インベストメントでよく使われるミューチュアル・ファンドの手数料について、4回シリーズでお届けしています。今回は2回目。ミューチュアル・ファンドの手数料のなかでExpense Ratioと呼ばれるものをご存知でしょうか。Expense Ratioというのは、ファンドの年間の運営費用÷ファンドの年間平均投資資産です。つまり、ミューチュアル・ファンドの投資資産に対しての、運営費用の比です。リターンの成績が同じならば、Expense Ratioはもちろん小さければ小さいほうがいいわけですね。
Expense RatioはそれぞれのファンドのProspectus(ファンドについての説明書)やAnnual Report(決算書)で確認します。これらの書類は郵便でお手元に届くと思いますが、なくしてしまったらオンラインでも見ることができます。
Expense Ratioを構成するExpenseはふたつのグループに分けることができます。ひとつは、12b-1 Feeで、もうひとつはManagement Feeです。
こっそり取られている大きな12b-1 Fee
この変な名前、この手数料を定めた1980年のSEC(アメリカ証券取引委員会)のコード番号からつけられました。ファンドのシェアをブローカー(個人のアドバイザーであったり、銀行のインベストメント担当だったり、大きな投資ブローケージ会社であったりする)を通して買った場合に、ブローカーへの報酬として支払われます。
ミューチュアル・ファンドの投資家は、1年で$9.5ビリオンもの12b-1 Feeを払うといわれていますが、その割にはこのFeeのことを知らない人は多いものです。なぜ知らないかといえば、あんまり知られないようにこっそり徴収されているからです。このFeeは多くの人が存在さえ知らず、また知っていてもよく理解することが困難であるとの危惧から、SECは過去に何度も全面的な見直しを考慮したそうですが、どういうわけか(もちろんワケはあるでしょうねえ。反対するひとがいるからです)それが実行されたことがありませんでした。
12b-1 Feeはまたの名を、Distribution and/or Service Feeといいますが、つまりDistribution=ファンドを投資家に販売する のと Service=投資の年々のサービス(ポートフォリオの見直しや維持) などの、ブローカーの働きへの手数料です。この手数料は0.25%から1.00%ほどだそうですが、、毎年毎年かかるものであり、決してバカにできないものです。
ミューチュアル・ファンドの手数料(1)-Sales Loadにも書きましたが、Sales Loadが少ないあるいは全くない買い方ができてよかったと思っていたら、実はその後ず~っつと毎年12b-1 Feeが取られているなんてこともありえます。毎年、なんらかのアドバイスをブローカーから受けているのであれば、その手数料の意味もわかりますが、場合によってはたいしたサービスはないのに、12b-1 Feeだけは取られ続けているということもあるのです。しかも、この手数料は他のExpenseにまぎれてこっそりファンドの資産の中から引かれますから、「うわ、なんだ、こんなにとられている手数料は!」と気づかれることがなかなかない要注意モノです。
Management Fee
一方、Expense Ratioのもうひとつの要素、Management Feeのほうは、ファンドをマネージするファンド・マネージャーへの報酬・費用です。Management FeeはさらにInvestment Advisory FeeとAdministration Feeに分けられます。
Investment Advisory Feeは、ファンド・マネージャーが投資媒体を吟味・選択してファンド・ポートフォリオを維持することへの手数料であり、一方Administration Feeは、レコード・キーピング、カスタマー・サービス、顧客とのコミュニケーションをすることへの手数料です。これらは、ファンド・マネージャーの仕事に対する当然の報酬ともいえますが、ただしファンドによってはひどく高額のFeeをとっている場合もあります。同じような投資リターンを出しているのに、ひとつのファンドはもうひとつに比べて不必要にInvestment Advisory Feeが高いということもあるようです。なにせ、投資する個人にとっては比較が容易ではないですから、不当なFeeを課していても、なかなか表面化しないこともあるのですね。
ふたつまとめてExpense Ratio
12b-1 FeeとManagement Feeとをあわせたトータルが、ファンドの年間の運営費用となります。それをファンドの年間平均投資資産で割ったものがExpense Ratioです。
ミューチュアル・ファンドの手数料(1)-Sales Loadにも書きましたが、Sales LoadやExpense RatioなどのFeeのとり方、かかり方の違いによって、ファンドにはクラスというものが設定されています。よく知られるクラスはクラスA(Front End Sales Load+低い12b-1 Fee)、クラスB(Back End Sales Load+中程度の12b-1 Fee)、クラスC(Low/No Sales Load+高い12b-1 Fee)などがありますが、その他にもクラスD、クラスF、クラスP、Institutionalクラスなどがあり、大きなファンドだと7つも8つもクラスが設定されていることも珍しくありません。
たとえば、前回も調べてみたPIMCOのTotal Return Fundでその違いを見てみましょう。このFundには8つのクラスがあることがわかります。以下、同ファンドのAnnual Reportからの抜粋です。
一番右のNet Annualized Expense Ratioを見て見ましょう。一番安いもので、Institutional クラスの0.46%。Institutional クラスというのは、リタイヤメント・プランなどを通して投資する場合です。一番高いのはクラス Bとクラス Cの1.60%です。これはブローカー経由で買う場合です。その間あたり、たとえばクラス Dの0.75%あたりはどういう場合かというと、これは低料金趣向の投資ブローケージ会社であるFidelityを通して買った場合です。
クラスはあくまで手数料の違いであって購入するファンドはもちろんどれでも一緒、どのクラスで購入してもひとつのシェアの投資内容はまったく変わりがありません。
しかしながら、裏返すと、クラスが違えば手数料が違うわけですから、同じファンドに投資していても、投資の実質的リターンが異なってくるということです。つまりどんな買い方をしてどんな手数料を払っているかによって、10年後、20年後、30年後の投資結果はかなり差がでてくるということです。続けて、同ファンドのAnnual Reportからクラスごとのリターンの違いを見てみましょう。
クラスが変わると、同じファンドに投資していても、リターンがまちまちなのがおわかりいただけるでしょう。Expense Ratioの違いによるリータンの差です。また、クラスA、B、Cについては、(adjusted)というのがありますが、これはExpense Ratioだけでなく、Sales Loadを考慮に入れた場合のリターンです。Sales Loadの影響は大きく、一年目はリターンが1%代になってしまうのですね。
今から投資するのであれば、なるべくExpense Ratioの低いファンドを選んだり、なるべくExpense Ratioが低くなる「買い方」をしたりする工夫が必要でしょう。もうすでに、ミューチュアル・ファンドに投資しているというのであれば、是非面倒でもProspectusやAnnual Reportを調べてご自分のExpense Ratioを確認して、それが妥当なものか吟味することをおすすめします。
Expense Ratioが高いファンドにあえて投資するのであれば、それに見合うメリットがあることを確認したりという作業が必要です。ファイナンシャル・アドバイザーやブローカーのサービスが自分のニーズに合っており有意義なものであれば、高いSales Load・高い12b-1 Feeを払ってもしかるべきという場合もあるかもしれません。また、ファンド・マネージャーのポートフォリオ管理がすばらしいのあえて高いExpense Ratioもいたしかたないという場合もあるかもしれません。大切なのは、高いFeeを払っていることを知ることと、それに見合うベネフィットを受けていることを確認することです。