高額所得者のためのバックドアIRA

所得が一定以上になると、ふつうであれば税控除が効くはずのTraditional IRAへの積み立てに税控除ができなくなります。またRoth IRAへの積み立ても許されなくなります。これらの所得層にポピュラーなIRAへの積み立て方法に、バックドアIRAというものがあります。いったん、Traditional IRAに税控除なしで積み立て(Non-deductible IRAと呼ばれる)、その後すぐにRoth IRAにロールオーバーするというやり方です。こうすることで、直接Roth IRAに積み立てることが許されなくても、Non-deductible IRAを介することで結局はRoth IRAに積み立てたのと同じ効果を得るわけで、これが「バックドア」という言葉のゆえんです。

バックドアIRAとは?

収入がある程度高くなると、Roth IRAの積立額が減額されはじめ、さらに収入が高くなるとRoth IRAへの積み立ては一切できなくなります。また、このレベルの収入だと通常のTraditional IRA(積み立て額に税控除策あり)も利用できません。

そこで、税控除なしでTraditional IRAに積み立て(Non-deductible IRAといいます)、その後、すぐにRoth IRAにロールオーバーします。これをバックドアIRAといいます。

Non-deductible  IRAの積み立て元金はすでに所得税がかかっていますのでロールオーバー時には非課税ですが、利回りは課税されます。ただ、Non-deductible IRAへの入金からRoth IRAへのロールオーバーまでの期間が短ければ、その間の利回りは非常に小さいので、事実上は課税部分はゼロ(か、あっても微小)ということになります。

他にTraditional IRAがないこと

ただ、この方法をとるにあたって、ひとつ気を付けたいことがあります。それは、税控除で積み立てたリタイヤメント口座が他にないことです。税控除で積み立てたリタイヤメント口座とは、たとえばTraditional IRA、SEP-IRA、SIMPLE IRAなどです。

これらの口座を所有していると、ロールオーバーが不可能なわけではありませんが、思わぬ税金がかかったり、タックスリターン上の管理が煩雑になるという問題がでてきます。これらの口座ある場合、実際のロールオーバーはNon-deductible Traditional IRAからなされたのであっても、税法上は、Non-deductible Traditional IRAとその他の税控除で積み立てた口座とから均等に引き出してロールオーバーが行われたとみなされます。その他の口座は税控除で積み立てているため、ロールオーバー時に所得税を支払うことが求められるのです。よって、これらの口座をお持ちの場合は、基本的にはバックドアIRAの利用はお勧めしません。

なお、401(k)や403(b)などの雇用主提供のリタイヤメントプランは、同様に税控除で積み立てますが、これは問題になりません。つまり、所有していてもバックドアIRAが複雑になることはありません。この利点を利用し、税控除で積み立てたTraditional IRAがある場合、401(k)などにロールオーバーするという方法があります。これが、可能か不可能かは401(k)のルールによります。受け入れ側の401(k)がこれを許している必要がありますので、401(k)運営会社に確認します。可能であれば、401(k)へのロールオーバーでTraditional IRAをなくし、そのうえでバックドアを利用することで、上のような所得税課税を防ぐことができます。

5年は使えない

バックドアをしてから、5年間はRoth IRAのお金は引き出せません。厳密にいえば、引き出すことはできますが10%のペナルティがかかります。

通常のRoth IRAへの積み立ての場合(ダイレクトにRoth IRAに積み立てる場合)は、積立額はいつでもペナルティなしで引き出せますが、一方でNon-deductible IRAからのバックドアRothロールオーバーの場合は、これが適用されません。全額が5年間引き出せない対象になります。

また、ロールオーバーする度に5年が始まります。毎年バックドアをするなら、毎年新しい資金に対して5年が新たに始まることになります。

どのくらい待ってロールオーバーすべきか?

バックドアを意図にNon-deductible IRAに積み立てるのは、実質上、積み立てが赦されていないRoth IRAに積み立てるのと同じ効果で不法ではないかという議論があります。過去にもたまにそのような懸念がもちあがりました。不法だと判断されるのを避けるために、ある程度の期間はNon-deductible IRAに留め置いてからロールオーバーする方が安全だという意見もあります。

ただ、実際のところ、「バックドアIRAが不法だとされて罰金を課された」というようなニュースは聞いたことがありません。

ということで実質上、バックドアIRAはloopholeとして放置されている・・というのが多くの人の意見で、私も同感です。ですので、バックドアIRAを利用するならば、すぐにロールオーバー(多くの場合、金融機関の処理上のしばりで、当日はロールオーバーが可能でないことがあるので、翌日など)してもよいのではないかと思います。

できなくなるかもしれないけれど・・・

このバックドアIRA、過去に何度も、法改正で「できなくなるかも」という話題が持ち上がりました。考えてみれば、高額所得のために、税優遇措置のあるRoth IRAへの積み立てはできません・・・とうたっておきながら、Non-deductible Traditional IRAを経由すれば実は積み立てられるというのも理にかなわない話であるわけで、今まで放置されてきたこの方法を正式に禁止するということです。

毎回、話題には上りながらも、今現在、バックドアIRAはそのまま放置されて続けています。というわけで、十分に使える方策であり続けています。

2 comments

  1. いつも勉強させていただいております。backdoor を行使する際に、Tax Withholdingをどうするか聞かれました。Roth IRA内のtax free growth を優先して、Tax Withholding NoとしてTax filing の際に支払う方がいいのでしょうか? 資金量によるのでしょうか?

    1. Backdoorは積み立ててからすぐコンバートするのであれば、ほぼ税金がかからない(キャピタルゲインがそれほど出ていない)はずなので、Withholdingをしたとしてもそれほど多額がWithheldされることはないのではないかと思います。もしも税金がある程度かかるのであれば、基本的には外の財源(課税口座など)から税金を払うのがお勧めですが(おっしゃるとおりtax free growthを優先して)、場合によっては税金を口座内から払ってでもコンバートしたほうがよいという決断もありえます。ケースバイケースだと思います。

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