インカム・タックスの格差 - どうしてこうなるの?

アメリカはもちろんプログレッシブ・タックス(累進課税)・・・ってことは、お金持ちほど、税率が高くなるんだよね~と思いきや、そうでもないわけでして。稼いだお金にかかる税金にも、う~むとうなりたくなるような格差が潜んでいるようです。「プロパティ・タックスの格差 - どうしてこうなるの?」に続いて、今回はインカム・タックスの格差を調べました。

ミット・ロムニー氏が自分の2011年のタックス・リターンの詳細を明らかにして話題を呼んでいます。詳細はこちらのブログで読めます。所得税率は13.9%。この所得税率とは、連邦税÷AGI(Adjusted Gross Income、収入の合計から許された控除額(above the line deduction)を差し引いたもの)です。あなたも去年のタックス・リターンを引っ張り出して、計算してみてください。AGIはForm1040の1ページ目、ライン37です。連邦税は2ページ目、ライン61です。ライン61÷ライン37、どうですか?う~ん、うちの場合はロムニー氏よりかなり高い率です。。。

ある記事によると、2009年には$1ミリオン以上の所得があった世帯のうち1470世帯が連邦税をまったく払わなかったとのこと。そう、ゼロですって。また、アメリカのもっともリッチな400世帯をとってみると、1992年には彼らの所得税率平均は29.2%だったのが、2008年には18.1%まで低下。この所得税率の低下は、この400世帯で平均すると1世帯あたり1年に$45ミリオンもの税金の減少に換算されるそうです。政府は財政難と言っているのに、なんだか裏腹ですね。

どうして、お金持ちだと税率が低くなるのか?AGIが高くても、そこからさらにいろいろな控除(itemized deduction)が許されて、結果的に課税される収入が劇的に減ってしまうのかしら。それとも、AGIを構成する所得の種類が、フツウの家庭とは違って、フツウの税率で課税されないのかしら。どうやら、後者の理由が大きいらしいです。

 

働いて稼いだお金 と 働かないで稼いだお金

同じくメガ・リッチのウォーレン・バフェット氏は自分の所得税率は17.4%(2010年)だったと明らかにしたうえで、こう言いました。

私のメガ・リッチな友達の何人かがしているように「お金でお金を稼いだ」場合は、所得税率は(自分の17.4%より)少しばかり低くなるだろう。反対に、「仕事をしてお金を稼いだ」なら、私の税率を上回るだろう。それも少しじゃなく、かなりね。

仕事をして、つまり働いて稼いだお金は、Form1040のInstructionにあるとおりタックス・ブラケット表にのっとって課税されます。ジョイントでファイルしている夫婦の場合なら、最初の$17,000は10%で、それ以上$69,000までは15%で、それ以上$139,350までは25%というように、所得をいくつもの層に分けて累進で課税していきます。ってことは、もし、所得が$1ミリオン以上もあれば、所得のほとんどが35%で課税されるはず・・・

・・・と思いきや、そうではないから、最終的な所得税率はずっと低くなるのですね。なぜなら、スーパーリッチの所得の大部分は、働いて稼いだお金(earned income)ではなくて、働かないで稼いだお金だからです。働かないで稼いだお金とは、バフェット氏が言っている「お金で稼いだお金」、よく知られるところではキャピタル・ゲインや配当金などがそれです。長期キャピタル・ゲインの課税率は15%(10%・15%ブラケットの納税者なら課税なし)、配当金のうちある一定の条件を満たすもの(qualified dividend)の課税率も15%(10%ブラケットの納税者なら5%)で、働いて稼いだお金にかかる税率よりずっと低いのです。

このキャピタル・ゲインと配当金の15%課税の正当性については、「(短期的・投機的な投資ではなく)長期的な投資を促進することにより、経済活動を後押しし、雇用促進へと繋げるために役立つ」とする人もいれば、「このような税政策をしても、つまるところ雇用促進には繋がらない」とする人もいて意見は分かれています。長期キャピタル・ゲインや一部の配当金(qualified dividend)の課税率が現在の15%レベルに引き下げられたのは2003年ですが、それ以降、かえって短期的・投機的な投資は加速しているように感じるし、雇用が促進されたようにも思えないのですが、どうなんでしょう。

先のアメリカの最もリッチなトップ400世帯に戻りますと、この人たちは稼いだお金の額が並大抵でないだけでなく、その稼ぎ方も凡人とは違うのです。彼らのAGIのほぼ60%はキャピタル・ゲインであり、そのほとんどに15%の税率が適用されているのです。一方、働いて稼いだお金はというと、AGIのたった8%を占めるのみだそう(2008データ)。

 

本当に働いて稼いだお金じゃないの?

ロムニー氏も今回のタックス・リターンでは、働いて稼いだお金は一切申請していないそうです。働いて稼いだお金がない?ふ~ん。その代わり、彼の場合、Bain Capitalという投資会社のパートナーとして得た利益、税用語で「キャリード・インテレスト(carried interest)」というのらしいですが、それがたくさんあるそうです。そして、そのキャリード・インテレストは、長期キャピタル・ゲインと同じ15%で課税されているのだそうです。

この「キャリード・インテレスト」、あちこちで物議を呼んでおり、たとえば以下はウォーレン・バフェット氏の言葉。

私たち(メガ・リッチ)のうちには、投資マネージャーとして日常の勤労から何ビリオンも稼いでいる人がいるわけだが、それらは「キャリード・インテレスト」という名のもとに、特別に15%で課税されている。また、株価指数の先物を10分間のうちに売り買いして、その60%の利益が、あたかも長期キャピタル・ゲインかのように15%課税の恩恵を受けるというようなことも行われている。

バフェット氏の言葉は、“they”ではなく“we’で語られている、つまりインサイダーとして内情を告発しており力強いと思います。「日常の勤労から(”from our daily labors”)」という言葉は、その何ビリオンものお金が、投資をマネージするという日常の仕事から得た報酬であることを示唆しており、なぜフツウの人が「働いて稼いだお金」と同じように課税されないのかは、たしかに謎であります。

 

働いて稼いだお金には、他にも税金が…

働いて稼いだお金にはペイロール・タックスという税金もかかりますね。給与明細をもらう人ならご存知でしょうが、月々の収入からは、連邦税や地方税とともにソーシャル・セキュリティー・タックスに6.2%(課税上限$110,100。2011~2012年2月までは4.2%に特別減額)と1.45%のメディケア・タックス(課税上限なし)が引かれますね。あわせて7.65%が収入に課税されているわけです。ペイロール、つまり働いて稼いだお金でなければ、もちろんこの課税はされません。

またまた、バフェット氏の言葉を引用させていただきましょう。

メガ・リッチたちは、そのほとんどの収入が15%の課税率であるうえ、実質上ペイロール・タックスも支払うことはない。しかし、ミドルクラスにとっては話が別である。一般的に、彼らのインカム・タックスのタックス・ブラケット15%とか25%であるうえに、加えてペイロール・タックスの重荷も背負わされているのだ。

ここまでくると、「バフェットさん、ミドルクラスのことをわかってくれてありがとう」とお礼のひとつもいいたくなります。働かないで収入が得られれば、そんなに楽なことはないし、そのうえ税金も安いとくればそうしたいのはヤマヤマだけど、それには元手がないとねぇ。働いてお金を稼ぐしかないフツウの人は、高税に苦しみながらも働き続けるしかないということでしょうか。しかしながら、子どもたちには、「働いて稼ぐと高税だから、できるだけお金でお金を稼いだほうがいいよ」というようなメッセージは送りたくないですね。一生懸命働いてお金を稼ぐ、とてもたいせつなことではないでしょうか。

まあね、たとえ15%の課税率であったとしても、メガ・リッチの払う税金はものすごい額を払ってくれていることは確かだと思います。ベース(課税対象)がケタ違いですからね。それに、メガ・リッチは、ソーシャル・セキュリティーもメディケアも要らないでしょうよ。十分蓄えはありますからね。メガ・リッチの方々からすれば、自分たちが払うべき分は、十分払っているだろ」と言いたくなるのかもしれませんが。国が傾きかけていますから、「shared sacrifice」の名のもと、もう少しばかり負担を担ってくださいますと助かりますが。。。

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5 comments

  1. いつもこちらのサイトで勉強させていただいています。いつも解りやすい説明をありがとうございます。

    昨年2017はキャピタル・ゲインが多く、タックスリターンが想定していたよりも少なく、むしろ州税はマイナスでした。
    当方のタックスブラケットは28%で、主な収入はペイロールです。
    税金は出来るだけ先に支払いたいので、キャピタルゲインの受け取りと同時に税金を自動的に引くことも可能なのでしょうか?

    配当金(Non-Qualified Dividends、Qualified Dividends)はreinventするのではなく、 cashで受け取り、すぐに銀行振込み設定しています。すぐキャッシュにするので、私は40%(one day)の税率を払っていたのでしょうか?それともQualified Dividendsは上記の説明にあるように課税率がいつ引き出しても15%なのでしょうか?Non-Qualified Dividendはreinventして、一年後に引き出した方が税率が低くなるのでしょうか?

    銀行貯金は少額に、少しでも貯まるとすぐにinventしていますが、知識不足なのか、タックスばかり払っていて、ため息ばかりついています。

    アドバイスをお願いします。

    1. キャピタルゲインは、ご自分でEstimated Taxとして納めるか、あるいは給与からのWithholdingを少し多めにするかで、先に支払っておくことができます(というか、ゲインが大きくて十分なタックスの支払いないと、タックスリターン時ペナルティがあります)。Qualified Dividendはキャッシュで受けとろうがリインベストしようが、配当されたら課税対象になります。税率はインカムタックスのブラケットによってきまり0%か15%です。

      1. なるほど!
        ありがとうございます。
        では、Non-Qualified Dividendはreinventして、一年後に引き出した方が税率が低くなるのでしょうか?

        1. Qualified DividendでもNon-Qualifiedでも、支給されたときが課税対象となるときです。Reinvestしようか、しなかろうが、それは関係なく、支給されたら課税されます(0%でない限り)。

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