これからどうなる – アメリカの健康保険の401(k)化!

アメリカの健康保険って、本当に複雑ですね。できるなら忘れていたいと思いませんか?選ぶのも大変、使うのも大変・・なんだか理解しているようで、理解できない・・やっとなんとなく把握できたと思うと次の年には内容が変わったり・・。健康保険で悩んでいるのは患者側だけの話ではなく、実は健康保険をベネフィットとして提供している雇用主も、そのコスト増に頭を抱えています。オバマケアが導入され、企業側はコンプライアンス(法律遵守)の負担も増えています。コスト削減+遵守の負担を逃れたい雇用主は、どうやら健康保険の401(k)を考え始めているようです。これからの健康保険どうなっていくのか、今日はそのお話。

 

コスト削減したい雇用主

平均的な雇用者の健康保険料(企業と個人負担の合計)は2014年にはひとりあたり$10,7171でしたが、2015年には5.5%増の$11,304になると予想されるそうです。この5.5%増は、2012年あたりの7%~10%増というスピードかに比べると少し穏やかな数字ですが、インフレーション(消費者物価)はここのところ2%ほどにとどまっていることを考えると、健康保険料の伸びは危惧されるべきものです。

オバマケアにより、Healthcare MarketplaceとかHealth Insurance Exchangeという名で呼ばれる、州ごとに提供される健康保険購入サイトが立ち上がりました。購入できる健康保険には4つのレベルがあり、Platinum、Gold、Silver、Bronzeと別れ、上から医療費の90%、80%、70%、60%をカバーすることになっています。一方、企業が提供する健康保険は、これまで一般的に80%ほどのカバーのものが多くありました。ところが、コスト増にあえぐ雇用主は、上のSilver やBronzeレベルに目標値を下げ、60%~70%カバーの健康保険パッケージをつくるよう取引保険会社と交渉をすすめているというような向きも見られるそうです。

 

第一フェーズ – High Deductible プラン

上で見られるように、雇用主は雇用者の個人負担を引き上げることによって、なんとか企業側のコストを抑えようしています。個人負担はいろいろな形でやってきます。保険を使う場合の自己負担額の増加に加え、保険料負担の増加という形でもやってきます。企業にとってもっとも高くつくファミリープラン保険料の個人負担比率を、今後ひき上げていく予定があるとした大企業は18%に上りました。個人プランの場合は10%でした。また、47%の企業が、DeductibleやCopaymentの雇用者負担を引き上げる予定であるとしています。

Deductible 、Copayment、Coinsuranceなどを総合した雇用者負担額は、2013年には13%増加し$2,239になりました。2014年にはさらに10%増加し$2,470になり、2015年にはさらに8%増加し$2,664と予想されるそうです。この勢いで伸び続ければ、雇用者個人が2015年時に払う保険料+自己負担額は、2010年時の55%増であると予想されるということです。

このような傾向の裏には、最近移行が進んできたHigh Deductibleプランがあります。High Deductibleプランは、健康であまり医療サービスを使わない人なら保険料が非常に低く抑えられという特典があります。その上Health Savings Accountも一緒に雇用者ベネフィットとして提供される場合が多く、場合によっては雇用主がいくらか積み立ててくれるおまけもついてくることもあります。税優遇で投資することができ、リタイヤメント資金にも充てられるなど魅力的なポイントがたくさんうたわれています。このPR戦略が功を奏し、ここ数年で人気がぐんと高まり、従来のHMOやPPOからHigh Deductibleプランへの移行が進みました。

しかしながら、High DeductibleプランはConsumer Directed Health Plan(消費者が裁量するヘルス・プラン)と呼ばれ、医療費コントロールの責任を、保険会社や雇用主などから、医療サービスを受ける個人に移すことを目的にしているものであり、「自己責任の医療」という非常にシビアな選択でもあります。たとえば従来のHMOでは、専門医やテストセンターの選択、そこで保険が利くか利かないかの確認などは、プライマリーケアドクターの責任であり、患者は医師の指示のとおり医療サービスを受けている限り、Copayment以外の医療費についてはまったく心配する必要がありませんでした。あとでびっくりするような医療費請求があちこちからくるなどということはありませんでした。ところが、Consumer Directed Health Plan(消費者が裁量するヘルス・プラン)では、専門医、テストセンターの選択や値段の確認、保険がどのくらい利くかの確認などの最終責任はすべて患者にまかされています。病気をしなければ安く済むHigh Deductibleプランも、ちょっと大きな病気や怪我をすると大きな出費を抱える危険性をはらんでいます。

そしてそこが企業の狙うところで、責任とリスクを雇用者にシフトすることでコスト削減が実現しようとしています。雇用者がHigh Deductibleプランを選ぶと、HMOプランに比べて20%のコスト削減、ふつうの(High Deductibleでない)PPOプランに比べて17%のコスト削減が実現するそうです。現在では66%の雇用主がHigh Deductibleプランを提供しており、会社によってはHigh Deductibleプランのみ提供しているというところもあります。44%の企業が今後3年から5年かけて、High Deductibleプランだけの提供に切り替える予定だそうです。

High Deductibleプランはいってみれば、私たちにとってはハイリスク・ハイリターンの健康保険です。うまくいけばとてもコスト削減できるが、ひどいと大きな医療請求を抱える可能性があるものです。企業が17%なり20%なりのコスト削減ができるということは、押しなべて平均すればそのコスト分を患者が負担しているということになりますね。カジノビジネスの原理です。大もうけするギャンブラーもいるが、押しなべれば絶対カジノが勝つ。。このあたりのところを現実としてきちんと捕らえておきたいと思います。

 

第二フェーズ – 401(k)化

さて企業のコスト削減策はまだまだ続きます。今後数年間で導入が始まると予想されるのが、Private Exchange型での健康保険提供です。雇用者ベネフィットとして健康保険は提供したいが、増加し続けるコストと複雑化する法律へのコンプライアンス(遵守)に悩む企業は、外注化の魅力を感じています。現在各州が提供しているHealth Insurance Exchangeのプライベート版(Private Exchange)を利用する方法です。企業は、自社用にカスタマイズされた健康保険プランを組み提供する代わりに、健康保険購入のために一定額を雇用者に付与します。雇用者は、そのお金を使って、Private Exchangeで提供されている健康保険プランの中から自分のニーズにあったものを買うというしくみです。いわば企業ペンション(Defined Benefit Plan=将来もらえる年金額が定額)から、401(k)などのDefined Contribution Plan(企業が一定額を付与して、それを雇用者が好きに投資。将来もらえる額は自分の投資成績次第)へのシフトの健康保険バージョンです。現在44%の企業が、このようなやり方が好ましいという意向を表明しているそうです。

ペンションでは、投資をして将来一定額の年金を確保する責任を企業が負っていましたが、401(k)では、企業は年々一定額を雇用者に付与するという限られた責任を負うのみになりました。投資成績のリスクは企業から雇用者にシフトし、不確定要素は雇用者の心配するところとなりました。これと同じことが、健康保険でも起ころうとしています。保険の選択、保険の利用はすべて雇用者の負うところであって、企業は決められた金額を出すだけ。

この制度が導入されるときには、High Deductibleプランが導入されたときと同様、華々しいPR活動がされるでしょう。「みなさんは、企業の提供する限られた保険プランに縛られず、さまざまなプランの中から自由に選択することができます」・・とか、「それぞれの健康保険プランの全体コストはいくらで企業がいくら負担しているのか今は明確ではないが、これをすべて把握することができるようになります」・・とか。。

私は個人的には従来のHMOのファンです。でも、これからHMOが選べなくなる可能性も大いにあるということでしょう。現在でも一部の企業はConsumer Directed Health Plan(消費者が裁量するヘルス・プラン)しか提供していないところがありますから。でももしも選択の余地が残されているならば、企業のPR活動にまどわされず、どの選択が自分のニーズに合うのかについて近視眼的でない選択をする、その姿勢を忘れないようにしたいと思います。

4 comments

  1. アメリカの健康保険は本当に複雑でわかりにくいです。そもそも、複雑にすべきことではないのにと思います。医療費が非常に高いことが、こういう事態を招くんだろうと思いますが、オバマケア導入云々の前に、アメリカの医療制度や、健康保険制度を抜本的に見直したほうがいいように思うのは私だけでしょうかね?? それに比べると、日本の制度はわかりやすいですね。

    1. turtleさん、コメントいただいていたのに、その旨の通知がうまく届いておらず、お返事するのがとても遅れてしまいました。ごめんなさい。
      本当に、アメリカの医療制度そのものを見直したほうがいいという点、まるで同感です。でもここまできてしまうと、もはや日本のようなストレートフォワードな国民皆保険制にはどうやっても戻れないんでしょうね。日本が、アメリカのようにならないようにと願います。

  2. 明けましておめでとうございます!
    いつも有益な情報をありがとうございます。
    なかなかコメントを書けませんが、有り難く思っています。

    今回の記事も大事なことですよね。
    私もこの流れを感じているところです。

    一方で、うちは障害者を抱えたHigh Deductibleという、なんと無茶な!!!ということをやっています。もう3年やって、そして今年もそれを続けています。
    理由は単純。
    上手くいっているからです。

    条件にあるのは、州の福祉が手厚いかですね。
    MA州なので、まずこの辺はだいたい条件がいいです。障害にかかる医療のほとんどが、まず州の保険でカバーされると。
    そしてそれ以外の費用も州法に守られ、保険会社との交渉(大変ですが)でかなり調整できると。
    あと大事なのは、残りの家族が割と健康であるということですね。
    この条件さえ揃えば、高いプレミアムの保険を払うよりも、かなり抑えられます。
    MA州の場合は、そのプレミアムも一部補助が出るんです。

    おかげ様で、うちはなんとHSAが貯金になっているくらいです。

    さらにですね。

    つい最近ですが、ABLE ACTという、障害者の529プランみたいなのにオバマさんがサインしたようです。MA州ではすでに去年からそういう法案が通っているようです。
    何気に大きな動きですよね。これも401K化ですかね?

    今年はこの辺を整えていくのを目標にしようと思っています。

    お互い、いい一年になりますように!!

    1. Cheeさん、あけましておめでとうございます。ブログのコメント設定がどうもおかしくなっていて、コメントいただいていたのに気づいておりませんでした。大変ごめんなさい。
      へえ、マサチューセッツってすごいんですね!赤字赤字のカリフォルニアでは考えられないです。カリフォルニアはみんないいところだといいますが、州民へのベネフィットとか、教育とか、学校の設備とか、他州と比べるとかなりひどいです。住む州でこんなに違うって、日本ではないからちょっとびっくりしますよね。今年もよろしくお願いします。

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