Last Updated on 2014年9月8日 by admin
先週は、株式市場の上がり下がりをカンペキに読むPerfect Timerと、ニュースや雑誌記事で上がり下がりを予想するLatest News Followerと、そして一度買ったら何もしないBuy & Holderを比べてみました。マーケットタイミングは当たればすばらしい結果を生み出すが、カンペキにタイミングを読むことは非常に困難極まりなく、ちょっとはずすとかえってひどい結果になることを見てみました。
株価は上がり、株価は下がる
市場を読んで売り買いのタイミングを決めるマーケットタイミングが困難なこと、また読みがはずれるとダメージが大きいことは、難しいデータを見なくても、過去の株価の動向を見るだけでピンとくるかもしれません。下のデータは、1926年から2012年までのS&P500インデックスの年ごとのリターンのデータです。上から下まで目で追ってみてください。
どうでしょう。これが、株式市場の実態です。最大のリターンは1933年の53.99%(緑丸)、最悪のリターンは1931年のマイナス43.34%(赤丸)。まさに天国と地獄です。その2年が超例外的ケースかというとそうでもなく、30%、40%というリターンは案外ちらほら出現していますし、二桁のネガティブ・リターンもちらほらあります。しかも、数年間の間で「だんだん、徐々に」という傾向があまり見られないのがわかるでしょう? 5%が7%に、7%が9%に、10%が15%にというような緩やかな傾向ではなく、ただプラス、マイナス、一桁、二桁の数字が明白なルールなく、気が狂ったごとくジャンプ・アランドしているように見えます。しかもこれは年あたりのリターンですが、もちろんそれぞれの一年の中で日々どころか時々刻々株価はジャンプ・アランドするのです。このような市場の上がり下がりのタイミングを読むというのは、並大抵ではないように思いませんか?
このジャンプ・アラウンドする数字の読めなさ加減というか、「いいときはいいが、悪いときは悪い」ことを、ファイナンス的には「リスク」と呼びます。銀行の預貯金やCDはもちろんのこと、債券ファンドなどをとってみても、ここまでリターンの数字が上下することはありません。つまり預金や債券はリスクが低いのです。株式はリスクが大きいのです。
うまく付き合う方法
リスクが大きいことは読めなさ加減が大きいことを意味し、読めないものはふつうちょっと怖いものですが、でもいいこともあります。より高いリターンが期待できることです(リスクとリターンの話についてはこちら)。株は高リスク高リターン、債券は中リスク中リターン、マネーマーケットなど現金相当品は低リスク低リターンです。中低リスクだけとってうまくいくなら一番心臓にはやさしいやり方ですが、いかんせん、それだけでは十分なリターンが期待できず必要なリタイヤメントや学資準備ができないこともあります。高いリターンを期待するなら高いリスクもとらねばなりません。でも、マイナス43.34%は困るでしょ・・・と思いますね。市場のタイミングも読めないとなれば、どうするか。解決策は案外シンプル、長く持つことです。
消えたマイナス
また、また、長い表になりますけれど、先ほどのS&P500の表に2行データを足したものが下です。左側の10年間平均というのは、その年から遡った過去10年間のリターンの1年当たりの平均値、同様に右側の20年平均というのは、その年から遡った過去20年間のリターンの1年当たりの平均値です。
たとえば、1949年の例でいえば、1940年始めから1949年終わりまで10年間投資し続けた場合、年間10.38%のリターンを記録できたこと、同様に1930年始めから1949年終わりまで20年間投資し続けた場合、平均で年間7.86%のリターンを記録できたことを意味しています。S&P500インデックスの年毎のリターンは先ほど見たようにマイナスの数字もたくさん見られますが、10年平均をとってみるとマイナスの値が消えたのにお気づきになるでしょう。最高値は先ほどの53.99%よりずっと小さい21.52%に下がりましたが、最悪値もマイナス43.34%よりずっとましな0.67%に上がりました。さらに20年平均をとってみると、最高値はもう少し下がって18.59%になりますが、最悪値ももっとましな6.50%です。長く持てば持つほど、大もうけの確率も減るが、大損の確率も減るのがわかるでしょう。リスクとうまく付き合い、このリスクを自分の見方につける方法、これはなんともシンプルな長く持つということなのでした。
* 10年平均、20年平均は便宜上、単純平均値を使いました。実際は複利なので、もう少し複雑な計算が必要です。単純平均値を使っても、意図することはお伝えできると判断したので、そうさせていただきました。
長期投資の心構え
少なくとも10年以上は持ち続けることができる、裏返せば10年以上手をつける必要のない資金は、長期投資の心構えをもって増やします。なんといってもリタイヤメント準備がその最たる例でしょう。20代、30代で始めるリタイヤメント投資ならリタイヤメントするまでに40年~50年のスパンがあります。また、40代、50代で始めるとしても、実は30年単位で取り組めます。なぜならリタイヤメントはリタイヤメントする時点がゴールなのではなくて、人生の終わり地点がゴールなので、将来の寿命は85歳とか90歳とか言われる昨今、投資はかなりの長丁場と考えるべきです。長期投資を決めたら、許容リスクを決めます。許容リスクにより、資金のうちどの程度を株に回すか、どの程度を債券に回すか、どの程度を現金相当品に回すかが決まってきます。これをアセットアロケーションといいます。一概に株は怖いからやめておくなどと言わないこと。長く持ち続ければ怖さ激減でしたね。そして、あとは1年に多くて4回、少なくて1回の定期的なチェック時以外は、すっかり忘れて放っておくこと、これがポイントです。
感情がもっともリスキー
すっかり忘れて放っておくこと・・・これは、意外と難しいものです。投資残高を頻繁にチェックする人がいますが、そのような人にはとくに難しいでしょうね。上がったり下がったりを毎日目にするわけですから、たとえばガクンと下がったときなどは受けるショックも大きいでしょう。一方、あんまり投資残高など見ないという人でも、「株暴落!」とか「多くの人が資金を株から引き上げている」とか「ここ2,3年は下がり続けるだろう」などというニュースを目にすれば、不安になります。反対に、これから「回復の兆し」とか「今が買い時!」などというニュースを見れば欲も出たりするでしょう。けれど、この不安=Fearと欲=Greedという感情が、長期投資のもっとも大きな敵なのです。感情に流されると先週書いたとおり、私のように失敗します。激しい上がり下がりも覚悟の上で長期投資をしているのですから、ただただ何もしないのが一番。いったん長期投資を始めたら、とにかくチェックしない、ニュースも雑誌も見ないというのが実は最高の戦略です。
自動化してしまう!
多くの場合、401kや529などの長期投資では月々決められた額を継続的に積み立てますね。おそらく多くの方が、一定の積み立て額を何パーセントずつどのファンドに割り振るかというアロケーションを決め自動化しておられることと思います。このやり方をDollar-Cost Averagingなどと呼んだりしますが、これはとてもいい方法です。ポイントはいつも常に一定額が株なら株、債券なら債券に自動的に当てられるということです。ポイントは自動的というところで、これにより感情という要素を排除しているところです。
このやり方だと、株価が暴落したとき、巷の人は売りに出ているところ、自動的にもっと多くの株を買う(一定額÷暴落した価格=たくさんの株)ことになります。反対に株が絶好調のとき、巷の人は買いに出ているところ、自動的に買いを抑える(一定額÷高い株価=少ない株)ことになります。非常に感情に逆らった行動ではありますが、これが結果的には、安いときになるべくたくさん買っておき、高いときはほどほどに抑えておくという効果につながるのです。
また、Auto Rebalanceという自動化機能も使うとよいですね。こちらは、投資残高のうちの株や債券、現金のアロケーション比率が、当初設定した目標アロケーションからずれたとき、自動的に当初のアロケーションに戻してくれるというものです。多くの投資サイトでふつうに提供されている機能です。たとえば、株価が暴落すると投資残高のうちの株の資産価値が下がります。当初株ファンド80%、債券ファンド20%というアロケーションを目標にしていたのに、株ファンド60%、債券ファンド40%という比率に変わってしまうかもしれません。そのとき、自動的に株ももっと買い、債券を売ることで、当初の株ファンド80%、債券ファンド20%にひき戻してくれるのです。
これもポイントは自動的というところで、感情という要素を排除していることです。このやり方でも、株価が暴落したとき、巷の人は売りに出ているところ、株比率が下がったので自動的に株を買い足すことになります。反対に株が絶好調のときは、巷の人は買いに出ているところ、値上がりで上がった株比率を引き下げるため自動的に売ることになります。非常に感情には逆行した行動ではありますが、これが結果的には安いとき買って、高いとき売るという効果を生み出します。質のよいターゲットデイト・ファンドが投資の選択肢にあるのなら、これを使うのも大きな効果があります。これは究極の自動化作戦だからです。
自動化して放っておく・・・これが、最高の投資戦略なのです。
手数料を最小化する
そうそう、放っておく前に、最後に必ずチェックしたいのは、投資しているファンドの手数料です。高い手数料が課せられているのに、それを知らず放っておくのはヒジョーに危険です。とくに長期投資なら何十年もの間、手数料がかさみ、大きくリターンを喰われる結果になりかねません。これは絶対に避けたいことです。これまで手数料については何度も記事にしていますのでここでは詳しくは書きませんが、手数料の安いインデックスファンドを手数料の安い買い方で買うことがポイントです。
インベストメントの手数料にお気をつけを!(1)-Sales Load
インベストメントの手数料にお気をつけを!(2)-Expense Ratio
インベストメントの手数料にお気をつけを!(3)-ファンドに払う手数料
インベストメントの手数料にお気をつけを!(4)-Trading Costs
うちの主人は剣道にはまっていますが、彼がよく言っています。「一番自分が力を抜いて、体を流れにゆだね、一本とられたら困るという不安と一本とりたいという貪欲を拭い去れるときだけ、勝てる。」 投資も一緒でございます。
それでは、2014年もHappy Investing!