とある雑誌に“Education is Not the Answer“というタイトルの記事を見つけました。興味を覚えて読み進めると・・・
2011年から始まり全米に波及した“ウォール街を占拠せよ“に代表されるOccupy運動では、伸び悩む勤労者の賃金と広がる格差が中心課題として叫ばれました。この課題はいったいどうやったら解決されるのか?ヒジョーに難しい問題ですが、多くのメインストリームの経済学者は、一番の糸口として”教育“をあげているのだそうです。
次々と新しいテクノロジーが開発されるにつれ、それを使いこなすための高度なスキルを持った人材が必要になるわけです。しかしながら、そのような需要を満たすだけの人材プールがないことが問題であると多くの経済学者が結論づけているのだそうです。つまり高い教育を受けた必要なスキルを持つ人間であれば、仕事はいくらでもあり、格差や低い賃金に悩むことなく安定した生活ができる・・・ということらしいです。
ところが・・・
この記事の著者Jeff Madrickによると、この議論は少し短絡すぎて、“教育だけでは解決しない”と言っています。実際、こんなデータがあるんだそうです・・
- アメリカの一般的な世帯収入は、2009年に終わったリセッション以来、毎年減少し続けており、2013年現在でも、2000年(13年前!)の世帯収入より低い。
- 一方、カレッジの学位を持つアメリカ成人の割合は、過去10年間に26%から現在の30%に伸び続けた。言い換えれば、アメリカ人口は、年々“better educated”となっている。
著者は、こういいます: “カレッジの学位がなくてもいい“といいたいのでは決してないと。実際、学位がないと失業する確率は高くなるというデータはたしかに存在すると。また、学位がある場合と高卒の場合の給料の差も確かに存在するが、ただ、この差は30年前と比べると伸びが低くなっているとも。これは、ではどういうことかというと・・・
- 持っているスキルに見合った仕事に就くことができず、以前なら高卒の労働者がやっていた仕事に就く学位保持者が増えている。
- カレッジの学位はもはや“lowest level job”に就くための、最低必要条件になっている。
- 大卒者がスキル以下の仕事に就くことで、表向きは失業率が低く抑えられているが、その結果は賃金データに出ている。2000年代の、大多数の大卒者の時間給は減少した。
- これからもカレッジに行く人口が増えて大卒者が増えると、さらに時間給は下がるだろう。
この状況を踏まえて経済学者の中には、「二極化セオリー」を唱える人がでてきたそうで・・・二極化セオリーというのは、
- 一極は弁護士、医師、ファイナンシャル関連職種などのノンルーチンの知的なお仕事、もう一極は同じくノンルーチンだけれどマニュアルなお仕事、たとえばウエイターやセキュリティガードなど。
- この両極においては簡単にコンピュータで自動化したり、海外アウトソースが簡単ではないので、賃金は上昇傾向。しかしながら、両極にはさまれた真ん中、たとえば中間管理職や銀行の窓口業務などは、自動化と海外アウトソースが簡単なので、賃金が落ち込みがち・・
というセオリーだそうです。
この二極化セオリー、なんとなく理にかなったかんじがするので飛びつきたくなりそうだけれど、記事の著者によると確固としたデータ上の証拠はないとのこと。それより確固としたデータがあるのは・・
- トップ1%、とくにトップ0.1%の所得の伸びの激しさ
- 過去数十年間の、CEOレベルの所得は急激的な伸びを記録しており、他のルーチン/ノンルーチンの仕事に比べて、その伸びはずばぬけている。
・・ということは、カレッジ行って、大学院行って、高度な教育を受けて、医者や弁護士やその他の高度な職種に就いたとしても、トップ1%、トップ0.1%にならなければ、賃金の伸びはトップ層には追いつかない・・ってこと?。「インテリ層 対 非インテリ層」でも、「ルーチン職 対 ノンルーチン職」という対比でもなく、単に「トップ1% 対 それ以外」という対象です。これを著者は「格差」と読んでいます。結局、Occupy運動が叫んでいたことに戻っちゃったってかんじ?
著者は、こう続けます・・トップ層以外の労働者はbargaining power(自分たちの労働環境、労働条件、賃金を守るために経営者側と交渉する力)を失いつつあると・・・
- 高度な教育を受けたエリート層でさえも、職を失うことを恐れて給料のネゴに、二の足を踏む傾向もある
- 労働組合(ユニオン)はどんどん力を失い、プライベート・セクターでは労働組合で守られている労働者は、ほんの7%のみ
- 最低賃金の伸びはインフレの伸びに追いついていない
- 製造業は加速度的に第三国へ移されてきている
一方、トップ1%層のパワーは全開です。著者は3つのパワーを挙げています。
Financialization: 経済の金融化
- 難しい説明=経済活動で、利益が商品の生産・取引よりも、金融的経路を通じて生み出される傾向。エクイティ(資本)よりレバレッジ(負債)先行の経済構造。
- かんたんバージョン=よい質のモノをつくって、それを売って利益を得る経済ではなく、金融商品をつくって、それを売り買いすることで儲けることが主流な経済。売り買いは、すでに手元にあるお金(エクイティ=資本)ではなく、借りたお金(レバレッジ=負債)に頼ることがメイン。80年代には、生産拠点が続々と海外に移された結果、「産業の空洞化」が問題になりましたが、空洞になった産業は金融化されて、製造から金融主導へと乗り換えが起こったわけです。
Speculation: 投機
- 難しい説明=短期的な価格変動の目論見から、利ざやを得ようとする行為。
- かんたんバージョン=長期的にじっくり成長するのを待つ投資スタイルではなく、短期間に安く買って高く売ることで一発当てるタイプの儲け方。
Market-making:マーケット・メイキング
- 難しい説明=対象物の一定量の在庫をもち、デイリーベースで売り値と買い値をバイヤー/セラーに提示して、実際にその価格で売買に応じること。
- かんたんバージョン=売りと買いをずっと繰り返して、売値と買値の差で儲けることを専門にすること
つまり、トップ1%層は、レバレッジ(負債)でもって短期的な投機的な儲け方をし、経済に対して長期投資者としてではなく、売り買いで儲けるマーケットメーカー的な存在である・・ということなのでしょうか。トップ1%は上記3つに加えて、政治家に影響を与えるロビーイングパワーもありますから怖いものなしです。これに対し、教育を受けていようが受けていなかろうがそれ以外の99%は、バーゲニングパワーを失い”abused labor market”(乱用された労働者)であると・・
私は、トップ1%にabuseされているのは、労働者だけでなく、消費者もだと思います(ま、99%の労働者は同時に消費者ということでもあるのですが)。経済が完全に元気でなく、所得が上がっているわけでもないのに、不動産市場だけバカみたいに活気づいている理由は、まさにコレだと思います。家の値段が上昇するためには、10年前までは収入の上昇が第一の理由でした。ところが今は、どれだけモーゲージでお金が借りられるかが第一になっていると思います。収入が下がっても、モーゲージがどんどん借りられれば、普通は手の届かない家も買える。今の不動産市場の価格上昇は人工的な超低金利によっているわけで、本当に経済が元気になっているからではありません。
もうひとつバカみたい高いのはカッレジ費用ですが、これも同じ。卒業後見込める収入や親の経済レベルとは乖離した学費。いくら費用が高くても、でも払うことは出来るのです。条件は少々悪くても、学費ローンはどんどんおりますから。クレジットカードをつくるよりずっと簡単なクレジット審査で、どんどんおります。まさに、負債先行の経済ですね。モーゲージも学費ローンも、供給を牛耳っているのはトップ1%。そしてローンの手数料、ローンを証券化して投資手数料や売り買いですばやく儲ける・・かかえたローンであえぐのは99%。トップ1%はたとえ投機で失敗したって、政府から損失を埋めてもらえるから少々の不名誉は残るものの、実際大きな痛手はこうむらず・・これが2008年の金融危機。。ふつう投機には大きなリスクがつきものです。一発当たるか大穴見るか。だけども、この頃のトップ1%が一発あたるかタックスマネーで損失補てんか・・ですから、いいご身分です。消費者は大変です。フォークロージャに自己破産。でも学費ローンは自己破産では消えませんからね。墓場までついていきます。
アメリカってこれからどうなっていくのでしょうね。表面的にはなんとかなっているけれど、奥には深~い問題があるように思います。トップ1%になるような人は、頭も運もいい人たちなわけだから、どうか自分のことだけでなくて国のことを考えもらいたいな~。独立記念日を前にそのようなことを考えた一日でした。
>トップ1%はたとえ投機で失敗したって、政府から損失を埋めてもらえるから少々の不名誉は残るものの、実際大きな痛手はこうむらず
だからアメリカは富裕層のための社会主義国だというんです。そういう富裕層こそが声を大にしてwellfareやSSなど税金の無駄だと説教するんだから、ちゃんちゃらおかしい。しかも持ち金が減る一方のミドルクラスがそういう富裕層のスローガンを鵜呑みにするんだから、世話ないです(^0^)
>どうか自分のことだけでなくて国のことを考えもらいたいな~
アメリカ人にはノブレス・オブリージの意識はないでしょう。自分が金持ちになったのは神の恩寵がある選ばれた人間の証拠であり、貧乏人は神に見放されたやつらなどという連中がいますから。
マーケットに投資するのも2008年以降やめました。大金持ちのマネーゲームに操られるだけのマーケットと思えるようになったからです。マネーゲームの波に乗せてもらい小金を稼いでも惨めな気がします。
1%がそれ以外の人々を食い物にする構図は、いずれ食い物にしようにも、家を買ったり投資に回す余裕がない人々の数が大きくなりすぎる時点で、立ち行かなくなるんじゃないでしょうか。99%はそこまで落ちぶれない程度に飼い殺しにするという方法も考えてるかも(^0^)
いつか立ち行かなくなるでしょうね。でも自分が生きている間は立ち行くならいいか・・と思っているのでしょうかね。アメリカ建国のころの偉い人たちは、もう少し国のこと考えていた気がしますけどもね(子どもがソーシャルスタディーで勉強していたことの受け売りですが)。。。