アニュイティ契約の前に:老後の資金準備ニーズはどう満たす

前回は、金融商品の購入にあたっては、1)自分のまず満たすべき第一ニーズが何なのかをはっきりさせ、それが金融商品本来の存在意義とぴったりあうときに、はじめて購入を検討すべきであること、2)アニュイティの存在意義は生涯年金の確保であり、このニーズがはっきりしているときこそ、アニュイティの購入を考えるべきであること、3)副次的ニーズと金融商品のおまけ的役割にまどわされてアニュイティの検討をしないほうが賢明であること について書きました。では、アニュイティについてくるおまけ的な魅力や、それらで満たそうとしがちな副次的ニーズは、アニュイティでなくとも他の形で満たせるものなのか、それを考えていきましょう。

 

老後準備はなるべく早く、でもアニュイティは後ほどでOK

 

このニーズは多くの人が持っているニーズですね。だからといってアニュイティというのは、かなり飛躍があります。このニーズのためには、まず401(k)、403(b)、457などの雇用者提供の税優遇リタイヤメント口座でもっと積み立てることはできないか、Traditional IRAやRoth IRAなどの個人で使える税優遇リタイヤメント口座でまだ利用できるものが残っていないかをまず考えます。これらが使えるのであれば、わざわざ手数料の高いアニュイティを利用する必要は(特殊ケースを除いて)ありません。アニュイティの業界全体の平均手数料は年間2.27%です(Morningstar社調べ)。一方、Vanguardのインデックスファンドなら、手数料は0.20%以下です。

またアニュイティは必要ならいつでも契約できます。老後の蓄えは一刻も早く始めた方がよいですが、アニュイティは本当に必要かどうかとどのくらいの年金が必要かがわかってから購入しても決して遅くはありません。

アニュイティは、契約してから受け取り開始までの期間の有無によって、Immediate AnnuityとDeferred Annuityとに分かれます。Immediateのほうは、契約・入金した直後から年金を受け取るもの、Deferredのほうは、契約し一度に入金する場合もあれば、期間をかけて積み立てていく場合もありますが、いずれにせよ契約の何年か何十年か後に受け取りを開始します。受け取りが開始されるまでの間は、固定利回りで運用されるものや自分で投資して運用するものがあります。前者はFixed Annuity、後者はVariable Annuityと呼ばれます。Fixed Income Annuityというのは将来手にできる年金の額が契約時に固定され、Fixed Deferred Annuityなら運用利回りが固定で伸び、Variableのほうは投資の結果次第で年金額がかわります。

 

本来のアニュイティ と こねくり回したアニュイティ

 

私は本来アニュイティのあるべき基本はFixed Income Annuityだと思います。将来確実に固定収入を確保したいからアニュイティを買うのです。アニュイティ=年金の意味はもともとはそこにあります。

老後の蓄えのためによく提案されるのはVariable Annuityですが、投資の結果で受取額も増えるというのは、マーケティング文句であってアニュイティの在り方を曲げるものであるとも思います。Variableということはよくもなるが悪くもなるということで、不確定要素が高いためプラニングを難しくします。この不確定要素をなくすため、後述のGMIBとかGMWBなどという保証要素をライダーとしてくっつけて売るアニュイティ商品もたくさんありますが、これは下記のような矛盾要素が否めません。

STEP1: もともと固定年金額(Guaranteedだった額)を確保するためのアニュイティ を

STEP2: Variable(投資の結果次第で年金額が増えることもあるけど、減ることもあるよう)に変更しておいて

STEP3: でも減っては困るから、GM(Guaranteed Minimum)という「保証」をつける

・・・という、プラスしてマイナスしてプラスするというような無駄があります。しかも保険会社はSTEP1で料金をとり、STEP2で料金をとり、STEP3でまた料金をとりと何段階にも手数料がとれるので、アニュイティは保険会社にとっては大きな利ザヤ、消費者にとっては大敵というケースが(全部のアニュイティがそうではありませんが)非常に多いです。このことは、セールスエージェントのアニュイティ販売コミッションの高さ(商品によって違いますが、6~7%というのが通説)にも表れていますし、Variable Annuityをめぐる過去の訴訟問題の多さにも表れています。

もしまだ年金受け取りを開始したい時期まで期間があるのであれば、まず手数料の低い効率の良い投資口座で増やして置いてから、リタイヤメントが近くなりリタイヤ後の生活費やソーシャルセキュリティなど具体的な数字が見えだしてから、貯めておいた投資でアニュイティを買うということは十分可能ですし、こちらのほうがプラニング上でも理に適うと思います。

 

いつでも買えるアニュイティ、でも契約のしどきは?

 

アニュイティの契約のしどきというものはあるのでしょうか?Fixedの場合、将来の年金額は契約時での金利に影響されます。その時点の金利情報を使いつつ、将来の固定支払額を計算したり、あるいは固定金利を設定していくからです。低金利であれば、将来の固定年金額は低く、高金利であれば高くなります。よって低金利のときにはできればアニュイティの契約は避けるか、あるいは全額を一度に契約する代わりに、数年ごとに何段階かに分けて複数の契約をする(Ladderingといいます)のがよいでしょう。

多くの人にとって理想的な老後資金運用のシナリオは、低手数料のインデックスファンドなどを使い、401(k)やIRAなどのリタイヤメント口座で投資を進め、Variable Annuityを使うよりも効率的に増やし、リタイヤメントがまじかになってプラニングが現実的になった時点で、ちょうど金利もそこそこのレベルであるときにFixed Annuityを契約して、効率的に十分な固定収入を確保するというものです。金利の状況をみて、ある程度契約の時期は前後させることも必要かもしれませんが、ひとついえることは、アニュイティは「契約し急ぐ」必要はないということです。

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