買って効果があると信じていたが、だんだんと使ううち不都合や問題点がでてきたのに、なんとなく人に勧めてしまった手前撤回ができないというようなこともあるでしょう。

何かに「agree」するとき、何かを勧めるとき、それが小さいことであっても、事柄の大小ではなくその本質を見極めてからそうするという姿勢が必要なのでしょうね。聖書に「小さい事に忠実な人は、大きい事にも忠実であり、小さい事に不忠実な人は、大きい事にも不忠実(ルカによる福音書16:10)」とあります。気に留めたいところです。

人に合わせたい、人と同じようにしたいというニーズ

私たちは、人間の社会の中に生きており、他の人たちがどうしているかを見て生活しています。子どもは親をよく見てどう生きるかを学びますし、生徒は先生を見てどう考えるかを習います。とくに、自分に近い人、自分と境遇が似ている人にいい意味でも悪い意味でも影響されやすい性格があります。

みんながしているようにすると安心という思いは、日本でもアメリカでもあるのでしょうね。たとえば、「Should I tip my massage therapist?」などと検索してみると、あれやこれや言っている人がたくさんいて、「ああ、アメリカ人でもチップをあげるべきか、いくらあげるべきか」迷う人がいて、人がするようにしたいと思うんだな・・とへんに感心(?)したりします。「絶対20%はすべき」などと書いている人を見ると、これはきっとその職業の本人なのかもしれない・・などとも思ってしまいます。

私もYelpやTripAdvisorやAmazonなどのレビューをよく読みますが、その中にも意図して挿入されているレビューがあることを意識するようにしています。fakespot.comなどのレビューの質を評価するサービスも参考になるでしょう。インフォマーシャルや実用プレゼンテーションなどにも、顧客が身近に感じる(顧客側として同感する)「サクラ」が用意されていて、その人が納得して購入すると、それに引きずられて買うという見えない仕組みがつくられているそうです。

人の意見を参考にしたいという考えは何も悪いことではないと思います。でも、自分はどう思うか、どう考えるかも大変大事だと思います。まずは自分の考えから初めて、人の意見を参考にするという順番はいいかもしれません。また、いいレビューだけでなく、悪いレビューも同じくらい読むことと、二つ星とか四つ星みたいな中途半端なレビューが案外ホンネが書いてあることもあると思ってチェックしていますが、どうなんでしょうね。

6つある項目の最初の3つをご紹介しました。あとの3つは来週に。

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2 comments

  1. いつもありがとうございます。
    ブログ楽しみにしています。

    職業柄、マーケティングの本をよく読みますが、この本は知らなかったです。「なぜこの店で買ってしまうのか」という本を読んだことがあって、一瞬同じ作者か?と思いましたが、違いました。

    fakespot.comも早速試しています。

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