思ったより早く死んでしまった場合に困らないようにする保険が生命保険とすれば、思ったより長生きしてしまった場合に困らないようにする保険がLongevity Insuranceと呼ばれるもの。直訳すれば長寿保険ということになりますけれども、つまりは予定より長生きしすぎて、お金がもたなくならないようにする保険のことです。一生懸命働いてためたリタイヤメント資金、さあ実際にリタイヤメントしました・・・となったとき、いったい年々どのくらい引き出してよいものか。毎月の引き出しですべてを80歳で使い果たしてしまいました、今後どうやって生きていきましょう・・という状況に対応する保険です。今日はその話。
Longevity Insuranceとは
Longevity Insuranceというと今まで聞いたことがないと思われるかもしれませんが、これはアニュイティの一種です。Deferred Annuityとよばれる、アニュイティを買ってから一定の時間が経ってアニュイティ受け取り(年金受け取り)が始まるタイプのもので、とくにLongevity Insuranceの場合は80歳とか85歳など高齢になってから受け取りが始まるもののことを指します。たとえば、65歳のときLongevity Insuranceを購入、85歳から月々$2,000を生涯にわたって受け取り・・・といような具合です。
受取額は掛け金とその時点での年齢、受け取り開始年齢によって決まります。たとえばあるLongevity Insuranceでは、50歳時に、85歳からの生涯年金のために$50,000を掛けた場合は、アニュイティ額は$42,997/年。同じLongevity Insuranceに、60歳で$50,000掛けた場合は、アニュイティ額は$21,741/年となります。
自分でつくりだす年金
リタイヤメントしてからも、生活における固定費というのは毎月毎月かかります。モーゲージ支払いや賃貸料(できればリタイヤ時は支払い済み持ち家であるのが理想)、固定資産税、健康保険料、水道やガスなどのユーティリティ、食費などは、なかなか削ることができない基本的なコストです。これらの固定費はできるだけ、毎月毎月決まって見込める収入でカバーし、それ以外の趣味教養費、外食費、エンターテイメント費、旅行費用、ギフト費用などの変動費は、リタイヤメント口座などの貯蓄からの引き降ろしでカバーするというのが理想です。
毎月決まって見込める収入には、ソーシャルセキュリティー年金、企業(組織)年金などがありますが、前者は額的に十分でない場合が多く、後者はどんどん提供する企業が少なくなっており、企業年金が見込める人は今後も少なくなっていくという現実がります。国も会社も当てにはならないとなったとき、自分でためた資金から年金作用を作り出すのが個人アニュイティであり、とくにリタイヤメント後期に備えるものがLongevity Insuranceです。
契約時に設定した条件のとおり、たとえば80歳なり85歳なりになれば必ず決まった年金がもらえることが保証されているのは心強いものです。たとえ旅行やエンターテイメントは少々犠牲になったとしても、基本的生活は守られるという安心感を買うことができます。また、高齢になるにしたがって、旅行やエンターテイメント費はだんだんと縮小してくるのが普通ですから、その意味でも理にかなったものともいえます。
何ももらえないかも・・・
人々がLongevity Insuranceを買うのにもっとも躊躇する点は、年金開始予定時期よりも時期尚早に亡くなった場合、何ももらえないということです。先の例では$50,000掛けても、78歳で亡くなってしまえば何ももらえません。ただ、これは考えてみれば当然のことともいえます。長生きした場合、たとえば120歳まで生きたとしても、毎月ずっと亡くなるまで年金が受けられるわけで、そのためにこの保険を買うわけですから、反対に早く亡くなった場合は何ももらえなくても当然といえば当然のことです。
早死にリスクをカバーする生命保険の場合でも、Longevity Insuranceのまるで反対ではありますが、大きな得をする人もいれば大きな損をする人もいます。たとえば、$500,000の終身保険に入り、$500しか保険料を払っていない時点で亡くなったので、すぐに$500,000の額を手にするケースもあれば、反対に100歳まで保険金をかけ続け、やっと(先ほどのケースの数十年後に)$500,000を手にするケースもあります。後者の$500,000は、もらうタイミングが遅く、インフレなどの諸要素を考えると、おそらく前者の$500,000の半分以下の価値しかないでしょうし、払い込み保険料が半端ではありませんから、全部鑑みたらえらく損なことでしょう。ただ、保険は不測の事態に対応するためのもので、損得で買うものではありません。そこのところを、しっかりと理解しておきたいものです。
「何ももらえないかもしれない」という危惧に対応するために、早く亡くなったら何らかの支払いが受けられる商品も開発されています。生命保険つきのLongevity Insuranceというのもあって、早死ににも長生きにも対応というものです。ただ、これにはもちろん余分なコストがかかります(掛け金の割りに年金が少ない)。多少コストを払っても、どちらにも対応したものがいいか、長生きリスクだけのカバーに特化し、何ももらえなかったとしてもそれはよしとするのかは、個人の選択の自由です。
利用上の注意
アニュイティは良質のものを選び正しく使えばとても心強い味方ですが、同時に非常に複雑で手数料ばかり多くて内容のよくないアニュイティというものもたくさん存在します。選択にあたっては、よく内容を理解し、わからないことがあればとことん聞くという姿勢が必要です。理解できないことがあれば、絶対にサインしないこともポイントです。
また、アニュイティは一度購入したら、簡単にはキャンセルできない場合が多いうえ、生命保険のようにキャッシュバリューという概念がないので、急にお金が必要になった場合にも引き出して使う、ローンを組むということができません。一度入れたお金は、年金開始までは「ロックされたお金」であり、手をつけることができないと理解するべきです。アニュイティにお金を入れすぎて、85歳からの年金は保証されているものの、81歳の時点で使えるお金がなくなってしまったということのないよう、「アニュイティに入れるお金」と「すぐ使えるお金の確保」とのバランスをとりながら考えねばなりません。
この点に対応するために、保険会社は、契約より繰り上げて年金受給を開始できる商品を開発しました。81歳で必要になったら、繰上げ開始が可能です。ただ、これはフレキシビリティが高い分、受け取る年金の額が少なくなるというコストもあります。できれば、きちんとしたプラニングのうえ、Longevity InsuranceはLongevity Insurance専門、開始年齢までは十分なたくわえを別に確保しておくというのがよいでしょう。
また、Longevity Insuranceは、契約してから数十年してから年金の受け取りが開始し、その後も数十年受け取りが継続されるというケースも珍しくなく、契約時に設定した年金の額が、インフレ効果のため将来的には十分な額ではなくなる(設定した$40,000は、3%のインフレを想定すれば、30年後には$16,000分くらいの価値しかない)ことは大いにありえます。インフレ対応のあるアニュイティを選ぶことが大切になります。
お薦めする方とそうでない方
そもそも資産が十二分にあるので、どれだけ長生きしてもやっていけるだろうと予測される方は、Longevity Insuranceは必要ないでしょう。また、企業年金が十分にあり、ソーシャリセキュリティーと合わせれば、かなりの固定収入が見込める方も必要ありません。それから、おそらく長生きしないだろうという方、とくにすでに病気をお持ち、あるいはご両親などの病歴から、寿命が限られていると予想される場合(ま、この予想は非常に難しい場合もあるでしょうが)も、Longevity Insuranceは理に合わないものでしょう。
反対に、Longevity Insuranceを考慮されるとよい方は、ふつうに長生きすると予想され、リタイヤメント資産がある程度あるもののずっと続くか不安で、将来まで資金が枯渇しないようどう使えばいいか不安な人、あるいは放っておけばついつい引き出しすぎる傾向がある人です。
アメリカ・ハワイ移住の準備のためいろいろ調べていたところ、こちらのブログに遭遇してLongevity Insurance の存在を知りました。今55歳なのですがこの先続くまだまだ長い人生のことを考えるとこの保険は私にとって大変魅力的に思えました。(日本の保険ではこれほどよい条件のものはないように思います。)アメリカでは今でも同じような条件の保険が存在しているでしょうか? 55歳で$50,000を掛けた場合、80歳でアニュイティを受け取ると年額はどれほどになるのでしょうか?
このような質問をしてよいのか分かりませんが、よろしければ教えていただけますでしょうか。ありがとうございます。
コメントバック遅くなり申し訳ありません。一般的に保険商品で使われる利回り想定は、日本よりアメリカのほうがかなり大きいです。よって、今回考慮されているアニュイティだけでなく、終身保険などもアメリカのほうが好条件のものがあります。55歳で$50,000を掛けた場合、80歳でアニュイティを受け取ると年額はどれほどになるか・・ですが、これは各種要件があってはじめて見積もりが出ると思いますので、直接保険会社さんにお問い合わせください。