最近のウォール・ストリート・ジャーナルの記事で、こんなのがありました:「人員増加による散財が大学の官僚体質を強め、学費の高騰を助長」。最近のカレッジ費用の高騰にはゲッソリしているご両親も多いでしょう。貯めても貯めても、貯めるスピード以上の速さで学費が上がっているのですから、どうにもこうにも追いつきません。カレッジは本当に費用相当のメリットがあるのか・・・そんな疑問もよく耳にするようになりました。なぜカレッジ費用はこんなにも上がり続けるのか。費用の高騰に伴い、授業の質も上がっているのでしょうか。人員増加とか官僚体質ってどういうこと??
「大学は行ってあたりまえ」、「大学教育を受けさせるのは親の責任」、「大学くらいでていないと・・・」というような考え方は、日本人をはじめとするアジア人のコミュニティーではよく聞かれるもの。子どもが念願の大学に合格したなら、どんな無理をしてでも通わせてやりたいというのは親の気持ちでしょう。また子どもにしても、少しくらい無理をして借金をしても通いたいと思うのも当然。「大学教育は将来への投資」ですからね。手元に十分なお金がなければ、簡単に借りられる学生ローンも用意されています。
こう考えると不動産バブルを思い浮かべるのは私だけではないでしょう。「将来へのすばらしい投資」のためにたくさんお金を借りて買った家。ところが支払いができなくなり、今や家の価値以上の負債を抱えた人がいる不動産市場。これに対し、「将来へのすばらしい投資」のためにたくさんのお金を借りて卒業した大学。ところがローンの支払いができなくなり、社会人として自立した生活ができない人がいる状況。なにかダブるものがあります。「将来へのすばらしい投資」は今少々無理をして払っても、必ず元がとれるもののはずという妄信。家の、あるいは大学教育の値段が、どんなスピードでつりあがっていこうと、その価値は上がり続けるのだから大丈夫・・・という考え。どうなんでしょうね。果たしてそうなんでしょうか。高い学費の「価値」とは何なのか。。。
以下はウォール・ストリート・ジャナル記事からの抜粋です。
ミネソタ大学(州立)の例。
- Kaler氏が学長になった折、管理費を削減することで上がり続ける学費問題を対処しようとした。大学の運営管理のためにいったいどのくらいの予算が必要なのか、知ろうとしても誰一人明確に把握している人がいなかった。
- 過去10年間、州からの資金と上昇し続けた学費のおかげで、大学雇用者数は増え続け、ついにその数19,000人、実に学生3人半に雇用者ひとりの比率まで増加した。
- 2001年から2012年春までに1000人の管理者が追加され、学生数の伸びの約2倍の伸びであった。
- 官僚体質は他にもさまざまな散財を生んでいる。キャンパスから20マイルも離れたところにある、エネルギー・環境にやさしい住宅コミュニティー(この分野での大学のリーダーシップを宣伝するもの)の計画のために、何ミリオン・ドルものお金が費やされた。
- 大学の高給職のうち管理職の占める割合は増え続けている。年収$200,000以上の職員は353人(そのうち管理者は81人)で、2001年(管理者は39人)に比べて57%の上昇。年収$300,000以上の管理者は7人から17人へ増加。
以下は米国全体の話。
- 米国大学では、クラスルームでの授業とは無関係の費用が膨張しており、その第一の要素は管理者の給与である。2001年から2011年の間、人やプログラム、あるいは大学が守らねばならない各種法律を管理するために雇われた管理者の数は、実際に授業を行うインストラクタの数の伸びの50%増しの速度で増加した。
- 管理者の給与などのオーバーヘッド以外にも、大学運営のコスト上昇に寄与している要素があり、それらはヘルスケアやリタイヤメント関連の費用、また研究費や障害者施設などの法律を遵守するための費用なども含まれている。
- 大学は他のビジネスと同じく競争環境にある。大学のランキングを上げるため、また学生を惹きつけるために、豪華な寮や食堂、ジムやその他のアメニティの充実にお金をかけねばならない。「レクサスやベンツが顧客を奪い合うのと同様に、大学も学生を奪い合うのである」とはある専門家の声。
- 競争のため、設備拡充をすべく大学は借金を増やした。公立四年制大学の負債総額は、2002年から2011年の間に3倍以上に膨れ上がった。これに伴い年間利子費用も増加。
- 州立大学は過去数十年、安定増加の州からの調達資金のおかげで、緻密な財務運営を強いられてこなかった。しかし近年ではこのような州からの資金が減少あるいはストップしてしまった。
まだ、記事は続けれどこんなところでおしまいにしておきます。
以下は、別のソースからのデータ。
- 2011年に大学を卒業した平均的な学生は$26,600の学生ローンを抱えている。全体の2/3の学生が学生ローンを持って卒業したと予想される。
- 全米での学生ローンの総額は$1トリリオンまで伸び、クレジット・カード負債を超えるレベルまで推移した。
- 全米での学生ローンのデフォルト(90日以上の支払い遅延)率は、クレジット・カード負債のデフォルト率の10.5%を超えて11%に。
親が払うにせよ、学生自身が払うにせよ、高騰しつづけるカレッジ費用が高い教育の質と相関関係があるなら致し方ないとも思えるところでしょう。しかしそれが、何を管理しているのかわからないような官僚体制や、ファンシーな寮やジム、大学のランンキング・アップのための小細工費やマーケティング費用などだといわれると「いい加減にしてくれませんか!」といいたくなりますね。大学が、「レクサスやベンツが顧客を奪い合うように競合している」のなら、私たちも大学教育の消費者として、レクサスとベンツを比べるように大学を吟味していかねばならないようにも思います。いくらレクサスでも、「この車、1,000万円です」といわれれば、「それは高すぎるでしょう」と問いかけるでしょう。そのような消費者の問いかけや吟味がないことをいいことに、大学は緻密な財務管理を怠っているのではないかと思いませんか。「お金が足りなくなれば、学費を上げればよい。どうせみんな払うから」というような。
ちなみに、上記記事に登場したミネソタ大学のKarler学長の年収は$610,000だそうですが、Forbes誌にアメリカ大学の学長・年収トップ10というのがありました。こんな感じ。
1. Bob Kerrey, The New School (New York), $3.05 million
2. Shirley Ann Jackson, Rensselaer Polytechnic Institute, $2.34 million
3. Dr. G. David Pollick, Birmingham-Southern College, $2.31 million
4. Mark Wrighton, Washington University (St. Louis), $2.27 million
5. Nicholas Zeppos, Vanderbilt University, $2.23 million
6. Steven B. Sample, University of Southern California, $1.96 million
7. Lee Bollinger, Columbia University, $1.93 million
8. Richard C. Levin, Yale University, $1.62 million
9. Robert J. Zimmer, University of Chicago, $1.59 million
10. Jack Varsalona, Wilmington University (Delaware), $1.55 million
わたしには、これが高すぎるのかどうか判断できるような力はありません。企業のCEO報酬に比べればゼロがひとつかふたつ違います。だた、少なくともこのレベルの給料をもらっているのなら、学生のために質の高い授業を十分に提供し(大学によっては、予算カットのためクラスが十分に提供されず、必修科目であるにもかかわらずとることができないので、結果的に4年で卒業できないというようなところもあります)、学生ローンをなるべく組むことなく学生を社会に送り出すシステムづくりに責任があるように思います。実際のところはどうなのでしょう。
家の値段は上がる一方という妄信に基づいてお金をどんどん貸し、その裏で富む人だけは富んだが、よく分からずに借りるだけ借りて家を買った人はフォークロジャーの憂き目。このような図が大学教育にも当てはまることがないようにと祈ります。アメリカの将来を担う若い人々を、大切に教育し育て社会で一人立ちできるように送り出す、アメリカの大学がそのような場であってくれるますように。