ディスカウントで大学行くのがあたりまえ?(1)

College Board調べによると、2014年度から2015年度にかけての大学授業料の増加率は私立大学で3.7%、公立大学で2.9%という結果でした。過去10年間の平均は一年あたり5%だったので、それに比べると上昇率が少々落ち着いてきたものの、それでも大学の費用は毎年着実に増加しつづけているといえます。そしてこれは、過去十年間の平均収入の伸びと比べても、それよりずっと高いレベルで伸び続けています。たとえ年収が$200,000の家庭であったとしても、税金を払って、モーゲージも返済しながら、リタイヤメント準備もしつつ、私立大学の年間$60,000超の学費を、4年分で合計$240,000支払うとなれば苦しいもの。いったいカレッジ費用はどこまで伸びていくのか、自分の子どもが大学に入るころには学費はいくらになっているのか、不安に思う方も多いでしょう。ところが、その裏には知っておきたい事実もあります。今日はそのお話。

 

ディスカウント大学

 

飛行機のチケットを正規価格で買う人はいるでしょうか?一部の特殊例を除いて、昨今ではそのようなことはほとんどないでしょうね。一昔前なら「ディスカウント航空券」とか「格安航空券」という言葉が目を引く広告キャッチになりましたが、今では航空券はディスカウントで買うのが常識になっています。実は、カレッジ費用もそれに近いものになりつつあります。

NACUBO(National Association of College and University Business Officers)が、学費のディスカウント率について調べたリサーチがあります(2013年調べ、2014報告)。これは全国の401の私立大学を対象に行った調査ですが、2012-2013年度のフレッシュマンの学費の平均ディスカウント率は44.8%、2013-2014年度には46.4%に達する予想だと報告しています。

そもそも学費のディスカウントとはなんでしょう。このリサーチでは、学費ディスカウント率=授業料と手数料の合計(寮費・食費は含めず)のうち、大学の提供するファイナンシャルエイド、グラント、奨学金の占める割合としています。ファイナンシャルエイドにはいろいろな種類があって、連邦政府や州政府などの公的機関が提供するものや、大学自身が提供するものがありますが(ファイナンシャルエイドの種類についてはこちらを参照ください)、ここではそのうちの後者、大学自体が提供するファイナンシャルエイドに焦点が当たっています。つまり、大学が自らすすんで学費を割り引く、その割合ということです。この大学が提供する「ディスカウント」には、家庭の収入がある程度低いのでもらえるニードベースのものと、収入にかかわらずもらえるニードベースでないものとが含まれています。

下記が2000年以降のディスカウント率の推移です。この表からふたつのことがわかります。

tuition discount rate

ひとつめは、学費のディスカウント率はどんどん大きくなっているということ。学費(ここでの学費は寮費などを含む総合的なトータル費用です)を割り引く傾向が高まっているということ。青のFirst-time/Full-time Freshman(フレッシュマンで入学してくる学生に対するディスカウント率)は2000年の37.2%から2013年の46.4%へと上昇し、これは一年あたり押しなべてみると1.7%ほどずつ上がってきた計算になります。つまり、学費の正規価格は年々3%なり4%なりというペースで上がりつつも、割引率も年々1.7%くらいずつ上がっていることになります。もともと$1,000だった航空券の値段を$2,000に上げておきながら、でも実は割り引きをたくさんしてあげるので$2,000をフルに払う必要はありません、$1,300でいいですよ・・というようなかんじですね。なぜ、このようなまどろっこしいことをする必要があるのか、それについては後で考えます。

もうひとつグラフから分かることは、青ののFirst-time/Full-time Freshman(フレッシュマンで入学してくる学生に対するディスカウント率)に比べるとオレンジのAll Undergraduates(学部生総合に対するディスカウント率)のほうは年々4%から6%ほど低いこともわかります。つまり、大学はフレッシュマンに対してより多くの割引をしており、入学後2年目以降はその割引率が多少少なくなるということです。また2000年前半より2010年あたりからのほうがこの両者の開きが大きくなっているのもわかります。これらは、大学がよりフレッシュマン優先で割引を行っていることを示しています。

 

正規料金はふつう払いません・・

 

同リサーチでは、学費の正規料金は上昇するものの割引率も上昇し、大学が手にする最終的な学費収入の純収入(Net tuition revenue=正規料金―割引額)は、インフレ調整後で2012年では前年比1.7%、2013年では前年比0.5%であると報告しています。学費がどんどん上昇しているので大学はさぞかし儲かっているだろうと思うと、どうやらそうではないようですね。過去13年間を押しなべて見ると大学に入る純学費収入は一年あたり0.4%成長してきたにすぎないとも報告されています。

このようなディスカウントの恩恵を得ている学生は、2012-13年度では全体の87.7%に達し、2013-14年度には88.9%に達すると予想しています。先のデータと合わせると、90%弱の学生が、平均額にして50%ほどの学費割引を受けているということになります。裏を返してみると、ニードベースのファイナンシャルエイド、あるいは大学のスカラシップ、メリットエイドなどを含めたニードベースでないエイドのどれもまったく受けず、フル授業料を払っている学生は全体の10%ちょっとにすぎないということです。

90%の学生が大学からの奨学金によって授業料割引を得ている今日、航空券の場合と同様に、「ディスカウントで勉強してあたりまえ」ということになっているといえます。反対にいえば、年間$50,000とか$60,000という学費を払っているのは、正規料金で飛行機に乗るようなものだということです。次回はその理由を調べてみます。

4 comments

  1. いつも参考にさせていただいております。データを元に論理的にわかりやすく情報を説明してくださるのでありがたいです。

    大文字で”正規料金はふつう払いません”には笑ってしまいました。
    正規料金をはらう家庭はおそらく能力的にはその学校に達していない(プラス何かしら問題があった子供)
    、ちょうどボーダーラインの生徒の親が正規料金(+寄付金)を払って入学許可をえるのかなと最近の周りの状況をみて考えておりました。その点はどう思われますか? 個人的にはFAをもらって入る学生さんは努力と実力を兼ね備えたはある意味まともな人材と思うのですがいかがでしょうか?

    1. そんな傾向もあるのでしょうが、私も全部を見晴らしているわけではないのでよく知りません。言えることは、ある一人の学生についてなら、その子のReach SchoolよりはSafety SchoolのほうがMerit Aidがもらえる可能性が高まるということかと思います。

  2. こちらも東部の私立中高校という一部の環境をみて感じたことだったので、一般的にはどうなのかと疑問に思っての質問に回答ありがとうございます。説明会でアメリカの大学入学基準は幅がひろく、個々の大学によって大きくかわってくるので情報収集力とコネも重要な戦略の一つと聞きました。正直、優秀で真面目な普通の学生が希望校に不合格になり、ドラッグやその他のリスキーな行動で問題があった生徒が特に優秀で才能もないのに親のレガシー枠や入試にむけて数年前から寄付金を納めて有名校に入るの多くの例を知ってアメリカのゲーム感覚の大学入試に嫌気がさしておりました。
    前回のコメントに書き忘れたのですが、もちろん優秀な学生さんで学費全額の支払能力のあるご家庭が有名校に入学しているケースもたくさん承知しております。最近は大学はアメリカ以外も視野にいれようかと考えています。

    1. そうですね、おっしゃることよくわかります。大学というとなんだか子どもの教育に関することなので親の特別な感情がありますが、つまるところはビジネスなので、どこも”顧客確保”に一生懸命だと思います。大学の建物や人件費などは年々簡単に調整できない固定コストでしょうし、だからなるべく学生の”空き”をつくらずいかに席を埋めるかは、一部のトップスクールを除きどこも頭の痛い問題だと思います。多少質の悪い(?)学生が来ても、親がたくさん寄付をしてくれるのなら、それはビジネス的に理に適うというのも現実だと思います。ヨーロッパなど学費がただ(あるいはアメリカに比べたらすごく安い)ところなどは、まったくカルチャー的に違うのでしょうね。

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