前回までの記事で、長期介護保険は、老後に必要となった長期介護に備える一選択肢であることを書きました。ただ、長期介護保険にはいろいろと問題もあって、個人が支払う保険料は割高な上、補償が十分でない、保険料も補償内容も変更される可能性がある、何十年後に補償が必要なとき不確定要素がぬぐえないというような懸念も存在することも確かです。今日は、長期介護保険を買うとなったら、どんなことに注意すればよいかについて見てみます。
ハイブリッド版も考慮する
長期介護保険の新規契約数が大きく減少している一方で、ハイブリッド版と呼ばれる形での長期介護補償の契約が大きく上昇しています。これは、生命保険やアニュイティに、慢性症状介護(chronic care)特約など、特約(rider)を付加する形で長期介護に備えるものや、そもそも生命保険と長期介護を合体させて商品化しているものもあります。
長期介護のために得られる補償は、死亡保障額を限度とするのがふつうで、月々死亡保障の〇パーセントが支払限度というような形で限定がつきます。保険料に5~15%程度の特約料を付加してこの補償を提供するところや、追加の料金は取らないが、もしも長期介護を利用した場合には死亡保障が大きく減るというようなところがあるようです。
たとえば、$500,000の死亡補償に、1ヶ月に2%($10,000)を長期介護補償として4年を限度に支払うというようなものです。長期介護補償を使わずに死亡すれば$500,000の補償金が支払われ、長期介護が必要になれば$10,000/月で4年まで補償、その後死亡した時点では死亡補償金は受けた長期介護補償の分だけ減額されるというしくみです。
また別のタイプでは、たとえば65歳で$100,000を一括で払い込めば、長期介護補償として月に$4,723、トータル$226,000までカバーし、もしも長期介護を使わずに死亡した場合は$113,000を死亡保障として支払うというものもあります。一括で支払うので保険料の上昇を気にする必要はありません。一方で、補償上限の$226,000の長期介護がもしも必要であった場合でも、なんとか自己負担で支払う能力があるのなら、わざわざ$100,000を手放して、必要でもない生命保険も買う必要もないともいえます。それならば、$100,000を自己資金として投資に回すことができます。
ハイブリッド型は、そもそもは生命保険、あるいはアニュイティですから、長期介護の補償が欲しいから考慮するというものではありません。もともと生命保険やアニュイティが必要であるから入ること、あるいはすでに入っていることを前提に、そこに長期介護の要素を付け加えるというものです。
終身保険をすでにもっておりキャンセルするのもはばかられるので、1035エクスチャンジ(税制上で、1035Exchangeと呼ばれ、税金が発生しない形で切り替えすることができます)により、長期介護保険特約付の生命保険に乗り換えるというチョイスはいいかもしれません。
いずれにせよ、生命保険、アニュイティ、長期介護保険の契約は、一生ものです。自動車保険のような気軽さで加入してはいけません。迷いがあるときは、独立系のファイナンシャルプラナーに相談し、よく理解の上購入してください。
短期介護保険はどうか
短期介護保険というのもあります。長期介護保険が$150~$200程度の補償を3年~4年程度まで提供するというのが多い一方で、短期介護保険は若干少なめの補償レベルで$100~$200程度を90日間~1年などのような形で補償します。
最近では長期介護保険の保険料がどんどん高額になっている背景があり、短期介護保険とまではいかなくとも、介護の補償期間を比較的短くする傾向があります。2000年には加入者平均の補償期間は5.5年であったのが、現在では2年まで短くなっています。
たしかに、あまりに慎重に厳重すぎる補償を買うのは、大きなコスト上昇を招くとともに過補償になりがちですから避けたい一方で、保険はそもそもは自分たちではカバーしきれない大きな損失やコストをカバーするというリスク対策が目的なので、あまりに短い期間、あまりに小さな額だけしか補償せず、せっかく入っていたけどあまり実効力がなかったとうことにならないように気をつけたいところです。
そもそも短期介護保険は、長期介護保険が始まるまでのWaiting Period (Elimination Period)をカバーするためのもので、短期介護保険だけ買ってそれでいいという使い方をするものではありませんでした。よって、本来は長期介護保険の代わりになる類ものではありません。
年齢別考え方
まだ40歳以下なら、契約から補償を受けるまでにより長期間が存在することになり、長期介護保険を購入するには不確定要素がさらに大きくなりがちです。それならば、保険料にあてるお金をリタイヤメント資金として自分で運用するほうが理にかなうでしょう。リタイヤメントまで時間がありますから、その分、高リスクもとれます。
35歳時に年間保険料$840($70/月)の長期介護保険に加入するかわりに、そのお金を投資に積み立てたとしましょう。月々$70は70歳まで積み立て続け、70歳以降は85歳まで手付かずのまま運用。通産して、年間8%の利回りで運用し続けたとすると、$528,000まで伸びます。85歳で長期介護が必要になった場合、2年間なら$723/日、3年間なら$482/日相当をカバーできます。50年後のことなので、インフレを考慮するとこの額が十分かは難しい判断ですが、現在の長期介護保険で平均的な一日あたりの補償額$150は、年間3%のインフレで50年後の相当額を計算すると、$658になりますので、なかなかいい線といえましょう。
50代から60代前半の方であれば、長期介護保険を考慮するのいいかもしれません。比較的若く、健康状態も良好であれば、低い保険料で大きな補償が期待できます。低い保険料といっても、年間数千ドルレベルになりますので、決して安い買い物えはありませんが、長期介護に加入するのにはタイミング的にはよいときです。
持ち家があり返済も順調で、老後にエクイティが貯まることが期待できる場合は、エクイティを必要経費の砦、つまり保険の代替として考えることができます。エクイティをできるだけ使わなくてよいように、リタイヤメント資金準備をしておき、いざというときはエクイティを使って介護費用をカバーするという考え方がよいでしょう。
エクイティの大きさが十分ではない場合や、老後資金で生活費は賄えるが、長期介護となると捻出が難しいという場合いは、長期介護保険を考慮します。
一方、60代半ばを過ぎると、保険料はかなり割高になることが予想され、そもそも入りたくても加入が難しくなる可能性も高いです。
家族の病歴や自分の健康状態からして、おそらく長生きが予想されるならアニュイティを購入するというのも選択肢でしょう。アニュイティは月々の生活費の確保などにも活用することができますが、長期介護を念頭において、80歳とか85歳からもらいはじめるアニュイティ(Deferred Annuityという)を追加で買うという方法です。たとえば60歳で$100,000を入れて、85歳から一生涯もらい続けるとすると、2019年4月現在で、年間$57,600(一日あたり$160相当)受け取ることができます。85歳の代わりに80歳から一生涯受給にすると、$30,000(一日あたり$83相当)。ただしこの額はインフレ対応はありません(インフレ対応版の購入も可能です)。しかしながら、今後市場の利率が向上していくと、同じ元金のアニュイティ契約でも受給できる額が増額していくはずので、タイミングが合えば、活用に足る選択肢です。また、介護要と認定されなければ一銭ももらえない長期介護保険に比べれば、アニュイティは生きているということだけが条件になるのも、心強い味方かもしれません。
あるいはハイブリッド版で、$100,000の生命保険に一括で払い込み、長期介護が必要な場合には、月$4,723、トータル$226,000までの補償を確保し、もし長期介護なしに死亡した場合は、$110,000程度の死亡保障というような利用も場合によってはいいかもしれません。アニュイティの場合は、ある年齢になれば死ぬまで、長期介護の必要不必要にかかわらず、一定額がもらえますが、生命保険ハイブリッド版の場合は長期介護が必要でなければ自分の懐にはお金は入らず、残された家族に死亡保障が残ります。
通常、Living Needs Benefitは無料で提供される特約ですが、その他のRider(介護保険とは別)で、Chronic ill、Terminal ill, もしくは余命宣告された際に死亡保障を生前に使えるタイプは、一般的には長期介護保険と同じように、死亡保障の使用目的が介護に限られること、Waiting Periodがあること、最初に自腹で支払いをし、その後リンバースメントされるなど様々な制限があります。ただし、こういった制限がないものもありますし、その特約に掛かる追加の保険料は2%です。もし、前期のように制限の多い特約に5%から15%もの多額の追加掛け金を支払うのであれば、得策とは思えません。
生命保険にしてもアニュイティーに関しても、非常に多種多様で、レートや特約など常に変化しています。有名なリタイアメントプランニング専門家のTomHegnaでさえ、信頼する現役で保険を取り扱えるFanancial Professional(エージェント)にプランを依頼すると言っています。業界外の方が、最新の情報を常にアップデートするのは至難の業だと思います。難しいかとは思いますが、実際の商品選びには信頼できる現役の保険のエージェントを見つけられることがキーです。これが難しいのが最大のネックですね。
いくつか参考までにチップです。
保険のエージェントは、保険のライセンスだけを持っているか、セキュリティーのライセンスもあるか、保険以外も取り扱えるかなど見られるのもよいでしょう。
要するに、銀行に行けば銀行へお金を入れるよう勧められ、証券会社へ行けば証券を買うように勧められ、保険会社へ行けば保険を買うように勧められというように、偏ったプランではなくトータルなプラン作成をしてもらう為です。
商品をよく知っているか。
フィーが高いといわれるアニュイティー。でも、このフィーはどこから引かれているのか、この質問に答えられない、もしくは、調べて返事をしないなら、この人は何もわかっていないと思っていいと思います。もし、ただ口座から引かれますとの返答でもダメです。
また、保険はただ色々な会社のプランを多く扱っていればよいというものではなく、保険会社の財政能力や経営状態などを見極める必要もあります。自社だけでなく、他社の商品も扱えるのか、もし扱える場合、同じコミッションレートなのか。大手でない保険会社は、自分の会社のプランを売ってほしいために、エージェントへ支払うコミッションレートを他社より多くすることによって競争している場合もあると聞きます。独立型の保険代理店の場合でも、保険会社所属のエージェントであっても、そのようなバイアスがない方かよいので、聞きにくいかもしれないですが、聞けるならエージェントがどのようにCompensateされているのか聞いてみてはどうでしょう。もちろん、他の品物を買うときと同じように、いくらコミッションが入るか金額は言えないとは思いますが、契約するプランによってレートに違いがあるかないか位は言ってくれてもいいと思います。
私の知る全米レベルでのトップのエージェント達は、常に真摯で真面目な顧客思いな人物です。プロとして尊敬できます。ただ、反面、巷には売り上げしか考えない道徳心に欠けるエージェントがいるために、不信感を持たれてしまうのだということも理解しています。
読者の方の少しでも参考になればと思い、あえて書かせて頂きました。。。
”聞きにくいかもしれないですが、聞けるならエージェントがどのようにCompensateされているのか聞いてみてはどうでしょう。もちろん、他の品物を買うときと同じように、いくらコミッションが入るか金額は言えないとは思いますが、契約するプランによってレートに違いがあるかないか位は言ってくれてもいいと思います。” はとてもいい案ですね! 具体的なコミッションの額は知る必要がなく、なにか提案にバイアスがかかるかどうかだけ確認するというのはいい案ですね。
長期介護保険は、本来は、貯蓄で賄えるかもしれない費用を超えてしまった分をカバーするためにあるべきだと思います。たとえば、認知症などで、身体は元気だけれども介護施設に入らなければならないような場合10年施設という方もいらっしゃいます。仰る通り、長期介護保険のデメリットは、たとえUse it or Lose itでないプランでも、長期をカバーしようとすると掛け金が非常に多額になることです。
生命保険の特約は、長期介護保険と対象となる症状はほぼ同じです。(余命宣告期間には差がある。)
Living Needs Benefitは、無料で付与できます。ただし、死亡保障を生前使用する特約には、実際に保障が下りるまでのWaiting Periodがあるものないもの、使用目的が介護に限られる制限があるものないものなどがあります。(ほとんどは制限があります)
死亡保障のお金に対して使用制限がない特約でも、2%の追加保険料でカバーするものもあります。なので、もし使用制限もある特約のために5%以上も(15%は論外だと思います)特約料を取られるのであれば、得策ではないと思います。2%追加で、生命保険に特約を付けた場合の方が、長期介護保険より使用制限も待期期間もなく保険料の面でずっと安い場合も少なくありません。そして、株と違い、生命保険には引き出す際に税金上の心配がないことも特徴です。(一括受取など一部その限りではないことも。)
お勧めしたいのは、実際に長期介護保険の設計書と、生命保険に特約を付与した場合の設計書を、横に並べて、具体的に起こりうるシチュエーションを当てはめて、イラストレーション上の金額と内容をどちらがよいか比較されることです。
Annuity を含む保険のプランは多種多様で、内容やレートも常に変化しています。(*一旦契約した内容は変わりません。)業界外の方が、そのプランを読み解くのは至難の業でしょう。リタイアメントプランニングで有名な専門家、TomHegnaですら、自分ではできないので現役のFinancial Professional=保険エージェントにプラン提案を依頼していると言ってました。
あと、一点付け加えさせて頂きたいのは、多くの方が健康で長生きをされると思います。ただ、いつ何があるかは誰にも分からないことです。事故や病気で30、40代で急遽された方が身近にいないと、実感がわかないものだと思います。
保険の最大の強みは、例えば、保険料を一回$250払っただけでも、契約時からすぐに保障が発生し、翌日事故に合われたりして、亡くなった際にはもちろんのこと、介護が必要となれば$500,000の保障を使用する申請ができることではないかと思います。これは、どんな高利回りな投資にもできないことです。
(私は投資もお預かりしていますので、投資には大賛成です。)
ご夫婦の場合、配偶者の介護や医療に多額の費用が必要になった場合、資産を全て使ってしまい、残された配偶者の生活が困難な状況になってしまうことが、アメリカでは珍しくありません。
見積もり比較に関してですが、独立したブローカーでなくでも、保険会社所属のエージェントでも、他社を提携している場合もあります。私は大手保険会社の所属ですが、会社が他社数十社と提携して、弊社が提携している比較専門会社に一括して見積もり依頼をし、お客様が一軒一軒見積もり依頼を出す手間を省くと同時に、金額だけではなく、自社よりもその方の希望に合った保険があれば他社をお勧めします。素人の方には複雑で面倒なプラン質問などをお客様の代わりにできるのがよい点だと思っています。
読者の方々が、信頼できるエージェントを見つけられることが最大のキーですよね。
全州にいらっしゃるだろう読者の皆さんが、よいエージェントと見つけられますように!
大変、貴重な情報をありがとうございました。
ほんとうに、いろいろな商品があり、またその特約や条件も簡単に理解できないため、親身に説明してくださるブローカーやエージェントさんがとても貴重だと思います。多くのお客さんをそのように助けることができる真摯なエージェントさんがいるのがとても心強いです。