Covidが過ぎ去って、多くの人の働き方や生き方に対する考え方が変わりました。以前はできるだけ長く働こうと考えていたけれど、リタイヤメントを繰り上げてゆっくりと時間を楽しみたいという方。アメリカにはほぼ永住と思っていたが、日本での老後を考えたいという方。こんな方々のご相談も増えているように感じています。昨今のアメリカのものすごいインフレと少し落ち着いたものの加速度的に進んだ円安ドル高があいまって、早めにリタイヤし、よりコストの安くて安心な日本に、老後の生活の基盤を得るという考え方がポピュラーになってきているように思います。
アメリカの老後の生活費
リタイヤしてから、アメリカで生活するのにいくらかかるのか。これは一筋縄では測れない課題です。アメリカは、そもそも「平均」という概念がつくりにくい国です。住む場所によっても、生活スタイルによっても、リタイヤ後の生活費は大きく異なります。
以下は、GoBankingRateというサイトが試算した州ごとのリタイヤメント後の生活費です。 groceries, healthcare, housing, utilities、transportationのトータルを計算したもので、基本生活費と少し余裕を持った(基本生活費の20%目安をゆとりとする)を出しています。
上の表では、全米50州のうちのいくつかをリストしており、コストが低いほうから高いほうまで並んでいます。
なお、これらは州の平均的な数字ですが、もちろん州の中でも都市部に住むか郊外に住むかでかなり差が出ると思います。また、返済済の自宅があるか、返済中の自宅があるか、レントかによっても差が出るとも思います。ということで、あくまでご参考まで。
上のコストに対して、ソーシャルセキュリティの老齢年金はどのくらいでしょうか。何年働かれたか、あるいは収入がいくらであったかによって、受給額は異なってきます。2023年の全米平均のソーシャルセキュリティ老齢年金の受給額平均は$1,782(月)でした。最高受給額は$3,627(月)です。お二人の場合、ご夫婦ともに同様に働かれていたのなら受給額はこれらの二倍の額になります。あるいは、お一人が働かれていなかったり働かれていても受給額が少ない場合には、働かれていた方の約50%の受給が可能です(受給開始時期などにもよります)。平均の$1,782の二人分なら$3,564、一人分と配偶者の50%なら$2,673です。最高受給額と配偶者分の50%なら$3,627X1.5=$5,440となります。
ローコスト州でない限り、ソーシャルセキュリティだけではコストがまかないきれないので、それ以外の資金、企業年金やアニュイティがあればそれらで、さらには401(k)やIRA
などのリタイヤメント資産でまかっていくことになります。言うまでもなく、ハイコスト州ではかなりまとまった額のリタイヤメント資産が必要になります。
日本の老後の生活費
生命保険文化センター「生活保障に関する調査」(2022年)によると、夫婦ともに65歳以上の無職世帯(夫婦のみの世帯)の1カ月間の支出は以下のようです。
合計で月に約27万円の支出です。これは生活の基本的な費用ですので、ゆとり分を見込むならこれに上乗せで費用を見積もっておくことになります。旅行やレジャー、趣味や教養、日常生活の充実、身内とのつきあい、耐久消費財の買い替えなどが、ゆとりのための消費であげられるトップ5項目です。これで8万円から10万円の上乗せを見込むケースが多いようです。
そうすると、ゆとりを持っても夫婦二人で35万から40万円程度を見ておけばよいことになります。将来の為替がどう動くかわかりませんが、現在の約135円/ドルよりもかなり円高に見積もって120円/ドルとしても、$2,917 から$3,333を見積もっておけば、ある程度余裕のある生活ができることになります。一人暮らしの場合は、ほぼ2分にする感じでよいかと思います。基本的ラインで月に13.5万円、余裕を持つなら17.5から20万円程度になります。ドルにして$1,458 から$1,667です。
上の計算では住居費が15,578円しかみこまれていないので、これは自宅がすでにあることを見込んでいるかと思われます。日本に自宅がおありならよいですが、そうでないなら帰国されて住む家の確保は第一課題です。アメリカに自宅をお持ちなら、帰国時に自宅を売却しそのエクイティで購入できる範囲で日本の家を購入すれば、上の生活費で収まると判断してよいでしょう。
これらの月額生活費は、アメリカのソーシャルセキュリティの受給資格がある方なら、ある程度余裕をもってカバーできる数字かもしれません。。上で計算したとおり、平均受給額の$1,782の二人分なら$3,564、一人分と配偶者の50%なら$2,673レベルに始まり、最高受給額と配偶者分なら$3,627X1.5=$5,440程度(もちろんお二人で最高受給額なら$7,254になりますが)までの範囲で、日本の生活費の大部分はカバーできる可能性が高いように見えます。
アメリカのソーシャルセキュリティをもらいながら日本で生活する人にとっての大きな朗報は、日本のインフレがアメリカのそれよりもずっと低いと予想されることです。アメリカでリタイヤメントプラニングをする場合には、必ずインフレを鑑みます。現在は大変に高インフレですが、長期的には2.25~2.5%程度を見込んで計算をするのがデフォルトです。一方で、日本の場合は、インフレはゼロで計算するのがふつうです。日本でもインフレ率が少しばかり上がってきているので、今に至っては老後におけるインフレを危惧する声も聴かれていますが、それでも長期的にアメリカほどのインフレが今後も続くことにはならないように思います。
アメリカのソーシャルセキュリティ受給額は年々、インフレ調整があります。為替が円高ドル安に動かない限り、日本円で手にする受給額も年々上がっていきます。日本のインフレがそれほど大きくなければ、実質上は生活費はそれほど上がらず、年金収入が上がっていくイメージなります。これは、年金生活者にはなかなか心強いものです。
ということで、今回はリタイヤ後の生活費に焦点を当てました。日本での生活はアメリカでのそれより、おそらくかなり低めの費用で成り立つと予想され、アメリカのソーシャルセキュリティが十分な額があればそれで賄える可能性も高いと言えると思います。