アメリカ大学の学費 – いったいいくらかかるのか?

私たち夫婦がインディアナの州立大学に留学した1990年前半、わずか200万円の留学資金をにぎりしめアメリカに渡ったのを覚えています。主人はすぐに学部内でリサーチ・アシスタントして雇われ、自分の授業料は全額免除、多少の給料ももらっていたのでいくばくかの州税を納める立場となり、その理由で配偶者であるわたしの授業料も1/3に減額されました。卒業すると、手元には持ってきた200万円がそのまま残っていました。。今となってはおとぎ話。今や負債を背負って卒業する時代です。自分の子どもの学費を心配する立場になった今、学費高騰のニュースを目にするたびに、いったいいくらかかるのかと頭をひねります。

 

学費の高騰

 

アメリカの大学の学費の高騰には目を見張るものがあります。College Boardの発表によると、2011-2012の学費の増加率がもっとも高かった州はカリフォルニア州で、州立大学の学費の増加は21%に達しました。1年で21%とはちょっと理解を超える範囲であり、学費の高騰は「エジュケーション・バブル」とも呼ばれるなど危機感を持って問題視されるようになりました。

ファイナンシャル・エイドの情報サイトであるFinAidによると、1958年から2001年まで17年間では、学費は平均して年に6%から9%の率で増加し続け、これはインフレーション(一般的な物価の伸び率)の1.2倍から2.1倍でした。。同様に、1989年から2005年までの17年間では、平均して年5.94%の増加率で、これはインフレーションの1.99倍です。

自分の子どもが大学に入学するときには、いったい学費はいくらになっているのだろうと頭をひねるのは私だけではないでしょう。近年では、将来の学費を見積もるのに、学費の増加率(年あたり)を5%~6%とするのが一般的なようです。先ほどのカリフォルニアの21%にくらべれば、5%や6%などゾウの前のありんこのように思われますが、これは年々のことですからつもり積もればすごい数字になるのです。

たとえば、ウォール・ストリート・ジャーナルが提供しているカレッジ費用のプラニング・カリキュレータで計算してみましょう。今8歳の子どもが10年後にアイビー・リーグに入ったとすると、4年間で$396,892必要という計算になります。州立大学にin-state-studentとして通えば$136,665です。こんな額をあらかじめ貯めておくなんて、ちょっとあきらめモードですよね。

 

スティッカー・プライス と ネット・プライス

 

ここでグッド・ニュースです。「カレッジの学費がまた高騰」とニュースになる、その額は「スティッカー・プライス」と呼ばれるもので、いうならば表示価格のようなものです。飛行機のチケットを思い浮かべるとよいでしょう。スティッカー・プライスとは飛行機のチケットの正規料金にあたります。昨今では、正規料金(そういうものがまだ存在すればの話ですが)を払って、飛行機に乗る人はほとんどいないでしょう。また、人によって払う値段もまちまちですね。あなたの横や前後ろに座っている人が払った値段は、あなたが払った値段とはおそらく違うでしょう。買った時期や、どのオンライン・サイトで購入したか、マイレージを使ったか、パッケージ価格かなどなど、さまざまな条件で実際に支払うチケットの値段にはかなりのバリエーションがあります。ちょっと大げさかもしれませんが、カレッジの費用もこれに似たものがあります。まるで同じ大学の同じ学部に通っていても、ふたりの学生の払う学費にはかなり差があることは珍しくないわけです。

その理由は、ファイナンシャル・エイドや学費のディスカウントによって、正規料金であるスティッカー・プライスが個別ケースごとに減額されるからです。この減額された、実際に支払うべき額を「ネット・プライス」といいます。これらのエイドや学費ディスカウントは、ニード・ベース(Need-based)とメリット・ベース(Merit-based)のふたつの種類に分けられます。前者は、文字通りエイドやディスカウントを必要としている、つまり収入や財産から十分学費が拠出できないので金銭的ヘルプを必要とする場合に提供されます。フェデラルあるいは州からのグラントなどがその例です。これに対し、後者は、スカラシップ、アワード、学費免除やディスカウントなどを含み、財務上のニーズにかかわりなく提供されるものです。カレッジ側が、「この学生にはぜひ来て欲しい」と判断する場合、学生誘致の目的で提供されます。判断基準はさまざまで、学業、スポーツ、芸術など広範囲に及びます。

このような学費ディスカウントは特に私立大学に多く見られ、College Boardによると、「平均的な私立大学は慣例的に学費を33.5%ディスカウントする」というデータもあります。この慣例は州立大学にも広がってきており、州立大学の学費ディスカウントの平均値は14.7%だそうです。付け加えますと、私立大学の学費ディスカウントは、かなりの額に上ることもよくあり、場合によっては私立大学のほうが自分の州の州立大学に行くより安くなることもあることは、以前のブログにも書きました。

 

ネット・プライスの概算を知る

 

では、その「実際に支払うことになるネット・プライス」、どうやったらわかるのでしょう?ここで、ネット・プライスの定義を確認しておきましょう。ネット・プライスとは、学費、教科書代、寮費、食費、交通費、雑費など、カレッジで学ぶために必要な費用(英語ではcost of attendance)から受けられるファイナンシャル・エイドや学費ディスカウントを差し引いたものです

もっとも簡単に手っ取り早く概算値を知りたいというのであれば、おすすめはCNN Moneyの提供するカリキュレータです。まずは、学校名を選び、次に収入帯を選ぶことで、その収入帯に属する家庭にとってのネット・プライスを提示してくれます。ただし、入力は収入帯のデータだけですから、これはかなりの概算としてとらえるほうがいいでしょう。

もうひとつは、College Navigatorのデータベースです。こちらは、ネット・プライスの情報だけでなく、テスト・スコア、専攻についての情報、卒業にかかる年数、学生のデモグラフィックス、キャパスの安全性などさまざまな情報が整理されています。また、いくつかの学校を選んで比較したりすることもできます。しかしながら、ご覧いただくと分かるとおり、ネット・プライスの情報は収入帯ごとの提示ですので、こちらも概算としてとらえるほうがいいでしょう。

 

「ネット・プライス・カリュキュレータ」の登場

 

ここ最近までは高騰するスティッカー・プライスばかりが注目を集め、大学を選ぶ段階で、正確なネット・プライスを知ることはほぼ不可能でした。学生はまず大学にアプライし、入学前の春になってはじめて合格通知とともに、ファイナンシャル・エイドや学費ディスカウントの具体的内容を知らされるというのが慣例でした。本来ならば、ネット・プライスは、学校選びの段階で、あるいはもっと以前、親が子どもの学費を計画的に貯蓄しはじめる段階で必要な情報です。

この問題に対処するため、オバマ政権は、フェデラル・ファイナンシャル・エイドを受けているすべての大学に、「ネット・プライス・カリキュレータ」の提供を義務づけました。2011年10月までに義務付けられたこのカリキュレータ、すでに対象となるすべての大学のWebサイトで、Net Price CalculatorあるいはFinancial Aid Estimatorなどの名称で提供されています。Department of EducationやCollege Boardの提唱するテンプレートを使っている大学もあれば、独自でシステムをつくっている大学もあります。College Boardのサイには、College Boardテンプレートを使っている大学の一覧がありますが、ここに名前のない大学は、直接その大学のサイトに行って、Net Price CalculatorやFinancial Aid Estimatorなどのキーワードで検索してください。下はカリフォルニア州立大学のカリキュレータのサイトです。

 

「ネット・プライス・カリキュレータ」の主旨は、前述のとおり、大学選びや学費プラニングのために事前に必要となるネット・プライスを開示することです。これまでに存在した、親の収入帯ごとに費用の概算を見積もるだけのカリキュレータとは違い、その家庭の収入・財産などの財務データと学生自身の成績などの個別情報を入力することで、その学生が得られそうなニード・ベースおよびメリット・ベースのエイドおよび学費ディスカウントを考慮し、できるだけ正確なネット・プライスを算出することを目指しています。

提供が開始されてまだ2ヶ月足らずですが、すでにこの「ネット・プライス・カリキュレータ」、問題点も指摘され始めました。下記がその概要です。

  • ニード・ベースのエイドの値は、財務データにより比較的容易に予測可能なのに対し、メリット・ベースのものについては予測することが困難である。学生のGPAやSATスコアや、その年の受験者の中でのその学生の優位性など、実際に受験してみないとわからないデータも必要となる。また、成績だけではなく、スポーツや芸術面でのメリットについては、数値データとして入力するには限界がある。結果的に、「ネット・プライス・カリキュレータ」は、メリット・ベースの学費ディスカウントについて、正確な予測値を算出することができない。
  • 現時点では、多くの大学が2009年のデータを使っており、数値が現実を反映しておらず、費用の過小評価につながっている。
  • すべての大学が同じテンプレートを使い、同じデータを入力させるわけではないので、大学によって微妙に考慮する要素に差が出る。よって、複数の大学のネット・プライスを単純比較するのに限界がある。
  • 大学によっては「ネット・コスト」という表記を使っているところもあり、これはネット・プライス(カレッジ費用-ファイナンシャル・エイド-学費ディスカウント)とは違い、さらにネット・プライスから学生ローンとワーク・スタディー・プログラムの収入を引いたものである。ローンは返済しなければならないものであるし、ワーク・スタディーは学生が学業と労働を両立させねばならないものであり、本来のエイドやディスカウントとは意を異にする。ネット・プライスとネット・コストを混同してはならない。
  • ネット・プライスは、フルタイム学生が初年度受けるエイドとディスカウントの額に基づいており、2年目以降やパート・タイム学生にとって適用するには限界がある。

ということで、大きな期待をもって迎えられた「ネット・コスト・カリキュレータ」ですが、利用にあたっては注意が必要です(でも、ないよりはずっとあったほうがいいですね)。

 

卒業にかかる年数

ネット・コストが把握できたら、これに4(年)をかけますか?どうします? ここでちょっとショッキングなデータがあります。

上記は、それぞれのタイプの大学ごとに、4年以内、5年以内、6年以内に卒業する学生の%です(Higher Education Research Institute at the University of California at Los Angeles調べ)。州立大学の卒業率の低さには驚かされますね。4年以内の卒業率は州立カレッジで24%ほど、州立ユニバーシティーでは37%です。これに対し私立大学はその倍ほどの64%です。もちろん個人の意思と努力によって、どの大学であっても4年で卒業することは可能であると信じますが、しかしながら環境の影響は案外大きいものです。また大学によっては、そもそも必要コースがなかなかとれないなど個人の努力ではどうすることもできない場合もあるでしょう。いずれにせよ、この「卒業までに何年かかるか」という問題は、学校選びにも、いくら貯めておくべきかのプラニングにも関連することですから、あからじめ把握しておくべきです。それぞれの個別大学ごとの卒業にかかる年数のデータは、前述のCollege Navigatorで確認できます。

 

ネット・プライスも卒業年数のデータも、そのまま鵜呑みするのは危険ですし、自分の個別ケースに適用するには制限もあり注意も必要です。しかしながらこれらのデータがまったくなかった頃に比べれば、学校選びや貯蓄プラニングがより有意義なものになるのは確かです。これらの情報をうまく利用していきたいものですね。

 

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