不動産投資シリーズ(3) -リタヤメントと不動産収入

ミューチュアルファンドはもうすでに投資しているが、ポートフォリオの一部として不動産への投資も考えてみたいという方もおられるでしょう。不動産投資を考えるシリーズ全4回でお届けしており、(1)では、レンタル物件を購入し大家(ランドロード)になるにあたって、必要となるスキルについて考えました。前回(2)では、物件管理業者への委託、REITを通しての不動産投資について見てみました。

今回は、不動産収入でリタイヤメントをサポートすることについて考えます。

レンタル収入で年々6%を得る、不動産は値が下がることはない、年々着実に物件価格は上がっていく・・・というのはよく聞く不動産投資の魅力ポイントです。401(k)にためたミューチュアルファンドなどの投資なら、利回りだけでなく少しずつ元金も崩しながらリタイヤメントの生活をしていくことになりますから、年々残高は減っていくことになります。これに比べ、不動産収入ならば、年々家賃で6%を手にしながらも、物件に投資された元金は手付かずのまま物件価格は年々上がっていく・・としたら、こんなにいい話はありません。

 

不動産だから動かせないお金

ただもう少し踏み込んで考えると、この6%という数字は家賃収入のことを言っているのか、それともメンテ費用やプロパティ税などを差し引いた純粋なキャッシュインフローなのかを明らかにすることがまず必要です。物件によっては費用を差し引いた後、6%のキャッシュインフローがある場合もあるでしょうし、また他の物件では費用を差し引くと3%ということもあるでしょう。また、6%といっても、それが老後の生活をサポートするための十分な収入かという問題もあります。$1ミリオンの物件の6%は月々$5,000の収入となります。ソーシャルセキュリティなどと合わせれば、この物件だけで生活が成り立っていくかもしれません。一方で、$300,000の物件の6%だと月々$1,500ですから、これでは生活費がカバーできないことにもなるでしょう。

ミューチュアルファンドならば、$1,500以上必要な場合に、計画的に元金部分にも手をつけつつ、他の資産と合わせながら、なるべく資金枯渇をしないように配慮して、必要なお金を確保するということができますが、不動産物件の場合には、物件を売るまで元金部分には手が付けられません(エクイティーローンなど負債を負わない限り)。つまり換金性の高い投資で、少しずつ元金をおろせるタイプの投資は、元金もリタイヤメント資金に含めてプラニングができますが、不動産投資の場合は、不動産のエクイティはとりあえず手を付けない資金=リタイヤメント資金ではない・・という前提でプラニングをしていくことになります。元金が不動産という物件にタイアップされ、手をつけることができないというのが、リタヤメントフェーズにおける問題です。

不動産以外に現金化が簡単な資産(401(k)やIRAや課税口座での投資)を十分に持っている場合には問題にはなりませんが、反対に資産が不動産に大きく偏っていると、大きな資産を持っているのにも関わらず、生活のための現金の確保が難しいということもあり得ます。不動産への物件投資は、401(k)やIRAなどの税優遇措置でのリタイヤメント積み立て投資を最大限に使い、それでも余裕がある場合にするというのが一つの基本的目安になるかと思います。

リタイヤメントフェーズで不動産を持つ強みは、自分のリタイヤメントには必要のないお金があり、それは手付かずのまま次世代に相続したい場合にあります。不動産に貯まっているお金には手を付ける必要はなく、そのまま相続すると、キャピタルゲインが消滅した形で受け継ぐことができるので大きな節税効果があります。自分のリタヤメントで必要となる生活費を補って余るお金がある場合には、不動産投資という形で次世代にお金を相続するのは大きな利点です。

 

リスクについて

株でも不動産でも投資をするなら、リスクコントロールの基本は分散(ダイバーシフィケーション)です。Amazon株にだけに賭ければ、好調な時は大当たりでたくさん儲かりますが、不調な時は激減する可能性もあります。大当たりはしなくてもいいから大外れもしない状態にするためには、分散投資しかありません。

株をはじめ債券などの投資媒体では、正しいポートフォリオを持つことで、最適なリスクレベルを維持することができます。さまざまな投資媒体をうまく組み合わせ、投資額をうまくバラつかせることで、ひとつの株やひとつの債券にリスクが集中することを避け、ひとつが赤字でも他では黒字、差し引き適度に黒字という状態を作り出すことができます。分散を市場全体(インデックス)の範囲まで追求したのがインデックスファンドで、市場に含まれるすべての株式(なり債券なり)に分散投資しているため、個別株(個別債券)の持つリスクはほぼ消滅している状態となります。

これに比べ不動産投資は、非常に大きな投資額がひとつの物件につぎ込まれ、結果的にリスクが極度に集中することになります。たとえ何件かの物件を持っていたとしても、不動産市場が低迷しているときは、どれも低迷という状況になりかねません。また、不動産というものは多くの不確定要素を含んでおり、計り知れないリスクも抱えることになりかねません。天災、雨漏り、水道管の破裂、カビ問題、問題のある隣人、事件や事故、ローカル経済の不調、訴訟問題など、これらはファンド投資ではまったくする心配のないリスクであり、不動産という不動の現物があるからこそ存在するリスクです。「紙切れではない、現物がある」ことが、裏目に出る可能性です。

都市部などでは持ち家が高額で、持ち家をもっているというだけでかなりの不動産資産を持つことになります。その上、リタイヤメントのための投資にも不動産を持つとなると、個人の総資産の非常に多くのパーセンテージが不動産投資に集中することになります。

たとえリスクがそれなりにあっても、良い物件を見極めることができ、キャッシュフローなりキャピタルゲインなりの利回りが出る確率が高いと判断する能力がある人には、不動産投資もよいと思います。ただし、不動産価格が下がったり、メンテや災害対策にお金がかかったとしても、リタイヤメント後の生活費を含め困らないで対応していけるだけの、十分な現金、あるいはすぐに現金化ができる資産(ミューチュアルファンドなど)を持っていることが条件になるでしょう。それほどのスキルがない人、あるいはリスク集中による「もしもの損失」に憂慮があるひとは、インデックスファンドによる分散投資の方が向いているでしょう。

 

大家業は続く・・・

レンタル収入でリタイヤ・・と聞こえはいいですが、リタイヤしたからといって何もしなくていいかというとそうではありません。会社勤めや自営業などの労働はリタイヤするとともに、完全に手を引くことができますが、レンタル物件は、前回までで見たように、レンターの募集、選択、コミュニケーション、メンテナンス、修理、ビジネス情報管理などの労働をともない、これは物件を持つ限り消えてなくなりません。バケーションに出かけても、レンターからの苦情対応を余儀なくされることもあるかもしれません。

年をとれば自分の家まわりやお金の管理だけでも面倒になるかもしれないのに、レンタル物件についてまで・・というのは、人によっては負担に思う人もいるでしょう。前回見たように、自分のスキルや適性とも相談しながら、大家業を続けながらリタイヤすることについて吟味するのがよいでしょう。レンタル物件について迫られる様々なビジネス判断(たとえばレントをいくらにするか、レントをあげるかあげないか、どのレンターを選ぶべきか、改修のプライオリティや時期はどうするかなどなど)は、夫婦間での意見の食い違いにも及ぶことがあり、リタイヤメント後の生活の質にネガティブな影響を与える可能性もあります。

物件管理会社を使うのならかなりそのあたりのビジネス作業からは解放されるかもしれませんが、その場合はレンタル収入から年間4%から多いと12%もの管理料が差し引かれることになります。不動産投資はしたいが、自分で細かな管理がしたくないというのなら、REITを購入するほうが、理に適うかもしれません。

リタイヤメントでの不動産投資はこのあたりの「数字ではない部分」についても、よく考えて進める必要があるかと思います。

 

 

4 comments

  1. 岩崎さんの記事に「TOPIXなどのインデックス投信を選べば、その市場内のREITはすでにそこに組み込まれています」っていう文言がありましたが、それに異を唱えてる人がいます。岩崎さんのようなプロが間違っているなんてことありませんよね?!
    下記のリンクがそれです。

    https://news.yahoo.co.jp/profile/id/tMy2ZLeVa2Md4KjffhaONy63Tg–/comments/archive/15326506774100.bbea.08034/?no_focus=1

    https://news.yahoo.co.jp/profile/id/KIAwUa6QY3Sd6tcXYz7CvDlYMXM-/comments/archive/15326825295703.4b44.20972/#replyArea

    他にも日本株はアクティブファンドの方が儲かってるって主張している人もいます。このデータが本当なら、TOPIXのインデックスファンドを買う意味が無くなってしまうのですが・・・。
    下記がそのデータです。

    全ての日本株アクティブファンドを均等に保有した場合

    期間:TOPIX配当込との超過収益(年率)
    過去3年:+1.32%
    過去5年:+1.94%
    過去10年:+1.05%
    過去15年:+0.78%
    過去20年:+1.45%

    1. ご指摘ありがとうございます。私のコメントが間違いです!TOPIXにはREITは含まれていませんでした。 確認して書いたつもりが、そうでなかったようです。間違った情報を流してしまい大変もうしわけありませんでした。よく知りもしないのに、知っているように書いてしまい反省しています。確認は何度もしないとだめですね。ご指摘いただいたこと、感謝いたします。

      後半のコメントに関しましては、こちらのYahooニュースについて以前も同じようなものをいただいており、それにコメントバックさせていただいたものをそのまま張り付けさせていただきますね。
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      そんなに確実に成績がよいなら(過去の結果が将来にも当てはまるとは限りませんが)、アクティブファンドを買ってみたくもなりますね!
      確かに日本株の場合は、アメリカ株に比べて、インデックスファンドの大勝の傾向が薄いようですが、ただ、下記のサイトでは、「主に日本株に投資をするファンドの60%超がインデックスに勝てない」としています。40%弱は勝つが、60%強は負ける・・。問題は、その勝つ40%弱のアクティブファンドをどうより分けるかです。
      http://money-bu-jpx.com/news/article005485/

      また、過去10年に買ったアクティブファンドが将来10年に勝つとは限りません。

      Yahooニュースの内容では全アクティブファンドが恒常的にインデックスに勝った・・とありますが、これが本当だとしても(上のリンクの情報とは相いれない情報ですが)「全アクティブファンド」というところが困ったところです。では、実際に投資するファンドはどれを選べばいいのか・・。勝てるアクティブファンドを選べると信じる人は選べばいいと思います。選べないと思う人、あるいは賭けはしたくない人は、インデックスの平均狙いが大儲けはないが確実ということでしょう。
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  2. SP500 では REIT がセクターと認識・確立されているのを考えれば、日本の方が変ですね。

    アメリカでは大家さんになるのが人気ですが、同じように defensive になりたいだけならば、dividend stock と呼ばれる銘柄やセクターの妙味も分析して欲しいです。 他力本願で申し訳ありません。

    1. なるほどですね。
      Dividend stocksは、レントのようなキャッシュを受け取ることができるという意味で不動産投資へのAlternativeとなるかもしれませんが、Dividendが具体的にいくらなのかを将来的に正確に見測ることは難しいですし、Dividend Stockにフォーカスして投資することはある意味で高分散と対極的な偏りを生んでしまう可能性もあることから、私としては、高分散のインデックスファンドを使いつつ適切なリスクレベルで投資し、必要なキャッシュフローはファンドを売ることによって自分でつくりだすというほうが効率的ではないかと考えています。同時に、セクターの吟味というのも、同様な偏り(アクティブ投資)の意味合いがあることから、敢えてアクティブ投資を目指したいというケースでない限り、お薦めしないというスタンスをとっています。

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