あなたが死んだら私トクします? - 生命保険の売買・Life Settlement

リタイヤメント・アカウントも学資アカウントもちっとも増えない・・・なんかもっとお金が貯まる方法はないのか・・・というのは誰もの悩み。そんな昨今、「ロー・リスクでハイ・リターンな投資法!」とか「あまり知られていないすばらしいインベストメント!」などのフレコミの宣伝をよく耳にします。そんないい話あるわけないじゃん・・と思いつつも気になる宣伝。そんな宣伝のうち、前回はTrust Deed 不動産投資を調べてみましたが、今回はまた違うやつで、Life Settlementというのを調べてみます。

 

うたい文句はこんなかんじ

高リターン(5~8% or more)

Best kept secrets(知る人ぞ知る投資法!)

株式市場や経済に影響されない

いったい何に投資するんだろう・・?ラジオの宣伝の場合、その投資が従来の株式などの投資に比べてどんなにすばらしいかということを長々と説明する割に、それがどんな投資なのかは言わないことが多いもの。1-800には電話しないで(電話すれば売りトークにはまっちゃうかもしれないし)、会社名を覚えておいて後でWebなどで何を扱っている会社か調べるのです。ちょっと探偵みたいで面白いです。では、さっそく調べちゃおう!

今回のは調べてみたら、Life Settlementを扱う会社でした。なんじゃ、それ?

 

Life Settlementとは?

Life Settlementとは、すでに持っている自分の生命保険を他の人に売ることだそうです。自分が死んだら自分か家族かがもらえるはずだった死亡保証金の受取人を、他の人にするということ。売値は、その生命保険のキャッシュ・バリューよりは大きく、死亡保証金よりは小さい額です。死亡保証金を得る権利は失うが、その代わりに今すぐ一時金を得るということ。売る人は自分の生命保険と引き換えに一時金を得ておしまい、買う人は一時金を払い生命保険を買い取ります。買った人は、売った人が亡くなった時点で死亡保証金を得るというしくみ。人の生命保険をもって、「投資」にしてしまうなんて!クリエイティブと呼ぶか、ちょっとエグいと見るか・・・どう思います?

こんなふうなしくみです。Aさんは72歳。Universal Life Insuranceを持っており、現在の死亡保証金は$800,000、キャッシュ・バリューは$78,000です。このまま持ち続けてもいいけれど、死ぬ前にやっておきたいこともあるので、今お金が欲しいと思いました。Aさんは、この生命保険をBさんに$350,000で売ることにしました。Aさんは$78,000のキャッシュ・バリューはもちろん、自分が死亡した場合に家族が受け取るはずだった$800,000を返上することになりますが、その代わり今すぐに$350,000の現金を受け取ることができます。そのお金で、以前からの夢だった世界一周旅行をすることにしました。

一方、Aさんの生命保険を買ったBさんは、$350,000を一時金として払います。また、もしそれ以降、その生命保険をキープするために保険料を納めねばならないのなら、それもAさんに代わって払います。なんと1ヵ月後、Aさんが交通事故で亡くなったとしましょう。Bさんは即刻$800,000の現金を手にします。数週間の間に$800,000-$350,000=$450,000のリターン・・・ということになります。

 

あなたが死んだらわたしトクします?

人が死んで儲けるなんてこんなことがあっていいのか!・・・そう思いますよね?こんな投資(?)があっていいのか? 投資? そう投資です。現にこのLife Settlementは列記とした投資商品として、SEC(証券取引委員会)の監視下にあります。リターンはというと、これは完全に「Aさんがいつ死ぬか」によります。

Aさんが即刻亡くなった場合

投資額:       $350,000

手に入る額:           $800,000(即刻)

単純年利:    ($800,000-$350,000)÷$350,000=インスタント129%

 

Aさんが5年後に亡くなった場合

投資額:       $350,000

手に入る額:           $800,000(5年後)

単純年利:    ($800,000-$350,000)÷$350,000=129%

129%÷5年=年25.8%

 

Aさんが20年後に亡くなった場合

投資額:       $350,000

手に入る額:           $800,000(20年後)

単純年利:    ($800,000-$350,000)÷$350,000=129%

129%÷20年=年6.45%

 

・・・とまあ、こんなかんじ。

ちなみにふつう、AさんとBさんはまったくの他人です。AさんとBさんの間にはLife Settlement BrokerやLife Settlement Providerと呼ばれる仲介者が入ります。そして、わたしが聞いたラジオ宣伝は、このBrokerやProviderの宣伝だったわけです。

Aさんにとってみると、数年前に離婚し、子どもも独り立ちしているため、残された家族に多額の生命保険残す必要はありません。必要ない生命保険に保険料を払い続けるのもムダです。キャッシュ・バリューは$78,000ですから、このまま生命保険を解約しキャッシュ・バリューを老後の生活の足しにするといことも選択しです。でも、せっかく掛けてきた生命保険、このまま解約するのもちょっとばからしい・・・と思っていたところに、保険エージェント(場合によってはLife Settlement専門のbrokerだったりファイナンシャル・アドバイザーだったりする)から「では、その生命保険、現金と交換に売りませんか?」という話がきました。悪い話ではありません。

 

保険エージェントは、Aさんの個人情報と病歴やその他の医療関係情報を集め、Life Settlement Providerに渡します。Life Settlement Providerはもらった情報を分析し、Aさんの寿命予想値を割り出します。そう、Aさんがあとどのくらい生きるかを予測するのです!Aさんがとても健康で、直系家族もみんな長生きで、当分死ぬ予定がない場合は、きっとAさんの生命保険には安値がつくでしょう。Aさんが病気がち、あるいはすでに余命宣言を受けておれば、Aさんの生命保険には高値がつきます。Aさんが、自分の生命保険につけられた値段に満足すれば、取引成立。AさんはProviderに生命保険を売り、キャッシュを得ます。

Life Settlement Providerは、それをBさんという個人投資家に売ることもありますが、Aさんの生命保険は他のAさんと似たような人の生命保険と一緒にプールされ、証券化されることもあります。買い手は、Bさんのような個人投資家から、ファンドなどの大型投資家までさまざまです。

 

診断

個人的には、この投資法(?)はちょっとしたくないですね。高いリターンを得るためには、人が早く死ぬのを待つ・・ってことになりますから。日本ではこんなのないですよね?知っている方いらっしゃるでしょうか?でもアメリカでは完全合法。ちょっと調べていたら、アメリカのLife Settlementに日本にいながら投資する・・・というのをやっている会社を見つけましたが(生命保険証書売買取引というのだそうです、日本語では)。

モラル的なところを差し置けば、きちんとしたLife Settlement Investmentを提供し、Better Business BureauからもA+のレイティングを得ている会社もありますから、完全に否定することもないかもしれません。ただ、この投資の性質上、詐欺などの問題も起こっているようですので、平均的な個人投資家が安心して手を出せるエリアではないように思いました。

今回は、Life Settlementを調べることで、生命保険(Life Insurance)についてひとつレッスンを学びました。

 

ここから学ぶ-これから生命保険を買うならば・・・

いらなくなった生命保険を解約してゼロにする代わりに現金で売る・・・というのは、一見すると売るほう側にとってもよい策のように思われます。ただ、思うのは、そもそも「生命保険はいらなくなったのにまだある」状態にしないことを目指すべきです。とりあえず入っておいて、いらなくなったら売ればいい・・・というのは高くつく可能性も大きいもの。上のAさんの例でいれば、もしかしたら人生の本当に生命保険が必要なときだけTerm Lifeに入り、終身保険には手を出さなければ、今頃$400,000の蓄えがあったかもしれません。Life Settlementで得る$350,000を超えた蓄えです。

Whole LifeやUniversal Lifeなどの終身の生命保険は、人と場合によってはベストな選択である場合もありますが、実際はそうでないのに「買ってしまった」となりやすい商品です。人生には、生命保険がたくさん必要なフェーズと、あまりいらない、あるいはまったくいらないフェーズがあるので、いきなり一生ものの終身保険を買うのは得策ではない場合が多いのです。

Whole/Universal/Variable Lifeなどの終身保険は、Term Lifeに比べコミッションがずっと大きいこともあり、保険エージェントにとっては終身保険を勧めたいといモティベーションがあります。長所ばかりの説明を鵜呑みして契約すると、「そのうちいらなくなった」ということになり、それがLife Settlement市場を生んでいるように思います。

もちろん人生は計画通りにいきません。ベストを尽くして選んだ生命保険なのに、やっぱりいらなくなったということは起きますが、その数があまりに多いので「市場が成り立つ」ほどになるのは、保険会社、保険エージェント、Life Settlement Providerを富ませているだけで、平均的な個人消費者にとっては好ましいことでないような気がしてなりません。

投資としてはあまり使えそうにないLife Settlementですが、これから生命保険を買うならばぜひ教訓として生かしたいLife Settlementのお話でありました・・・

8 comments

  1. 面白~い!
    アメリカってホント何でもありですね。
    これは売る側が殺されそうです。w
    手を出したくないです。

    人間に必要なものなんて大してないのに、やったら社会が複雑化して、あれも必要これも必要って、押し売りするんですよね。保険もサービスもモノも。
    シンプルに保って、せっせと地道な投資をするのが一番なのかもしれませんね。

    もう一度、見直してみます。

    1. そうですねぇ~、シンプルが一番!そう考えると、生きていくのにいらないものって、たくさんあるなあ。。ダンシャリですね!

  2. え~生命保険の売買なんていうものがあるんですか(驚)!!怖い・・これって、言い方かえると、人の命のを商品にしてますよね。 時代とともにいろんなものが商品化され、より複雑になり、人間の『欲』の部分に上手に働きかけているように思います。ついつい、「あれも、これも、それも・・・」みたいな。シンプルが一番いいと、私も思います。

    1. もっともらしいアメリカン口調で口説かれたり、スマートに視覚に訴えるメディアを見ていると、ついのせられてしまいますよね。。だって、これだって、ラジオで、いかにもすばらしい投資だと宣伝していました。。「生命保険の売買です!」とは言いませんが。。自分の価値観を見失わないようにしていないと、つい呑まれてしまいそう。。。子どもにも教えなきゃ・・と思います。

  3. アハハ! いかもにアメリカらしい投資ですね。買い手はおそらく個人ではなく投資機関でしょうね。サブプライムみたいに、いろんなのをごちゃまぜにして誰が何を買ったのがわからない。
    でもこの場合、買い手は個人でない方が売り手は安心じゃないでしょうか? だって、ヒットマンとかに狙われる可能性が無きにしもあらず (^0^)

  4. 以前、529プランについて質問させて頂いたものです。先日日本人コミュ主催のセミナーに参加し、資産管理などのお話をAIGの方から聞いてきました。わからない言葉などあり全部は把握できていないのですが。。その中で、Mutural Fund とIndex Fundについての説明があり、私の現在の状況(子供の学費、老後資金など)をお話すると、Index Fundとして積立生命保険を勧められました。
    毎年5000から6000ドルを15年ほど入れると、最終的にいくら手元に残るか、5年後から元本保証になる、非課税である、医療費としても引き出せるなどの説明を受けてグラフにして頂きました。
    また、529は引き出した際収入としてカウントされるが保険はされないので影響がないなど。
    RothIRAにお金を入れていこうと決めていた矢先なので、保険を勧められるとは思っておらず、
    どうしたらよいか考えあぐねているしだいです。AIGの方は529はとりあえずそのままキープ(ペナルティーを避けるため)、RothIRAはやめて保険1本にして学費と老後に備えたほうがいいとのアドバイスです。このプラン、どう思われますか?私の周りでは基本大黒柱ではないので生命保険は不要、また引き出すときの手数料が高いなどの声があがりました。

    1. コメントありがとうございまう。その生命保険の商品がどういうものか詳細は分かりませんので、一概に良いか悪いかは言えませんが、今までにもこのブログでは関連記事をご紹介していますので、参考になればと思いリストいたしますね。
      生命保険で知らねばならない10のおきて - 前編 
      生命保険で知らねばならない10のおきてー後編
      カレッジ資金のために保険を買う??

      なお529は引き出し時、収入としてカウントされる・・というのは間違いです。学資に使う限り、収入としてはカウントされません。

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください